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第10話 13歳/手紙

第10話となります。

ご意見ご感想などお待ちしております

その年、私は無事に進級して十三歳になった。


各教科の成績が良く試験の内容も常に上位にいたので進級に問題はなかった。


正直なところ時戻りの記憶が残っているので余裕で成績を良いのは当然のことだった。


一方で、ガブリエルの手合わせの後に周囲に与えた悪影響の件だが、進級後の私の立場はと言うと悪い印象は弱まっていた。


時間が経てばクラスメイトや同級生も私に話しかけるようになったしガブリエルのことも皆が忘れたものとして扱い出していた。


つまりは<触らぬ神に祟りなし>と言う訳だ。


また、エミーナが周りに私のことをフォローしてくれたのも大きかった。


エミーナは女子生徒たちに人気があり、彼女が「あいつが勝手に思い込んだ結果だから」と言ってくれたおかげで私の印象が和らいだ。


ただ、私の心情としては時戻りの前の記憶があるのでエミーナの親切心に対して複雑な心境だった。


いつか彼女が裏切る。


そう思うと油断はならないのは私の中にある。


結果として彼女とは外見は仲良くはするが彼女を警戒し続けている。


また、私の体格にも変化が訪れていた。


私の体格はより逞しさを増して同年代の男性とは一線を画すほどになった。


身長は170センチを超えて体つきは肩幅は広くなり筋肉が発達していた。


見た目は高等部の学生と言われてもおかしくないほどに私は成長した。


これもべラック先生の鍛錬のおかげであり、特に敏捷性や持久力を高める訓練の影響は大きく体育の時間になれば私の無双が続くことがあった。


べラック先生曰く、


「敏捷性や持久力があればどうなると思います?敏捷性は相手の剣の動きを見極めて避けることができるし相手よりも先に攻撃が出来ます。持久力は相手との戦いが時間がかかればかかるほど体力が消耗してしまいます。気力がものになると言われますがいくら気力があっても体が動かなければ意味がありません。だから体力をつけることで相手よりも戦うことができる訳です。それにもう一つ利点があります。それはなんだと思います?」


「・・・なんですか?」


「敏捷性や持久力が強ければ強いほど集団での戦いに対応できる。これで結構重要でね。どうしてだかわかるかい?」


私は首を横に振る。


「人ってのは勝つためなら何だってやる者が多い。勝負には卑怯な手を使ってでも勝つ。特に集団戦になると敵は相手を囲んで狩人のように追い詰める。そうなるとどんな強い者でも勝つのは難しい。だったら集団から離れた方が安全だし相手が一人になれば各個撃破すればいい。わかりやすいでしょ?」


そのためにも集団でも戦える意識を体と共に植え付ける。


べラック先生は鍛錬の内容を厳しくした。


べラック先生は学園の休みになると私を裏山や湿地帯、小川などで走り回りながら実戦経験を積ませた。


とにかく最初の頃は通常の倍は走り回ったので全身が筋肉痛で辛かった。


なにせドロドロになった地面や湧き水が流れる小川を走るのだから下半身の疲労は異常なものだった。


その上、べラック先生は私にどんな場所にいても打撃を与えるのだから受け止めるだけで精一杯だった。


こんな鍛錬をまだ十三歳の幼少にさせるだから周囲もおかしいと思い始めた。


特に私の両親は心配し始めたので私は剣術使いを目指していると初めて彼らに伝えた。


「だからって・・・」


母はより不安になったが、私は中等部での成績が落ちていないことを反論の材料にして両親を納得させた。


当然だが私は中等部の成績を落とすつもりはない。


文武両道と言ったところか。


私はべラック先生の鍛錬でとにかく充実した日々を過ごした。


これに納得しなかった人物がもう一人いた。


エミーナだ。


エミーナは休日に私と遊びたかったそうで私が週末に鍛錬ばかりするのが気に食わなかった。


だから、学園では時間があれば私に話しかけては市場に行こうと誘ってきた。


市場には多くのお店があるので年頃の女の子には魅力的なのだろう。


最近、おいしいスイーツのお店があるのでそこに行かないかと執拗なまで誘ってくる。


なんでもホットケーキと言う小麦粉と卵、後は確か牛乳だったかを混ぜてから生地にして、それをフライパンで焼いた後にハチミツをかけて食べるそうだ。


そんなものがおいしいのかと思うのだが、エミーナや他のクラスメイトたち、特に女性陣は「あれは甘くて美味しいです」と言うもので学園の中ではホットケーキは一種のムーブメントになっていた。


甘いものには目がない彼女たちにとってはホットケーキと言うのは中毒性の高いものだった。


「だから食べにいきましょう」


とエミーナは誘うのだが、要は私とデートでもしたいのだろう。


そもそも甘いものに興味もない私には聞くだけ無駄な話だ。


だから「時間があれば」と軽く避ける形でお断りしている。


そんな私の態度が気にいらないエミーナは不機嫌になりながら、。


「鍛錬ばかりしてたら女の子にもてないよ」


と急かしてくることもあったが、どの口がそんなことを言うのだと私は思った。


エミーナが時戻りの前のことなど知らないのはわかるが、それでも不愉快になるのは前世での彼女の行為が未だに許せなかったからだ。


時戻りの前の彼女は王子の誘惑に惑わされて王子と不貞を働いた。


その上、私から王子へ婚約を乗り換えた上に私に貞操を無理やり奪ったとして断罪劇のきっかけを作った。


そんなことを思えば素直に心を許すことができようか。


私はエミーナの誘いをひたすた断ることにした。


「絶対に連れていってやるわ」


どんなに頑なに拒んでいる私に対してエミーナは諦めなかった。


本当に厄介で面倒な事だと思った。



このような日常生活が続く中、私とお祖母様の交流は前年より頻繁になりつつあった。


特に王都にいるガブリエル・スプリンゴラの情報収集は交流の主な内容になっていた。


お祖母様は王都にいるのですぐにガブリエル・スプリンゴラのことを調べてくれた。


お祖母様は私の剣術の強さを知ると素直に喜んでくれたが、まさか手合わせした相手が王都に転校するなど思いもしなかったそうだ。


ガブリエルの様子を調べて欲しいとお願いしてから2ヶ月後にはお祖母様から手紙が届いた。


その内容に目を通すとべラック先生の予想通りの内容だった。


まず、ガブリエルは王都の中等学園に転校した後、半年後には学園で行われた交流会でパルダビュー王子と出会っており彼の取り巻きになった。


どうも私との手合わせの件の結果を隠して、自分の剣術の腕をパルダビュー王子に売り込んだ。


パルダビュー王子もガブリエルの腕を気に入り、彼を自分の取り巻きに取り立てた。


その後は、パルダビュー王子は他の取り巻きたちと学園生活を満喫していた。


さすがに肉体関係はないだろうと思うが、パルダビュー王子のことも気になった。


お祖母様にはパルダビュー王子のことも尋ねる手紙を送った。


これも一か月後にはお祖母様から返信が届いた。


こちらも芳しくない現状が書かれていた。


パルダビュー王子は高等学園に入学すれば正式に王家の第一後継者に選ばれる運びになるとことだった。


その間に伴侶となる令嬢を貴族院の有力貴族の家柄が選ばれることになるだろう。


その辺りはよくあることなので気にすることはない。


むしろ、あなたが王都に行くことがそもそも辞めた方がいいかもしれない。


あなたに恨みを抱くであろうガブリエルがいるし、何より彼がパルダビュー王子の側にいるのがよろしくない。


だから、私はあなたを王都に進学するのを反対したいと。


お祖母様の文面からは私の身を本当に案じてくれているのを感じさせてくれる。


人生経験の豊富なお祖母様が見ても危険な状況になっているのだ。


・・・本来なら王都に行かなければ断罪劇に巻き込まれないだろう。でも・・・。


私は少しずつある事に気付き始めていた。


それは時戻りの影響で強制力が働くのではないか。


どうしても会いたくなかったはずなのにエミーナやガブリエルに会った。


そればかりかパルダビュー王子の存在も明確になっていた。


まるで時間軸を修正するかのようにう登場人物たちが集まり始めている。


・・・果たしてここにいても大丈夫なのか。


むしろ私は不安に駆られる。


「どうしようか・・・参ったな」


私の答えはなかなか出ないでいた。


そして、時戻りの影響は今度は別の形で現れることになる。



週末になり、私はべラック先生の鍛錬に参加していた。


べラック先生の鍛錬は一段前へと進んだ。


まず、これまで行っていた素振りや打ち込みが2倍になったことだ。


木の棒の素振りの回数はついに300回になり、木の剣での打ち込みも200回になった。


その後は、実戦形式の模擬戦が行われた。


それが一日中続くのだから他人から見れば気が触れているのではと思わせるほど厳しいものだった。


十三歳の時間の大半はこの鍛錬に支配されていたが私の心は剣術を純粋で学べる楽しさで嬉しくて嬉しくて仕方なかった。


だが、その年の秋頃に私の元にある手紙が届いた。


最初はお祖母様の手紙かと思ったが、封には名前が書かれておらず蝋封も見知らぬものだったのでこれがお祖母様のものではないとすぐに私は気付いた。


執事のピエールが「私が先に開けましょうか?」と言われたが、私は自分で開けることにした。


封にはよく毒が塗られていることがあるからだ。


もしものために手袋をしてから慎重に封を開けた後、私は手紙を確認した。


そこにはこう書かれていた。



<お前の秘密を知っている>



私は書かれたメッセージをただただ見つめるのみだった。


・・・どういうことだ?


私は手紙の内容を見ながら困惑するしかなかった。


何故、この手紙の主は私が時戻りをしたことを知っているのか?


そもそもこの話している関係者は少ししかいない。


お祖母様とべラック先生だけだ。


学園にも私の秘密を知る者はいないはず。


「グヤコールス様、これはどういうことなのですが?」


手紙の内容を見たピエールも心配そうにしている。


もちろんピエールは私が時戻りをしたことは知らない。


ピエールが不安に駆られるのは当然だし、この反応を見ると彼が手紙の主には思えない。


では、一体誰がこんなことを?


わかっているのは私に接触したい者がいるのは確かなことだった。



私はべラック先生に手紙の件を話すことにした。


べラック先生は手紙を読むと何とも言えない顔をした。


「これはこれは大変ですね」


今回の事を他人事のように言うべラック先生は相変わらず冷静だった。


「きっと僕に何かさせたいんですかね?」


今はあえて脅迫とは言わない。


「つまりは君の秘密、つまり時戻りのことを知っているってことですね?」


「それはどうでしょうか。僕の秘密を知るのはお祖母様と先生だけです」


「では、君がボヴァリー様に手紙を送る際、誰が手紙を扱っている?」


「執事のピエールですが、ピエールは除外できます」


「そのようなことをする人物ではないと言うことだね?」


「はい」


なるほどなるほどとべラック先生は納得した。


「そもそも君の秘密は時戻り以外にありますか?」


べラック先生は話を変える。


「どうでしょうか。僕はべラック先生の修行以外は学園に通うだけですし」


「女性関係はどうなのです?」


「そもそもまだこの年齢ですし自分から避けていますよ」


理由を簡単に言えば私は二十歳で時戻りしたのだからこの年の女の子に興味が湧かないと言ったところだ。


「それにエミーナ以外は話すことはないです」


エミーナとは話をするがそれでも慎重に距離は置いているつもりだ。


するとべラック先生はこんなことを言う。


「もし差出人があなたの時戻りの秘密を知らないとするならこの手紙の内容は学園内の話になるのでしょう」


「学園内ですか?」


「そうですね。君がなくても相手がそう思い込んでいる可能性があります。今回は特にそうかもしれないですね」


本人が自覚していなくても火のないところに煙は立たない。


それがべラック先生の推理だった。


「となればまた手紙が届くでしょうし、それまでは様子を見ましょう」


この日は結局、二人の間では様子見でまとまった。


翌日以降、私は不審な人物がいないかどうか誰にも気付かれないように周囲に目を配らせたがそのような人物はなかなか見当たらなかった。


エミーナは相変わらず私にホットケーキを食べに行こうと誘ってくる。


そこでふと閃いた。


もし手紙の内容が学園の事やエミーナとの件ならば彼女と一緒に行動すれば何か動きがあるかもしれない。


「わかったよ。じゃあ、今度の週末にそのお店へ行こうか」


私はエミーナの提案に乗る事にした。


「いいの?」


「うん」


私が素直に頷くものだからエミーナの視線からは疑問が生じている。


「どうしたの急に?何かあるの?」


「いや、両親が今度そのお店のホットケーキを食べたいと言ってたから先に僕が偵察がてらに行こうかなと思ってね」


ここであえて嘘を並べる。


両親はホットケーキを食べたいとは思っていない。


あの二人はお酒が好きな人たちだ。


でも名前を使っても問題にならない。


むしろ「行ってらっしゃい」と言うのが目に見えてくるほど、私が女の子と交流するのを両親は喜ぶと思う。


「そうなんだ」


エミーナは私の答えに納得した。



そして、週末を迎えた。


私はエミーナと共に市場へ向かうと私の考え通りに私の秘密を知ると言う手紙の主は現れることになった。




私が断罪されるまで残されたのは7年。


私の秘密を知ると言う手紙の主は何を知っていると言うのだろう。

〇登場人物


・グヤコールス・ペパリッチ

この物語の主人公です。十三歳になりました。

剣術使いの道を目指して邁進中です。

今回は謎の手紙に困惑しています。


・エミーナ・ナイトレイ

主人公の元婚約者です。

今はクラスメイトです。

最近は主人公とデータがしたいようで、ホットケーキを食べに頻繁に誘っています。


・ペラック・ベルドリッチ

グヤコールスの剣術の師匠です。

例年より主人公に鍛錬をつけています。


・謎の手紙の主

主人公の秘密を知っていると言っていますがその内容は不明。

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