52 ここは欲望に忠実に
吸血鬼の洞窟は女性に人気の観光スポットらしい。
何でも多くの化粧品や前世で言う"ばえ"そうなスイーツ等が沢山あるらしい。
そしてここが一番大事。なんと! 未成年の男性は入ることが出来ない。長くいきる魔族は成年したと考えられる年齢は軽く30〜40を超えてから。下位種族だとそんなに長くもないのだけれど、なんせ私達は上位中の上位だ。まだ10歳そこそこだとほとんどの確率で入ることが出来ないだろう。
「なら俺たちは外で待っとくぜ」
「だめよ。何が何でも入ってもらうわ」
「は!? 何でだよ!!」
なんでだろう。ただレーインはいつもより真剣な面持ちで考えている。
「だって、お母様は全員連れてこいって言ってたのよ? あの言い方からするとトウカやヴィスタのことも知ってるわ。それをふまえての全員。連れて行かなかったらどうなると思う?」
「そんな大袈裟な……」
「まったくもって大袈裟なことなんてないわ、ヴィスタ!! 連れていけなかったら最悪軽く一ヶ月は私達は洞窟から出てこないわよ!!」
は!? 何で?
私達って言うことは私も!? 確かにレーイン、イリアスさんのこと結構恐れてるなーとは思っていたけれどこれはとんだとばっちりになるのでは……?
「何でそうなる!!」
「そんなの……決まってるじゃない。ミアがお母様の着せかえ人形になるからよ」
…………やっぱりとんだとばっちりじゃねえか!!
「ミアが着せかえ人形になるって……それは僕達が行っても変わらないんじゃないの?」
あ、確かに。
「そうよ!?」
そうなの!? えっ……じゃあ私、最悪一ヶ月は洞窟出れないわけ? それは旅をしている身としてだいぶ困るのだが……。てか故郷前にしてレーインのテンションがおかしくなってる気がする。そんなにイリアスさんが怖いのかな……?
でも、とレーインは言葉を続ける。
「あなた達がいけば私は"約束は守った"って言うことになるわ」
「どうやってそれが繋がる」
「まだわからないの? じゃあ逆に、あなた達を連れていかなければ私は"約束を破った"ってことになるわね。するとお母様はそれをいいことにミアを捕獲するわ。「ああ悲しい。私は全員って言ったのに」って」
……イリアスさんがほんとに言いそうだから何も言えない。
「ミアはお母様の好みどストライクよ。どうせお母様は私がトウカやヴィスタを連れてこられるはずがないと思ってるのだと思うわ。吸血鬼の執着はあなた達も知ってるでしょ?」
わ、わからん。どうしよう。
トウカもヴィスタもハッとした顔になったけど私だけおいていかれてる……。と、少し呆れたようにヴィスタが説明してくれた。
「ミア……吸血鬼はね、狙った獲物は絶対逃さないの。それが物であってもヒトであっても。だから男性は吸血鬼に目をつけられるともう結婚は決まったようなものなんだ」
「どうして男性だけなの?」
「…………。……吸血鬼は女の子しか産まれてこないんだよ」
な、何だと!? だから未成年の男性は入ることが出来ないのか。ん? いや、それとこれとは話が繋がらんな。
「そもそもの話、何で未成年の男性は入ることが出来ないの?」
この問いにはレーインが答えてくれた。
「吸血鬼にはね、男性によく聞く惚れ薬みたいなものが常に体から分泌されてるの。男性側にその抵抗がつくのが成年してから。そして特に生まれてきて5年くらいは特に強いから吸血鬼側からも洞窟から出ることは禁止されてるわ」
「じゃあレーインもその惚れ薬成分? が含まれてるのフェロモンが出てるの?」
「私は自分で抑えてるわ。そうじゃなかったらお母様と一緒に色々なところにはついていけないもの。それにもし私が今までフェロモン出してたらあんなに長くいたトウカとヴィスタはとっくの昔に私にデロデロよ」
それはそれでちょっと見てみたいけど……。
横で「まじかよ……」と、トウカが呟いている。どうやら知らなかったようだ。
「ま、そういうことで二人には女装してもらうわ!」
「どうやったらその流れになるんだよ!?」
「?? 勿論こうなったからこの流れになるのは当たり前のことだと思うのだけど?」
うーん。細かいことは色々気になる。けど正直二人の女装、もっのすごく見てみたいという欲求の方が大きいからトウカのフォローも出来ないし……。
ヴィスタは横で固まってる。
「あなた達が男だってバレなきゃいいのよ。流石に今の見た目で30歳も多く見積もることなんて出来ないし……せいぜい化粧でごまかしても30代一歩手前だわ」
30代一歩手前というと前世で言う高校生くらいか。
私達は見た目、20代くらいの年齢で一回成長が止まるらしくて、成人するまではどうも少し幼く見えてしまう。まあでも私からしていれば高校生くらいでも充分だと思うけど。
大体ラノベの主人公の見た目もそれくらいだし。
「大丈夫! 絶対こうなるだろうって予想して道中ドレスなんかも買っておいたから心配ないわ!! それに私、化粧だって上手なんだから」
途中でレーイン、必要かな? っていうくらいドレスやその他諸々買ってたのはそのためか!! 私の空間収納には余裕で入るから問題ないけど、そういうことね。
固まっているヴィスタとごちゃごちゃ言っているトウカを引きずりながらレーインは洞窟の外にある何か分からない店に入り込んでいった。
助けたほうがいいのか……? いや、ここは欲望に忠実に行こう。美少年達の女装、見たい。




