102 ……頑張ってほしい
「世界を広く見て回るのは大切だよね」
ある昼下りのことだ。私がポツリとつぶやく。
「俺、嫌な予感がする」
「珍しいわね。私もよ」
「僕も同感」
私のたった一言に酷い言われようだ。なんだって? 嫌な予感がするとは失礼な。私はただ事実を言っただけだぞ?
「皆知らないのかい? 井の中の蛙大海を知らずということわざを」
同時に首をかしげる3人。あらあらあら??
と、呆れ顔で美凪が援護射撃(というのが正解かはわからない)をしてきた。
「……都。そもそもことわざという概念がこっちには多分ないぞ。まずはことわざって何? からだ」
あ!! そうだ、うっかりしてた!
最近何かと美凪と一緒にいることが多いから感覚バグってたんだ。あ、危ない……。
「ま、まあそんなことはどうでもいいの!」
うまく誤魔化せたかはわからないけど今はもうこれ以上触れないでおこう。自分でもっと深い墓穴を掘る気がする。
「私達、人間界に来てまだガリレイド国しか見てないじゃん? きっと闇堕ちはこの国だけじゃないと思うし他の国にもいかなきゃなと思うんだけど」
私のごもっともな説明に皆が頷いてくれるかと思ったが10年以上の付き合いになるとそうもいかないらしい。
「俺、都の本心、を当てることができるぞ?」
「奇遇ね。私もよ」
「俺もだ」
「僕も」
だから何なんだ! さっきこのやり取りどこかで見た気がするぞ? 美凪加わって4人に言われる私。
美凪が少しトウカ達との仲は深まったように見えるのはいいことだと思うけど……。
てか私は心の底からそう思ってだな……
「「「「人間界の美味しいものが食べたい」」」」
ぐっっっっ!!
確かにそうだけれども。それはあくまでもついでであって、実際にはそれが本心だったわけじゃ……
っておいこら、変にはもったからってハイタッチするんじゃない!! なんか虚しくなってきた。
「まあいいんじゃないの? それがミアだもん」
「そうだな。逆にそれがなきゃミアとはいえん」
「ということでのミナギ。どこの国がいいかさっさとはきなさい」
美凪の不憫さがつのるものの人間界のことについて全く知らないのも事実。人間界の知識は私達の立っているこの地がガリレイド国であるということ、アナガリス教会、Gギルドのことしか知らないのだ。
「そうだな……。都、何食べたい?」
「海鮮」
美凪の問いに即答する。他にもいっぱいあるよ? もちろん和食も食べたいし中華も食べたい。ナンもいいなー。
ジャンクフードの王道と言っても過言ではないあの罪な味がするハンバーガーは予想外のところにあったからもういただいたし。
中華も和食もぽいものはもう魔界で食べているのだ。美味しかった。
でも魔界は海がない。だったら何がないかって? 新鮮な魚がない。イコール海鮮という概念がない。トウカ達も海鮮を知らないはずだ。魚はあるのよ。あのいつぞやの変な農場みたいなところで取れるから。しかしそれを生で食べるという行為を魔界の方々はしないのだ。しないというかもうほとんど下ごしらえ終わった形で出てくるから出来ないといったほうが正しいかもしれないけれど。
「だったら……ラムライト国かな。あそこが一番魚介料理は美味しかったはず」
美凪曰く、人間界はここガリレイド国を囲むようにして5つの国が並んでいるらしい。上から右回りにフレスタイト国、ジュネスタ国、ラーヤン国、ラムライト国、カーディス国。その中でも最も海がきれいで漁業が盛んに行われているのがラムライト国だそうだ。
「行くのにどれくらい時間がかかる?」
「馬車で約3日ってとこか。急ぎだと3日もかからないと思う」
ということは私達の足だと半日でつくね。
あ、でもまって。そういえば今回は私達だけじゃない。美凪がいる! ついて……来れるか? まあ一週間頑張って貰ったし大丈夫だろう。ひと目につかないところを走っていったらそんな騒ぎにはならないと思うが……。なったらなったですその時だ。
「そういえば、私が美凪見てる間にトウカ達、いなかったよね? 何してたの?」
そう。私が頼んだヒト意外は見事に見当たらなかった。神様のところにいかなきゃいけなかったときは3人に闇堕ちの治し方を伝授してもらってたんだけどそれ以外は3人が揃っているところをあまり見なかった。
「ああ、依頼をこなしてたんだよ」
「依頼?」
「掲示板? っていうのがあっただろ? あれに書かれている素材を持っていくと薬草交換するよりもいい金額で換金してくれたんだ」
へえ。私が知らない間にそんなことが。
「特に"A"と"S"って書いてある依頼は他よりも桁違いだったわ」
とその言葉に美凪が大きく反応した。
「A……? S……? ちょ、ちょっと待て。依頼を受けたんだよな。だったらパーティーのランクはもう決まってるはずだよな。宵闇のランクってどれくらいなんだ?」
ランク、、そんなことも言ってた気もしなくはない。てか私測ってないのだけれど全員が測らなくて大丈夫なのか? いけてるから大丈夫なのか。
「何だったっけ」
「Aって言われてなかったかしら?」
「A!!」
ミナギが軽く悲鳴のように叫ぶ。
「Aってすごいの?」
「すごいも何も、最高ランクだぞ!? Sは伝説級のランクだからほぼないのも等しいとして、今はAランクが一番上ってことで周知されてるんだ!!」
へええ、と納得したように私を含めた4人が頷く。その様子を見て諦めたように美凪は何かを悟ったらしい。
「ま、ランクなんてどうでもいいじゃないの。お金は十分あるんでしょう? だったら問題なし!」
「問題どうこうの問題じゃな……」
最後まで言う前に私達は走り出す。
目的地が決まればあとは早いものだ。私達、行動に移すことだけは早いんで。
いきなり走り出した私達についていくのが必死になったのか、美凪は口を閉じてしまった。
ラムライト国についたのはそれから日が開けてまもなくのことだった。




