対価
『前回のあらすじ』
分裂したナイトメアゼノ・メイトと融合獣・スプリッティングを倒すべく、スーツのリミッターを解除。アダムとイヴ共有の機能、リンクを使い挑む。
最初こそは持ちつ持たれつで優位に立つも、リンク相手の寧が途中リタイアしてしまう。
途中で喧嘩し始めたメイトとスプリッティング。これを好機と見て挑むも謎の巨大な存在に邪魔された挙げ句、苦手な水中へ落とされてしまった。
水中・海中では泳げず身動きが取れない中、アクティブソナーが背後から近付く反応に警報を鳴らす。
けれど今は何も出来ず、ただ海底目掛けて沈むだけ。そう……思っていたら、誰かが背中を押して海面へ持ち上げてくれている様だ。
駄目押しに此方へ潜っては手を引っ張り上げる静久の姿も見え、生命維持稼働時間も余裕を残して海岸へ引きずられる形で生還。
「さ、酸素とかは大丈夫でも、水圧はアカンて……」
「阿呆……まだ水中用装甲も付けず、私との融合も無しに水中へ引きずり込まれるとか……間抜けか」
仰向けに寝転べば隣に静久が座り、此方を見下ろして相も変わらぬ駄目出し。まあ、正論故に何も言い返せねぇ……
それは兎も角として、背中を押してくれていた人物は誰だったんだろう? 利き手じゃない左手でマスクを外しつつ、疑問と向かい合う。
「ったく。最強と言われた終焉の闇No.02の名が聞いて呆れるぜ、全く」
「ベーゼレブル……ツヴァイ!?」
海からゆっくりと上がり、ずぶ濡れになった神父服を絞る音と愚痴る声が聞こえ、慌てて体を起こす。
其処には人間体のベーゼレブル・ツヴァイが立っていた。恐らく、自分の背中を押し上げてくれていたのは奴だろう。
お礼を言うべく、口を開こうとした瞬間──
「礼なら要らんぞ。俺は完全復活したテメェを倒し、喰らう為に手を貸しただけだ」
「何故、完全復活した貴紀にこだわる……?」
「教えて欲しけりゃこの海、MALICE MIZERを攻略するんだな」
「……悪意と悲劇?」
此方の言葉を遮り、助けた理由を語った。静久の問い掛けに此処、MALICE MIZERの海を攻略せよ。
と、交換条件を提示した。ナイトメアゼノ・メイト、融合獣スプリッティング、半透明な巨大生物……アイツらを倒せ、と言う訳か。
勝てるんだろうか。不完全な状態で……アイツらに、融合獣やナイトメアゼノシリーズに、底知れぬ恐怖心を抱いたまま。
もう一度奴らと戦う。そう思う程、ホライズンを強く思い出す。全身全霊の一撃でも無傷な上、此方の攻撃を学習し強化して返す奴に。
「……此処から北北西にクーラと言う海上集落が在る。其処で情報でも集めるんだな」
そう言うや否や、ベーゼレブルは飛び去って行った。スーツを脱ぎ転送で送り返した後、止血と治療をして貰い。
切り落とされた右腕を探すも、何故か右腕は見付からなかった代わり、登山中に見た白クラゲを発見。
最初見た時は海側だったのに、今は砂浜側へ近付いている。気になり屈んで見つめていると……
「ん~……そーみられると……はずかしい」
白クラゲと思っていた存在は海面から頭だけを出し話し掛けてきた。透明なクラゲ帽を被り、短く白い髪は海面にゆらゆらと揺れ動く。上半身は普通の女の子な反面ヘソから下、下半身はクラゲらしく、多くの触手が生えている。
白いワンピースを着ているけど、透けて裸が見えそうなんだが……気にする気配は微塵もないな。このクラゲ娘は。
「魚人……ではなくクラゲ娘か。私達に何の要件だ……?」
「わたしたちはねー……さっきのカイジュウにねー……ウミをあらされてこまってるんだ~」
「ダウナー系な言い方だからか、妙に危機感を感じ取れんな。申し訳ないけど」
明らかに怪しい。と言った感じでクラゲ娘へ疑いの眼差しを向けて質問すると。
なんと言うかこう……話を聞いている内に脱力感を感じる喋り方で危機感や緊張感って言うものを感じ取れない娘だな。
ダウナー系と言った辺りで、静久のチッ……と言った舌打ちの他、呟くような小さな声で。
「属性被りとか、複数人出る作品じゃ間違われ易いと言うのに……」なんて事を言っていた。もしかして静久のやる気なさげ感って、そう言う理由?
「ねぇ……ヒーローさん。カイジュウたちをタイジしてくれない?」
「いや、自分は英雄じゃないんだけど……」
何を根拠に自分を英雄呼びするのか全く分からん。それと、無報酬で依頼を引き受ける程善人でもない。
奴らを退治したら何か報酬はあるのか? と尋ねてみたら、何も理解してない表情で「ほうしゅう……って、なに?」と言い切った。
対価、報酬。そう言ったやり取りは無い時代か、もしくは種族なのだろうか。何度でも言ってやろう、無報酬の依頼なんざ勇者にでも頼め。
「対価、見返り……そう言ったやり取りは、お前達の種族には無いのか……?」
「んん~……ぐぅ……」
「……貴紀。今日の夕飯はクラゲの中華と行くか……?」
「クラゲ娘はちょっと、勘弁願いたい」
自分の心境を知ってか、静久は名も知らぬクラゲ娘へ話し掛けるも……何やら悩みつつ眠ってしまった。
ダウナー系で隙あらば寝ようとするマイペース感に苛立ったらしく、夕飯の食材に加工してやろうと思った様子。
とは言え、クラゲ娘を食う気にはならん。頭を揺すっても起きる気配は無いので、放置して情報共有と今後の動きも含め、店へ戻る。
「寧、体は大丈夫か?」
「うん。でもやっぱり……貴紀君の動きや反動に耐えれなくて、心配掛けちゃった」
研究室で床に倒れている寧へ駆け寄り、体調の有無を尋ねたら、やはりと言うかなんと言うか。
足手まといになった事を悔やみ、申し訳なさそうな顔で言われた。そりゃ実戦組の動きや反動を、技術組に耐えられるか問われればこうなるだろう。
「気にするな。勝負は次勝てば良い、メモリーも同様。寧達の命こそ最優先で、大事なんだ。自分には……」
左腕だけで辛うじて抱え、バランスの悪さは寧に首へ手を回して貰う形で補う。
そのまま二つあるソファーの内、桃色へ寝かせ、白色で眠るマキを見て無事だと知り床へ座り込む。いやはや、少し無理をし過ぎたかな。
「……手っ取り早く情報共有を済ませる。何か異論は……あるか?」
やっぱり長い付き合いな反面、体調や内心まで見抜かれているらしい。
さっさと情報共有を済ませ、少しでも多く休ませようと話を進める静久。自分達も異論は無く、手短に知り得た情報を伝えると。
今度は寧から逆に、先の戦闘で得た敵のスキャン結果を教えてくれた。その内容とは──
「ナイトメアゼノ・メイトは物理無効化持ち!?」
「うん……貴紀君の右腕が見付からなかったのは多分、持って行ったんだと思う」
「……とは言え、魔力も奴には飯同然……か」
成る程な。メイトはまだ生きている、って通信はそう言う意味だったのか。
恥ずかしながら目の前しか見てなかった故、そう言う認識には至らなかった。コレは反省点であり今後の課題だな、こりゃ。
右腕は倒したと思ってたメイトに持って行かれ、更に物理攻撃無効と来た。ドイツもコイツも此方の得意分野を無効にしやがる。
「メイト……いや。奴らへの対策はあるのか?」
「残念だけど、今は無いかな?」
いわく、融合獣も海特化型で防御力も高く、自分の攻撃位じゃ僅かなダメージを与える程度が精一杯と判断され。
現状スプリッティング攻略に必要なのは、甲殻類の殻を破りうる物理攻撃力。メイトは反対に氷系魔力と塵一つ残さない圧倒的な火力と言う。
最後に巨大な奴は現在、情報不足で何も分かっていない。そう考えると、今の自分達には攻略の手立ては何一つ無い。
「そうなると、北北西に在ると言っていた海上集落へ行くしかない。か」
「クーラ……だったか。集落の名は……」
「確か治療や手当て、介護や不安って意味がある言葉だよ」
結論として、現在位置から北北西に在るクーラと言う海上集落へ向かう事で一致。
今日は果実や魚と言った食料や飲み水、枝の確保に専念。トリスティス大陸で得た皮袋は、水の持ち運びにとても重宝した。
……反面。生き血を長く入れていた為か、血生臭いのは唯一の欠点だな。因みに、クラゲ娘はまだ寝ていたので、放置中。
「一番最後でも、やっぱり風呂は最高だな……」
店の左隣に少し穴を掘り、集めた枝や葉っぱを敷き詰めて魔力で火を点け、風呂釜を置いたら緊急式の風呂場の出来上がり。
水は静久の能力で海水を真水に変えて貰い、女性陣優先で最後に自分が風呂へ入っている。最低限、体は綺麗にしなくてはな。
女は意外と臭いや清潔感ってのを気にするしな。寧とマキは思考回路が男に近いのか、仕事を終えるまで入らないパターンもあるし。
しっかし、風呂はやっぱり良い。疲れは取れる気もするし、臭いだって取れる。本当、風呂を発明した人には感謝だな。
「対価。対価かぁ……そりゃまあ、無きゃ不公平だわな」
「もしかして、話に出たクラゲ娘さんに対して思ってるの?」
「まあそうだけど……なんでいるのさ?」
綺麗な星の浮かぶ夜空を眺めて呟いてたら、向かい側で湯船に浸かる寧に気付き、問い掛けるも。
「もう一度入りたくなって」と可愛らしく言う。別に驚きはしない、責めたりもしない。何故なら、コレもオメガゼロには必要不可欠だから。
「最近忙しかったり、離れ離れだったから、忘れてるんじゃないか。と思って」
「……そうだな。禊は全然出来てないし、丁度良いか」
本来の禊とは罪や穢れを落とし、自らを清らかにする事を目的とする、神道における水浴行為。
不浄を取り除く行為である祓の一種らしい。自分達のはそれに加えてお互いの肌に触れ、心に触れる行為でもあり、行うには条件もある。
要は心を触れ合わせ、情報や感情を交換して伝え合いましょうって話。でもコレやると、相手の記憶も見れちゃうんだよね。
まあ、それだけ心許し合える相手じゃなきゃ成立しないんだけどさ。無理矢理も出来るらしいけど、やった事はないな。
「対価に就いて、思い悩んでるんだね」
「あぁ。対価、つまり支払う代償と行う報酬にな」
「う~ん……簡単に言うと、買い物だよね。買い手と売り手って意味でも」
本当、分かり易く説明してくれて助かる。こう言うのは小難しく思い悩む癖って言うか、そんなタイプらしくてな。
今回の件で言えばクラゲ娘は買い手で、売り手である自分に海獣退治を頼んだ。けれどその対価、見返りに応じた報酬は無いとなれば、破談は確定。
もっと簡単に言うなら、依頼主に出来ない事を引き受ける代わり、危険手当てなどを含めた代金を下さいね。って話だ。
農家や畜産と言った生産系場合、苗や家畜の盗難もある。言ってしまえば、成果を横取りされた挙げ句、売上げも全部奪われるリスクも大きい。
「多分、その娘は興味無い話だと一定時間で寝ちゃう系じゃないかな?」
「あぁ~……成る程」
言われてみれば無関心だったり興味無い話って、聞き続けると妙に眠たくなるもんな。
そう考えると……彼女に報酬云々を聞くのは難しいか。なら、上司か話の通じる相手に言うべきだ。
「ありがとう、寧。それじゃ、明日に備えて湯冷めしないよう店へ戻って寝るか」
お互い裸は見慣れているハズ……なんだけど、やっぱり恥ずかしくて。背中を向けたままタオルで体を拭い。
服を着て店へ戻った……ら、用心棒も付けず風呂に入るな。と小一時間程正座させられたまま怒られ、結局湯冷めしたのは……言うまでもない。




