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ワールドロード  作者: オメガ
二章・Ev'ry Smile Ev'ry Tear
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バレンタイン祭

 『前回のあらすじ』


 最前線で戦っていた仲間達を引き連れた琴音と合流し、意識不明の重体となったオラシオンNo.Ⅴ。シオリ・フュンフを連れて拠点の在るヴォール王国へ帰還。

 判断ミス等、自責の念で自らを攻める貴紀は報告も兼ねて冒険者ギルドへ向かう。報告を済ませ、巴から明日の午前中限定の約束を受ける。

 二階で寧・マキ・ベビドと会い、イブリースが口にしていた三つの計画に就いて話す。マキから午後の約束を受け、二人を送り精密検査を受ける為、機械屋・Mの地下基地へ向かった。



 昨晩は秘密基地へ寧とマキを送り届け、泊まる序でに精密検査も受けた。結果は──可もなく不可もない、まずまずな状態。

 無茶は禁物だと、マキに釘を刺された。イヴに言われたんじゃ仕方ない、日常生活では可能な限り無茶は控えよう。戦闘は相手次第だ。

 翌日。遅れると色々面倒臭いので、朝六時半には冒険者ギルドの二階へ着く様に行動。休憩所の席に腰を降ろし、時間まで携帯を弄る。


「……ナイア姉から、メール?」


 現在の衰退した技術力では、機械はほぼ全てがジャンクパーツ扱い。メンテナンスが必要な機械は魔法や奇跡に劣るって理由らしいが……そりゃ衰退もするか。

 パワードスーツの強化案を考え携帯にメモってた時、ナイア姉から一通のメールが届いた。内容は「国民からも水質調査の依頼が殺到中。ゲートに何か変化はあった?」と言う質問。

 ゲートは帰還して以来、全く反応しなくなっている。理由は不明、再起動するかも不明と分からない事だらけ。ただ……今日、あの鍵を使ってみるつもりだ。


「水質調査か……これは静久に協力を頼むべきだな。先にメールを送るか」


 水の事に関しては静久が頼りだ。善は急げと言うし、早速協力を求めるメールを送ると……一分ちょっとで返信が返って来た。内容は──

 「今更気付くとかお前は阿呆か。何をグズグズしている……?」相変わらず辛辣な内容で安心した反面、もう少しオブラートに言って? と悲しくなった。

 現状を簡単に書き、メールを送った。すると一度午後に基地へ戻る、詳しい話はそれからだ。とだけ書いた返事が返って来た時、足音が近付いて来るのに気付く。


「す、すみません!! お待たせしました!」


「おはよう、巴。用事を済ませてたから、別に待ってたとは思ってないよ」


 茶髪のサイドテールを靡かせ、見慣れた黒と白の受付嬢服や専用の黒いロングスカート……ではなく、女性向けの白い服と明るめな膝近くはあるスカート姿で駆け寄って来た。

 謝って来るも、伝えた通り用事を片付けていた為か、待っていた気はしない。時間も一分程度、遅れて来た位だしな。


「それじゃあ……お父さん。後は頼みますね?」


「おう、頑張って来い。何だったらやる事やって帰って来ても──」


 一階へ降り、大将へ後の事を頼み出掛ける。ただそれだけだったんだがな……余計な一言を言い放つ瞬間、巴の拳が鳩尾へ吸い込まれる様に命中。

 悶え苦しむ大将を放置したまま、自分の手を取り冒険者ギルドを後にした。容姿は全く似てなくとも、やっぱり大将の娘だと改めて思った。


「すみません。父が余計な事を……」


「構わんよ。大将とは長い付き合いだし」


 ハッキリ言ってそんな大将だからこそ、付き合いが続いてる訳なんだがな。なんと言うか、中学校時代の親友と話してる感覚があってさ。

 懐かしく思えて、あの頃に戻りたいとも時々思う。でもさ……半ば強制的とは言え時間跳躍をしてる身としては、それはあっては駄目だと感じさえする。

 一度っきりの人生だからこそ精一杯笑って怒り、泣いて後悔する。何度も繰り返し体験出来るんじゃ、有り難みなんか全くない。


「それで、何処へ行くんだ?」


「そ、それはですね。えぇ~っと……」


「決まってないなら行きたい所へ行かせて貰うが、構わないか?」


「は、はい。どうぞ!」


 冒険者ギルド前で先に行き先を話すも、どうやら行き先は決まってないらしい。結果、自分が行きたい場所へ二人で向かう事となった。

 最初に来たのはオープンテラスの喫茶店。朝方な為か人気は少なく、居ても室内側に十人程度。軽い朝食セットを二人分注文し、外側の席へ座る。


「あの~……どうして、喫茶店へ?」


「ん? あぁ、別に大した理由じゃないさ」


 何となく昨晩からどの洋服にしようか、何処へ行こうか迷った挙げ句寝過ごして、朝飯すら食べてないんじゃないか。そう思っていたと話すと、顔を赤くし恥ずかしそうに俯いた。

 どうやら図星の様子。話している内に色鮮やかなサラダ、冷えたオレンジジュース、焼きたてのトーストが運ばれて来て朝食を摂る。


「そっか……今日はバレンタイン祭だったか」


「はい。って、忘れてたんですか?」


「あぁ。毎年今日は稽古がクッソ厳しくてな。外出許可が取れなかったんだよ」


「なら、バレンタイン祭に就いて詳しく説明しますね」


 巴曰く毎年今日はバレンタイン祭と言う祭りがあり、普段は出来ず切っ掛けが欲しい男女が異性への愛の告白をする為、始めたお祭りイベントだとか。

 カップルやら男女一組限定割り引き、告白割りと言った切っ掛けを作り、ちょっと背中を押してあげる目的でやっているそうだ。

 普通に言えば良いじゃん。と思う、言う人は居るだろうが、それが出来りゃあ出来ん奴等は苦労しない。他人と自身は違うのだ。外見も、中身も。


「そう言やあ、大将から自分の事。どんだけ聞いてるのさ?」


 サラダに木製フォークを突き刺しつつ、素朴な疑問を尋ねた。すると右人差し指を自身の唇に当て、何やら思い出している……いや。

 何処まで話して良いのだろうか? そんな感じに思えた辺り、余計な事まで話してるんじゃないか? とさえ思った。


「貴紀さんがスレイ……!?」


「悪い。それ、秘密にしてるんだわ」


 慌てて身を乗り出し、続く言葉を左手で塞ぎ止める。大将……秘密をうっかり話してんじゃねぇよ。

 例え自国の中でも壁に耳あり障子に目あり──だ。言い切る前に止めれたと安堵した後、手を離し席へ戻る。


「ふぅ、すみません。父は何度も自慢げに私へ話してくれるものですから」


「大将ぉ~、秘密にするって頼んだのに」


「あはは……私からもキツく言い聞かせて置きますので」


 自慢や誇りってのは、人次第では口軽く喋ったり心の中に閉まっている。だがまあ、他人の秘密を簡単に喋る様じゃ、信頼はされないし失うわな。

 朝食も食べ終わり、巴の「甘えられませんので」と言う意見も有り、支払いは割り勘。携帯を見ると時間は八時半、早ければ幾らか店は開いている筈。巴の手を取り、次の目的地へ。


「服屋さん、ですか?」


 数多くの屋台や芸をする者を見つつ、町中を歩き到着し入ったのは衣服専門店。時刻は九時過ぎか、丁度良い位だな。


「鎧とか着ないからな。衣服とか直ぐに破けるんだよ。縫っても縫っても間に合わん……」


「裁縫をされるんですか?」


「少しな。破れたズボンを縫って、鞄にしたりすると処分する必要も無く、金も浮くからな」


 男子厨房に入らず、とか昔はそれでよかったけどさ。今は男子だって家事料理洗濯すらやる時代。やらん奴は全くやらんがな、人それぞれだ。

 今回は上着──と言うか、普段着てたコートの代わりを求めて来た。あのコート、一張羅で二千年頃から着てたお気に入りで、思い出が沢山詰まった物なんだよなぁ……


「この服とか似合いそうじゃありませんか?」


「デニムジャケット?!」


 うぅ~っわ、マジか。メッチャ大好きなタイプのジャケットじゃんか! あぁ、生地と肌触りも懐かしい……値段は──金貨二枚? えっ、服一着に金貨二枚。

 うぅ~む。好きなジャケットに二十万。どの道、戦闘へ出ればボロボロになるのは目に見えている。欲しいけど……止めとこう。

 男女のカップル達がイチャイチャする中、自分達も衣服を物色。巴も欲しい服が有った様だが、値札と手持ち金を見比べながら迷っている様子。


「た~か~の~り! 何々、ギルドの()とデート?」


 半分位なら出せそうだ。と思い、話し掛けようとした瞬間。母さんが背後から抱き付いてきては、デートをしているのか?

 そう尋ねて来た為、そっぽを向いて黙る事にした。どうせ母さんにも口で勝てた試しがねぇし。


「あぁ~もう、そうやって不貞腐れて黙っちゃう癖も相変わらず可愛いわね!」


「不貞腐れてねぇっつうの……」


 えぇい!! 毎度のスキンシップとは理解してるが、こんな人気の多い所で赤ん坊へやる様に頬ずりするんじゃない。こっちが恥ずかしいわ!

 って、普通なら嫌がるんだがな。生憎、自分達家族は生き別れては再会し、何度か死別もした。何度殺されかけても、自分は副王に時間を巻き戻され蘇る。

 『果たすべき約束と使命』を遂げる、最後の時まで。とは言え──関係者には記憶が残る条件付きな為、後で滅茶苦茶怒られて、心配されるんだよ。

 もう……母さんや仲間達が悲しむ顔を、傷付く姿を見たくない。だから護る、約束と使命を果たす最後の時まで。その為なら、これ位は受け入れなきゃな。


「……満足した?」


「えぇ。でも昨日は城に帰って来なかったから心配で心配で……探しに行こうとしたら」


「オラシオンと父さんに止められた。でしょ?」


「正解! んん~もう、やっぱりお母さんの事、ちゃんと理解してくれてて嬉しい!」


 けど……この想いは、母さんや仲間達も同じだった。特に母さんは、何度も自分が絶命間際の瞬間を直ぐ傍で見ていた。

 それもあってか、凄く心配性で──愛情を向けてくれる。かく言う自分は仲間達曰く恥ずかしがり屋で、甘えたがらない。だからなんだろうかね、母さんが構ってくるのは。


「ねぇねぇ。貴紀の何処に惚れたの?」


「あ、あの……霊華王妃、様?」


 今度は巴に近付き、此方に背を向けて何やら小声で話しているが……余り聞こえん。いや、聞こえたら聞こえたで色々と小恥ずかしい気がする。


「ま、ライバルと障害は多く手強いけど。恋するその気持ち、私は応援するわよ」


「えっと、あ……ありがとう、ございます」


「あの子。アレで意外と寂しがり屋だから、構ってあげてね?」


 途中の会話は殆んど聞こえなかったが、最後のは聞こえた。誰が寂しがり屋だ。

 まあ? 独りぼっちの時間とか長いと……人恋しくなるけどさ、別に寂しがり屋なんかじゃねぇし!


「貴紀、黒い水に気を付けなさい。奴ら、トンでもない方法で侵入して来てるわ」


 安否の確認とスキンシップを終わらせ、母さんと擦れ違う時、先程の表情からガラリと変わり真面目全開な表情と小さな声で忠告をし、帰って行った。

 黒い水……ナイア姉のメールにあった内容と関係が有りそうだな。早速調査──と行きたいけれど、今は巴と行動中。下手に不安を煽る様な行動は避けるべきか。


「全く。母さんは相変わらず、嵐みたいな人だな」


「えっと……つまり、貴紀さんは……」


「悪い、それ以上は止めてくれ。嫌いなんだ、そう言う呼ばれ方」


 真面目モードだと本当、見間違える程に格好良くて、魔神や神様だって殴り伏せる憧れの存在なんだよなぁ。普段は子煩悩な所が目立つけど……

 で、恐る恐る続きを言いそうだった言葉を遮り、釘を刺す。ルシファーが自分を呼ぶ言い方はもう諦めてるし、慣れた。出来れば止めて欲しいが。


「ん……もう十一時半か。早いな……よし、買い物済ませたらギルドまで送るよ」


「はい。お願いします」


 結局、自分は魔法使いが着る黒いローブ、巴は春に向けての衣服上下セットを購入。値段は二人合わせて銀貨五枚と銅貨六枚、計五千六百円。

 円と言うが、昔の言い方が自分として一番分かり易いからだ。冒険者ギルドへ送る途中、隣を歩く巴が小さな声で、ポツリと呟いた独り言。

 「やっぱり、私には待つ事位しか……出来ないのかな」と俯いて悲しげに言う言葉を聞き、何も言えない気持ちになるも、無理矢理口を開く。


「待ってくれてる人が居るからこそ、帰って来ようと思えるんだよなぁ」


 少し大きな独り言を言い、此方から手を取り歩く。あぁ~……クッソ恥ずかしい! 青臭い台詞もそうだが、意識して異性と手を繋ぐってのも恥ずい!!

 あぁ~殺せ! 一思いに殺してくれ!! けど、うん……まあ。悲しげな顔から笑ってくれたのなら、恥ずかしい思いをした価値は──あったかな?


「遅れながら此方、私からの手作りバレンタインチョコです。後で感想を聞かせてくださいね?」


「多分長期間の仕事が入るから、それが終わってからでも良ければ」


 母さんの言葉が正しければ、確実に何かが起きている筈。それを食い止める為、ひょっとしたら長期間、またヴォール王国を離れる事になる。

 念の為に仕事終わってからでも、と聞くと満面の笑みで「はい。必ず生きて帰って来て、感想を聞かせてくださいね」と言われた。






名前:マキナ・オブ・シュナイダー・エックス

序章第四十二話時点で紫音真紀(シオンマキ)と改名済み

年齢:19歳

身長:154cm

体重:59kg

性別:女性

種族:人間(二章・第二話時点で正体判明)

設定


 腰まで届く長い金髪と豊満な胸、蒼い瞳を持つやや幼さ残る女性。序章前半時点ではとある理由から魂と肉体が分離状態になっており、依頼者と言う立場でありつつも、影ながら貴紀達を導き救ってくれた。

 序章第二十三話からは肉体を取り戻し、貴紀にスカウトされて仲間入りを果たす。とある理由と機械大好きな共通点から、未来寧(みらいねい)とは仲が良く地下基地では一緒の姿をよく見掛ける。

 必要最小限はインドア派な寧とは反対に、技術者でありながら研究者でもある為か、アウトドア派な一面も持つ。その行動力は好奇心から来るモノらしいが……

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