武器
前回のあらすじ
差出人不明の依頼を受け、現在のトリスティス大陸へ向かった貴紀は、次元穴と呼ぶモノに遭遇。
触れた事が原因かは不明だが、死んだ筈のシュッツやアナメ達と再会。
差出人こそ分からず終いだったがシュッツ達を新たな仲間に加え、貴紀はナトゥーア大陸へ無事帰還した。
二月十二日、昼過ぎ。トリスティス大陸での調査を終え、新たなる仲間が加入してからは、昔と変わらない日々が続いていた。退屈……と言う訳じゃない。寧ろ逆だ。
『貴紀君。マキちゃんとパワードスーツを新しく調整して改修したけど、どうかな?』
「視界三百六十度とか、方向感覚が狂うってレベルじゃないぞ、これ……」
あの冒険で得た戦闘データを元にパワードスーツの強化改修と、調律者が支配エリア拡大の為に送り込んで来る機械兵の襲撃を利用したデータ収集が嫌と言う程続いている。
現に今、パワードスーツに取り付けた試作品小型レーダーとやらの機能を携帯で確かめてるが、全方位視界とか言う自分の向いている方角すら分からないのは……ちょっと。
事は昨日の夕方頃。ナトゥーア大陸・エルフの森から伝書鳩が届き、転移符を使い駆け付けた訳だが……偵察だか斥候だかはエルフ達が撃破。続く本隊を自分達にって話だ。
「念の為に訊くが、霊華達拠点防衛組やマキと一緒にいるんだよな、集落から出てないよな?」
『うん。他のみんなは最前線で食い止めてくれてるよ。今回も無茶を言っちゃうけど、可能な限り最低限の攻撃で仕留めてね?』
「了解した。一応、最善は尽くす」
無茶な要望に当たり障りのない返答を返し、前線で得た敵情報が送られて来ると通話か切れた。自分は得意な戦い方に戻るべく、最前線の少し後ろ側で森に潜み単独行動中。
相手は歩兵型機械兵・アポトーシス、数は百体。今回持ち込んだ武器は自分の要望を伝えてアナメに造って貰った特製籠手、エボルネイル・ブレード。
後は前日から作った特製の泥入り皮袋や、罠用の仕掛けがチラホラ。落とし穴……なんて上等な代物は無理だったけど、嫌がらせ程度なら結構作った。さてはて。
良し、見付けた。敵の数は三体、正三角形の陣。前線に大多数をぶつけ足止め、少数で奇襲を仕掛け集落を占拠って作戦だろうか。なら、何組かいると見るべきか。さて──殺りますかね。
「──!?」
獣道を通る相手の前衛が罠に引っ掛かった。とは言っても片足用の小型落とし穴に泥を足した程度故、所詮は足元に注意を引かせる嫌がらせでしかない。
が──これで十分。隠れていた茂みから飛び出し、超低空短距離ハイジャンプを発動。一気に間合いを詰め、スキルで敵の弱所を見極め右外側手首から、肘へ向けて伸びた刃を振るう。
「っ、やっぱり右腕専用かつ高速移動だと、三体同時には仕留め損ねるか」
「敵対者と遭──」
「遅い!」
少し遅れて此方に気付き、振り返った様だが……三体同時は倒せず、内左側一体の首が胴体から転げ落ち、崩れ落ちる様に倒れ伏す。
両足で踏ん張りブレーキを掛け、再度一気に飛び込む。端に居る奴の喉元へ右手を突き刺し、ブレードを前方へ展開。引き抜く動作と共に最後の一体も首を跳ねる。
「まずは一組、鎮圧完了。うん……使い勝手は良好」
エボルネイル・ブレード。西洋甲冑風に仕上げて貰い、近接戦闘向けにトンファーブレードの要素を取り込んだ逸品。DT-0のデータを参考にしている為、中距離攻撃も可能。
移動中に発見した二人一組のアポトーシスにも奇襲を仕掛けるべく、背後から左側の奴目掛け右手を向け左腕で右腕を掴み、照準が大きくブレない様に固定。
右手から撃った細い魔力砲は見事、相手一体の頭部を貫通。此方の存在に気付き振り向いた残りに間髪を入れず片栗粉入り泥を顔面へ投げ付け、視界を奪う。
続けて懐へ飛び込めば左手で頭を鷲掴み、右腕の刃で素早く首を深めに切りパワーグリップを発動。半ば強引に、脊髄ごと引っこ抜く。本当、英雄には成れんわ、こんな戦法。
「各員に通達。此方スレイヤー、奇襲部隊を二組撃破。引き続き防衛拠点周囲の警戒を続行する」
『此方フュンフ。奇襲部隊なら此方も二組を撃破。ドライの魔力探知だとこれで全部かな』
何故機械兵達を破壊しないのか? って言うと、機械部品が全くと言っていい程不足気味だから。まあ言ってしまえば、死体漁りだよ。戦争の時代じゃ当たり前だがな。
相手側の機密情報や技術すら手に入る、会社で言うなら臨時ボーナス。今通信に使ってる小型インカムだって、倒した機械兵達から造った代物だしな。
定時連絡も含め、状況を報告。別行動していたシオリと琴音も倒していた様だ、奇襲部隊はこれで全部倒した。けどまあ、前線はまだ戦闘中らしいな。
『ちょっと待った!! これは……スレイヤー側に異常なまでの魔力反応検知。って、ちょっと、ドライ!?』
「どうした、フュンフ。ドライがどうし……っ!? ノイズに混じって、何かが」
シオリ側で何かあったらしい。慌ててインカムに指を当て呼び掛けるも、ノイズが混ざり此方の声は届かず相手の声も聞こえない。
シオリ達が心配で不安が込み上げる最中、言われた内容を思い返し、急いで周りを見渡す。幾ら明るくとも、自分が今居る場所は森の中。
木陰に太陽光は遮られ、常人には薄暗い。オマケで不思議な光景が望む・望まざるを問わず、鮮明に浮かび上がってくる。これは──黒い……海?
「クッソ。何なんだ、今の光景は……!?」
頭痛さながらに痛む頭を軽く左右へ振り、顔を上げようとした──瞬間、直感が最大級の警報を鳴らしていて、体が震え冷や汗が止まらない事に気付く。
恐る恐る顔を上げると……絶対的な異形が西洋騎士の兜を被り、目の前で此方を見下ろしているのに気付いた。直感は何度も「逃げろ、現状何をしたって勝てない!」と訴える。
「イブリースを倒したその実力……見せてみろ」
「やって……やろうじゃねぇか!! 変身!」
「今持てる力。その全てを、打ち込んで来い」
今尚鳴り響く最大級の警報に悪い意味で負けず嫌いが働き、無視して変身のプロセスを手早く終わらせスーツを装着。
フュージョン・フォンを取り外し操作する中でもWARNINGと警告が響く。音量調節ボタンをプラス側へ三度押しHAZARDと鳴り知らせるのも無視して再度差し込む。
SACRIFILCE・Are You Ready? と音声が鳴りパワードスーツの装甲がスライド移動して開き、内部の全機能がフル稼働開始。
最後の駄目押しに──と再三携帯電話を抜き差しし、挑発だろうが何だろうが持てる全ての魔力を両足へ込め、一度大きく後方へ距離を取り飛び込む。
「全力全開ッ、フルパワースカーレットファング・シュナイター!!」
繰り出すはイブリースにトドメを刺した必殺技。しかも殆んど満タンに近い魔力、体調も良好、接触汚染も緋色魔力で象ったワニの口で対処済み。
脚で三度噛み付き、空高く放り上げる。今回のフィニッシュは空中から地面へ放り込まず、相手挟んだまま回転。頭から地面に直接叩き付け、轟音と共に必殺技は無抵抗な相手へ、見事な位決まった。
「ふぅー、ふぅー。どうだ……例え今は倒せずとも、直撃は叩き込めたぞ」
「良かった、無事の様ね。って、ドライは?」
「ドライは来てないぞ」
直感が鳴らす警報は止まない。倒せていないのだ。それでも手応えは十二分にあった、手傷は少し位なら有るんだと──乱れた呼吸を整える為に。
落下地点から大きく距離を離し、深く深呼吸しながら呟く。そんな時、シオリが駆け付けてくれたが……琴音とははぐれたのか、来てないか尋ねられた。
「それにしても凄い魔力と轟音が……!!」
「ははは……やっぱりか」
悪夢は覚めない。不安が募る程に異形は恐ろしく、逃げ出したくなる恐怖。
故に悪夢、夢見る存在の数だけ姿形も無数、だからゼノシリーズ。奴らの名前、その意味を──今更痛感している。
「……問おう。何故、これ程までに弱い? 何故、絞りカス程度の力しか持っていない?」
「全く。全身全霊がノーダメとか、自信失くすぞ」
「スレイヤー、下がって!」
ゆるりと起き上がる姿には、掠り傷一つすら残っていない。問い掛けてくるのは構わんが、しかも全力攻撃を絞りカス程度呼ばわりとか……ははっ。
イブリースを仕留めた技が通用しない。大幅に魔力が減った俺の前へ立ち、背中に担いだ弓矢を構え、ホライズン目掛け射続ける。
奴は無意味と言わんが如く無抵抗のまま、矢を受け続ける。蒼白いラプターの爪が生えた泡立つ右腕、筋肉質な紫色の左腕と両足、西洋兜らしき頭。幾ら命中しても、微動だにしない。
「ちょ……矢尻に塗り込んだ毒すら全く効いてないとか、嘘でしょ!?」
「成る程。その『武器』は、そう使うのか。どれ……」
何の毒かは知らないが、全く効き目が無い様子。まるで内側から押し返される様に、矢が徐々に命中箇所から零れ落ちて行く。
それどころか奴はシオリから弓矢の使い方を見て学んだらしく、泡立つ右腕を弓矢に変貌させてしまった。いや、形状からと言うと──横向きのボウガン。
射る矢は勿論、奴自身が持つラプターの爪。次に行うであろう行動は予想出来る為、奴から注意を逸らさず身構える。
「む……」
「あぁ……そっか。弓矢って見て簡単と思う以上に難しいわな」
「初めてなら、大抵はそうなるし」
が……予想に反して放たれた矢は一メートル程飛んだ所で落下。予想外の結果にホッと胸を撫で下ろす。
不思議そうに右腕を見た後、ゆっくりと頷き再度此方へ向ける。まさか、さっきので学習したとでも言う気か? その予想は、放たれた第二矢で理解する。
「嘘ッ!?」
「野郎。一発だけで理解しやがった……」
直感が働くよりも早く、眼が捉え体が動く前に奴の矢は俺達二人の間を通過。本当に一発撃っただけで、力加減やその他諸々を理解していた。
試し射ちだったのか、わざと外したのかは兎も角。奴の学習速度は異常と言わざるを得ない。確かにこれは戦えば戦う程、奴を強くするだけだな。
「アルマ・イブリース。ナックル」
「アレって、報告書の写真に写ってた……」
「いやいや、ちょっと待て──アローナックル!」
今度は左腕にイブリースの腕型籠手を作り出し、俺達へ殴り掛かって来た。此方も打撃技で対抗した──と言っても良いのだろうか?
繰り出した右拳は接触と同時に押し負け、上半身で直撃を貰い押し込まれる中、両足で力強く踏ん張り耐え凌ぐと──伸びた奴の左腕が戻って行く。
「オムニブス、オッフェーロ、ノヴム、ノックス。ミセル、カーリタース、インペリウム」
「……は?」
「全てを喰らう闇の嘔吐を受けてみろ。スターダスト・ノヴァ」
またヘンテコな理解し難い言葉を呟いたと思いきや、星屑の……? 訳分からん技だか魔法かよく分からないのを宣言後、俺達二人の周囲に無数の黒い穴が出現。
中から勢い良く飛び出して来たモノは……黒い小粒。俺達の前で集合し、球体となって行く。当然、逃げたい訳だが──動けない!
正確には黒い球体に『引き寄せられ』、膨張し呑み込まれ視界は真っ暗闇。けれど小さな光が次第に大きく膨れ上がり……大爆発を引き起こした。
残る魔力で辛うじてシオリは致命傷こそ避けたが、気絶は免れず。パワードスーツの全装甲は焼け焦げて剥がれ落ち、俺自身も足から力が抜けて膝を着く始末。
「……もう少し、手加減をしなくては駄目か」
いやいやいや、ちょっと待てや。スーツの装甲を全壊させといて手加減が足りない? 仮面も半壊して右側が素顔丸見えな上、流血して右眼が見えないんだぞ!
「イブリースを倒し、耐え凌いだ褒美だ。受け取るがいい」
「褒美……だと?」
「去らばだ、オメガゼロ・エックス。また逢おう」
此方へ向けて、左手から何かを放り投げた。赤い鍵と青い鍵の二つ……普段使う物よりずっと大きく、まるで玩具の剣にすら思える程。
アイツ、こんな物……持ってる様子すら無かったのに、どっから取り出したんだ? 二本の鍵に目が向いており、顔を上げて訊こうとしたら──もういねぇ。
俺も強化インナースーツはボロボロ。シオリもメイド服がボロボロであちこち破れているので、寧達に通信を入れ迎えを待つ事にした。
……強いとは直感的に分かってはいたけれど、まさか此処までとは。何とかして早く失った力と記憶を取り戻さなきゃな。手傷一つすら負わせれん。
今回の更新分は一章にオマケで一話、二章の始まりとなる第一話を投稿させて頂きました。前書きにも有るように、二章から試験的に『前回のあらすじ』を導入しています。
何かご意見・ご感想があれば、気軽に書き込んで下さっても大丈夫です。




