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ワールドロード  作者: オメガ
序章・our first step
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滅亡への序曲

 陽がある内は桃色と紅葉色に染まった見頃の桜を見て、酒や飲食を楽しもうとようとわざわざ遠方に在る田舎町、アルファ村へと訪れる四都の人々。

 冒険者・スレイヤーの復活が記事となり、世間が少しざわつき始めた日の満月の夜。


「おそくなっちゃった……」


「大丈夫だ。俺達がついてる」


「えぇ。魔物や小鬼程度、返り討ちよ」


 小さな布袋を抱きしめ、夜道を見回しながら、恐れ歩く一人の女の子。護衛任務か、はたまた善意から来る行為か。剣や盾、革鎧等を装備した一組の男女。

 二人は大きめの懐中電灯で夜道を照らし、少女が指し示す道を、指示通りに進む。今や力ある魔族は鳴りを潜めた。反面、下級魔族や魔物は活発化。特に田舎への出没頻度、被害報告は極めて高い。


「知ってるか? スレイヤーって言う冒険者の噂と神隠しの事件」


「知ってる。死体から武器を盗って、別の敵を倒す死体漁りの人でしょ」


「ぼうけん、しゃ?」


「冒険者ってのは。色んな依頼を達成して、報酬を貰う人の事よ」


 それを知り、逆手に取る冒険者がいた。受ける依頼は討伐クエスト。基本的に受けたクエストでは、対象の敵を指定された数を倒す。その中でも多くの事が不明、依頼の受注や報告は代行者が行う。

 そんなスレイヤーの行動は次第に噂へ尾ひれが付き、前に現れないのは……正体がバレない為、大の人間嫌い説等々語られ。正体は誰か、と言う議論や賭けさえ始まる始末。

 そしてスレイヤー復活後、突然始まった神隠し事件。日に日に被害者は増え、知らない内に一人また一人と何処かで消えて行く日々。事件を追い警察や衛兵も動いたのだが、調査を続けると神隠しに遭う為

、調査は停滞中。


「でも大抵は、普通の生活に飽きた連中の事を言うんだけどな」


「そう。かく言う私達も、社会に嫌気がさしてね。まあ、派遣社員みたいな……しっ!」


 二人の冒険者は、自分達は派遣社員……即ち、現地へ行き、頼まれ事を果たす者だと説明。中には社会に落ちこぼれの烙印を押され、冒険者へなるしかなかった者も存在すると。

 話の途中、進路先に在る看板の物陰から。此方を覗く夜闇でも赤く光る、不気味な眼が見えた男冒険者は、経験から「アレは……小鬼だな。人間の子供程度の能力しかない奴だ」

 正体を予想しつつ、手に持った懐中電灯を赤く光る眼が見える方へ向けると――緑色の皮膚、小学校二年程度の身長、赤い眼とつり上がった目が特徴の、小鬼が三匹程照らされた。

「楽勝だな」右手で鼻を擦る男冒険者は、自身が負ける予想等微塵もしない。ロングソードとバックラーを構え、一気に飛び込む。


「ゴギャッ……」


「よし。これで大丈……ぶふっ!」


 力強く振り切る横一閃は、小鬼の掲げた棍棒が振り下ろされるよりも早く喉元を切り裂き、流れる様な動きで他二匹も頭を裂き喉元を突き刺し、刺突の勢いに押され、仰向けに倒れる小鬼。

 傷口や口から赤い血が次々と溢れ出し、白目を向いて絶命している。手早く倒せた。駆け出しの時より、成長した自分に確かな満足感を覚えた……直後。首に掠った痛みを感じると、傷口が瞬く間に紫色へと変色。

 手から力が抜け、懐中電灯が落下。血を吐き出し、何が起きたのか理解出来ず膝を地に着けた時……

 落とした懐中電灯が照らす先では弓矢を持った小鬼達が喜び、舞い踊る中央には、灰色のローブを着た中腰の人物が立っていた。


「戦場で気を抜くとは。三流以下のザコ、と言う訳か」


「ゆ、りか……その、子を。早く……」


「で……でも」


「行けっ!!」


 二重の苦痛に顔が苦痛に歪むも、依頼を果たす為、仲間へ少女と共に立ち去る様、促す。されど瀕死の仲間に恐怖を抱き、見捨てる行為へ罪悪感が沸き、足が立ち竦む。

 女冒険者の背を押す為、大きな声で腹の底から叫ぶ。歯を強く噛み締め、握り拳を作っては少女の手を取り右側の遠回り道を走る。仲間を置いて逃げる事へ沸き上がる罪悪感、忘れていた死への恐怖。

 強い武器を手に入れ、強固な防具で身を守り戦う内に、忘れていたと気付く。どんなに優れた冒険者や戦士、魔法使いでもたった一つのファンブル。致命的な失敗が起きれば、死へ限りなく近付くのだと。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


「お姉ちゃん……あの人が」


「はぁはぁ、言わないで! お願い、だから」


 背後から聞こえる断末魔。逃げる事で、敢えて考えない様にしていた事実。今それを言われたら、折角奮い立てた決意と心が折れてしまいそうで、涙を目に溜めながら頼む。

 こんな筈じゃなかった。依頼者の警護を行う一泊二日と言う、簡単な任務だと二人は信じて疑わなかった。それが今回と言う悪い結果を引いてしまった。運が悪い――

 たった一言で済む、極々ありふれた……何処でもあり得る話。退役した軍人、冒険者から話を聞く中でも、当然のように言い方を変えて出て来るワード。仲間と共に切り抜けた、自分一人だけ助かった。

 そう言う者は多いが、それは当たり前過ぎる事だ。何故なら……『語る者が生存しなくては、語れない』から。故にそれを聞いた多くの若者が、自分もそうでありたい、そうしたいと実行し、死んで行く。


「逃がしはしないよ?」


「なん……で」


 大きく距離を離した、暗闇の墓地を走り姿も闇に隠していた。なのに何故見付かり、先回りされていたのか……息を切らしながらも何故? と言う疑問が次々と浮かんでは、心は非情な現実を前に絶望し、顔に出る。

 電灯が明かりを照らす下、目の前へ先回りした老人――と思わしき人物は闇夜でも赤く光る単眼をしており、文字通り目が感情を表すかの如くニタリと笑う。

 前方からゆっくりと近付いて来る老人、逃げようと周囲を見渡すも、左右と後方には六匹の小鬼が待ち伏せしていた。

 自分の武具を見る。狭い場所でも使える短めの剣・ショートソード、革を貼った小型円形の盾・バックラー。冒険者バッグの中には治療薬(ポーション)が二本と懐中電灯の交換用電池が四つ……今回の依頼を軽く見ていたツケが、準備不足として現れた。


「どうやら、起死回生の手札は無いようだねぇ」


「わ、私は……どうなっても構わないから、このっ、この子だけは」


 現状を切り抜ける手段が無い事を見破られ、逃走も出来ない。怯える心に鞭を打ち、自らよりも護衛対象である少女の身柄を保証して欲しいと発言。


「残念だねぇ。それが本心だったのなら、助けてやったのに」


「っ!」


「ソイツらを捕まえな。棺へ詰め込んでやる」


 だが、老人らしき人物は女冒険者・ゆりかの本心を赤い目で見抜いていた。見抜かれ、更に怯える姿を見て「良いねぇ。その顔、その恐怖に満ち絶望へ落ちて行く心……あぁ、力がこの身に満ちて行くよ」

 身柄を確保すべく、組伏せようと飛び付いて来る小鬼達。二人揃って背後から押し倒されて身動きが取れず、もう駄目だ、殺されるんだ。死を悟り、殺された相方との思い出を振り返るべく目を瞑る。


「グエェッ!?」


「これで小鬼は全部排除。後は……お前だけだ」


「チッ。またお前かぁぁ……またお前が邪魔をするのかぁ、スレイヤァァァッ!!」


 小鬼達はニタリと笑い、後ろ髪を掴み引っ張ろうとした瞬間。毛も生えていない緑色の後頭部へナイフの刀身が素早く六匹へ突き刺さり、傷口から赤い液体を流しながら絶命。

 暗闇の中からガシャンと鳴り響く、重々しい金属音。電灯が照らす下へ入って来たスレイヤーの姿は……身長190cm、緑色の逆三角形バイザーと関節部から見える黒いスーツの上に赤・青・白、三色の強化装甲を着込んだ人物。

 赤目単眼の老人は姿を見ただけでイラついて舌を打ち、激しい怒りと憎悪が入り交じった怒号で睨み叫び、憎き存在の名を口に出す。


「さっさと行け。周辺の奴らは倒してある」


「は、はいっ!」


 正面の敵から視線を逸らさず用件を話、女冒険者・ゆりかは依頼者である少女の手を取り、死に物狂いでこの場から逃げ出す。足音が遠くなり、聞こえなくなった頃。

 小鬼達の後頭部へ刺さったナイフを一本ずつ抜き取り、回収。未だ睨む老人は通信魔法で何か納得の行かない指示を受け取ったのか「はい。判りました……クソッ! 今回は見逃してやる!」

 捨て台詞とも受け取れる言葉を吐き捨てて何やら呪文を唱えて姿を消し、スレイヤーも小鬼達から黒紫色の結晶を取り出せば夜空に浮かぶ紅い月と白い月、そして周囲を見渡す。

「これで七件目。男女問わず狙われる神隠し、事件現場にある鏡は必ず割られている……ふむ」現場検証を軽く行った後、来た道を戻る。その後、照明に照らされた小鬼達の死骸へ黒く小さな蜥蜴が一匹寄り付き、喰らい始めた。





「ヌアァァッ!! またスレイヤーか!」


 翌日の昼頃。機都に在る軍隊兼衛兵隊の基地では。小刻みに震える手で新聞を読む、白髪でイカリ型に整えた白髭が特徴の強面兵士長が目を大きく広げ、怒りの余り読んでいた新聞紙をテーブルに叩き付ける。


「今日も荒れてるなぁ~……ベビド兵士長」


「仕方ねぇさ。俺達兵士や衛兵は基本的に、命令や報告を受けてから動くんだから」


「だよなぁ。反面スレイヤーは冒険者、依頼と個人の判断で自由に動けるんだし」


 少し離れた席で最近荒れっぱなしな兵士長を眺め、自身ら兵達と冒険者の違いを明確にし行動力の差を認めつつ、昼食のジャーマンポテトを木製スプーンで掬って食べては。

「このクソ不味い料理、何度食べても慣れないなぁ……」と愚痴りながらも完食。口直しに木製コップへ入った綺麗な水を、グイッと一気に飲み干す。


「はぁぁぁ……あの噂。もしかしたら本当なんじゃねぇのか?」


「あの噂?」


「この星が死に始めているって話さ」


「その話か。確か魔神王が星の命を吸い上げてるとか言われてたっけか」


 深い溜め息を吐き、星が滅亡へ向かっている噂を雑談まじりに口へ出し、話し合う。飲食料の著しい品質及び味の低下、魔族や魔物と言った存在が関わった以上なまでの被害増加。

 魔に関わるモノが自ずと持っている魔素。これを自然の草木や生物が持ち、魔族や魔物化し始めて人間や動物を襲い始めた事件の増加に、何処の都も頭を痛めている。


「お前達!! もう休憩時間は終わるぞ。さっさと配置に着かんか!」


「サー、イエッサー!」


「全く……」


 言われて壁に飾られた時計を見れば、もう午後一時前。席を立ち姿勢正しく敬礼とハキハキとした声で返事をし、大急いで持ち場へと走って行く。見送った後、自身が叩き付けた新聞のある記事が視界に入った。

「兵士や衛兵は時代遅れ、今や冒険者が主流!」自分達を否定する文章に怒りは再燃、右拳を大きく振り上げ、叩き付けようとした時。下に書かれた文章と写真に手と怒りは止まる。

 冒険者に聞いてみた。と言う文章の中で兵士や衛兵を不要と否定する中、スレイヤーと少数の冒険者が自分達を必要だと肯定する考え、理由が書かれていた。

「所詮俺達冒険者は個人の仕事。個人は守れても、国は守れない。兵と冒険者、両者が居てこそ国と民の安全が守られる」それが自身の考えだと。


「儂は……守りたいだけなんじゃ」


 誰もいない休憩所で一人、テーブル上の新聞紙を見ながらポツリと呟く。弱音でも愚痴でもない、正直な胸の内を。






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