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ワールドロード  作者: オメガ
一章・I trust you forever
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視点

 副王と別れた後。道具屋で必要最低限の準備を整えてから馬車に乗り、目的地へ着くまでの間、踊り疲れた疲労もあって何時の間にか眠ってしまった。


「あーーーーーーーーー。だるいだるいだるい……づかれだ」


 バタンと机に倒れ伏して動かない様な、早口で気だるげな声が聞こえゆっくり目を開けば、其処が何処か全く知らないが広く大きな食堂って事と、頭に巻いた包帯と上から見た後ろ姿より声の主は分かった。

 中二病巫女のコトハだ。けれど……うぅ~ん、夢で見る程印象深い奴だったかなぁ? いやまあ、口五月蝿くてウザったい印象はあったけどさ。けど、この視点は……俯瞰?


「ご苦労様。報告書は読ませて貰ったわよ。予想はしてたけど、やっぱり彼が現れたわね」


「で……どうだった? 俺の義弟は」


「どうもこうもぉ~……何ですかぁ、あの負けず嫌いの塊みたいな奴はぁ~……」


 競泳水着鎧のマジック、それと──間違いない。黒いマントを身に付けているけどアレは自分やサクヤと義兄弟の契りを交わした親友にして、一度は倒した強敵。終焉の闇No.01・γ(ガンマ)、無月終焉。

 夢の中でも……敵対関係なんだな、自分達は。夢の中で位、昔みたく仲良く何気ない談笑や世間話をして過ごしたいよ……義兄貴。でも、きっと──

 「大人になってまでメソメソするな。弱音と弱さは本気で惚れた相手にだけ見せろ」なぁ~んて言うんだろうな。てか、なんだよコトハ。その負けず嫌いの塊みたいな奴って感想は!


「ハハッ、その負けず嫌いがアイツの強みだ。良くも悪くも人間臭く、子供っぽさを含んだ……な」


「その人間臭さが私達や数多くの敵に何度も破れた原因であり、勝利を掴んだ理由でもあるのよ」


 軽く笑い言う終焉はなんと言うか……そう。例えるなら長年付き合ってた親友と再会した時、自分自身は変わったのに親友は変わってない事に喜ぶ。みたいな言い方だった。


「矛盾してませんかぁ~?」


「そう。矛盾してるのよ彼は。人間が大好きな反面、大の人間嫌い。勝利を掴む力は自らを破滅に導く力……ってね」


「だが──アイツは魔神王復活に必要な最後の鍵。何度も言うが殺さず、必ず生け捕りにしろ」


「えぇ~……面倒臭ぁ~い」


 矛盾してる、か。確かに人間は大好きさ、夢を大切にして追い掛けてる人や、一生懸命生きてる人は応援したくなる。だから自分の助ける理由、複数ある条件の一つに入る。

 力は──うん、そうだな。敵を倒す倒さなかったに限らず、自分自身へ反動が返って来ては体がボロボロになる。強い力を使う代償、だわな。

 そりゃあ殴られれば痛いし、殴った相手も痛い。簡単に言えばそう言う事だ。覚える事も多ければ多い程頭痛に繋がるし、受け入れる行為も痛みを伴う。

 当たり前なんだよ。何かを行うには、何かを対価として支払わなければならない。それはモノであり、体験であり、心でもあると自分は思ってる。


「それで、ゲートはどうなった?」


 ゲート? 此方にもゲートがあるのか。ってそりゃそうだわな。そうじゃなきゃ、コトハがあの時代に存在する訳ないもんな。

 ……正体を確かめるまでは、現地人かと思ってたのは内緒だけどな。よくよく考えてみたら、同じ様な格好をした人は居なかったわ。


「戻って来たら閉じちゃってぇ~、起動しませんよ~。あぁ、これ、頼まれてた代物で~す」


「ご苦労。やはり予想通り、イブリースは『魔神王の欠片・闇の魔神』だったか。残る欠片は六つ」


「後六つ揃えば、私達の計画が最終段階へ進む。その為には……」


「あぁ。俺達の義弟、貴紀には──オルタナティブメモリー回収序で、魔神王の欠片を全て倒して貰わねば、な」


 話ながらイブリースの穢れた魔力を込めた、ルナ鉱石入り小袋を終焉へ差し出した。自分達は触れなかった代物を軽く摘まみ取り、蛍光灯らしき光に当てて確信した様子。

 今回はイブリースがオルタナティブメモリーを取り込んでいた為、倒す必要があったけど……もし本当に終焉達を止めたいのであれば、今後は倒さないべき、なのかな?

 でもそれは救える命を見殺しにする行為であり、車が走る車道へ誰かを突き飛ばすも同然。確かに自分を悪人とは言うけど……うぅ~む、後々みんなに相談してみるか。


「ところで、抜け殻となった心情ゆかりはどうした?」


「処分したわ。具体的には、丸腰で外へ放ってやった」


 夢だと思いたい反面、現実なら一刻も早く見付けて保護しなければ。と、心が騒ぐ。理由は分からない。

 寧の友達だから? 仲間であるベビドの大切な一人娘だから? そのどちらでもあり、至極個人的で単純な理由もあるんだと心が吠える。

 その理由とは──可能な限り、仲間達に辛く悲しい想いはさせたくない。と言う小さな親切、大きなお世話とはまた違う自己満足。結果的には、自己満足ではないのかも知れないけど。


「コトハ。任務達成の報酬に金と一週間、外での自由行動を許可する。思う存分羽を伸ばして来い」


「ちょ、この額……マジですか!?」


「成果を出す者には正当な報酬を与える。それが魔神王軍のモットーだからね」


「マジック。お前も自室や外出しても構わんぞ」


 茶色い小袋と許可証をコトハの前に出し、疲れ果てた様子で中身を覗き見た途端、驚いていた。金貨三十枚……確かこの時代だと三百万!?

 いやまあ、危険手当てと考えれば妥当……なのか? 何はともあれ、食堂から立ち去る元気は取り戻したらしい。マジックにも外出許可を出している。


「それじゃ、お言葉に甘えさせて貰うわ。魔神王様」


 皮肉……かどうかは知らないけれど。終焉を魔神王様と呼び、立ち去って行った。見送った後席に座り少しした頃、黒い服の女神官が十字架の杖と小さい箱を手に。

 長く真っ直ぐな金髪をなびかせ、小走りで終焉の元へ走って来た。走り疲れたのだろう。到着し立ち止まり、少し時間を空けて漸く落ち着き辺りを見渡す。


「大丈夫だ。今食堂には俺達以外、誰も居ない」


 その一言を聞きホッと胸を撫で下ろした直後。ハッと何かに気付き、顔を赤らめたまま慌てて乱れた髪を手櫛で整える。


「す、すみません、終焉様。こんなみっともない姿で!」


「構わん。それに──髪を整えてやると言う名目で、結衣の髪に直接触れられるんだからな」


「終焉様……」


 席を立ち、抱き締める様に引き寄せると結衣と呼ぶ女神官の乱れた髪に触れ、手櫛で綺麗に整えつつ、口説いている。……口説いてるんだよね、これ?

 夢の中で親友であり、義兄が敵と思ってた女とイチャつく姿を見てると……こう、腹が立つよね。でも十中八九、自分もそんなイチャつく行為をやらかしてたんだろうな。


「これで良い。それで、討伐と調査はどうだった?」


「討伐……に関しては、駄目でした。頂いたモノを使い、ヴェレーノの種を作り育てさせたのですが」


「報告書にあった交易結果だな。予想以上の成果で大助かりだがな、個人的な意見としては」


 ヴェレーノの種? あぁ~、そう言えば魔神王軍の金髪少女が植えに来た、とか言ってた。ならコトハと一緒に行動したり、別行動してたんだろう。

 此方としては、ドワーフ族の優秀な武具が敵側へ渡ってしまって大損害だよ。一番下の一般兵が中盤後半や後半中盤のフルセットを序盤から装備可能って。

 ステータスがモノを言うゲームなら詰み。でも現実なら相手が熟練者でなきゃ、突け入る隙は幾らかある。はぁ……竹槍で名刀に挑むレベルの差だな、こりゃ。


「調査内容を纏めた結果──可能な限り打てる手は打ち、追い込まれる程に力を引き出すタイプでした」


「ふむ。そう言った点は俺が知る通り、変更点は無しと」


「可能な限りマジックスフィアに撮影しましたので、どうぞ」


 小箱の中から青い球体を取り出し、撫でる様に触れると映像が飛び出し投影された。それは自分がトリスティス大陸で戦った記録であり、全てではないものの。

 二人の魔人戦、ウズナちゃんとコトハ戦、イブリース戦と映っていた。一通り見終わるや否や、終焉はフッ……と嘲笑う様に鼻で笑う。


「まだまだ打つ手が甘い。とは言え、俺達とは違い強力なスキルや異能の反動が有る事がグダッた原因だな。なあ、滅?」


 グダッて悪かったな。そんな憤りを感じていたが、何処から入って来たのか。黒い東洋風の龍が紅い瞳を輝かせ、終焉へ寄り添う黒龍・滅。

 龍族は大抵人間の言葉を知っている事が多いと認識しているけど、滅は話せないのか話さないのか分からないが、話す様子は全くない。


「そう言えば、オメガゼロ・エックスは幾つもの呼び名があるんですね」


「あぁ、間際らしい事にな。とは言え、俺達が付けた呼び名が多いんだが」


 確かに、間際らしい事この上無い。オメガゼロ・エックスやらアダム、ディストラクションと呼ばれたり、心と霊華に紅貴紀と名付けられたと思えば育て親に拾われて栗原貴紀へ変わり。

 そっから終焉の破壊者だの裏切り者を意味するジューダス、そんでスレイヤー……もうどれが本当の名前か分からなくて、どれでも良いやって内心なってるのは内緒。


「しかし、本当に良いのか? 闇に選ばれた巫女して、俺達の計画成就に荷担する必要は無いんだがな」


「はい。私の名前通り、貴方様に私の全てを捧げます」


「そうか……なら、最後の最後までその命、預からせて貰う。結衣」


 魔神王復活に動いているのに何故、終焉達の計画成就を闇の巫女に荷担の有無を確認するんだ?

 いや、確か──そうだ、森の神殿でマジックと会った時に言ってた。四天王は自分達が言う魔神王には使えておらず、自らの計画の為に利用しているって。

 そうなると……ちょっと待てよ。『自分達が言う魔神王』ってのは、一体誰を差しているんだ? No.01・γ(ガンマ)である終焉か、それとも原初の闇。どっちだ?


「調律者や悪夢の異形共々、オメガゼロは俺達が必ず潰す。だから今だけは、調律者から送られて来た一時休戦を受ける考えだ」


「力を蓄える為に、ですね」


「俺の読みじゃ恐らく、奴らも同じ考えだろうがな」


 一時休戦って。あぁ、三勢力は領土の奪い合いをしてるんだっけか。休戦理由は──何となく分かる。

 魔神王軍、調律者勢、ナイトメアゼノシリーズ。奴らに共通する最大の敵、オメガゼロ・エックスである自分を倒す為だろうよ。


「ですが終焉様。オメガゼロ・エックス……いいえ、義弟様は相当心身共にかなりの無理をしている様に見えます」


「……やっぱりか。結衣の意見を聞きたい、どの位だと予想する?」


「今のままだと一年。長くても二年半で限界を迎え、死んでしまうかと」


「そうか。計画の見直し、前倒しをするかも知れん。それだけは理解してくれ」


 一年か二年半で……自分が死ぬ? うんまあそりゃあ、イブリースみたいな連中を毎度相手にしてりゃあ寿命なんざストレスでマッハだよ。

 其処で夢は途絶えた。変~わ~り~にぃ~、スッゴい悪夢を手にした副王が、此方に駆け寄って来やがった。


「生ける炎から届いたコレをやるわよ!! クリア条件はバグやフリーズをさせず、電源はつけっぱで百時間耐久ゲーム!」


 まぁ~たトンでもないクソゲーを持って来やがった。もしかして一年か二年半で自分が限界を迎え死ぬ理由って……まさかクソゲー?






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