エンドレスワルツ・前編
懐かしく、大切だけど、余り好んで思い出したくない夢を見た。あれはまだ、自分がオメガゼロだとか終焉の破壊者だとか言われ、大切な友人の復讐を止める為に冒険へ旅立ち静久達四人や霊華達を仲間に加え、少しした頃。
自分は……一人の、容姿こそ人間と見間違う人喰い妖怪と恋に落ちた。腰に届く程の真っ直ぐ伸びた金髪、妖艶さすら感じる真紅の瞳、ほぼ自分と変わらない身長の女性。
最初の出会いは薄暗い森を住み家とし、食い散らかした骸骨の山に居座る、彼女を懲らしめて人喰いを止めさせる依頼。それは達成したさ。けど彼女は自分と同じ願望を持っていた。
「アンタ。なんでアタシを殺さないのよ」
「不要な殺生は好まない主義なんだよ。悪いか!」
「悪い。アタシは殺されない限り、何度でも人間を喰い続ける残忍な妖怪で……」
「高僧やら妖怪退治の専門家を喰い殺した残忍な妖怪の癖に、なんで一般人に負けてんだよ」
後々知った事だがお互い殺して欲しい反面、相手を殺したくない心情だった。自殺願望はあるけど、自分自身じゃ死ぬ勇気がない。僅かな生への執着心が息の根を止めるまでは行動に移させてくれず、他人を利用しようと、同じ事を考えていたらしい。
結果。挑み挑まれてはお互い、相手を殺すまでは行かず愚痴を言い合ったり食事を共にしたりして行く内に心引かれ合った。一度目のループで巫女と恋仲になり、愛する心を。二度目のループでは魔法使いと恋仲となって努力する意味を再確認した。
三度目は人形遣いと恋仲となり、犠牲を知った。そして四度目のループで漸く人喰い妖怪改め、桔梗と恋人同士になった。何も知らない第三者から見れば、女を取っ替え引っ替えするクズ野郎に見えるだろう。自分もそう思う。そうとは知らず、一生懸命本気で口説いたのにな。
副王に仕組まれた一定期間でのループ……それは『人として』自分を育てる為の行為であり、そうだと知った自分は恋仲になった彼女達や信頼出来る仲間達へ話した。仲間達は理解してくれた、理解してなお離れて行った者達もいたよ。桔梗は……
「で、恋仲になった他の連中はなんて言ってたのよ?」
「滅ッ茶苦茶怒られた。魔法使いと人形遣いの娘は理解してくれたけど、巫女はグーで殴って来た。桔梗はどうするの?」
「あぁ~……あの巫女はねぇ~。霊華って言う先代鬼巫女の娘だから。アタシはどうするかって、アンタねぇ……」
出会った森で大きな切り株に座りながら知っている限りを話した後、桔梗は自分の後ろ側へ座り体を預けて来た。怒っている訳ではない事と、何故か自然と受け入れてくれたんだと察して、緊張の糸が解けたのを覚えている。
普通ループものってさ。記憶保持者は主人公とかループした本人なんだけど……恐ろしい事に恋仲の面々や仲間達まで覚えてたんだよ。何が怖かったかって、四人共お互いに知り合いで、遊ぶ仲なんだよ。
ギャルゲーの主人公宜しく、恋仲相手の家で寝泊まりしたり世話になってたから尚の事、二股三股の最低なクズ彼氏気分でした。えぇ、悪い意味で空気と雰囲気も最悪でしたとも。後々も同じパターンが繰り返され、二十数回は最低でもやりました。
副王はナイア姉曰く、大爆笑してたらしい。こう言うバラエティー番組被害者の気持ちを痛感して以降、可能な限り惚れられない、惚れない様に気遣っているつもりだ。女性の仲間は大抵結果的とは言え不幸にして、敵側だと十中八九死なせてしまっているから。
「この終わりの見えないワルツから、一刻も早く抜け出したいよ」
「エンドレスワルツって訳ね。確かにそれは嫌だわ」
踊る相手が違っても繰り返される時間、変わり続ける出来事、ほぼ同じ結末で延々と踊り続ける三拍子のワルツ。誰が好き好んで踊るものか。平和・戦争・革命のワルツも……歴史から見ても人間は何度となく自らの主張が正しいと疑わず、繰り返した。
こんな体験をしたからこそ、一夫多妻のハーレムが嫌いだ。この頃も仲間内で男性はユウキを含めて三人しかおらず、寧ろ敵側にチラホラ話せる相手がいた位だ。少なくともアイツらを男性と呼べるなら、だけどな。そもそも、自分には複数の女性を愛せる程の器用さは無い。
「まあ、終わらせるまでにはキチッと本命を決めておきなさい」
「そうする」
人間と妖怪が安心して共存出来る場所を求めて自分と桔梗、共存を望む達は小さいながらも一つの集落を作る事を決めた。法律やら何やらが厳しい一般的な現代なら兎も角、限られた一部しか知らない、来れない幻想である此処は時代が遅れている為か。
法律とかは殆ど無く、ある種のスラム街に近いのかも知れない。まあ少なくとも、幻想の管理者と維持に関わっている霊華の娘である巫女には最低限、話は通さないと駄目だがな。それはアレだ、判らないから訊く的なモンだ。
とは言え、当然ながら反対派や過激派が居て反発していた。主張としては「妖怪は人間を襲う存在だ、共存など出来る筈がない」やら「何時殺されるか判ったモンじゃない、殺される前に殺すべきだ」ってな。どっちが妖怪なんだか……
結論としては様子見、として管理者と巫女に許された。反面『何かがあった時は自分達が責任を持って対処する』様に、とも。結果──集落を作る最中や作った後も反対派や過激派から何かしら、妨害行為や嫌がらせは続き、最終的には……自分と桔梗が殺し合う様に仕向けやがった。
「……泣くんじゃ、ない、わよ。ほら……集落が出来た記念にって、付き合ってくれた馬鹿達、が──アタシ達にって……」
「桔梗……」
流された嘘が疑心暗鬼を産み、仕組まれた依頼が証拠として明るみになり──自分達は殺し合い、桔梗の胸元を愛刀で突き刺した後に直感や他の能力が目覚め、これが仕組まれた罠だと理解し悔しさと哀しみの涙を流す中。
瀕死であるにも関わらず此方を心配し、ポケットからある物を取り出した。飛沫が掛かった金のロケットペンダント、白と黄色の指輪を一つずつ。確か……この時からだ。相手を見定め、救うか殺すかをし始めたのは。反対派や過激派がどうなったか?
勿論、縛って生きたまま腹ペコ妖怪共の群れに放り込んで喰わせてやったよ。必死の命乞いをされたから、笑顔で放置して見捨ててやった。非道? 外道? だからどうした。何かあったから責任を持って対処、もとい生ゴミを処理しただけ。
「やはり今回も来るか。お前が……」
「四戦三敗一勝。今回は俺が勝って、女の後を追わせてやるよ。終焉の闇No.02、ディストラクション。いいや、裏切り者・デトラ!!」
この時は裏切り者と言われる理由を、何一つとして知らなかった。序盤で最終章の伏線を理解しろ、と言われる程に。次々と現れる強敵難敵が引き起こす異変に巻き込まれ、両腕欠損や疲労困憊で倒れもした。
当然単独では敵に勝てず、何度も敗北回数を増やした経験もある。自分は小説や漫画で登場する強敵相手に無双する英雄ではない。夢想して活路を開き、手持ちや仲間と仕込んだ手札で戦うタイプ。
四度目のループで異形体ベーゼレブルと戦い五回戦目は勝ったものの、人型であるツヴァイへ進化され六回戦目で敗北。静久達が助けてくれて事なきを得たがそれ以降、融合の素質があると副王に言われ、直接指導と言う福王の暇潰しにより習得した。
「よ~っく覚えておきなさい。貴方が使える融合は特殊で誰とでも出来る訳じゃなく、特定の対象としか無理」
「特定の対象って誰さ?」
「貴方に仕えている紅絆や天皇恋、賢狼愛と天野川静久。そしてゼロ達三人の計七人。目標は七人との完全なる融合ね」
まあ、習得したお陰で環境対策や戦況対応が可能になったっけか。どれも環境対応プラスアルファ……な性能で使い所は限られるものの静久達や仲間、協力者達が居なければ二代目終焉改め、No.01・γを倒すまで行かなかっただろう。
でも今現在は──融合する為に必要なアイテムが手元にない。その辺りは寧とマキに任せるしかない為、今回は融合無しで策を張り巡らせ、協力を求めて頑張るしかあるまい。ハッキリ言ってイブリースは今の自分じゃ手に余る相手だしな。
破壊と装填と覚える力。基本的には三つのどれかを使って戦っていたんだった。何故こんな大切な力の存在を自分は忘れていた? いや、もしかしたら力その物が眠っていたのかも。呼び起こされた今現在なら、きっと使えるだろう。
「起……ろ! 貴……!!」
誰だろう? 此処では無い何処かで、誰かが自分を呼んでいる。知らない誰かじゃない。この声は静久だ……きっと何かあったんだ、目を覚まさなきゃ! そう思った途端、眩い光に目の前が包まれて──
「静……久?」
「このっ……ド阿呆! 要らん心配をさせるな……」
「いや、流石にド阿呆は酷くない?」
目が覚めると其処は眠る前と同じ場所で、アナメと静久の顔が視界に映る。何やら態度から察するに静久は怒っている様子、アナメは苦笑い。何がなんだか判らないが、熟睡を死亡とでも間違えられたのだろうか?
「アナメ」
「……うん」
キスと同時に受け取ったモノが二つある。目が覚めた今、確信して名前を呼ぶと彼女は一言だけ言い小さく頷く。すると静久から「三種族と話し合いをする日時、場所が決まった……さっさと出発準備をしろ」と言われた。
しっかしあんな事をしなければ駄目とか、アナメも何気に大変だな。少しずつ謎は解けてるだけでも、多少は有り難い。それはさて置き体に問題は無く魔力──は、大丈夫そうだ。満タンまである。よし、後は出発準備だ。
「武具は銃が二挺。ナイフと短剣が七本ずつ、蓮華さんが見繕った剣と盾に防具の胸当や籠手。後は冒険者用鞄に持って来た物や預かり物がチラホラ」
「水分補給用の水と携帯食料も忘れるな……旅では必需品となる……」
コートの内側に投擲用ナイフと短剣、腰に冒険者用鞄と短めの剣。腕を護る籠手と左腕に盾、白シャツの上に付けた胸当てを隠す為、黒く薄めの長袖を着ている。パッと見籠手と胸当ては見えない、銃もコートの左右ポケットに入れてるから、いざと言う時は使える。
飲み水と携帯食料は鞄の中。……携帯電話も同じ鞄に入れてるな。うん、ズボンのポケットに入れて置こう。故障したら口煩く説教されるのが直感関係無しでも予想出来るしな。こんなモンかねぇ? 準備は。
「これは私の予想なんだけど。多分、イブリースは強い魔力を目印にして来ると思う」
「ふむ……それは一理ある。貴紀、どうにか出来そうか……?」
「まあ、出来るっちゃあ出来るけど」
いざ出発──と言う時にアナメが可能性として自身の予想を言って来て、自分と静久も成る程と思った。ハッキリ言って自分やゼロ達も魔力や霊力を探知可能と言う事は、相手側も出来る敵が居てもおかしい話ではない。
右手をグッと握り締め、持てる魔力の大半を凝縮し緋色の弾丸を一発分製作……して今更昔やっていた魔力補給法を思い出した。日常的に今と同じ事を行い、魔力の弾丸『エナジーバレット』を製作。戦闘時に取り込んで緊急回復する手段だ。
ってクッソ、なんで今までこんな大切な事を忘れてたんだよ自分!! まあ取り敢えず準備も整った、余裕を持って静久の案内に付いていこう。空や大地の状態も気になるし、その辺りはチラホラ確認するとして。自分達は遺跡を後にした。
キャラクター紹介
名前:ルージュ・スターチス
年齢:16歳(自称)
身長:162cm
体重:56kg
性別:女性
種族:人間(本人談)
設定
ベーゼレブルとの戦闘が終わって、七千三十二年になったヴォール王国にやって来た女の勇者候補生。ハキハキと元気の良い口調でローブを被り同行者のRと旅をしている。
ローブの下の顔は幼さが残り、黒い眼とセミロング程はある黒髪が特徴。一人称はボク。二人称は名前か君と呼ぶ。先代勇者がベーゼレブルに破れた後に選ばれた、二人要る勇者候補生の一人。
なのだが、もう一人の勇者候補生である男がRPGゲーム宜しくな犯罪行為を繰り返し行う為、実質的に最後の勇者候補生。勇者紛いとなった候補生の男を追い掛け、情報を求めてヴォール王国の冒険者ギルドへ現れた。
実力は貴紀が長年培った戦闘経験から、強いと判断する程。武具は典型的な勇者らしく鉄の剣・鉄で補強した木の盾・鎖帷子の上に革製の軽鎧・革靴を装備している。
本人曰く「立ち止まって殴り合うより、ドンドン走り回ってガンガン奇襲を仕掛けないとね!」と言う事もあり、ヒットアンドアウェイな戦法が得意らしい。
尚、攻撃方法は勇者らしかぬ様で、接近戦は出来るが投擲などの中距離系が得意でもっぱら接近戦の援護はRに任せているとか。幼い顔でズカズカと心の中へ土足で踏み入り、無自覚でタップダンスすら踊る勇気はある意味、勇者以上の勇気である。




