復活・後編
何処へ転移したか、なんて覚えてはいない。転移が済んだ後、張り巡らせていた緊張の糸が助け出された事で解け、気を失ってしまったからだ。目を覚ますと弱々しい光源のデカい聖光石と石造りの建造物が映った為、第二の遺跡だと理解出来た。
「やっほー。三日間も眠るなんて、余程疲れてたんだね。しかも完全な石化を自力で解くとか、本当に凄いよ」
「そりゃあほぼ幹部クラスを相手に連戦してれば、否が応でも疲れ果てるさ」
目覚めた事を知ってか、勇者候補生が顔を覗き込んで来た。と言うかだな……幼さが残る顔故かなんとも緊張感の無い挨拶だ事。消費した体力や魔力は流石に三日間も聖光石の周辺で眠っていた為か、約八割回復済み。蓄積された疲労はまだまだ抜け切ってないがな。
体を起こそうとするも、眠り続けていて凝り固まったらしく思う様に動けない。アナメが察してくれて体を起き上がらせ支えてくれたが、改めて辺りを見渡すと別行動していた筈の静久達が集まっている。
……何故か、ベーゼレブル・ツヴァイも。てか今回は白黒の神父服かよ!? お前さん、幾ら聖書らしき分厚い本持って服装やら十字架ネックレスで着飾っても神父って柄じゃないし。その短髪黒髪、自分を真似てやったのか? それ……
話から察するに一度完全な石像になった後、聖光石の下に置いていたら自力で復活したらしい。そりゃお前……邪神ガタノトーアやメデューサ、ゴルゴーンの石化に比べれば並大抵の石化なんぞ生温いわ。特にガタノトーアは本当にヤバかった。
「勇者候補生。何故わざわざ危険を省みず、自分達を助けに来た?」
「ルージュ」
「えっ?」
「ルージュ=スターチス。それがボクの名前さ」
あの時、自分達を助けるメリットは少なくデメリットと危険は極めて高かった。名も知らぬ勇者候補生に問い掛けると、出会ってから初めて自身の名前を名乗ってくれた。そして……見た目通りのボクっ娘!! はい、普通に守備範囲内です。
「助けた理由? そんなモノ、決まってるじゃないか。君が、助けを求めていたからさ!」
満面の笑みで、そんな事を恥じらいもなくコイツは言い切りやがった。何時、何処で、誰に自分が助けてくれと求めた? 内心全く的を射てない言葉に怒りが湧くもアホだと言う認識から、呆れてしまい腹立たしさも失せた。
けれど此方の心情も関係無く言葉を続ける。次第には「ボロボロなんだよ。汚れて、傷だらけで、ひび割れて……血さえ滲んでいる様に、ボクには見えた」等と言い放った瞬間。
火山が噴火し、沸騰したヤカンが鳴る様に当然の如く体が動く。女性だから手加減をする等と言う女尊的な考えが出るよりもずっと早く、感情的にルージュの顔面を思いっ切り右拳で殴ろうとした──
が、横から文字通り出された手に受け止められ、ふと我に返り自分自身の行動に心が締め付けられた。今、自分は何をしようとしたのか? と……
「オメガゼロ・エックスの心にそれ以上、土足で入るってんなら次は止めねぇぞ?」
「あ……ごめんなさい。ボク……」
「いや。理解してくれたならもう良い……此方も、感情的に殴ろうとした訳だしな」
感情的な行動を止めてくれたのは──ベーゼレブル・ツヴァイだった。仲間内でも不意に地雷原に迷い込んでは踏む時はあるが、まさか迷いも無く突っ込んでタップダンスを踊られるとは、誰が予想出来ようか? 少なくとも自分には無理だわ。そんな勇気すらねぇよ!
と言うか今回が初めての体験だったが、自然と殺意とか憤怒が沸き上がって来るのな。成る程……何かしら相手から言動を受け、感情的に殺人を犯す人の心情って、こんな感じなんだろうか? 取り敢えずお互いに謝り、この話は終わった。
「で……ベーゼレブル。お前さんは何故存在してるんだ?」
「存在しているんだも何も、それが俺に与えられた呪いだからな」
「あぁ、そっか。不老不死の呪い……だっけか」
話と話す相手を切り替えるが、今度は迂闊にも自分が地雷を踏みに行ってしまい、結果的にとは言え思い出す。ベーゼレブルはとある罪を犯し、呪われてしまった。本人曰く『強制的にでも解除する方法は判明している』らしいんだが。
特別な力……今で言えば限定的なスキルと正しい使用者じゃないと解呪出来ないそうだ。コトハが使う呪術の類いなら聖水で十分だが、祝福と同じランク故に完全なる死も精神異常・錯乱・崩壊すら出来ぬ地獄だと思い出した。
「俺の復活もそうだが、オメガゼロ・エックス……いや。お前さんの復活もある意味、相当な呪いだな」
「何だよ。昔みたいに『デトラ』って呼んでくれても良いんだぜ?」
「ハハッ。ならデトラも俺を『グラトニー』って呼ぶか?」
この旅を始めてから、何度も繰り返し殺し合いをして来た相手と談笑する光景は知っている者からすれば、苦笑いするんだろう。静久は此方をチラッと見ては興味無い素振りをしている辺り、会話に混ざりたいのだろうか?
ベーゼレブル・ツヴァイ……因縁深く続く相手であり、集う仲間達よりも自分をよく理解してくれている珍しい存在。戦う時は奇襲とか消耗後が多いけど、殺し合いではお互いにベストコンディションが前提条件って言う妙な紳士振りを見せる。
繰り返し倒す内に成長して、異形体から人型に捕食無しで成れる様になって……そっから戦績は自分が六でベーゼレブルが四。共闘回数も以外と多く、今やゲーム感覚で殺し合っている現状を自分は、半分楽しんでいるのかも知れない。
「さて。本来なら正々堂々、タイマンの殺し合いと行きたいんだが……今回は邪魔者が多くてな」
「その邪魔者ってのは──まさか、ボク達の事じゃないよね?」
邪魔者と言う言葉に反応して琴姉や静久達の他、勇者候補生改めルージュも身構える。のだが……警戒される様な発言した本人は全く気にしていない様子で「俺が言う邪魔者とは、世界各地を支配する勢力だ」と言う。
「つまり、自分達に協力してくれるのか?」
「気が向けばな。そんじゃまた今度、心行くまで殺し合おうぜ」
とは言っても、積極的に協力してくれる訳ではない。アイツはアイツで何か狙いがあるっぽく、物騒な別れの挨拶をし立ち去って行った。何時の日か、本当の意味で決着をつける日が来るだろう。その日までに少しでも、本来の力と記憶を取り戻さなくては。
ベーゼレブルの姿が見えなくなった頃、残った面々で話し合いが始まった。自分が眠っていた三日間に何が起きたのか、これからどうするのか。先ず三日間の間に起きた出来事だが、どうやらマグナルーメンはイブリース以外には効いたらしい。
北部・西部の進行&暴走を沈静化させ、インサニア化も未然に防ぎ正気に戻った。ヴェレーノの大樹は果実共々瞬く間に枯れ果て、荒れ果てていた大地にも草花が戻りつつあるそうだ。肝心のイブリースは……現在行方不明だと言う。
「それで。ドワーフ族、人族のリーダーとは話せそう?」
「当然。貴紀が……いや。オメガゼロ・エックスが現れ話し合いを望んでいる。と言ったら快く承諾した……」
「蜥蜴人達側も負傷者は多く出たけど死者は全く出なかったって、ヴェルターさん喜んでたよ」
何はともあれ。イブリースを倒すには自分達だけじゃ人数や装備も足りない。策を張り巡らせるにしても、圧倒的に人手が不足気味だ。それを解消する為にも残っている人族、ドワーフ族から協力を得れないかと思い話せるか尋ねてみたら。
静久曰く、相手側は此方が伝説で語られる人物故、承諾してくれたらしい。自分が嫌う英雄視やら伝説がこんな形で役立つとは……なんとも皮肉な話だ。ルージュから進行組、防衛組双方で死者は出ていないと聞き、少し胸の重荷が下りた気がした。
これだから人の命を預かる軍師とか、王様ってのはどうも苦手なんだよ。ハッキリ言ってしまえば殺害行為そのモノが嫌いなんだ。けど、此方が嫌いでも相手側が同じとは限らず、殺してでも止めなければならない場合もある。
「一応確認したいんだが……ルージュ達は協力してくれるのか?」
「勿論だよ。だってボクは勇者だからね!」
「まだ候補生だけどな」
「もぉ~、Rったらぁ!」
勇者候補生ルージュとフード付きローブを外した仲間と思わしき人物は短髪青髪、青色のパーカーとジーンズ。右手にくすんだ青色の指輪を付けた、蒼い瞳の青年は協力してくれる様だ。Rと呼ばれる青年……何処かで会った、よね? まあ、そんな疑問は一先ず置いとこう。
「先ずは三種族で話し合いの場を設けよう。話はそれからでも遅くはない筈だ」
「同感……勇者候補生から話を聞いたが、今回の相手もヤバい奴だと判る。戦力と人員は確実に必要……」
「なら、ボク達がチームを組んで三種族に話し合いの日時と場所を伝えてくるよ」
イブリースを倒す為に今、最も必要なのは知恵と力と勇気だ。此処、トリスティス大陸で住む者達が協力し合えば奴を倒せる筈。何はともあれ、別行動して日時云々を提案しようと思った矢先。勇者候補……ルージュが自ら率先して言いたい事を言った。
なんと言うかルージュを見ていると、サクヤの姿と重ねてしまう。自分も行動しようとしたんだが「今……貴紀が敵に見付かると後々面倒臭くなる。だから少しの間、療養も兼ねて休んでいろ……」と静久から言われ渋々承諾。
周囲を警戒していた琴姉やヴェルターも含め、外へ出て行く。残されたのは自分とアナメだけ。いや、警戒心が強い静久の事だ。出て行ったと油断させて置いて、何処かから此方を見張っているかも。自分も含め、変な行動をしないか……って。
「アナメ。これは自分の予想なんだけどさ。もしかして全部……!?」
今なお支えてくれているアナメに振り向き、理解の擦り合わせをしようと話し掛けている途中で一体何を思ったのか……両手で顔を掴み唐突なキスで言葉を遮られてしまった。直感は殺意や殺害行為に強く反応し、危機回避を促すスキル。
戦闘や暗殺系に滅法強い反面、こう言った命や身の危険が無い行為には全く反応しないと言う抜け穴がある。そう、あくまでも『何の変哲もない行為』には全く反応しない。が……後の行動や行為が危険な場合には反応する。
それでも……手遅れな場合が多い。現に今、魔力がアナメに吸い取られて……力が、徐々に抜けて行く。でも吸い取る代金の代わりと言わんばかりに、何かが流れ込んで来た。どれ程、唇を重ね合わせていたのだろう。
体感では何時間も過ぎた気がする。そして……魔力が極端に低下した為か、酷い眠気が襲って来て目蓋が少しずつ、ゆっくりと閉じて行く。まるで……寒さの余りや春の暖かな陽気で眠たくなる様な感覚だ。
「おやすみ。『終焉であり虚無なる王』を裏切り封じ込めた大罪人、オメガゼロ・エックス」
「アナメ……きみ、は……」
終焉であり虚無なる王、その王様を裏切り封じ込めたって、自分が? 漸く唇を離してくれたと思ったら意味深な言葉を言われた後、目蓋は完全に閉じてしまい、深い眠りに誘われた。アナメ。君は、本当に……?




