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ワールドロード  作者: オメガ
序章・our first step
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新たなる旅立ち・前編

 仲間達で軍資金を稼ぐ為、冒険者ギルドでクエストを受け続ける日々が続く。ハッキリ言って子供用クエストは数多く受注出来ず、良くても(シルト)銀貨二枚が限度。

 後々寧に訊いたら、日本円で二千円だと言われた。短剣(ドルヒ)銅貨は百円、聖杯(グラール)金貨は現在だと一枚で十万らしい。大人用クエストでは青等級(ブルーランク)の討伐系だ。

 つまり自分は軍資金稼ぎに役立っていない。寧ろオラシオンの面々に捕まり、城の敷地内が限界。目を盗んで抜け出す事すら困難な上、シオリが事情をオラシオンに話した結果。


『もう降参ですか? そんな事では外出等夢のまた夢ですよ』


「はぁ、はぁ……無茶言うなよ。スキルに差があり過ぎる相手から一本、取るとか」


 外出するのに、オラシオンの誰かと模擬戦をして一本取る事が条件になった。が……これが滅茶苦茶苦しい。なんせ国王に認められ、最高の称号を与えられた存在だぜ?

 早い話、国王が認めた最強の専属戦闘メイドだ。神話とかの英雄さながら何か一つを極めた様な連中な訳で、涼しい顔して攻撃をスルッと抜けやがる。

 現に目の前に居るトワイ・ゼクス。お茶や菓子の貯蔵と管理、菓子作りにパティシエをするスティルルーム・メイドなんだが、無表情で全く動きが読めねぇし目が半開きでやんの。


『貴方のスキルは特殊に見えますが、本来全ての武具を使えるのは当たり前です』


「人によって得て不得手の個人差はあるけどな」


『それにまだ、覚醒前のスキルも多々ある様ですし』


「うっへぇ。そこまで見抜くかよ……てか、いい加減自分の言葉で喋れよ!」


 手こずってるのには、もう一つ理由がある。寒くて体が反応に追い付かない。広場は開けた場所で動き易く、まだ日中で陽が差し込むが雪女相手じゃ相性が悪過ぎる。

 黒を基準とした、戦闘向きじゃないロングスカートのメイド服。メイドが頭に付ける白いアレ、ホワイトブリムを付けて。全体的に三つ編みで足下まで届く青白い髪、蒼い眼の身長百七十な雪女とか初めて見るわ。

 冷気をわざと垂れ流してやがんだよ。冷えは足から~なんて言葉を今、体感してる。それに使えなくなったスキルがある事まで見抜くし。

 と、言うかだな。カンペみたいに文字を書いて会話するんじゃない!! 自分の声があるだろうが。寡黙もここまでくれば、一つの個性なんだろうか?


「御主人ちゃま~、頑張れ~」


『ほら。エリネに応援されてるのですから、頑張ってくださいね?』


「あの、エリネにすら勝てないんですが……」


 エリネ・フィーア。種族は天使、三百三十才なのに身長は小学四年生。ゆるふわウェーブの金髪で後ろ髪は踵まで長く、後退りすると高確率で転ける。背中から生えた白い翼はあるが、頭の上に輪っかは無い。

 どちらかと言うと、あの輪っかは死んだ者にあるイメージが強い。オレンジ色の眼、瞳孔はよく見れば白い十字架。ナースメイドだが予想外な行動を取る為、一本を取る処かこっちが振り回される始末だよこんちきしょう。

 トワイと同じ黒いメイド服だけど、ロングスカートではない。大体何か動物のぬいぐるみを持ち歩く回復系奇跡、不思議な歌の魔法を使うエキスパート。

 木刀片手に何度打ち込んでも巧みに長い棒で受け流しつつ、隙有りとばかりに背中や後頭部を小突かれて転ける。起き上がって振り向くと追加で二人来ていた。


「稽古は順調かしら? トワイ」


『これはメイド長。順調か否かと問われれば……』


「順調に見えるならお世辞か、目が腐ってると思うけどな」


「自覚しているのなら、後はやり遂げなさい」


 ごもっともな言葉を投げ付けてくるのは、メイド長。オラシオンのトップに君臨し、他のメイド達相手に一度も敗北していない存在、アイ・アインス。

 髪型はハーフアップで左側のモミアゲだけ三つ編み、残りは真っ直ぐで背中に届く銀髪。黒い眼は何時見ても、心の中を見透かされてる気がして落ち着かない。

 シオリ曰く魔法剣士で、メイド仲間ではメイド長と尊敬を込めて呼ぶが、戦う姿は一人軍隊と言われているそうだ。一度模擬戦をしたが、一撃で気絶させられた。

 それもその筈。偽名を名乗ってはいるが、長い付き合いだ、一目で判ったよ。副王の知り合いだもん、そりゃ強いわ。


「見込みが無いのなら見捨てなさい。アタシ達も暇じゃないし」


『おや。早々とお仕事を終わらせては、彼の様子を覗きに来ている琴音らしかぬ言葉ね』


「ちっ、違っ……に、逃げ、そう。逃げ出してるんじゃないかと見に来てるだけ!」


 微笑みつつもトワイに的確な言葉を突き付けられ、動揺しているのがコトネ・ドライ。赤い眼と紫色の髪が特徴で、モミアゲが胸元まであり後ろは一つ結びにしている。

 本人曰く魔王。うん、お前は何を言っているんだ? と思うが事実だ。何千年も生きている中で退屈の余りメイドとして働いているとは本人の談。

 メイド服は黒がメイン、ホワイトブリムとエプロンは各々の眼と同じ色なんだよなぁ。何の拘りなんだか、自分にはサッパリ分からん。

 あぁ言ってるけど、一人で休憩してると助言してくれるんだよ。誰それはこう攻めた方が良いとか、こんな行動をしたら何をしてくるとかね。


「トワイ、少し私と変わりなさい」


『ハッ、了解しました』


 何やら交代するらしい。深々とお辞儀をし、自らの得物を渡そうとするけど要らない。とばかりの仕草で拒み、自分に向けて手招きをし挑発。

 別に挑発されたからと怒りはしない。されど攻めない事には話にならん。思いっ切り地面を蹴り、真っ向勝負……と見せ掛けてステップで左側から攻め──


「甘い」


「な──!?」


「アイお姉ちゃま、お見事です~」


 木刀の射程範囲に入る直前、右人差し指を此方へ向け小さい魔力弾を一発。胸元に受けたソレは貫通したかの様な激痛が瞬時に走りだ大の字に倒れた。

 起き上がり、今度は正直から攻め込む。先程の攻撃はしない今がチャンス、一気に右へ振り払う。


「振りが遅い」


「力量差が蟻と象ね。まあ、アタシ達からすれば大抵はそうだけど」


「なら、連擊ならどうだ!」


 今度は左人差し指で切っ先を止められる。コトネが言う通り種族差もある上、エキスパート相手に勝とうと言うのが無茶に等しい。判ってはいる、そんな事は。

 意地で様々な方向から連擊を振るう。が、全て的確な先読みで止められ、渾身の唐竹割りも人差し指で止められ突き飛ばされる始末。てか、何で人差し指で止めるんだ?


「行くわよ、コトネ。まだまだ仕事が残ってる」


「そうね。坊や、さっさと諦めるのも一つの手よ」


 畜生……言いたい放題言いやがって。あぁ~、空が青いねぇ、隣の芝生も際立って青く見えるわ。ゼロ達は今頃、どんなクエストを受けているんだろうか。

 パワードスーツの改修具合はどれ位だろう? 考えるのも良いけど、いい加減眩しいからさっさと起き上がろう。アイとコトネの姿はもうなかった。


『でも不思議ね。貴方は魔法や奇跡の素質は全くないのに反して、魔力量だけは多いなんて』


「まるで魔力タンクでしゅね。でも今はそれだけで、使い方も雑で無駄に消費しがちでしゅ」


「容赦ねぇなぁ~」


 とは言え、本当の事だから言い返せない。ルシファー曰く、人体で言うと血管に小さな穴が空いてて其処から漏れているっぽい。ボロボロとまで言われたからな。

 使い方に関しては、練りが足りないそうだ。粘土で表現するなら捏ねて使うか、千切って使うかレベルの違いがある。造形よりはただの張り付けに近い。


『稽古は此処までにして、魔力を練る練習へ移りましょう。エリネ、貴女が教えてあげて』


「は~い。それじゃあ御主人ちゃま、頭の中でイメージした物を魔力で形にしてみるでしゅ」


「イメージを形にする、か」


 こう言う時、何故かよく見てた空想特撮番組の技とかをイメージしちゃうんだよね。憧れとかそう言う男の子特有のアレだ、中二病的な言動とは違う。

 ……と思いたい。他に余り思い浮かばないからそれで良いとして、後はどう繰り出すかだ。流石にそのまんまとか、仲間内で絶対笑いのネタになる恐れがある。


「取り敢えず、イメージを魔力で形にする」


「そうそう。その調子でしゅ」


『輪っかね』


 手のひらに魔力を集中させて出来たのは、緋色の輪っか。もうちょっとギザギザなのを想像してたんだがな、見事に刃が一つも無いツルッツル状態。

 しかも作って一分も経たない内に自壊した。これはひょっとして、想像力が足りないんだろうか? もしくはイメージが固まってなかったとか?

 と言うか、書く速度早いな。しかも綺麗に書きやがるから、酷評もバッチリ見える。序でに聞きたいんだが、そのスケッチブック、枚数幾らだ? 一向に無くなる気配がないんだけど。


『後は練習次第ね』


「はいでしゅ」


 結局その日は一本取れず、魔力を練る修練に丸一日費やす。そんな日が十三年も続いたある日、玉座の間に城の全員が呼び出された。流石に十五歳辺りで一本を取り始め、冒険者ギルドへ通い始めたが。

 通常のメイドやオラシオン部隊、そして自分までもが集まったのだ。何やら重大発表があるんじゃないかと噂し、皆落ち着かない中、心と霊華が前に立ち……


「今日、皆にわざわざ集まって貰ったのは他でもない。切り離された世界への道を見付け、安定したからだ」


 メイド達に動揺が走る。無理もない、いきなり『切り離された世界があって、ルートも固定化してある』と言われても理解が追い付かん。


「今の我々には未知の領域だが、元々はこの星に在った場所。其処への接触と交流を行って欲しい」


「その選抜メンバーですが、如何にして決めますか?」


「いや、既に決まっている。選抜メンバーを発表する。不服や辞退したい者は後で話を聞くので今は静かに聞く様に」


 発表される選抜メンバーに、自分自身じゃない事を頑なに祈っている普通のメイドもいる様だ。そりゃ今や未知となった地へ向かうとか怖いわな。


「オラシオン全員、厳しい任務だがやり遂げて欲しい」


 右膝を床に着け、深々と頭を下げる。……ん? 一人増えた、のか? 朱色ツインテールな女の子がオラシオン勢に入っているけど。いや、まさか……どうだろう?

 彼女達が選ばれて、一般メイドは知っていたけれどやっぱり緊張する。そんな安堵にも近い溜め息を静かに吐く。もし仮に呼ばれたらビビるし怖いよな。


「そして貴紀。彼女達と協力し、可能であれば行く先々に現れるであろう魔神王軍や、他の脅威を払って欲しい」


「畏まりました。出来うる限り、使命を行わせて頂きます」


 オラシオンのメイド達を真似て右膝を床に着け、頭を下げる。今や二十歳、大人として振る舞わないと礼儀知らず、何時まで子供気分かと自分を批判しそうでな。

 出発までは少し日数があるそうで、仲間内で情報を交換すべく、自由時間の内に会いに行こうと決めた。新たなる旅立ちが始まる前に……






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