忍び寄る闇と遺産・前編
昔……と言っても、今からどれ程昔かなんて正確には解らない。
もしかしたら未来かも知れない為、下手に答えられない。それでも仮に、昔としておく。
一つの戦い、異変を解決した後。自分は、お墓を作っていた。其処へ仲間の一人、未来寧が心配して来てくれた。
「大、丈夫?」
「大丈夫も何も、傷ならすっかり完治してるし後遺症もないよ」
「そうじゃなくて……心の、方」
彼女は主に機械や道具製作で共に戦ってくれていて、自分が原因で戦争に巻き込んでしまったにも関わらず。
怨み辛みを言う事もなく、一緒に付いて来てくれていた。
寧は本当に優しくて、この時も声を掛け、心配してくれた。完治した体ではなく、傷付いていた心を。
「今回倒したの。貴紀君達の養子に引き取った子、だったんでしょ?」
「……うん。イリスは、天涯孤独だったんだ。でも、本当は融合獣の一部にされていた」
異変解決中。町の路地裏に捨てられていた三歳児位の女の子を拾い、イリスと名付け育てる事にした。
本来なら警察へ行くのが当然なんだが、当時は警察や自衛隊等は全て、異変・怪物や社内での裏切り行為が頻繁で大混乱。
一応試しに行ったが、門前払い。仕方なく育てつつ親を探すも見付からず、異変による被害は増大。
養子として引き取り、仲間達とも仲良く生活していたある日。行方不明になったイリスを捜索中、人間を襲い、ミイラにする姿を発見。
「一度目は情に流されて敗北。二度目は成長するイリスに実力で敗け、三度目で漸く倒した」
「でも、それは!」
「まだ幼体の時、情に流されず倒せていれば!! 一つの首都に住む人々を救えたんだ……」
何処の首都。とまでは言わないが、イリスは多くの命を吸い取り、融合獣の最終形である究極体。
融合神へと凄まじい速度で成長を遂げ、多大な犠牲を出した。
この時はもう、仲間の支えがなければ戦って行けない程疲弊しており、全力を出せず、仲間の医者からもドクターストップが出ていた。
「今は何も考えずに休もう?」
「あぁ。そうだな」
それからも時間だけが副王の手によって巻き戻され、誰を倒した。
誰が命を落としたかの事実だけは残り続け、合計で約二十六年程……ずっと世間一般には知られぬまま戦い続けた結果。
世界の裏側では英雄や勇者等と呼ばれた。でもその呼び方を嫌うと、仲間内や知り合いからはスレイヤー、殺す者と呼ばれ。
何度目かの異変解決中の夜、泊まった町を気ままに歩いていたら──
「なんだ、宿主様も夜の散歩か?」
「ゼロ……」
「夜更かしは体に良くないぞ。見廻りは俺達の仕事だ」
「ルシファー。うん。なんだか、眠れなくて」
元の姿、と言っても良いのだろうか?
自分似姿で白黒のゼロ、黒いマントを身に纏う人型の時はカタコトじゃないルシファーと遭遇した。
「明日、怪物を追うんだろ? あの白い幻獣の姫様とよぉ」
「そう……だね。ルシファーも、黒い幻獣のお姫様に逢いたいだろうし」
何時まで続くか判らない旅の中、知り合った二人の美しく強い麒麟の姉妹と出会い。
魔物退治の腕を気に入られ、正式な依頼として空の何処かに在ると言う場所、天界に施された封印が解けたらしく。
自分達の力を借りたい。場所は確認済みらしく、自分達は先行し敵に奇襲を仕掛け、誘き出す作戦だ。
「純白の麒麟姫には宿主様。紅く黒い姉の麒麟はルシファーが気に入られて、生え代わった角を加工して貰えたし」
「赤と黒の雷撃を放つ妖刀、紅姫の事か」
「宿主様のは確か~、白刃。だったよな」
「……」
ルシファーと黒い麒麟はお互いに気があるらしく、既にお付き合いしているらしい。
自分は……迷っていた。自分が好意と思わしき感情を向ける相手はサクヤだが、彼女は無関心。
好意を向けてくれる仲間もいるが、その気持ちに応えてあげる事が怖くて……仲間達やサクヤにも、好意を示せないでいた。
「王。そろそろ誰かを娶ったらどうだ。仲間達の好意には気付いてるんだろ?」
「うん……でも、旅が終わって落ち着いてからにしよう。って考えてるんだ」
何時終わるかさえ分からない戦い、それを全て終えた時、本当の意味でみんなの好意に応えよう。
その気持ちは今も変わらず、胸の内に閉まってある。
「双子の月見姉妹は全ての命を管理する為に調律者を名乗り、支配組織・パンドラを立ち上げ人体改造と機械製造で兵を造る」
「どうしたの、急に」
「いや。あの幼い姉妹は急に何故世界征服を始めたのか、と思ってな」
何かをするのに理由が要る、要らない人と別れる。そう考えると確かに気になるが、話す機会がない。
人を雇わないのは人件費削減? それとも裏切り者を出さない為? どれもありそうだ。
でも今は、大切な家族を嘲笑いながら傷付けるイリスを止める為とは言え、沸き上がる感情のまま……我を失い原型を留めない程潰した。
あの力が恐ろしくて、あの自分が怖くて思い出すだけでも身震いが止まらない。
自分が自分でなくなる感覚、何かに塗り潰される恐怖が今もなお、脳裏に焼き付いている。
「貴紀、お前には王の資質と器がある。魔王である俺が太鼓判を押すんだ、自信を持て」
「ま、暴走するなら俺達が止めてやるしな!」
「うん。ありがとう」
その後は暴走する事なく戦い続け、みんなの助力もあって二代目無月終焉と決着をつけ。
終焉が残した「調律者を倒せ」の言葉に従って奴等を追い掛け、新しい場所でも同じ様な異変が起こり続けた先で。
ある真相に辿り着いた。それは世界中で異変の原因を自分だと情報操作し、またある国は他国を裏から弱らせ、弱体化をしていた事。
幾ら異変を解決しても、人間同士が争い続けるのであれば、自分が戦い続ける意味は無いと悟り。
正直もう、この時から戦う事や赤の他人を救う事に嫌気が差していたんだと思う。
「結局は他人の評価や意見に流され、命が産み出す闇と戦う事に嫌気が差した訳だ」
理解者は助けた人間ではなく、倒し、救った異形達だった。と言うのも、皮肉な話だよな。
命がある限り闇は産まれ、育ち、世界や心さえも食い散らかし、滅ぼしてしまう。
思い出した……そうだ。だから自分は自らの意思で旅を止め、世界と言う舞台から一人で降りた。
話終えた時、自分勝手だとは思うが少しだけ心が軽くなった様な気がした。
「で、気付けば記憶や力の大半を失った状態で復活、持ってた専用武器も行方不明。世界もこの有り様って訳だ」
「う~んと……世界が闇に包まれたのは今から千年前で、精霊達が神殿で騒ぎ始めたのもその頃かな?」
「神殿?」
「そう。私達エルフは、魔物達が入って来ないいその場所を、森の神殿って呼んでる」
森の神殿と言う言葉を聴いた途端、その場所と思わしきビジョンが脳裏に浮かんだ。
深い深い森の奥。寂れた神殿らしき建物に蔦が絡み付く中、一つしかない出入り口以外は鏡の部屋。
鏡の一枚に突き刺さった一本の剣。それが、遠くから自分を呼んでいる気がした。でも……
「へぇ~……」
どうでも良く感じ、素っ気ない返事を返した。
チラッとシオリの方を見た時、怒っている様にも見えた。いや、怒っているのだろう。
言い伝えで聴いた人物像に当てはまらない、やる気を見せない姿に、憤りを感じたんだろう。
仲間達からは時折鈍感。と言われていたが、そうじゃない。判っている、理解もしているつもりだ。
ただ、アクションをしないだけ。反応が怖かったり半ば諦めている部分もある。どうでも良い、と。
「行ってみない? 森の神殿へ」
「うん。まあ、行ってみようかな」
旅を続ける程、他人への興味を失い、昔は自然とやっていた人助けも回数が減った。
善意を迷惑と感じ、助けなかったら人でなしやら犯罪者と言う人間に出会う度、他者がどうなろうと関係無く思い。
幼い頃の自分がとても眩しく、そして、かけ離れた存在に思えてしまう。時間とは、本当に恐ろしいものだ。
「それじゃあ、今日の釣りはこれ位にして。明日に備えて休みましょ」
「了解」
昔の自分に戻れるなら、戻りたいのかな?
例え戻れたとしても、あの頃の気持ちで人助けは出来そうにない。何故か、それだけはハッキリと言えそうだ。
そんな心情も、口にしなくては意味がない。そう言いたげに感じる程、シオリは自分の手を引っ張り、走って行く。
名前:ゼロ
年齢:不明
身長:172cm(人間形態時)
体重:不明
性別:男性(本人談)
種族:不明
設定
邪神の一体から与えられた目印兼、戦力。決まった形状を持たず、自由自在な形態になれるものの人間が一番形態変化し易いとは、本人の談。
一人称は俺、二人称は一般的にはテメェ、時折相手の名前。貴紀の事を宿主様と呼ぶ。
普段は貴紀の影に潜んでいるか、青い光球となり傍を彷徨いている。攻撃出来るのは影の中にいる時や交代した時など、自身の領域(影の中)や貴紀が纏う(交代や武装)時のみと限定的。
本来食事は不要だが魔力を消耗し過ぎると魔物や魔獣を倒し、魔素(魔法の元)を取り込んだり食事から補給する。肉が好物で野菜は好まない。
貴紀が纏い交代した時や、人間の姿をする時はボディビルダーの如く、白髪の筋肉質な男に変化する。貴紀が交代するメンバーの中で一番力が強く、頑丈な相手を得意とする。
反面。機動力の高い相手は苦手らしく、どうしても戦闘が免れない時は追い掛けず、仕掛けてくるのを待ち反撃するタイプ。
主に接近戦が得意で、高い打撃力と防御力(筋肉)を使いプロレス技を好んで使う為、相手次第では敵の防御力を無視する場合も。




