忍び寄る闇と遺産・中編
前日からまだ帰らない霊華と心が気になりつつ、シオリと森の神殿へ行く準備をする。
翌日。壁に飾られた時計を見る限り、朝早くから家を出たらしい。里からどれ程歩き、時間が経ったか分からない。
陽は昇っても闇が光を通さない常闇状態。聖光石の光だけじゃ、元気を出すのが精一杯だ。
「こっちこっち!」
先々進み、案内してくれるのは良い。んだが……這ったりターザンごっこするなんて聞いてない。
アクションゲームの主人公になった気分だった。知らず知らずだったが、こんな怖い思いしてたのか。
道中、森の精霊が悪戯をする迷いの森、と言うエリアに到着したが。
何十回とエリアの入り口に戻された。結果、悪戯するのに満足したのか、その後はすんなりと進めた。
「君って本当に精霊に好かれてるのね」
「はぁ、はぁ……好かれてたら、悪戯するのかよ」
「そう。好かれてたら構って欲しくて、何度も入り口へ戻す。嫌ってたら森が攻撃してくるけど」
構って欲しけりゃそう言え。と言いたいが、自分は精霊が使う古代語が解らない為、話が出来ない。
だからか、身動きで何かを知らせてくれる。精霊は姿がある、ない者と分かれており、何故そうなのかは不明。
そして、エルフ達が森の神殿と言う場所へ辿り着いたが、昨日見たビジョン通りだった。
「やっぱり、何時来ても空気が美味しい」
(俺とルシファーはある意味、魔素がご馳走だがな)
昔の人間もそうだったが、何故都会と田舎の空気が違う事に喜ぶのか。これが分からない。
そもそも都会は発展の結果、人間達が自ら空気や水を汚し、田舎は発展前の姿をしているだけ。
確かに利便性は無いが、田舎には田舎の、都会には都会の良さがある。自分は田舎の方が好きだな。
まあ、そんな自分の好き嫌いは兎も角。ゼロ達は種族的には魔族側。
魔法や魔族の体を構成する魔素は、人間で言えばタンパク質やアミノ酸。エルフ達にとっても、森の空気はそれに近いのかも知れない。
「あれは」
(テレポーター? に近いモンだな)
(年代物ノ様ダ。動クノカ?)
寂れて蔦が絡み付く神殿と森、四メートルはある聖光石が視界に映る中。
入り口側。左端の隅っこに目をやると、青色のテレポーター? カプセル? らしき物を発見。
土台と蓋らしき物しかない為、未完成品ではないかと予想。機械工学は全く解らないが、触れても動かない辺り、機能停止してるっぽい。
「っ?!」
(ドウシタ?)
触っていたら、突然電気が走った様な痛みを感じて、思わず手を引いてしまった。
シオリの方を一度見たが、神殿の中へ先に入っているらしい。
此処で立ち止まっていても意味はない。先へ進もうと歩き出した時。
「適合者の魔力確認完了。タイムカプセル、起動。ホログラムを投影します」
「久し振り……と言うべきじゃろうか。いや、もしかしたら君は忘れているかも知れんな」
タイムカプセルと自ら言う機械は起動すると同時に、蓋と思っていた部分が上昇。
大人だった自分の身長なら、少し余裕がある高さで止まり、青白い立体映像が投影され、話し掛けてきた。
久し振りと言われても、今の自分には誰だかサッパリ解らん。欠如した記憶にある人物だろうか?
「ワシはDr.トラスト。このカプセルが起動すると言う事は、やはり世界は闇に覆われているのじゃろう」
「まあ、そうだな。今や陽の光さえ届かない闇に覆われてるよ」
(世界滅亡もあと少し、だもんな。やってられねぇぜ)
投影されたのは、白髪白髭の爺さん。どうやら生前は見た目の服装から、研究員らしい。
カプセルが起動したのは偶然、ではない様だが、今の情勢を知っているかの口振りに思わず返事を返してしまった。
「奴は世界を裂き、三つの勢力が好き勝手に支配しておる。此処、ナトゥーア大陸は魔神王の勢力圏じゃ」
「十中八九、勢力圏を奪おうとちょっかいなり横槍を入れてるって訳か」
老人の話に何となく返事を返してはいるが──
本当に会話している様であり、ただの独り言の様にも思える。何処と無く、不思議な爺さんだ。
『人の心から闇は消えない』……昔、何度も倒した敵が散り際に言い放った言葉は、今も自分の心にしっかりと残っている。
爺さんはどの勢力がどれ程勢力圏に収めているかも話してくれた。
「真の平和とは……我々人類が唱えるだけの、都合の良い夢幻なのかも知れぬ」
「かもな」
「じゃが、闇に覆われた今の世界には僅かにでも光が必要なのも確か」
確かに爺さんの言う通り、真の平和ってのは人間が唱える自分達に都合の良い夢幻の世界だろうよ。
世界中が闇に覆われてる今、僅かでも光は必要だろうさ。でも、その光を闇に変換するのもまた──
『人間』だって事は、忘れてはいけない。それも昔から変わらない事だから。
「そうだな……もう一度、『世界』に力を貸してやるよ」
「カプセルに入りたまえ。此処では君のパワードスーツに新しい機能を与えよう」
ある意味、今も昔も、戦う理由は似たようなモノなのだろう。人間の為ではなく、世界の為に戦う。
辛い旅になるのは、今回も変わらない。そんな思いでカプセルに入ると、何かしらのデータが流れ込んで来た。
(空中と言う死地を切り抜ける機能、ヴァリアブル・エアダッシュ。だってよ)
「空中を走る機能、か。確かに、今までは無理矢理道具を使って回避やら移動をしてたよな」
(今後、コノ機能ヲ使ウ機会ハ確実ニ増エル。今ノ内ニ慣レトカナイトナ)
新しい力を手に入れた。が……パワードスーツ装着時のみ。
生身では使えない。そうなると、通常時は今まで通り道具や技の反動を使い、移動や回避が必要か。
「おぉ~い、何してんの~? 早くおいでよ」
「へいへい、参りますよ。ったく、今までのおしとやかなエルフ像が壊されるな」
神殿奥から話し掛けられる彼女の元気な声。
自分のエルフ像と言えば、引き籠りのヴィーガン。要するに、野菜しか喰わない偏食家。正直、飯作りに困るんだよ。卵や蜂蜜も無理とか。
愚痴もそこそこに、呼び掛けに応える為走って行く。だが、神殿の入り口で足を止め、眼を凝らす。
闇の中を覗こうにも何も見えないが、嗅覚と直感が警報を強く鳴らし続けている。危険だと。
「……誰だ、お前」
「何を言ってんの。私は私、シオリじゃない」
「何故だろうな。一昨日戦った連中と同じ臭いがするんだよ。食後の歯磨きを忘れたのか?」
声は確かにシオリ本人で間違いない。でも臭いは全く違う。吹き付ける向かいからは、腐敗した血肉の酷い臭いがする。
鼻が曲がりそう。と言う言葉があるけど、こう言う事なんだな。右腕で口元を塞ぐがこりゃ無理だ、臭い。推測だが──
シオリに成り済ましている存在は別の場所で朝食でも食べ、その足で自分の所へ来たんだろう。
「……何故だ。何故、キサマは変貌しない?」
「変貌? 何の事だ」
「理解、不能。危険因子と認識」
全く、変貌だの危険因子だの。もう少し此方にも理解し易く説明してくれませんかねぇ。
まあ、解った事と言えば。どうやら自分は奴らの思い通りにならない、危険な存在ってな事位か。
「お前達は魔神王や調律者達の仲間か?」
「否。我らハ誰とも組マず、一にして全。ミスクリエーション……時ヲ経てナオ、我々の邪魔トなル者よ」
「やはり一昨日の奴らで間違いなさそうだな。お前達の目的はなんだ?」
「見上げル……看守。赤ク丸い、檻……」
はぁ……全く話が通じやしねぇ。見上げる看守やら、赤く丸い檻って何だ?
一昨日現れた骨野郎の片方も、確か同じ様な事を言ってたな。
何かを指す、意味ある言葉なんだろうが……う~ん、流石にまだ情報が足りんか。どうやって先回りしたかも気になるが。
「無垢なる、支配者。還す……時、闇……裂き、孤独」
「駄目だ。全く会話にならん」
「蘇り……賢者、封印、静寂」
何が言いたいのかすら、全く解らん。ただ、何か断片的に言っている様な気もする。
それが奴らの目的かどうかも解らないし、情報が不足し過ぎて阻止も出来ん。
無垢なる支配者が還す時、闇を裂き孤独は蘇り、賢者の封印、静寂が戻る……? 試しに繋いでみたけど何かこう、違う気がする。
「なっ、あの腐敗臭が一瞬で消え……ゼロ!」
(駄目だ。追跡しようとしたが、一歩も動かずスッパリ切れてやがる)
(時ヲ経テ尚。ト言ウ事ハ、俺達ハ過去ニ奴ラト対峙シテイル訳ダガ……)
場を支配する程の悪臭が瞬く間に消え、魔力の痕跡を辿る事すら出来ない。
過去に対峙した奴らしいが、生憎とそこまで記憶力はよろしくない。と言うか、多過ぎて解らん。
「確認するぞ。裂かれた世界の三つを魔神王勢が支配してる」
「調律者とナイトメアゼノシリーズが一つずつ。だが厄介な事に残る一つは……」
「奴等ガ勢力圏ヲ奪イ合ッテイル。此処ガ一番酷イ状況ト見テイイダロウ」
「取り敢えず、倒す勢力は三つ。絆達を捜索しつつ、一つずつ解放して行くしかないか」
敵の勢力圏が判明したのは大きな一歩だ。とは言え滅茶苦茶な環境の場所もあるらしいので。
最低限、パワードスーツの強化と能力を取り戻さないと。今後の戦闘で押し負けるのは目に見えている。
「おぉ~い。何してるのよ~!」
悩む自分達へ、本物のシオリが此方へと走ってくる。取り敢えず、奴等の事は後々また考える事にした。
解ってはいたが、改めて痛感した。闇は何時でも自分達の傍へ忍び寄り、襲い掛かれるのだと。
名前:ルシファー
年齢:不明
身長:182cm
体重:83kg
性別:男性
種族:魔族
設定
とある理由から同行しており、助言やら注意を促したりする為、貴紀からは頼れる兄貴分に見られている。普段は紫色の光球姿だが人間体もあり、黒髪ロングな姿。
一人称は俺、二人称は一般的に相手の名前かお前。貴紀のみ王と呼ぶ。
光球の姿では武具への変化を得意とし、人間体だと片手武器と大盾を使ってドッシリと構えて戦う。堅実的な戦法が得意で、最小限の動きで最大限の効果とは本人の談。
反面、頑丈な相手(機械系)は苦手らしく、交代可能であればアッサリと交代を要求する。自分の得手不得手を心得ており、無理はしない。




