勝者
おはようからこんばんわ。
流石に寝落ちの日々と休日出勤で投稿時間がおくれましたが、更新させて頂きました。
戦闘系を書いてる癖に、時折戦ってどうなるの? 勝っても敗けても、虚しくないの?
等と思う気持ちが、今回のお話を書かせてくれました。
悪魔は燃え盛る炎を睨み付け、注意を逸らさない。
「ドイツもコイツも、奴と戦った連中は勝ったと油断し、一気に巻き返される。だが俺は、奴と幾度も戦った経験がある」
「撃って撃って撃ちまくれ。奴の注意を此方へ向けるんだ!」
「何故じゃ。何故、あやつは炎から目を逸らさぬ!?」
幾十、幾百の銃弾を身体中へ受けようとも、気にもせず一点へ目を細め、眺め睨む。
幾ら撃っても注意すら向けず、相手にもされない兵士達は少しでも此方へ意識を向けようと銃を構え、空で羽ばたく悪魔目掛け撃ち続ける。
「奴と戦った、戦を見た連中は大半が真っ向勝負系と認識するが……実際は『二種類の戦法』を活用して──!?」
幾度も戦った敵、オメガゼロ・エックスこと紅貴紀。
彼と戦った、その戦ぶりを見た者達は正々堂々、真っ向から勝負をする騎士道の持ち主と思い、認識する存在が多い。
しかしベーゼレブル曰く、それは貴紀が行う戦法の一つにしか過ぎない。もう一つの戦法を口に出そうとした時──二つの違和感に気付いた。
一つは先程まで、爆竹さながら撃ちまくり当たっていた銃弾が止んだ事。二つ目は何故か悪寒が走り、背中から冷や汗が噴き出している事位。
「いい加減うるせぇよ。暴食野郎」
「な……ッ!?」
一瞬の事だった。炎の中から貴紀が飛び出して来たと気付いた矢先。
右拳が眉間へ迫っており、斜め下へと力強く殴り飛ばされた。
先程までとはスピード、パワーが格段に違っており、何が起きたのか。理解が少し遅れて導き出される。
「あぁ……そうだった。伝家の宝刀、火事場の馬鹿力か。お前が磨き上げた力」
「宿主様がまだ、一般成人男性程度の力しかなかった頃、幻想やら人外相手に立ち向かえれた能力だぜ」
「今や、緊急時強制発動型スキルへとなってるがな。ふぅ……お陰で耐え凌げた」
幻想側へ飛び込み、よくある異世界転生チート系能力……としては扱い辛く、一般人レベルから何度もループされる内。
その都度繰り返し心身を鍛え続け、人間が持つ当たり前を漸く幻想へと昇華させた力を、ベーゼレブルや邪神達は気に入っている。
倒れている者は立ち上がり、飛び上がっていた者は地に降り立つ。睨み合い、駆け出そうとした時──
「みつけ、た」
「「──!?」」
緊張感増す最中、それは聞こえた。
幼き少女の、戦場では騒音にかき消されてしまう程、呟きとも思える……『見付けた』と言う幼子の小さな声。
そんな馬鹿な、あり得ない。聞き間違えだ、幻聴だ。心の中で幾度も否定する様に、自身へ言い聞かせる。
そんな儚い想いを胸に二人は、声が聞こえた黒い海へ視線を向けた先には──黒色の女性用ミニスカ学生服を着。
赤いスカーフが首に巻いた、身長160cm程度の白い短髪少女が、此方へと向かって水面をゆっくりと歩く。
「ん、んん……っ。其処の二人、私の私情に付き合いなさい」
「「……」」
如何にも声の調整と喋り方を間違えました、と言わんばかりに右拳を口元へ近付けては咳き込み。
改めて大人びた口調、声で言い直す姿に二人は安堵の溜め息を吐いた後。
もしかして中二病を患っているとか、キャラを作っている可哀想な人だろうか? と言う目で少女を見つめる。
「そ、そんな残念な人を見る目で見ないでちょうだい! もう……それなら、最初から飛ばして行くわよ」
自身を見る目に少し怒りながら抗議した後。
溜め息を吐いて気持ちを落ち着ければ、水面を一切沈む事なく走る。足早に駆ける足音と水が弾ける音が聞こえ、飛び出す様に真っ直ぐ跳躍。
「ハッ。小娘程度が何──ををっ!?」
「あら。何か言ったかしら?」
小娘だと見くびった矢先。ベーゼレブルの視界は暗い空を見上げ、顎に走る激痛と硬い感触があった。
跳び膝蹴りを叩き込んだ少女は微笑み、脚を振り上げ、蹴った相手の顔目掛け素早く、力強く踏みつける。
「スマン、厄介事ヲ持チ込ンダ」
「おぉ、戻ったか。事情は後だ後。宿主様、俺達は残った魔力を回す為に黙る。……頑張れよ」
宙を舞う紫色の光は何気なく差し出した左手へ乗り、余計な事を持ち込んだに謝罪すれば。
影より飛び出た青い光が左手へ近付き、紫色の光を連れて影の中へと戻って行く直前。
魔力供給をメインで行う為、助言によるアシストを止めるが、助太刀が無くとも頑張れ。少し間の空いた応援だけを残し、影と同化。
「頑張れよ……と言われても。俺、仲間の手助け無しだと」
「隙有りよ!」
助言、助力を一時的に失った対価として、パワードスーツ着用時の活動可能時間が、幾分か回復。
幾ら応援されても、戦闘力は増えない。現状を突っ立ったまま愚痴っていれば当然、背後を取られ、首を跳ね飛ばそうと手刀が一気に迫る。
「何時もの強行突破じゃなく、暗殺者の真似事しか出来ないんだよなぁ」
「いっ──!!」
振り切った手刀の先から瞬く間に首が消え、大きく空振ってしまう。
首が消えた理由は単純明快。
わざと脚から支える力を抜き、屈んだ為。更に脚をバネに身を捻りながら跳ね上がり、少女の顎へ打ち込もうとした掌底は掠る。
「流石は、歴戦の勇士ね」
「戦闘技術だけは嫌と言う程叩き込まれて、戦う事も今や飽き飽きしてんだけど」
「そうは言えど、世界はテメェに戦う事を求める。否応なしに……な」
少し後退しつつ、死角からの攻撃を避けた上反撃した事へ評価されるも。
当人は戦闘行為に飽きており、褒められても余り嬉しくない様子。
起き上がるベーゼレブル曰く。幾ら嫌がり、戦いを拒もうと世界から戦う行為を求められている以上、拒否権は無いそうな。
「こちとら精神崩壊も経験して、何度もループと死亡を繰り返してんだけど。世界ってのは、俺に、何を望んでんのやら」
立ち位置が悪く、少女と悪魔に左右を挟まれ双方へ目を向け、何もして来ないと見。
一歩だけ大きく下がれば、逆三角形を思わせる陣形が偶然にも出来上がった。
すると悪魔と少女はお互いを邪魔者と認識したらしく、突然交戦を始めた。吐き出す青い光弾、それを少女が弾いた先には──
「……成る程。観戦してないで参加しろと」
「えぇ。私の狙いは貴方。参加してくれなきゃ、意味がないもの」
一歩右へ軸を移動し、光弾を回避。
此方側へ弾いた理由を理解して視線を相手に戻すや否や、少女が飛び付く感覚で飛び込んで来たが。
相手は自身が勇士と認める存在。
掴み掛かろうとする両腕を掴めば、自ら後方へ転がり、飛び掛かる勢いや体勢を利用し巴投げを繰り出す。
起き上がろうと上半身を起こせば、発射直前の青光弾が見え、これ以上の被弾は危ないと読み、急いで転がり回避。
貴紀は避けれたが、遅れて顎に掠った掌底の効果として目眩に襲われ、青光弾の直撃を胸に受け、大きく怯む。
「──っ、掌底で脳が揺らされたのね。でも……えぇ、痛みや目眩も、奇跡で落ち着いたわ」
「落ち着いたんならもう一発食ら……んんっ!?」
「いい加減、それも見飽きたってんだ、よ!」
何故身動きが取れなかったかを理解し、淡く光る両手が被弾箇所の痛みと状態異常を癒す。
獲物はお前に渡すものか。
口内で火炎球が青々と燃え放つ瞬間、少女を守らんと貴紀が横から割り込み、両手で開いた顎を閉じ上げられ、行き場を失った火炎弾は口内で爆発。
「ごはっ……いい判断だ。だが、読みがまだあめぇ!!」
「何、っ!?」
流石に口内爆発は効いたらしく、仰け反り倒れる……寸前で持ち直し。
両手首から長く鋭い二本の鉤爪を生やせば、もう一手読みが甘いと言い、貴紀の左脇腹から右肩まで。
上半身に巻き付く鎖諸共一気に切り上げ、大きく五歩も下がらせるその鋭さは。
パワードスーツの装甲に引っ掻き傷がくっきり残る程。生身で受ければ十中八九、切断は覚悟すべきと容易に認識出来る。
「しまッ……離、せ」
「よろめいた相手への追撃は戦闘の基本。そうだろ?」
体勢を戻す前に悪魔の尻尾が伸び、貴紀の首へ巻き付いては締め付けつつ、鉤爪が届く範囲内へと引き寄せる。
スーツを着ているとは言え、異形の怪物相手では体重や素の力も負けている為、幾ら踏ん張ろうと。
少しずつ、ゆっくりと鉤爪が届く範囲内へ近付いてしまう。
無駄と知りつつも、両手で締め付ける尻尾を引き千切ろうと力を込め、最後まで抵抗の意思を見せる時。
「スキル・飛翔斬撃!」
「ぬおぉ!?」
「っ。ほら、返すぜ。暴食野郎」
発動宣言的に、剣士系スキルだろうか。
飛び上がり振り払った右手から放たれた白い光刃は巻き付く尻尾を切断、引っ張っていた悪魔はバランスを崩し、横転。
蜥蜴やヤモリの尻尾同様、切断されて尚活発に動く尻尾を引き剥がすと、悪魔へ投げ返す。
「これで、さっきの借りは返したわよ」
「そうかい。律儀なこったぁ」
どうやら追撃の火炎弾を阻止してくれた恩を返す為、助けたと言う少女。
互いに顔を向け合う事はせず、ただ、悪魔の出方を様子みる。
「チッ、“今回の切り札”を切るか。スキル・無詠唱と魔法使いLv10に、悪夢を融合」
(複数のスキルを一つにして撃つ気か。……仕方ない、残った魔力で此方もアレが撃てる筈)
「何をする気かは知らないけれど。この槍で滅してあげるわ!」
各々、一気に決めようと力を蓄える。
悪魔は喰らった者達のスキルを選別し、融合させ。貴紀は残った魔力で何かをすべく、全身に力を込め踏ん張る。
少女は右手に掴んだ金色に光輝く槍へ、集中して魔力を注ぎ込む。
「喰らい、絶望しろ。悪夢の魔法!」
「響き、轟け……神々の運命!」
「テメェ等、いい加減にしやがれ! 大いなる光!!」
悪魔は口から、少女も浮遊した状態から地面目掛けて黒い塊と金色に光輝く槍を放つ。
恐らく大地から影響を与える技なのだろう。それに対し怒り、天に向け大きく吼えると……地面から溢れ出す光の粒子は、天へ昇らんと勢い良く上昇。
その範囲はなんと──機都・エントヴィッケルン全域と上空にまで及ぶ。『範囲内に居る存在』全てを光が包み込んだ後、光は収まり……
「おぉ……あの悪魔が消え、空も町も元通り。オメガゼロ・エックス殿の勝利じゃ!」
異形の悪魔と空を覆い尽くしていた蝗達は姿を消し、白髪の少女も姿を消した代わり、心情ゆかりが仰向けに倒れていた。
町もアバドンが使った広範囲の闇属性魔法、終焉の地より解放され、戦いが終わったと叫ぶ兵士達。
「終わったな」
「あぁ。お疲れさん、宿主様」
「ダガ、魔力ヲ使イ過ギタナ」
互いに抱き締め合い、悪魔との未知なる戦域から生還出来た喜びを確かめ合う兵士達を背に、身体中から緋色の光が溢れ出す。
良く頑張りました。ささやかな報酬ですが、どうぞ。そんな風に吹くそよ風を受け、貴紀の体は緋色の光となり、風に運ばれて行く。
──誰も、彼が立ち去ったとは気付かぬ内に。
次回の更新は6月10日を目指したいですね。
えぇ……休日出勤が今週もあるやも知れませんが、なんとかモチベーションを保ちつつ、書きたいと思います。
余裕があれば、ちょっとした登場キャラクターのプロフィールやスキル、その他等を後書きに書こうと思ってます。
此処の感想板等は、一般の方でも書き込める様にしてありますので、ご意見や誤字脱字報告等ありましたら、お気軽にどうぞ。




