敗北
機都へ続く大草原の道を歩くは鎧の塊と女性陣と言う、身長差が凸凹な四人組。その遥か背後では黒煙が天高く舞い上がり、炎が町と民を焼いていた。
四人組が歩く道は貴紀達が機都へと歩き、冒険した道であり、今なお壊滅し燃え盛る町が何処かと言うと…………三人が通っていた学校がある古都・ルイーネ。
彼・彼女達から一生懸命走り機都へと逃げる白衣を着た学者や調査隊の面々。もう迷いの森が見えている辺り、機都が古都の二の舞になるのは目に見えているだろう。
そう。彼・彼女達を止めれる余程の実力者、または探し求める人物達が自ら現れるか、探し出せた時だけだろう。
「ヌオォォッ!?」
「弱イ……弱過ギル!! モット、モットモットモットモットモットオォォ! 強者ト戦ワセロオオオ!!」
「ハァ、全く……」
機都の兵士達も自身らの故郷を守らんと四人組へ挑んだが、全身を緑色の鎧で包み頭も髑髏型の兜を被る、狂戦士と言うのが相応しい全長三メートル近い大男一人に敗北。
彼が持つ武器は槍と戦斧が一体となった斧槍と、例え強固な鎧を纏い盾を構えてなお一撃で肉塊へ変えそうなメガトンハンマーとも言える銀の大鎚。その大鎚を横に振り切った一撃を受け、兵士長・心情ベビドも白目を向いて気絶。
圧倒的過ぎる光景に青い長髪の女性、マジックは「魔神王様の指示とは言え。こんな狂戦士を探索に同行させる理由が判らないわ……」溜め息を吐き、主の考えが理解出来ず頭を悩ます。
「ジャッジ? 目的の人物は殺してないでしょうね?」
「弱者、魔神王様、言ウ奴、違ウ。俺、邪魔者、倒ス」
「ふざけるなら火葬するわよ? さて……生きるか死ぬか、自分自身で選びなさい」
挑んだ者達が倒れ伏して誰一人として動かない中。学生服のまま倒れ伏した終焉をチラッと見て問い掛けると、何故かジャッジはカタトコで喋る為、戯れか本気かは兎も角……ふざける行為を止めさせ。
もう一度ぼろぼろになった終焉と治療の為に駆け寄ったサクヤを見下ろし、主から受けた指示通りに一方的な生死の選択肢を突き付ける。
二人は仲間にならなければ殺されると理由していた。勝負を挑んでも今の自分達では、この魔法使いと狂戦士には微塵も勝つ事が出来ず、返答に詰まり表情が曇る。
「マジック……来ル、ゾ?」
「え?」
苦悩する二人を眺めニヤけていると。軽い注意を受け振り向けば、上空から黄色い光弾が降り注いで来た為、魔法で自分を中心に半透明の半円形魔法障壁を展開し防ぐ。
光弾の雨が止んだと思い見上げてた矢先、今度は一本の青い光線が障壁に激突。弾かれて拡散、周辺へ飛び散り土煙が舞い上がった後、ガシャンと言う音が響いた。
「間に合ったか」
「その声……まさか!」
紅いパワードスーツに全身を包んだ人物がゆっくりと背を正し、ぼろぼろの二人へ振り返り話し掛ける声を聞き、驚く義兄姉とマジック。
緑色のV字バイザー越しに敵を確認する。大男のジャッジ、競泳水着的な鎧に白い仮面を被るマジック、濃い茶色ローブで身も顔も隠した二人の計四名。
バイザーで敵を見ればスキャンが始まり、現在判明済みの情報・危険度が内側に提示され口角が引きつる。最高危険度Xが二人、上位級危険度Aも二人。三人で戦っても勝率は微塵も無いと読む。
「一応、目的の人物は揃ったわね」
「……目標、確認」
「俺ノ名ハ、ジャッジ。兜ヲ脱ギ、オ前モ名ヲ名乗レ」
「兜? あぁ、ヘルメットの事か。姓は紅、名は貴紀」
自らの主、魔神王復活に邪魔となる者が三人揃ったにも関わらず、何故か気に食わない事でもあったのか、マジックは下唇を強く噛む。
「スキャン開始。データベースへアクセス」等と言いながら、ローブを着被る一人は女性版機械的な音声で独り言の様に喋ったかと思えば、今度は黙り込んでしまった。
武人の真似事か、ジャッジは貴紀へ自分から進んで名を名乗り、顔と名前を確認しようと促す。貴紀の素顔と声、名前を聞き確認出来た瞬間。
「ナント言ウ数奇ナ運命。俺ハ探シテイタ、オ前ヲ……ジュウゥゥダアァァス!」突然そんな事を言われても、困惑した表情でお前は何を言っているんだ? 的な感想しか出ないでいると――
「照合完了。敵対対象、OMEGAZERO・Xとの戦闘経験有り」
「クックック……『今度ハ敗ケン』、今度コソハ敗ケンゾ、デトラアァァ!!」
「ちょっと待てって。オメガゼロ・エックスとか今度はってどう言う意味だよ!?」
何の説明も無く、自分達だけが理解しながら片や貴紀へ武器を振り回し、片や青白い光を右手から放つ二名。
急いでヘルメットを被り、右耳付近のスイッチを押して傷付いた義兄姉から離れ、後退しながら軸移動とステップで時に掠り、被弾しつつも背中のバーニアを二基共噴かせ避ける。
「無限郷デノ敗北ト屈辱、今度コソ晴ラス!」
「ワールド・オルタナティブメモリーで敗北した時のデータをベースに、回避行動を予測します」
「全く……ドイツもコイツも自分を誰かと勘違いしやがる上に、此方の話を聞きゃあしねぇ!!」
(…………このままじゃΣも動き出しそうだし、私の計画に支障が出る。仕方ない、最上位魔法を使いましょうか)
幾ら頑張って避けようとしても、パワードスーツを着ていても、今の貴紀は中学生。体力は二名に敵わず、時間が経つにつれて被弾回数は増え、スーツは破損し機能が落ち制限されて行く。
破損部位や使用不可になった機能がバイザーに次々と表示され、不利になって行く程焦って怒鳴る。マジックは隣にいるフードを着被ったΣがそわそわしてる事へ気付き。
自身の計画の為にもと、小さな声で魔法を唱える。終焉の治療しつつ戦況を観察していたサクヤは、マジックが呪文を詠唱中だと知り、焦る。
「貴紀、気を付け……」
「サクヤ、終え――んんんッ!?」
注意を促された矢先、義兄姉と傷付き倒れた二百人の兵士達が一瞬にして消えてしまった。信じがたい事態を前に足を止めてしまい。
斧槍の突きと青白い光線を胸部へ受け、踏ん張り損ねた事もあり、後方へ強く押し飛ばされて転げ落ちる。
「不味い。スーツの、エネルギーが……意識も、途切、れ……て」
「天の雷よ、熱く轟く刃で敵を撃て。稲妻の矢!」
後頭部と背中を地面へ突き刺さった大きく分厚い石版へ強打。スーツの損害も酷く防御、生命維持機能が一部停止、俯せに倒れ伏すと眼は霞み、意識も途切れ始めた。
立ち上がる力も無く、視界が少しずつ真っ暗闇に閉ざされて行く最中、聞き覚えのある女性の声が――詠唱呪文が確かに聞こえた瞬間。蒼天より四人組目掛け、稲妻の矢が次々と降り注ぐ。
「これは……上位魔法。そう、貴女の仕業ね。神無月水葉」
「私だと知りつつも、大切な義弟を苛めるお馬鹿さんは一体何処の誰かしら?」
「先代、九代目スレイヤー……イイ、強者コソ、断ツに相応シイ獲モ」
「二重魔法。天より舞い降り地を裁く白き聖光よ、天へ舞う渦巻く檻へと集い纏まり降り注げ!」
「二重魔法……三人共、引くわよ」
張り続けている障壁で防ぎつつ状況を理解し、自身らが通って来た道を振り返った其処には――――少し濃いめでセミロングの茶髪に巫女服の女性が此方へと歩いて来ていた。
強者の登場に意識が水葉へと向くも、二重魔法を唱え始めた為、転移魔法陣を宙に描き一目散に撤退。水葉も倒れた貴紀へ右手を当て、転移魔法を唱えてその場から立ち去る。
機都の全病院は傷付いた兵士達で病室は直ぐ様埋め尽くされ、貴紀は機都に唯一在る教会へ運び込まれ治療を受けた。それから一週間後、孤児院兼教会で水葉と暮らしていた。
「はあぁ~……それはまた、災難だったね」
「全くだよ。デトラだの、オメガゼロ・エックスだの。人違いにも限度があるだろ。で、義姉さんは今まで何処へ行ってたの?」
余程ソックリだったのか、身に覚えの無い出来事でパワードスーツをボロボロにされた挙げ句、報酬で稼いだ資金五十万が修理費と治療費で残り十二円に。
とは言え、スレイヤーを継ぎ十代目となった事を内緒にしている為もあって、パワードスーツに関する詳しい話は口に出さず、義姉の水葉が何処へ出掛けていたのかを聞いていた。
「まあまあ。それは呼び出した二人が来てからで……ね」
「むぅ~。聞きたい事も訊くからね? はぐらかさず答えてよ?」
「はいはい。ほら、噂をすればなんとやら」
一度出掛けたら一年は帰ってこない、毎月届く手紙だけが安否を知る手掛かり、戻った時に訊けども答えない。今回ばかりは……と攻め、理由を問い話す内に。
私室の扉が開けば呼び出された二人。サクヤと終焉が無言で頭だけ下げ、向かい合う形で席に座り、水葉が話始めるのを待つ。
「先ずは本題から。貴方達を襲ったのは魔神王を守護し、王の名を与えられた四天王。その実力は……知ってるわね?」
四天王の実力を問われ、圧倒的な力に敗北した事へ表情は暗く、無言のまま頷く三人。子供が敵う相手じゃない、と人は言うが、義兄姉が黙る理由はソレではない。
「どうしたのさ。終焉、サクヤ、黙り込んじゃって」
「俺は……気持ちが先走っていただけで、自分自身さえ何も見えていなかった……」
「えぇ。マジックは私を遥かに凌駕する魔法使い……いいえ、大魔女。私は怖いのよ、死ぬ事が!!」
三人揃えば多くの事が出来た、達成出来た。幾ら貴紀の到着が遅れ、一緒に戦えなかったとは言えその自信を容易く打ち砕かれ、水葉が来なければ死と言う敗北を迎えていた。
今回の惨敗を通して、自分自身の未熟さや敵の恐ろしさを痛感。話す二人からはもう、以前のような勇敢に挑む姿が思えない程戦いを恐れ、震えていた。
「貴紀は怖くないの?! あんな……人間の敵う相手じゃない存在を知っても!!」押し潰されそうな気持ちから逃げる様に席を立ち。
机ごしに貴紀の両肩を掴み、目に涙を溜めて喋るサクヤの両手首を優しく掴む。
「怖いよ。でも、怖がってちゃ何も出来やしない」
「流石負けず嫌い。今日まで私は、超古代遺跡を巡り歩いてたの。目的を果たす為に」
「だからってよ。それは貴紀を一人家に残してまで、行く程の事なのか?」
時には怖くとも前へ進む事の大切さを伝え、自分は戦う意思がある事を話せば、負けた事が逆に火を付けたのだと知り笑って言った後――表情は一転。
真剣な表情で出掛けていた理由を話、保護者云々とも言いたげな言葉を受けてさえも顔色一つ変えず、息を整え口を開く。
「…………えぇ。私は『この世界』の住人じゃないから」
「えっ!?」
耳にする衝撃の事実に、三人は思わず声を出して驚く。言葉は理解出来るが唐突的、非日常的な内容を理解する事を頭が拒み、混乱気味。
「私は無限郷と言う世界の住人。君と同じ名前を持つ、六歳年下の子と将来を歩む予定……だった」
「だった?」
「あの子が小学六年生になった日、私はトラックに轢かれて死んだ……筈が、此処で目を覚ましたの」
「自分が小説とかでよく見る、異世界転生……無限郷?」
六歳年下の貴紀と同じ名前を持つ子と結ばれる筈が、事故を切っ掛けに此方で目覚めた。それは小説でよくあるパターンだと思い口に出した時、ふと思うワードだと気付く。
ジャッジと名乗った奴も、無限郷での敗北と屈辱等を言った他、自身の名前に反応した。つまり、奴は別世界に居る自身の名を持つ者に敗北したのだと。
「超古代遺跡を巡る内、私は知った。この世界を安定させない限り、元の世界には帰れないと」
「話を変えるけど。デトラ、ジューダス、オメガゼロ・エックス……って言葉に聞き覚えは?」
「ジューダスは裏切り者。他二つは……ごめん、判らない」
話す言葉と到底無理だと理解している暗い表情から、余程戻りたいんだと知りつつも話題を変え、記憶に新しく気になるワードを聞くも、判ったのは一つだけ。
悲しげな表情をせず、無理してでも明るく振る舞おうとする姿を見て、貴紀は出来るだけ力になってあげよう。そう心に決め、パワードスーツの強化と依頼解決を進める決意を固める。




