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小野寺麻里奈は全校男子の敵である  作者: 田丸 彬禰
番外編 A Dream Goes On Forever Ⅰ
98/130

続々 がーるずとーく Ⅱ

県内有数の弱小野球部のサクセスストーリー的なエピソード集です。

 千葉県の田舎にある千葉県立北総高等学校通称北高。


 その敷地の端にポツンと建つ古い木造校舎の一室では、この部屋を部室として占拠している関係者たちが唯一の男子部員が自信満々に披露する恥ずかしすぎる宴会芸を堪能しながらとりとめのない会話を楽しんでいた。


 それはまったく中身のないものである。


 しかし、彼女たちのことをよく知るすべての北高関係者は口を揃えてこう言う。


「部活動がおしゃべりをしているだけ?結構なことではないか。彼女たちがお菓子を食べて雑談しているだけで済むなら我々にとってこれほど幸せなことはない」


 教師たちが畏怖する彼女たちが属する組織。


 その組織こそ、悪名高き創作料理研究会であり、それを統べるのが、小野寺麻里奈なのである。


 さて、今回は不沈とうたわれた麻里奈が撃沈する珍しい話であるとともに、北高と南高の運命を左右する大きな出来事にも繋がるエピソードである。




 その日の放課後の部室。


 掃除当番だった恭平不在のなかでその話は始まる。


「まりん、そんなに怒ってどうしたの?」


「これを怒らずにいられるものか」


「いや~恵理子先生にも見せたかったよ。あの愉快な光景を」


「まったくです」


「何が愉快だ。私はちっとも面白くなかったぞ。バカどものおかげでとんだ恥を掻いた」


「いやいや彼らは何も悪くないぞ」


「そのとおり彼らに罪はありません」


「いいえ。私はそう思いません。彼らの責任は重大です」


「そう言ってくれるのはうれしいけど、だいたい原因の半分はまみたんだろうが」


「そ、そうですね。すいません」


「だから、何がどう面白かったのよ。春香、わかるように説明してよ」


「わかった。では、傾聴せよ。おばさん教師」


「だから、おばさんじゃないから。とにかく話をしてよ」




 それから、五分後。


「アハハ。なるほど、確かにそれは面白いね」


「そうでしょう」


「ここはやはり同じ創作料理研究会部員として恭平君にも親切丁寧にことの顛末を教えてあげなければなりませんね」


「もちろんだ」


「ふざけるな。認めん。それだけは絶対認めん」




 麻里奈だけがプリプリと怒り、恐縮するまみを除く他の全員が大爆笑するその面白過ぎる光景は、この日の昼休みに起こっていた。


「小野寺麻里奈。話がある」


「いきなり女子ひとりを男子七人で取り囲むとはおまえたちの腐った人間性にふさわしいすばらしい所業と褒めてやろう。せっかくやるのならこれくらいのハンデがないと面白くないから果し合いは間違いなく受けてやる。だから、まずは自分たちが何者なのかを名乗れ」


「そうだな。では、俺から。俺は名門北高野球部キャプテン寺田だ。そして残りも全員野球部員だ」


「野球部?さすがに野球部に果し合いを挑まれるほど恨まれることをした覚えはないぞ。まあ、いい。それで果し合いの日時と場所は?」


「いや。別に果し合いを申し込みにきたわけではなく……」


「じゃあ、何の用だ。私はおまえたちと違って暇ではないのだ。もったいぶらずにさっさと要件を言え」


「そ、そうか。それは済まなかった。では、要件を言う。明後日におこなわれる我々野球部の試合の応援に来てもらいたい。……ということで。お願いします」


「お願いします」


「……はあ?意味がわからん」

 

 麻里奈には自分たちの意図がまったく伝わっていないことに気がついた副部長が寺田に耳打ちすると、彼は頷き、咳払い後再び口を開く。


「実は夏の大会で伝統ある我が北高を生きた化石などと侮辱する忌々しい南高と対戦が決まった。本来なら我々の手でやつらの下品な口を塞ぎたいところなのだが残念だがそうはいかない。なにしろ相手は優勝候補の一角。対する我々は一回戦コールド負けの記録を更新中だ。悔しいが彼我の実力差は大きく今回もコールドゲームは免れない」


「南校が強いかどうかは知らないけれど、北高の野球部が強いとは聞いたことはないし、あんたたちを見ればどの程度のレベルかはおおよそ想像できる。まあ、そういうことなら順当な結果でしょう。それで?」


「だが、ただ南高のかませ犬になるだけではあまりにも空しい。そこで我々は考えた。三年生の最後の公式戦となるその試合がよい思い出となるようにするにはどうしたらよいのかと」


「そんなつまらんことを考えている暇に練習しろと言いたいところだが、まあいい。それで無い知恵を絞って考えた結果がそのお願いなのか?」


「そういうことだ」


「愚かだ」


「たしかに愚かだ。だが、これは我々だけでなく部員全員の総意なのだ。そういうことでもう一度お願いする。応援に来てもらえるようにならないだろうか?」


「行くわけがないでしょう。あんたたち、本当に私が定期試験前に授業を休んでまで縁もゆかりもないあんたたちヘボ野球部の応援に行くと思っているの?」


「……はあ?」


「おい。頼んでおいて『はあ?』とは何だ。無礼者」


「すまん。だが、一応言っておくと、我々が来てもらいたいと思っているのは小野寺ではなく松本まみなのだが」


「えっ?」


「いや。だから我々が応援に来てもらいたいのは松本まみだ」


「まみたん?あんたたちが来てもらいと思っているのはまみたんなのか?」


「もちろんそうだ。だが、松本本人に頼んだら小野寺の許可を取ってくれと。その際には揉め事にならないように丁寧にお願いするようにとアドバイスまでもらっている。だからこうして丁寧にお願いしているわけで……それで、どうだろうか?」


「……あ、な、なるほど。……そういうことなら考えてみる」




「笑えるでしょう」


「うん。勘違いに気がついて顔を真っ赤にしたまりんの哀れな姿が目に浮かぶよ」


「どこが笑えるのだ。だいたい、春香。あんただってあんな言い方をされたら野球部の男どもが応援に来てもらいたいと思っているのは自分だと思うでしょう?」


「いや、全然思わん」


「嘘をつくな」


「ヒロリンだってあんな恥ずかしい勘違いはしないよね」


「当然です」


「まったく友達がいのないやつらばかりだ。だが、それもこれもすべてヘタレ野球部が変な頼みかたをしたのが悪い。こうなったら、創作料理研究会全員であのヘタレどもが衆目の中で晒す醜態を笑いものにするために試合会場に乗り込んでやる。ヒロリンはあのバカどもに応援に行ってやると伝えて。それから先生は校長の許可を取って。もちろん全員分の」


「ラジャー」




 ……ナイスです、まりんさん。これは使えます。

章のタイトルはトッド・ラングレンの曲より。

ちなみに、私が好みなのはオリジナルのスタジオ版ではなくライブでのピアノの弾き語りバージョン。

アコースティックギターのバージョンもよいです。

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