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小野寺麻里奈は全校男子の敵である  作者: 田丸 彬禰
番外編 A Dream Goes On Forever Ⅰ

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The Dark Side of The Moon 17

 ……私です。あなたにやってもらいたいことがあります。


 ……なんなりとお申しつけください。


 ……明後日、北高と南高の野球の試合があるのは知っていますか?


 ……もちろんです。職員室内では何点差で勝つかを賭ける無礼な輩までおります。その試合の話をするということは、それに関係する工作でしょうか?……わかりました。野球部員全員に一服盛って南校を敗北に追いこみ傲慢なサルどもに恥を掻かせるということですね?


 ……いいえ。たかが野球部の試合ごとき、どちらがどれだけ勝っても構いません。


 ……では、どのようなことでしょうか。私はお嬢様の僕。命じられたことはどのようなことでもおこないます。そのために南校に入っているのですから。


 ……ありがとうございます。あなたの覚悟はよくわかりました。しかし、今回はそれほど難しいことではありません。


 ……といいますと?


 ……まみたん。いえ、松本まみがその試合を応援に行くとある人物に伝えてもらいたいのです。ターゲットはわかりますよね。


 ……もちろんでございます。学園長でもある理事長の次男南沢博道。


 ……そのとおりです。年齢差も考えずまみたんに懸想しているというあの変質者を野球場まで連れてきてもらいたいのです。


 ……承知いたしました。その後はいかがいたしますか?


 ……必要があれば連絡しますが、おそらくその後はかの者が私の希望通りに動いてくれるでしょうから、あなたは何をしなくてよいはずです。


 ……承知しました。ところで、お嬢さまにお伺いしたいことがひとつあるのですが、お聞きしてよろしいでしょうか?


 ……どうぞ。


 ……これにどのような意図がおありなのでしょうか?それによってやり方を微妙に変える必要がありますので是非。


 ……わかりました。目的はふたつあります。ひとつはエサ蒔きです。博道もまみたん本人を間近で見たことがないでしょうから、本人に会わせてさらなる暴走を誘います。そして、もうひとつは。


 ……はい。


 ……その博道という男の為人を確かめたいのです。あなたたちからの情報でその男が相当のゲスであることはわかっていますが、やはり一度は自らの目でそれを確認するべきだと思いまして。


 ……なるほど。ありがとうございます。よくわかりました。


 ……では、よろしくお願いします。


 ……お任せください。かの者がお嬢様の前で醜態を晒すよう精一杯尽力させていただきます。




 その日、その男は高校野球の地区予選が行われている球場にやってきていた。


 建前上は自らが学園長を務める高校の野球部の応援ということになってはいたが、彼がこの場所にやってきた本当の目的は別にあった。


「おい、梅田。本当に松本まみが来ているのだろうな」


「はい。昨日貧乏学校の弱小野球部の部員どもが『松本まみが応援に来るので頑張る』と話しているのを聞きました」


「だが、それらしいのはいないぞ。というか、遠くて見えない」


「どうぞこれをお使いください」


 その男に隣に座る梅田と呼ばれた若い男が差し出したのは双眼鏡だった。


「気が利くな。では、さっそく捜索するか」


 そう言うと、男は奪い取るように双眼鏡を掴むと自分たちとは反対側にあたる三塁側のスタンドを物色し始めた。


 まもなく、目的の人物の姿が彼の目に留まる。


「いた。いたぞ」


「それはよろしゅうございました」


「やはりかわいいな。松本まみは。ん?あれは誰だ?」


「誰と言われても……」


「松本まみの隣にいる背の高い女だ。なんだ、松本まみがその女にべったりとくっついているではないか。おい、離れろ」


「どうしたのですか?博道様」


「こうしてはいられない。行くぞ」


「どこに?」


「もちろん松本まみのところだ。松本まみの隣にいる女にいかがわしい行為をやめるように注意する」


「しかし、今の話ではそのいかがわしい行為をおこなっているのは松本まみではないのですか?」


「いや。あれはあの女に強要されているのだ」


「なるほど」




 ……さすがお嬢様。読み通りでございます。




 そして、それから十五分後。


「私だ。監督であるおまえに学園長として命じる。北高に勝たせろ。違う。北高に負けろと言っているのだ。勝ったらおまえはクビだ」




 麻里奈たちの席までやってきたその男の身に何が起こったのか。


 それは……。




「……ということは、私たちとお茶がしたいということですね。それでは、こうしましょう。この試合で北高が南高に勝ったらその話を受けることにします。まみたんを含めて私たちは全員負けることが大嫌いなのです。わざわざ授業を休んで応援に来た野球部の負け試合を観た後に飲むお茶などありません。まして、わが校を破ったチーム関係者などまったくの論外というものです」




 ……残念でした。


 ……そもそもレベルが圧倒的に違う相手に勝てるわけはないのです。実力通りの、いや実力以上の結果だったと思います。問題は何もありません。


 ……ですが。


 ……心配しないでください。本当に私は勝ちたいと思っていたわけではなかったのですから。


 ……では、あの言葉にはどのような意味があったのでしょうか?


 ……目の前に人参をぶら下げてあの男が監督に自チームが負けるよう強要するように導きたかっただけです。そういう意味では大成功といえます。それに、北高側にとってはすべてがよかったのではないでしょうか。本来ならば五回コールドゲームになるはずが、九回まで試合ができて、負けたとはいえ三点差まで詰めよったのですから弱小野球部としては大満足の結果だったのではないでしょうか。私たちとしても善戦したとはいえ予定どおりに彼らは負けたので嫌な相手と時間を過ごさなくて済みましたし。


 ……一方の南高にはマイナス要素しか残らない。


 ……そういうことです。負けるように強要された監督。コールドゲームのはずが自らの地位確保のためにおこなった監督の不可解な采配と選手交代でもう少しで負けそうになった選手たち。お互いを信じられなくなり疑心暗鬼の嵐がチーム内に巻き起こることでしょう。


 ……あの一言だけで南高に数多くの亀裂が入ったというわけですね。お見事です。


 ……しかも、結局あの男の望みは叶わなかったわけです。あの男の傲慢な性格では、自分の希望通りに動かなかった野球部を逆恨みすることでしょう。


 ……さすがです。ですが、私には心配事がひとつ。


 ……何でしょうか?


 ……友人の前で多少とはいえお嬢様の実力を示したことにはなりませんか?


 ……それは心配する必要はありません。そもそも北高が南高に勝つはずがないという前提があれば、単純に断る理由にしか聞こえませんから。私の意図に気がついたのはまりんさんぐらいでしょう。そのまりんさんだって私がそれをおこなった理由は知らないわけですから、まみたんに引き寄せられたあのゲス男に対する嫌がらせ程度にしか思っていないはずです。


 ……南沢のほうはどうですか?


 ……問題外です。そこまで頭が回る男ならこんな単純な手には引っ掛かりません。


 ……なるほど。


 ……しかし、あの単細胞動物は使えます。最後まで生かして南校を内部から腐らせる道具としましょう。


 ……腐ったみかんですか。あの男にふさわしい役回りと言えるでしょう。では、私はそのお手伝いをさせてもらうことにします。まずは入った亀裂を広げる努力をすることにいたします。


 ……よろしくお願いします。




 さて、最後にこの試合を戦った両校の野球部を含む運動部のその後について簡単に述べておこう。


 まず不可解な戦いに終始し辛くも勝利した南校だったが、この試合で起こった監督と選手との軋轢が簡単に解消されるはずはなく次戦であっけなく敗退する。


 さらに、それと時を合わせるように監督の八百長疑惑が流れると、不完全燃焼での敗退を余儀なくされた野球部の一部選手がそれを肯定する発言をしたことから大騒ぎとなり、監督の辞任にまで発展するのだが、感染は止まらない。


 この後におこなわれた他の競技でも不甲斐ない戦いぶりでの予選敗退と大小さまざまな不祥事の発覚による公式戦出場停止という負の連鎖が続き、スポーツ特待生としてこの学校の入学を目指していた生徒たちも黒い噂ばかりが渦巻くこの学校を避けるようになる。


 もちろん後半部分はそのすべてが博子の指示を受けた者たちがおこなった蠢動によるものであるため、実はこれこそが南高凋落の最初の出来事として知られているこの年の文化祭よりも先におこなわれた博子による最初の南高崩壊工作活動の結果ということになるわけなのだが、いずれの場合も彼らがそれをおこなった痕跡を残すはずはなく、結果として南高崩壊の歴史を語る資料のどこにもそれらが語られることがないまま真実は闇に葬り去られることになる。


 一方の北高側のその後であるが、こちらについては確かに「神の見えざる手」による僅かな助力はあったものの、それを除けばまったくの偶然といくつもの幸運がそのすべてを支配するものとなる。


 まずそれは裏事情を知らない野球部関係者たちが自分たちの予想外の善戦は応援に駆けつけてくれたまみのおかげであると「松本まみ 勝利の女神説」を唱えたことから始まる。


 偶然は続く。


 その噂を聞きつけた男子バレー部顧問から袖の下をもらった恵理子に連れられた創作料理研究会関係者がたまたま応援に出かけた試合で彼らは番狂わせを演じたのだ。


 もちろんそれは彼ら自身の努力と幸運の賜物であったのだが、彼らが口にしたのはまたも「松本まみ 勝利の女神説」であった。


 こうなるともう止まらない。


 その後は雪だるま式に噂が噂を呼び「松本まみ 勝利の女神説」はついに神話の領域にまで昇りつめる。


 だが、北高運動部の奇跡はまだまだ終わらない。


 翌年の春。


 以前なら南高に入っているような才を持つ者が前年の文化祭の騒動よって全国的にも知られるようになったまみと麻里奈という創作料理研究会の二女神に祝福されたいというやや不純な動機によりあらたに新設されたスポーツ特待制度を利用して北高に大挙してやってきたのだが、野球部に入部したその中のひとりがとんでもないダイヤモンドの原石だった。




 そして、一年後。


 それが起こるのである。

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