↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/51

第一話 農作業帰りに女の子を拾ったよ

20261023 毎日投稿実施中です。

 俺がこの村に生まれて二十五年、村の外に出たことはない。

 今日は春に向けて畑の準備に朝っぱらから出ていたわけだ。

 本当は村長であるじっちゃんが来るはずだったのに、腰を痛めて、今頃布団で寝ている。

 

 『こ、腰〜。ラグル……やらかしたわ』

 

 今年で”九百九十九歳”なんだからさ。

 

 「たく、若い奴らに混ざって酒飲んで暴れて、椅子から転げ落ちて、ぎっくり腰とか」

 

 歳を考えろ。ジジイなんだからよ。

 と、頭の中で愚痴ってたら、種まきが終っていた。

 

 荷物を片付けて、さて、帰ろう。

 

 帰り道は森に囲まれた道を通らなくてはいけない。

 この辺はまだ安全だが、少し奥に行けば魔獣がひしめき合っている。

 種まきも命がけで、村に帰るまで気が抜けないのだ。

 

 くんくん――

 

 この辺で魔獣同士の争いでもあったのか?

 

 生臭くて甘い匂いがする。

 狩りに行くとしょっちゅう血の匂いを嗅いでいたが、少しだけ獣の匂いとは違う。

 

「これは……」

 

 最初に目に入ったのは、折れた木々だった。

 太い幹が中程から倒れていて、血を吸ったように赤黒くなっている。

 

 血の匂いにおびき寄せられたのか、獣の鳴き声もそこかしこから聞こえ、体の筋肉が少しこわばった。

 

「あっ、ゴンタかハナコが、勝手に狩りでもして、やらかしたか?」

 

 あの二人はわんぱくだからな。

 百五十歳を越えてるのに、思春期真っ只中だ。

 

 言うことを聞かないったら、ありゃしない。

 

「おりょ?」

 

 折れた木のお陰で普段は入らない場所に、太陽の光が差し込んでいる。

 

 そこには、白と赤の服を着た人が倒れていた。

 

「ん〜、誰だこれ?」

 

 仰向けに倒れた女性の顔を覗き見る。

 片腕はキレイに切断されていて、その辺に転がっていた。

 片方の目には矢が突き刺さり、端正な顔立ちが台無しである。

 

 赤いと思ってたのは、彼女の血の色で、本当は綺麗な服だったのだろう。

 

「可哀想に」

 

 この子は外から来たのだろうか。

 上から下まで、なぞるように視線を動かした。

 

「何か……手に持ってる? って、取れないや」

 

 彼女の残った手の中には、緑色の宝石のような物が握られていた。

 俺は確かめるために、それを取ろうとしたが、死んでいるはずの手は強く握られていた。

 

「大事なもんだったんだなぁ……ちゃんと弔ってやんないと」

 

 彼女を抱きかかえるために、頭の下に手を伸ばす。

 

「……け、て」

「あれ? 声? まだ生きてる?」

 

 そう声をかけると、潰れていない方の目が薄っすら開く。

 

「なんだ〜。早く言ってよね――はい」

 

 手を叩くと、静かな森の中に乾いた音が響く。

 

 大きい魔法陣一つと、小さい魔法陣が六つ。

 大きい方を起点として、緑色の光が周囲を照らした。

 

「良かった、良かった。ちょっと痛いかもしれないけど――ごめんね」

 

 目に刺さった矢へ手を添えた。

 小さい魔法陣を左手で掴むと彼女の目に当てる。

 別の魔法陣で、転がっていた腕も繋ぎ合わせた。

 

「うぐっ……!」

 

 短い悲鳴を漏らすと、彼女はそのままぐったりとして動かなくなった。

 

 ◇

 

「じっちゃん、ただいま〜。人拾った〜」

「ラグル、おかえり。人は拾っちゃダメだぞ」

 

 元あった場所に返して来なさい、と布団にうつ伏せになって、顔だけをこっちに向けてそう言ってくる。

 

「だって、凄い怪我してたからさ」

「だめだ、だめだ。この家はペット禁止なんだからな」

 

 イラッとして、ドスドス音を立てて近づいて行くと、俺がしようとしていることを悟ったのか、じっちゃんの顔は引きつっていた。

 だけど気にしないで、湿布まみれの腰を踏んでやった。

 

「――――っ!」

 

 じっちゃんは声にならないらしく、悶え苦しんでいる。

 

「さっさと自分で治せよ。クソジジイ!」

 

「うぅ〜……孫が不良になってしもうた」

 

 俺は自分の布団を敷いて、少女をその場に寝かせる。

 

 くぅくぅ、と小動物のような寝息を立てていた。

 だけど、たまに苦しそうな顔をする。

 

「悪夢でも、見てるのか?」

 

 額に滲んだ汗をすっと拭って、冷たいタオルを頭に置いてやった。

 

「――おーい、ラグル! 村長! お客さんが来てるぞ〜!」

 

 玄関を軽く叩かれて、俺とじっちゃんが呼ばれる。

 

「じっちゃん、客だってよ!」

 

「ふぃ! もう拗ねちゃったもんっ! ラグル嫌い!」

 

 子供か、お前は。

 盛大に声を上げそうになったが、視界の隅に静かに寝ている彼女を見て、ぐっと堪える。

 

「たく……は〜い。今、行きます」

 

 玄関を開けると、見たこともない、黒ローブを纏った男が立っていた。

 

「えっと? ゴンノスケ、この人達、誰?」

 

「さぁ? 人を探してるらしいぞ」

 

 ゴンタの兄のゴンノスケだった。

 

「おい! お前! 白いドレスの女を見なかったか!」

 

 五人のうち、真ん中に立っていた一人が前に出ると声を大きくして言ってくる。

 

「あ? もしかして、倒れてた女の子かな?」

 

 俺はそう呟いた。

 

 瞬間――そいつらから殺気が漏れる。

 

「――渡せ」

 

 前に出た男が胸からナイフを取り出して、俺に突き付けてくる。

 

「あ〜、ちょっと忙しいから。じゃっ!」

 

 めんどくさくなって、彼らに背を向けると、扉にナイフが突き刺さる。

 

「危ないよ?」

 

 手でも滑ったのかな、ってことにしておこう。

 あまり家の前で暴れて欲しくないんだよ。

 家、壊れるし。

 

「なあ、ラグル。後は任せていいか? 子牛が産まれそうなんだよ」

 

「え!? マジ!? 産まれたらお祝いしようぜ!」

 

「ああ! ごめん! その人達よろしくね!」

 

 今日、この村に新しい命が産まれるそうです。

 

「あ、みなさんも、今日はお祝いしようと思うけど、参加する?」

 

 と、軽く言葉をかけてみたが、鋭い目で俺を睨んでくるだけだった。

 ヘラヘラと笑みを浮かべてもだめ。

 

「なめてるのか? 我らは”ニヒト=ドラグーン”様、直属の部隊。逆らったらどうなるか分かってるよな?」

 

「ニヒト=ドラグーン……だとっ!?」

「はは! 分かったなら観念して、女を渡せっ!」

 

 誰だ?

 

「――誰だ?」

 

 心の声が漏れた。

 ずっと田舎暮らしなんで本当に申し訳ないと思う。

 

「馬鹿にしてるのか!? 王位継承第二位、ニヒト=ドラグーン様だぞ!」

「ん〜……かっこいい名前だね」

 

 褒めとけばいいな。

 適当に会話をしていると、俺の背後にあった扉が開いた。

 

「――いたっ!」

「え? あっ! ごめんなさい!」

 

 扉から顔を覗かせたのは、さっきまで意識を失っていた少女だった。

 俺の後頭部に、こいつらが投げたナイフの柄がゴリゴリ当たる。

 

「やっと、見つけたぞ! ロラーナ王女殿下――その命もらい受けるっ!」

 

 五人が扉から出てきた少女に向かって、ナイフを投げてきた。

 

「コラッ! 当たったら怪我するでしょ!」

 

 だから、飛んできたナイフを返してあげた。

 

「家も傷ついちゃうからさ、やめてほしいな」

 

 できる限り愛想よく、微笑みかける。

 

「くっ! お前ら散開しろ。対大型魔獣用、術式を準備しろっ!」

 

 男が合図をすると、地面に刺さったナイフも拾わず飛び上がる。

 五人全員が揃って右手を前に突き出した。

 

 手の平に魔力が集まっていく。

 

「――やめて! 他の人を巻き込むつもり!?」

 

 少女が俺の前に出てそう叫ぶ。

 

「はっ! コイツがさっさと渡さないのが悪い」

 

 指揮を取っていた男の口元が、吊り上がる。

 

「死ねっ。滅龍砲アボロ――」

「はい、だからやめてね」

 

 俺は手を叩く。

 お家無くなっちゃうからさ。

 魔力が宙に四散して、溶けるのを確認するとほっと胸を撫で下ろす。

 

 家壊されたら、じっちゃんの腰痛悪化するからさ。

 

「お前……何をした?」

 

「魔法を消しただけだよ? なんか雑な術式だったから、簡単に壊せそうだったし」

 

 俺がそう言うと、振り向いた少女すらも驚いた様子で、目を大きく開いていた。

 

「あなたはいったい何者……なんですか?」


 ——————

 ————

 ——


『ニュースです。本日未明、世界各地に緊急事態宣言が発令されました。不要不急の外出を控え、人との接触を避けてください。繰り返します……』 


 ………… 

 ……

 

『世界的パンデミックにより、人類の八割が感染。致死率――現在もワクチンの開発は継続しており、来月より試験を開始します』

 

 …………

 

『――ワクチンの開発に成功しました! これで、世界は救われます!』

 

 テレビから聞こえるニュースキャスターの高い声が響く。 


 ――――

 

『ご覧ください。こちらは、超能力と思しき力に目覚めたという男性の映像です――』

 

 映し出され映像の奥に、男が何もないところから火を出したり、空を飛んだりしている。

 

 …………

 

『――ついに、勇者と魔王による戦いが……終わりました。どれほどの人達が死に……苦しんだのでしょうか。みなさん――哀悼の意を捧げましょう』

 いつもお手に取っていただきありがとうございます!

 よろしければ、ブクマ、評価、感想をいただけると励みになります。


 毎日投稿いたしますので、よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。