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雷龍討伐戦①

「昨夜はお楽しみでしたね」

「……誤解を招くようなことを言うな」


 雷龍討伐に向けて出発して早々、昨日のことを見ていたらしいカーライルが冷やかしにやって来た。


「でもまあ、公爵として女性に興味を持ち始めたのはいいことだな。兄貴もリオンも、これまで女にはまるっきり興味を示さなかったし。まあ、二人とも同じ相手ってのは少し問題だけどな」

「そんなつもりはない。リリイはあくまで雷龍討伐の協力者だ」

「ああ、そうかよ。しかし、そうなると早いところ俺たちへの誤解を解かないとな」


 カーライルは、俺の言葉を聞き流し、すでに俺とリオンがリリイを意識していることを前提に話を進めている。

 これ以上否定しても無駄だと悟った俺は、小さく溜息を吐いた。


「それより、気を引き締めろ。雷龍は油断して勝てる相手ではないぞ?」

「分かってるよ。でも、そんなに気を張り詰めていても勝てる相手じゃないだろ? 今日の兄貴、だいぶ顔が強張ってるぜ?」


 そう言われて初めて、俺は自分が思っていた以上に緊張していることに気づいた。

 だが、無理もない。あれほど強かった父でさえ敗れた相手なのだから。


 以前の戦いに参加した騎士たちと違い、俺たちは雷龍を実際に見たことすらない。

 話には聞いていても、その脅威がどれほどのものなのか、未だに測りかねているのだ。


「安心しろよ。雷龍がどれほどの化け物だろうと、当主様は俺が命に懸けても守ってやるから」


 そう言って、カーライルは真剣な表情を浮かべた。

 なるほど、こいつも緊張しているんだな。

 それでも、俺の緊張を和らげようと、いつものように明るく振る舞ってくれていたのだ。


「ああ。だが、絶対に皆で生きて帰ろう」


 俺がそう告げると、カーライルも力強く頷いた。

 それから俺たちはさらに進軍を続け、雷龍が潜む岩山の近くまでやって来ると、そこで一度進軍を止め、斥候を放つ。

 やがて戻ってきた斥候から雷龍の存在を確認したとの報告を受けると、俺は改めて皆に声をかけた。


「では、これより雷龍討伐作戦を開始する。作戦は昨日話した通りだ。まず狙うのは、奴の力の源である鼻先の角の破壊だ。最初に俺とリリイで奴に奇襲を仕掛け、それに合わせて騎士団長率いる部隊が突入し、雷龍の足止めを行う。その間に、カーライル率いる部隊とリオン率いる魔術師部隊は魔弾砲の準備を進めろ。」


 そこで一度言葉を切り、皆の顔を見渡した。


「いいな? では、行くぞ!」


 俺の号令に騎士たちが威勢よく応じると、各部隊はそれぞれの役割を果たすべく動き出した。

 俺とリリイも斥候から得た情報を頼りに、雷龍の姿を確認できる場所まで移動する。


「あれが雷龍か……」


 岩陰に身を潜め、雷龍の様子を窺う。

 どうやら奴は眠っているようだ。

 今なら奇襲を仕掛ける絶好の機会だろう。


「よし、ではタイミングを見計らって飛び出すぞ。準備はいいか?」


 俺は今一度、リリイに確認する。


「……」


 しかし、返事はなかった。


「リリイ?」

「え?あ、はい。大丈夫です」

「何か気になることでもあるのか?」

「気になるというか……あの雷龍、なんだか体格が……」


 そう言って、リリイはもう一度雷龍をじっと観察する。


「……考えても仕方ない……か。分かりました、では行きましょう」


 リリイは小さく首を横に振ると、改めてこちらに頷いた。

 それを合図に、俺たちは同時に岩陰から飛び出し、雷龍へと奇襲を仕掛ける。

 だが、奴もすぐにこちらの気配を察知したのか、目を覚ますなり凄まじい咆哮を上げた。

 その瞬間、俺たちは地面を蹴り、大きく横へと跳ぶ。

 直後、まるで咆哮に呼応するかのように、俺たちがいた場所へ雷が降り注いだ。


 ……よし。うまく回避できた。


 事前に聞いていた情報のおかげで対処できたが、直撃していれば開始早々、倒れていたかもしれない。

 だが、俺が避けるだけで精いっぱいなのに対し、リリイは雷をかわしながらも、そのまま雷龍との距離を詰めていく。

 そして、鼻先の角を狙い、剣を横薙ぎに振るった。

 剣と角が激しくぶつかり合い、その衝撃が離れた場所にいる俺にまで伝わってくる。


「なんて衝撃だ……」


 あれほどの一撃なら、山すら斬り裂けそうなものだ。

 だというのに、雷龍の角にはわずかな傷がついただけだった。


「……やはり、通常の攻撃では無理ですか」


 後退したリリイがそう呟く。

 それを確認した俺は片手を上げ、待機している騎士たちに合図を送った。

 すると、作戦どおりに騎士団長率いる部隊が一斉に姿を現した。


「行くぞ、ウォールナット騎士団! 亡きフウゼル様と、散っていった仲間たちの弔い合戦だ! 魔弾砲なんぞに頼らず、我々の手で討ち取るつもりでかかれ!」


 騎士団長が声を張り上げると、それに応えるように騎士たちも雄叫びを上げ、一斉に雷龍へと突撃を開始した。


 雷龍の落雷攻撃には、次の一撃までにある程度の間隔がある。

 そのため、しばらくは上空からの落雷を警戒する必要はない。


 しかし、それで雷龍の雷撃が封じられたわけではなかった。

 奴は角に蓄えた電気を放出し、迫り来る騎士たちを次々と迎え撃つ。


 落雷に比べれば威力は劣るものの、直撃すれば体が痺れ、身動きが取れなくなるほどの強烈な一撃だ。

 その攻撃を受け、騎士たちが次々と倒れていく。


 だが、それも想定の範囲内だ。

 むしろ、リリイが雷龍に隙を与えまいと攻撃を続けているおかげで、被害は予想よりも少なく済んでいるくらいだ。

 俺たちは怯むことなく、雷龍に立ち向かい続ける。


 やがて、カーライルから準備完了の合図が送られてくると、それを確認した俺たちは、リリイだけを残して一斉に後退すると、リリイは雷龍の巨体に向かって剣を大きく振りかぶり、渾身の一撃を叩き込んだ。

 当然の如く、剣は弾かれるが、その衝撃によって雷龍の動きが一瞬だけ止まった。


「今だ!放て!」


 カーライルの合図とともに、魔砲撃が放たれると、凄まじい威力の魔力弾が雷龍の角を目掛けて飛んでいく。

 しかし、わずかに軌道がそれる。

 するとそれにい早く気付いた、リリイが雷龍の顔面を剣で殴りつけた。


 その衝撃で雷龍の頭が動き、外れるはずだった魔力弾が鼻先の角を直撃する。

 雷龍の悲鳴が周囲に響き渡るとともに魔力弾が直撃した角は、音を立てて砕け散った。



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