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派遣のお仕事①

 ――カリーナ視点


「お嬢様、何故エリーなのですか? キリアン様のメイドが足りないというなら、ぜひ私を寄越してほしかったです。」


 私は、本邸から一人で戻ってきたお嬢様に、紅茶を差し出しながら不満げに抗議する。

 せっかく、キリアン様とお近づきになれるまたとない機会だったというのに、お嬢様が派遣したのは私ではなくエリーだった。


 ……確かに、仕事ではエリーの方が一枚上手かもしれない。

 それでも、他家のメイドと比べれば、私だって十分優秀なはずだ。


「だって、これは罰ですもの。あなたが行ったんじゃ、罰にならないでしょう?」

「確かにそうですけど、そもそも私は手を出していません。罰を受ける必要はないと思うのですが?」

「でも、最初に煽られて動こうとしたのは、あなたではなくて?」

「ぐぬぬぬ……」


 そう言われると反論に困る。

 あのまま続いていたら、手を出していた可能性は否定できない。

 ……だって、あいつ本当にムカつく奴だったし。


 ミリエラとは、伯爵令嬢時代に何度か顔を合わせたことがあったが、姉のサチアとはまた違う、陰湿さがある女だった。


 特に忘れられないのは、以前パーティーで令息と話していた時のことだ。

 私は突然後ろから突き飛ばされ、そのままテーブルへ盛大に突っ込んだのだが、その際、自分で転んだことにされた挙句、騒がせたとして皆の前で謝罪をさせられたことがあった。


 あの屈辱は、思い出すだけでも未だに腹が立つ。

 だから、エリーがあいつをぶん殴った時、少しすっきりしたのも事実だった。


「そもそも、あなたが行ったところで数日程度じゃ何もできないでしょう?」

「そ、そんなことは――」

「できるのなら、今頃王子の側近とそれなりの仲になっていてもおかしくないじゃない」

「ぐはっ……」


 また痛いところを突いてくる。

 た、確かに私は、レオンハルト殿下の側近であるクレス様と仲良くなろうと、かなり積極的に動いていた。

 ……なのに何故か最近は、話しかけるたびに距離を取られていた。


 私がお嬢様の一言にダメージを受けていると、扉の外からドタドタと騒がしい足音が響いてきた。

 そして勢いよく扉が開くと、部屋にアリサが飛び込んでくる。


「お嬢様!エリーが、キリアン様のメイドになったというのは本当ですか⁉」

「ええ、一時的だけどね。」


 お嬢様は淡々と答えると、紅茶をすする。


「ああ、なんてこと――」


 そして、その言葉を聞いたアリサは膝から崩れ落ちた。


「別にいいじゃない。人が来るまでだから、せいぜい十日ほどよ。」

「駄目よ、何日経っても何もできないカリーナと一緒にしないで!」


 ――グサッ


 流れ弾のような一言が私の心に突き刺さり、私はその場で項垂れた。


「エリーは、他のメイドと比べても飛び抜けて優秀なのよ。そんな彼女をキリアン様の傍に置いたら、一体どうなるか――」


 アリサが、頭を抱えて生気のない目でぶつぶつと語り始める。

 またいつもの発作が始まったか。


「最初は特に気にも留めないかもしれません。いえ、むしろお嬢様のメイドとして冷たい態度を取る可能性すらあります。ですが全く靡かないエリーに、次第に興味を抱き始めるのです。そして、共に過ごすうちにエリーの有能さや優しさに惹かれていき、気づけば彼女の姿を目で追うようになる。そして約束の期日になり、やがて、去ろうとするエリーを後ろから抱き締め――『俺は、お前を手放したくない』

『ずっと、俺の傍にいろ』――みたいな展開にぃぃぃぃぃっ!いやあああああああああああああああああ⁉」


 アリサが血の涙を流しながら絶叫した。


「……相変わらず、想像力豊かね。」

「ね、ねえアリサ、ちなみに私だったらどうなっていたと思う?」

「あ、カリーナはすぐに顔に出るから、些細な気遣いをしたところで、下心があると思われて気に留めないと思うわ。寧ろ警戒されるくらいだと思う。」

「ぐふぅ⁉」


 妙に真顔なアリサに淡々と現実を突きつけられ、私は思わず吐血した。


「ま、なくはない想像ね。」

「はい。だからこそ、エリーを派遣するのは危険だと思うのです。お嬢様は、エリーがいなくなってもいいのですか?」

「そうね……エリー自身がそれを望むのなら、私は構わないわ。」

「え?」


 予想外の返答だったのか、アリサが言葉を詰まらせる。


「だって、私が望んでいるのは、あなた達の幸せだもの。エリーがお兄様の事を好きというなら、私が口を出すことじゃないわ。」

「いいえ、そんなことありません! だってエリーは、お嬢様のことが大好きですなんですから!」

「なら問題ないでしょう?」

「それは――そうですが……」

「それに、それはあくまであなたの想像よ。可能性があるってだけの話。そもそも、三年も一緒にいたのに、たった数日で心変わりするようなら……最初からその程度だったということよ。だから、もっと楽観的に考えなさい。」


 それだけ言うと、お嬢様は再び優雅に紅茶を口にした。


 ――


「という事で、しばらくの間、こちらでメイドをすることになりました。エリー・トワイトです。よろしくお願いします。」


 私が頭を下げると、ぱらぱらと拍手が起こった。


 今この屋敷にいるのは、キリアン様の他に、執事長のレジンさん、ベテラン庭師のジールさん、そして掃除の時に仲良くなった新人メイドのポアンとイルカだ。


「今話した通り、エリーには王都から使用人たちが到着するまでの間、期限付きで働いてもらう。その中でも、一番経験が長いということで、しばらくは私の専属メイドとして動いてもらう予定だ。食事の用意もできるそうなので、料理長たちが来るまではレジンと共に頼むことになる。」

「昨日届いた連絡では、残りの使用人たちは三日後に王都を出る予定とのことでした。順調なら十日ほどで到着するでしょう。それまで、よろしくお願いしますね。」

「はい!」


 私の評価は、そのままお嬢様の評価に繋がってしまう。

 お嬢様のメイドである以上、中途半端な仕事など許されない。

 完璧、いや、それ以上を見せなければ。

 私は気合を込め、勢いよく返事をした。




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