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反撃

「「お帰りなさいませ、お嬢様!」」


 十日ぶりのお嬢様との再会に、私とアリサは満面の笑みで出迎える。

 お嬢様の後ろには、なぜかげんなりした様子のカリーナが立っていた。


「ふふ、ただいま。二人とも。」


 久しぶりに聞くお嬢様の声と、そのお姿に胸が高鳴る。

 あまりの尊さに、興奮で思わず鼻血が出そうだ。


「お嬢様、大丈夫でしたか? 王子達に何かされませんでしたか?」

「安心しなさい。本当に顔を合わせてきただけだから。」


 その言葉に、アリサはほっとした表情を浮かべた。

 そして次に、疲れ切った様子のカリーナへ視線を向ける。


「ところでカリーナ、どうしたの?」

「……そのうち分かると思うわ。」


 それだけ言い残すと、カリーナはお嬢様に許可をもらって、そのまま力尽きたような足取りで、自分の部屋へ戻っていった。


「ところで、二人の方は何か問題はなかったかしら?」

「はい。特に問題はありませんでした。来客もありませんでしたし、トラブルもなかったです。」


 強いて言うなら、キリアン様と少し接触したくらいだろうか。

 もっとも、それも問題と呼ぶほどのことではない。

 一方、アリサは何かを思い出したように声を上げた。


「あ、聞いてください、お嬢様! 先日ギルドに顔を出しに行ったんですが、その時に――」


 アリサがギルドであった騒動の事を語りだす。

 こうして、久しぶりのお嬢様の世話をしながら、その日はあっという間に過ぎていった。

 そして翌日――。


「リリスー!」


 朝早くから、怒声とともにマライヤ夫人が屋敷へ乗り込んできた。


「あら、朝からずいぶん騒々しいわね。貴族の淑女としてどうかと思うわ。」

「黙りなさい! それよりあなた、クロエの頬を叩いたらしいわね。」


 そう言うと、夫人の後ろから顔を腫らしたメイド長が顔をだし、睨むようにこちらを見ていた。

 なるほど、カリーナがげんなりしていたのは、これが原因か。


「ええ、叩いたわ。それが何か?」

「何かですって!」


 淡々と答えたお嬢様に、夫人はさらに声を荒げた。


「公爵家のメイドが、そろいもそろって令嬢たるこの私に無礼な態度を取っていたから、メイド長の教育不足を叱っただけよ。……まあ、メイド長自身にも問題はあったみたいだけれどね。」


 そう言ってお嬢様がメイド長を見ると、彼女は小さく悲鳴を上げて夫人の後ろに隠れた。


「あなたごときが、クロエを叱れる立場だと思っているの?」

「あら。まるで私よりメイド長の方が立場が上のような言い方ね?」

「当然でしょう。クロエは幼い頃から私の世話をしているメイドよ。あなたのような出来損ないが盾突いていい相手じゃないの。」


 当然と言わんばかりに夫人は言い放つ。

 するとその言葉を聞いた瞬間。お嬢様は、クスッと小さく笑った。


「なるほど。つまり、そのメイド長の出来の悪さは、あなたの家の教育の賜物というわけかしら。」

「何ですって!」

「だってそうでしょう? メイドと、その主人である令嬢。どちらが立場が上かなんて、馬鹿でも知っていることよ。」

「ハッ、あなたが公爵令嬢なんて、誰も認めてなんか――」

「あら?わざわざ陛下と顔を合わせて、紹介まで済ませたのに。それでも認めないというのかしら?」


 その一言で、夫人の言葉がぴたりと止まった。


「正式に王の前でエトワール家の公爵令嬢として紹介された私を“出来損ない”と吹聴する?それとも勘当でもする?私はどれでも構わないけれど?」


 嘲笑を浮かべながらお嬢様がそう言うと、夫人は何も言い返せず、肩を震わせた。

 そしてその手を大きく振り上げた。


「このっ!」


 夫人が、お嬢様の頬を勢いよく引っぱたいた。

 パチン、と乾いた音が屋敷に響く。


 ……しかし。


「あら、痛いじゃないの?」


 頬を打たれても、お嬢様は微動だにしない。

 むしろ、涼しい顔のまま不敵に笑ってみせた。

 その様子に、夫人はお嬢様が今までと違う事に気づいたのか、自然と後ろに後退した。


「あなた、本当にリリスなの?」

「ええ。今までは養ってもらっていたから、素直に従っていただけだけど、もうそうする必要もなくなったからね。」


 夫人はその言葉を聞くと、ぐっと歯を噛み締めた。

 そして次の瞬間、私たちの方を鋭く睨みつけてくる。


「あなた達。この子の本性を知っていながら、報告しなかったわね?」

「……」


 私たちはその問いに答えず、ただ揃って顔を逸らした。


「……まあ、いいわ。今日は引き上げてあげましょう。でも、このままで済むと思わないことね!それと、あなた達は全員クビよ!」


 そう言い放つと、夫人はメイド長を連れて本邸へと去っていった。

 そして、屋敷には、嵐が去った後のような静けさだけが残った。


「さて、これで後戻りはできなくなったわね。今後は、あなた達は私に雇われることになるけれど……それでいいのかしら?」

「もちろんです!」

「むしろ望んでいました。」


 私とアリサがそう答えるとお嬢様が小さく微笑む、一方でカリーナは気まずそうに俯いた。


「そうね。カリーナには、少し申し訳ないことをしたわね。お詫びと言ってはなんだけど、もし望むなら公爵家の名を使って就職先を斡旋してあげるわ。今のあなたなら、どこへ行っても優秀なメイドとして働けるでしょうし。」


 お嬢様の言葉を聞いたカリーナは、しばらく考え込んだ後、大きくため息をついた。


「……就職先を探すのも面倒なので、もう少しここにいさせてください。」

「あら、そう。ならこれからもよろしくね。」


 カリーナの言葉に、私とアリサはほっと胸を撫で下ろした。

 何だかんだで、この三人でやってきたのだ。

 正直、カリーナが抜けたら困るし……やっぱり寂しいのでこれからもこの三人でやっていけるのは素直に嬉しかった。


 そして、夫人が去った数日後お嬢様は改めて、本邸へ呼び出された。

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