第12姓 覚醒
次の日の朝。
何やら喚き声が聞こえる。
「……なんだ、煩いなぁ。」
隣の部屋の戸は閉じている。
疲れて冥菜は寝ているようだ。
下に降りると……。
「萌菜じゃねーか!」
「あ、兄貴……。」
「噂は本当だったんだな!
こんないい家に入りやがって!」
「成り行きだなー。」
「何でもいい!
金だよ、金をよこせ!」
「んなもんねぇよ。」
「あの三羽扇家だろうが!
もう時間がねぇんだ!
早くしろ!」
「ですから、そのようなお金はうちにはないと……。」
「あるだろうが!」
普通に深雪お義母さんが対応してるけど、
昨日の事、夢じゃないんだよな……?
「兄貴、なんでそんなに急いでるんだ?
金なら両親のがあるだろ。」
「んなもんもう食い尽くしたんだよ!」
「あー……。」
そういや甘やかされて育ったから金遣い荒かったのか。
「その気にならせてやる……!」
「きゃあっ!」
何と深雪を羽交い締めにしてナイフを突きつけるではないか!
「兄貴! やめろ!」
「うるせぇ!」
どうする……、たぶん昨日の話が夢じゃなかったとしても
お義母さんは力を出さないだろう。
「金はどこだ!」
「強盗みたいなことしてんじゃねぇよ!」
「黙れ黙れ黙れー!」
どうする……?
今にも兄貴は手をかけてしまいそうだ。
お義母さん危ないじゃん。
「兄貴、何とか交渉してみるから……。
その人を離してくれ、頼む。」
「そんなこと言って俺を騙す気だろ!」
何を言ってもダメじゃねぇか。
こんのクソバカ兄貴、ほんとに死なないかな。
「うっ……。」
ごとん、と突然倒れる萌菜の兄。
「あれっ?」
「ふぅ、危ないところをありがとうございました。」
「い、いえ……。
あれ? 何が起きた?」
「SP、処分しておいて。」
「御意。」
なんか力ない兄貴はそのまま部屋から出されてしまった。
二人きりになったところで。
「萌菜さん。」
「あ、はい。」
「何が起きたか分かりましたか?」
「いえ、全然……。」
「あなたの力をお教えします。」
「あ、昨日の話は夢じゃなかったんだ……。」
「ふふ、夢ではありませんね。
あなたの異能は、
”深く心から願うと運命軸を変えることができる”能力です。」
「……え?」
「恐ろしい能力です。
恐らく願い方次第では私にも関与するでしょう。」
「え? 兄貴は……?」
「……そのようになりました。」
「死んじゃったの!?」
「願いの深さが相手の生きる力に勝ったのです。
そういう御力ですから。」
「危なすぎねぇ!?」
「ですから私に力を貸してほしいと願っております。」
「そういう……。」
「どうしたんですか、こんな朝早くから。」
「めーちゃん、おはー。」
「おはようございます。
あれ? さっき運ばれていた人、萌菜さんのお兄さんでは?」
「そうだぜ。」
「顔色が悪いどころではなかったんですが。」
「萌菜さんの力は運命軸への関与ですので。」
「そんなに大きい力なんですか!?」
「はい。」
「めーちゃん起きるの今でよかったよ。」
「何かあったんですか?」
「お義母さん羽交い絞めにされてナイフ突きつけられてよ……。」
「……早く起きたかったですね。
お母様、申し訳ありません。」
「助かることも分かっていたので。」
「流石は……、おっと言っちゃいけないんだろうな。」
「誰も信じないとは思いますけどね。」
3人で笑いあう。
「兄貴、金なかったらしい。」
「以前面白いので黙っていようと言った事柄がそれです。
女性の扱いもさることながら、借金が膨れていたようで。
まぁ、お母様には面白くない結果になりましたが。」
「萌菜さんの力が覚醒したので面白かったですけどね。」
「そうですか?」
「えぇ、萌菜さんの事ですから助けてくださると思っておりましたし。」
「信頼されてますね、萌菜さん。」
「んだな。」
「さ、そうとなればこちらに来ていただきましょうか。」
「あっちの世界ですか?」
「関係者の記憶はすべて抹消されます。
今日という日のためにどれだけ苦労したことか。」
「あー……、生け花元気でやってくれるかな。」
「こちら側からは見ることができますから。」
「ちと寂しいけど仕方ないんだろうな。」
「お母様、それはいつ始まるんですか?」
「よければ今すぐにでも。」
「ちょっと萌菜さんと寄りたい場所があるのでそれからでもいいでしょうか。」
「ふふ、どうぞ。」
寄りたい場所があると言った冥菜の行きついた場所は……。
「えー、コンビニ?」
「初めて悪いことしたんです。
私にとっては思い出の場所です。」
「そっかー。」
ぴんぽーん。
らっしゃっせー。
「何欲しい?」
「オレンジジュースを。」
「そっかぁ。」
ばこん。
冷蔵庫を開ける萌菜。
「びくっ!」
「あ、すまん。
驚いちゃったか?」
「慣れてないだけです、大丈夫です。」
ぴんぽーん。
あざっしたー。
あの日のように二人でペットボトルのキャップの封を切る。
「発明ですね。」
「だよなぁ。」
こくりと冥菜の喉が動く。
「……感想はどうですか?」
「感想?」
「かつて萌菜さんは私に何があっても私であることは変わらないと仰いました。」
「言ったねぇ。」
「ご自身も大きく変わってどう思われますか?」
「俺は俺じゃね。
変なことできるようになったけどやっぱしそれも俺。
めーちゃんも内緒ごとはあったけど変わらんだろ?」
「ふふ、そうですね。」
二人で行きかう車を見ながらジュースを飲む。
「……萌菜さんはご好意を寄せられている方、いらっしゃいますか?」
「めーちゃん。」
「あ、言ってくださるんですね?」
「そうだなー、俺はめーちゃんが好きだなー。」
「ふふ。
私も萌菜さんが大好きです。」
「実感わかねぇや。
もうここでの生活が終わりだなんて。」
「生け花さんが気になりますか?」
「あはは、生け花さんって。
いいダチになると思ったんだがなー。
まぁ向こうも忘れるならそれもよかろうて。」
「ご希望であれば残ることも出来ると思いますよ?
高校生活までは、とか。」
「んーん、いいや。
めーちゃんがいるし。
お義母さんはでっけぇ人だからカウントできないんだろうけど。」
「人工物の母でありますから、その人の思い人なら通ると思いますよ?」
「あはは、だといいなー。
めーちゃんこそインターハイとかよかったんけ?」
「萌菜さんがいないところで頑張れる自信はありませんね。」
「そっかぁ。」
「……萌菜さん。」
「なんだい?」
「懺悔します。」
「うん?」
「亡くなったと思った時、口づけをしました。」
「げほっ!ぶふぉ!」
「萌菜さん!?」
「マジかー……、何かされたかなとは思ったんだけどな。
そう来るとは思わなかった。」
「お嫌でした?」
「ぜーんぜん、嬉しいやぁ。」
「今度は萌菜さんからしていただけませんか?」
「いつかなー。」
「……今。」
「ここで!?」
「誰の記憶にも残りませんから。」
目を閉じて待つ冥菜。
「あぁマジかよ、もうマジかよ!」
少し急ぎ気味に冥菜へ口づけする萌菜。
「えへへ。」
「……チト乱暴だったかな。」
「そういうのも好きですよ?」
「俺らってこういうことしていいんだっけ?」
「あ、そういう事言います?
禁止はされてませんね。
例は少ないですが。」
「すまん、照れ隠しだー。」
「だと思いました。」
ペットボトルを外のゴミ箱に捨てると家へ歩き出す二人。
これからは新しい生活が始まるんだな。
ま、めーちゃんと一緒なら大丈夫かな。
と思っていたが、それは自分だけでもなかったようで。
そんなことを冥菜から聞きながら地球での生活をを終えるため、
屋敷に戻った。
そこからはお義母さんが全部準備してくれていた。
天使として、ミカエル様の右腕として不足のない働きをしたいもんだね。
これが萌菜としての物語。
急に生活が変わることになったけどそういう運命だったんだな。
これからメナエルと生きていく人生、悪くないと思う。
じゃ、俺は天界に行くけどまたどこかで会えたらな!
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