第11姓 真実
冥菜の部屋にて。
「めーちゃん、部屋に俺が入ってるぞ。」
「あれ? 言ってくださいませんでしたっけ?
愛してるぜ、冥菜って。」
「あえ!?」
「嬉しかったなぁ……。」
「あ、その……。」
コンコン。
「あら? はーい。」
「冥菜、入っていい?」
「お母様、どうぞ。」
母である深雪が入る。
「……綺麗にしてるのね。」
「ま、まぁ女の子ですし?」
ふっと深雪が向き直る。
「エスティエルにやられた傷、大丈夫?」
「えぇ。……え?」
「うん?」
薄く微笑む深雪。
「……どうしてその名を。」
「あら、そんなに警戒しなくていいのよ?」
「しかし、今。」
「そうでしょう? メナエル。」
「っ!!」
顔が引きつる冥菜。
「お義母さん? そいつは誰だ?」
「ふふ、萌菜さんはお上手ですね。」
バサァ、と深雪から翼が広がる。
「うお……、嘘だろ……。」
「お母様が……、そんな……。」
「まだ気づかないんですか?」
「あれ? どこかで聞いた声だな。」
「萌菜さん? どこで?」
「さっき聞いた声に似てるな。」
「へ?」
「萌菜さんは気付きそうですね。
メナエル、私は悲しいです。」
「ま、ままままさか……!」
「思い出した! さっきの女の人に声が似てるぜ!」
「萌菜さん! 恐ろしいことを言わないでください!」
「あれ?」
「まぁ、人をお化けみたいに。
この十数年ずっとあなたをそばで見ていたというのに。」
キッと深雪をにらむ冥菜。
「その人を騙るとは伊達や酔狂で許されませんよ!?
何者ですか、真名を名乗りなさい!」
「あーもう、堅物なんですから。」
ぽん、と天使の輪が深雪の頭に現れる。
「……。」
「めーちゃん?どうした?」
「あの天使の輪……。
あれだけは偽れませんね。
本当に!? ミカエル様なんですか!?」
「ですから先程からそうですと申しております。」
「ひえぇ!」
「え? あの瞬間にお義母さんとすり替わったんじゃなくて?」
「あ、その線がありましたね。」
「天使の妻がいながら不貞を働くとは不届きな夫ですね、ぷんぷん。」
「……。」
「……。」
「こほん、年齢にあってないセリフでしたね。」
「ミカエル様が、ぷんぷん……?」
「マジで?」
「もともと深雪という人間がミカエルでした。
メナエルという天使は稀少な人工天使なのです。
ですからすぐそばで成長を見守りたい希望がありましてね。」
「あれ? じゃあ全部バレていたんですか?」
「いつ手を出そうかなとは思っていたんですけどね。」
「いやぁ……、あの天使長様がお義母さんだとは思わないじゃんよ……。」
「見た目を少し変えたから気付かなかったんですね。」
「あれ? 待てよ?」
「どうかなさいましたか?」
「さっき天使って友好的じゃないみたいなこと仰ってませんでしたっけ。」
「そうですよ?」
「俺、死なねぇ!?」
「メナエルを自分以上に大切にしてくれています。
同族を愛でられれば応えるのが神族と言わず属するものの礼儀です。」
「も、もう一つ聞いても?」
「何なら敬語もいりませんが。」
「怖ぇ……。
いや、あの。
さっきミカエル様がふっと消えて屋敷からお義母さん出てきましたよね?
あれって……?」
「いやですねぇ、時間を止めるに決まってるじゃないですか。」
「すげぇ……。」
「私の接し方も困ります。
お母様がミカエル様だなんて。」
「今まで通り接していただければ。」
「……。」
「冥菜は意地悪ですね。」
「ミカエル様に一つお聞きしてもいいですか?」
「えぇ。」
「萌菜さんが死ななかったのは、ミカエル様の?」
「流石の私でも人の生死までは操作できません。
ともなれば、萌菜さんが”人の身ではなかった。”
と考えるのが自然でしょうか。」
「え? 俺?」
「自覚ないんですか、エナエル。」
「なんだ、その高級そうな素材みたいな名前。」
「エナメルではありません。
萌菜さんが天使としてあの瞬間に覚醒したから助かった、
そう申しております。」
「……え?」
「萌菜さんが……、天使!?」
「冥菜もきちんと天使してましたね。
萌菜さんは天使の様相が見えていませんでしたが、
しっかり天使に惹かれて。」
「え? え!?」
「どこが天使なんすか。
俺、人の子っすよ。」
「萌菜さんは珍しい天使のタイプです。
天使の輪も羽も持たない天使なのです。
じゃなければエスティエルの攻撃に耐えられないでしょう。」
「ともなれば、あれですか。
人の身だったから死んだけど、
その瞬間に覚醒して息を吹き返した……。
いや、さっきからそう言ってるな。
信じられないけど、そんな天使もいるのかぁ……。
……あん?
俺、天界とかに帰るんですか?」
「ふふ、天界に興味がありますか?」
「天使の事、ちょっとしか知らないんだよなー。
それもここで調べた知識だし合ってるかどうかすら……。
あれ? 天界は天界なんですね?」
「はい。」
「意外だなー、こんな才があったとは……。
無能だと思ってたんだが。」
「能ある鷹は爪を隠すとも言いますね。」
「あ、そっか……。」
「萌菜さん、今こそ見返す時ではありませんか?」
「何を?」
「お兄さまの件です! 忘れたんですか!」
「あー……。
や、どうでもよくなったなぁ。
俺は天使としてどれだけ才があるか分からんけど
めーちゃんを支えられるほどの力があるんだろうか。」
「萌菜さんは天使としては下位の方になります。」
「あー、やっぱりかぁ。」
「ただそれは今だけの話ではありますね。」
「ん?」
「まだ力は眠ったままです。
覚醒するとなれば最上位の天使になるでしょう。」
「ミカエル様は何かお分かりなんですね?」
「敬語はいらないと仰ってますのに。」
「天使としては下位なんですよね、俺!?」
「本覚醒したら私の右腕になっていただきたいくらいには
珍しい異能の能力を持った天使になります。」
「ミカエル様には全部見えてます?」
「見えてますね。」
「ミ、ミカエル様とはいえ萌菜さんを差し上げるわけには……。
で、でもミカエル様だし……、もごもご。」
「ですから、私からメナエルへご提案です。」
「なんでしょう?」
「萌菜さんから御力を貸していただけるのであれば、
あなたの天使としての地位も力も上げましょう。」
「ふっ!?」
「悪くないでしょう?」
「ミカエル様に対して交渉何て許されるんですか……?」
「ミカエルの前にあなたの母ですよ。」
「の、乗ります!」
「ふふ、素直なあなたが好きですよ。
……さて、萌菜さん。」
「あ、はい。」
「明日あたりにお兄さまがあなたに接触してきます。
窮地に陥るでしょうけど、ご自身を信じてください。
あなたは天使です。
手荒なことをいたしますが、御力の覚醒のためと思って。
必ず切り抜けられますのでご安心を。」
「は、はい。」
「さぁ、今日はもう遅いですし眠りましょう。
また明日、ふふ。」
そういって深雪は出て行った。
「……俺、大丈夫かな。」
「私がついています。
おひとりで抱え込まないでください。」
「心強いわ。
天使の所作もなんも分からんので先輩として教えていただけると。
……俺、本当に天使なんだろうか。
とほほ。」
「大丈夫です。
微かではありますが、天使の気が出ています。」
「お、そうなんだ……。」
心配をよそに部屋に戻り、そのまま眠りについた。
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