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第10姓 発現

その日の深夜。


「なーんとなく寝付けねぇな。」


ベッドから体を起こす。

そっと部屋から出ると、隣の部屋の明かりがついている。


「めーちゃん、起きてるのか。

勉強教えてくれた後なのに復習でもしてんのかな。」


お手洗いに足を運び、戻ると冥菜の部屋の戸が開いている。


「おや、めーちゃん?」


明かりは消えている。


「不用心だな。

俺みたいなやつがいたらどうするんだ。」


戸に手をかけた後に気付いた。

風が入ってくる。

窓まで開いているようだ。

流石におかしいと訝しむ。


「めーちゃん、すまねぇ入るぞ。」


中に入ってトン、と扉を閉じると夜闇を劈くほどの光が

冥菜の部屋から溢れる。


「な、なんだ!?」


しばらく輝いて光が消えた。

あたりを見まわすとひとり武装した女の子がいる。


「め、めーちゃ……ん?」


「っ、萌菜さん?」


驚いた表情の冥菜。


「どうした、その恰好。」


「伏せてっ!」


「へ?」


半ば強引に冥菜に体を倒される。

その近くに光の矢が貫く。


「な、なんだ!?」


「あっはははは!

メナエル、萌菜が足手まといじゃなーい?」


窓の先に見える同じく武装した女の子……、羽衣だ。


「なんで羽衣ちゃんが……?」


「本格的に萌菜さんを取りに来たんです。

萌菜さんはどうかお部屋に。」


「下がってろってか!?

自分下がって女の子に戦わせんの!?

おかしくねぇ!?」


「……これは天使の戦いです。

人の身では命の保証ができません。」


「っ。」


よく見ると羽衣は羽を広げて宙に浮いている。

その手にはアーチェリーでよく見た弓。


「……分かってください。

萌菜さんを羽衣に渡す気はありません。

だから、私は戦います。」


「待っ……!」


言い切る前に冥菜は羽を広げて窓から飛び出した!


空中戦を窓から見ているだけしかできない自分。

戦況は悪い。

アーチェリーで慣れている羽衣は雨のように矢を降らせている。

対する冥菜は大きい和弓。

対抗しているものの、攻撃速度で差が出ている。


「お、俺はどうしたらっ……!」


矢が冥菜の肩に刺さる。


「くうっ!」


矢一つの威力は低いが掠めてきている。

徐々に力を奪っている感じだ。


「優等生のメナエルも大したことないね!」


動きが鈍ってきた冥菜の脚に矢が刺さる。


「あぐぅっ!」


「萌菜はいっただき!」


カーン!と甲高い音を立てて矢が冥菜の首にあたる。


「が……、ふっ……!」


飛翔能力が奪われ、ひらひらと庭に落ちていく冥菜。


「めーちゃん!」


音を立てることも気にせず屋敷を飛び出す。

庭に出ると、仰向けになる冥菜に向かって弦を引く羽衣。


「……ひゅー、ひゅーっ。」


「声も出ないね?

大丈夫だよ、怖くない。

死んだって私んらは転生するからね。」


「やめろーっ!」


放たれた矢。

覆いかぶさったタイミングで萌菜の背から矢が飛ぶ。

咄嗟の判断で冥菜が手を翳し、矢が冥菜の掌を貫くも萌菜の背に届いてしまう。


「ぐっ……!」


「もえ……、なさ……っ!」


「ありゃ、萌菜にも当たっちゃった。

天使の攻撃を人間が喰らったらひとたまりもない。

しゃーない、萌菜はあきらめるか。」


すーっと天に上がる羽衣。


「どう……っ、してっ……!」


「痛ってぇ……、命の炎が消えるのが分かるな……。

身体が冷たくなってく。

死ぬんだな、俺……。」


「がはっ!」


血を吐く冥菜。

目の前の天使に刺さった矢を引き抜く萌菜。


「萌菜さん!」


「傷が治って来てるな、まぁだから矢を抜いたんだけど。

負けんな。

めーちゃんなら、ぜってー勝てる。」


笑顔を見せる萌菜。


「やだ……!やだ!

どうして庇ったりしたんですか!

天使は死なないんですよ!?」


「名前が死なないだけだろ……。

存在は……、亡くなる。」


態勢を変えて冥菜が抱き上げるも、力ない萌菜。


「待って……!

置いてかないで……!」


「あ、言い忘れてたや……。」


「何ですか!?」


「愛してる、ぜ……冥菜……。」


「っ!」


翳した手を冥菜の頬に当てた冥菜。

その言葉を最期に手がストンと地に落ちる。


「やや、死んじゃったかー。」


「……さない。」


息絶えた萌菜を横たえて冥菜が立ち上がる。


「許さないっ!」


ドーン!という轟音と同時に光が天を衝く。


「な、なに!?」


その光の中で大弓を引く冥菜。


「今度は私があなたから奪う番!」


「ひっ!」


弦に引かれた手を放すと、大光量の光線が一気に羽衣を貫く。


「……萌菜さん、勝ちました。」


キラキラと光っている萌菜。


「……天使に滅殺されたからでしょう。

このまま消えて終わり、か。

……また、羽衣に取られてしまいましたね。」


ぽろぽろと涙をこぼす冥菜。

ゆっくりその存在が薄くなっていく萌菜。


「さようなら、萌菜さん。

あなたを心から愛していたのに……、守れなかった。」


口づけをする冥菜。


ごつん!


「きゃあっ!」


「いってぇ!」


何が起きたか分からなかった。

どうやら萌菜が飛び起きて額同士がぶつかったらしい。


「め、めーちゃん!?

戦いは!?」


「生きてるんですか!?」


「あれ? ほんとだ、何で死んでねえんだ?」


「どうしてでしょう……?」


「そういやめーちゃん、俺に何かしてなかった?」


「な、何もしてません!」


ドンッ!と突如冥菜の肩が貫かれる。


「あぁあぁあぁっ!」


「めーちゃんっ!?」


うずくまる冥菜と反対を向いたらボロボロの羽衣の姿が。


「はーっ、はーっ。

萌菜生きてたんだぁ……。

まだ、終わってない……!」


キリリと矢を引く羽衣。


「めーちゃんは殺らせねぇ!」


手を広げ、冥菜の前に立ち塞がると……。

ちょうど中間、羽衣の間に大きな翼の女性が見える。


「……オイタがすぎますよ、エスティエル。」


「げっ!」


「誰だ?」


「……萌菜さん?どうしましたか?」


「いや、なんか誰か来た。」


「誰ですか?」


顔をのぞかせるとそのいで立ちから誰かが分かったらしい。


「ミ、ミカエル様!?」


「え? ミカエル……様?

あの天使長の?」


「エステルにはお仕置きです、はい。」


ピンッとおでこを弾かれると羽衣は武装が解除され地面に落ちた。


「痛ったぁーい!」


「さて、お庭は修復可能ですね。

よくもまぁ二人だけでここまで荒らしたものです。

あとは周囲の時間を止めているので目撃者もなし。

大丈夫ですね。

……さて。」


ゆっくりと降りてくるミカエル。


「あ、俺……。」


「そんなに怖がらないでください。

神族は友好的ではありません。

ありませんが、あなたはメナエルを命懸けで守った。

お礼を申し上げます。」


「いや、もう何が正しいのか悪いのか……。」


「あなたが正しいと思って行動されたのでしょう?」


「はい。」


「エスティエルは我儘ですからね。

どこに行ったか探していたんですが、

無許可で地上に降下しているとは思いませんでした。

連れて帰ります。」


「ミカエル様……、待ってください。」


「何でしょう?」


「エステルの処分はどうなるんですか?」


「そうですね、アマツカイの輪廻に処そうと思っています。」


「アマツ……、へ?」


「……転生処分です。

エステルの存在が消えます。」


「げげ。」


「エステルは確かに今回悪事を働きましたが……、

私を殺すなら命である天使核を狙うことも出来たはず。

どうか、処分をご再考いただけませんか?」


「あなたは散々に痛い目にあわされ、

愛する人も手にかけられてもなおですか?」


「……エステルは、私の数少ない友達です。

それに、萌菜さんは帰ってきましたから。」


「では、代償に私へ何を支払ってくださいますか?」


「……天使の力を。」


「いいんですか?

百年そこそこの命になりますよ?」


「構いません。」


「……もう、おバカさんなんですから。」


トン、とミカエルが冥菜の額に触れる。

武装が解除される冥菜。


「萌菜さん。

この時点で、私は天使を外れました。

私を拾ってくださいませんか?」


「待ちなさい、誰がやったと言いましたか。」


「へ?」


「エステルの処分を再考します。

連れ帰りますが……、まぁこちらでは少しの期間になるでしょう。

時間の進行軸が違いますからね。

暫くこちらで教育します。

あと、ダメですよメナエル。」


「ぎくっ。」


「萌菜さんと寿命を同じくして同じ時間を生きようだなんて。

なんという傲慢。

私に代償を払ったように見せて貰っているではありませんか。」


「やっぱりミカエル様は意地悪です……。」


「代わりと言っては何ですが、萌菜さん。」


「あ、はい。」


「しっかりメナエルを支えてあげてください。

強そうに見えて心は薄氷のように繊細。

……時に、あなたは気付いていますか。」


「めーちゃんが天使ってことくらい……?」


「ふむ、いいでしょう。

ほらエステル、行きますよ。

再教育です。」


「いーやーだー!」


喚く羽衣をよそにミカエルの従者が現れ、

羽衣を始めとする皆は天に消えていった。


「……あら? 冥菜、夜のお散歩?」


「はっ、お母様。」


背後から声を掛けられ、そーっと周囲を見回す。

綺麗に直っているようだ。


「眠れないの?」


「大丈夫です。

萌菜さんが寝かしつけてくださるそうなので。」


「何それ!?」


「行きますよ、萌菜さん。」


「めーちゃん、引っ張らないでくれぇぇぇ……。」


引っ張られて萌菜と冥菜が屋敷に戻っていった。


「……あら、白い羽。

綺麗ね、ふふ。」

Copyright(C)2025-大餅 おしるこ

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