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"環"  作者: 正さん
六章
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四十八話「The Beautiful People」



 文化祭のパフォーマンスが終わった宮部さんの周りには、沢山の人達が集まっていた。

「ほんとかっこ良かったよ宮部さん!」

「学生運動の頃を思い出した」

「歌上手かったんだね!凄いじゃん!」

 男女問わず、年齢問わず、中には先生達まで「よかったよ」と褒めるため、宮部さんを囲んでいる。


「あ…ありがとう…」

 宮部さんは気まずそうに辺りを見渡していて、私に気付くと、こちらへ軽く手を振ってくれた。

「…」

 手を振り返してから、パフォーマンスが良かったと伝えるため、親指を立てて見せると、宮部さんは嬉しそうに頷いてから、私から顔を逸らし、皆の輪に戻った。


 …宮部さんが元バンドマン…か…。

 いや女性だから、バンドウーマンっていうのか?それとも単なるガールズバンドか?

 にしても、かっこよかったな…後で宮部さんがやってたバンドの事調べてみよっかな…。


 なんて考えていると、突然、後ろに立っていた人に肩を叩かれた。

「あ!華菜ちゃんだ!ここで何してるの?」

 振り返ると、そこに居たのは菜那さんだった。

「!」

 …菜那さん…か…。

 正直、今はあんまり…会いたくなかった。


 私の家で写真を見た日を思い出す。

 顔を見れば見るほど、菜那さんは、私や晶のお母さんと一緒に写っていた那月さんという女性と瓜二つで…。

 …確かその人はニンベン師って呼ばれる…詐欺師だったんだっけ。

 菜那さんを探るようなことはしたくない。そもそも能力ってのも信じられない事だし…。

 そう、疑わしきは罰せずだ。


 …でも。用心するに、越したことはないか…。


「あ、さっき…文化祭のバンドを見てて…」

「へー、バンドやってたんだ、見に行けばよかったー!誰がやってたの?」

「えっと…」

 宮部さんの名前を出そうとした時、ふと、気が付いた。

 確か、菜那さんって宮部さんと知り合いだったような気が…。

 バンドやるって知らなかったのか…なら伝えた方がいいかもな…。


「菜那さんのお友達の宮部さ…」

 そこまで言うと、どこからか現れたワキノブが、手で私の口を塞いだ。

「華菜さん!」

「!?な、何だよ…」

 なんでこいついきなり口塞いできた!?

 ワキノブから離れて、向き合ってみると、ワキノブは菜那さんの方を見てから、首を横に振った。


 …宮部さんについて…言っちゃダメって事か?

 なんで…。


 そう思いながら菜那さんの方を見ると、ふと、異変に気付いた。

 宮部さんの周りに居た人達のうち、数人が、菜那さんの事を威圧するようにじっと見つめていることに。


「…」

 菜那さんはそれに気付いたのか、ゆっくり振り返ってから一人一人の顔を睨み始めた。

「何か用?」

 菜那さんがそう声をかけると、彼女を見つめていた数人が神足さんから離れ、菜那さんを囲うように移動し始める。


「…何これ…何が起きてるんです…?」

「分からん…」

 ワキノブと顔を見合わせていると、神足さんがこっちに近付き、私達を三年の教室の中へ押し込んだ。

「ワキノブ君、華菜ちゃん、今はここに居て。お願い」

「…!?あ、ちょっと…!」


 宮部さんって見た目の割には意外と力強いよな…トイレの時もガッと押し込まれて抵抗できなかったし…。

 ワキノブと顔を見合わせてから、窓から廊下の様子を伺おうとした時、後ろから馴染み深い声で話しかけられた。


「華菜、こっち来い。こっちからの方がよく見えるぞ」

 ゆっくり振り返ると、そこには。

「…智明…」

 智明だけではなく、ウジ虫野郎の龍馬や、智明の恋人の雅朱里が居た。

 その隣にはどっかで見覚えのある顔と、あんまり見覚えのない顔が…。


「あーそうだ、紹介した方がいいな。この二人は右から、池崎明人と池崎彩だ。彩ちゃんは龍馬の彼女だから知ってるか」

 智明がそう紹介すると、二人は私に向けてぎこちなく頭を下げた。

「こんにちは、華菜ちゃん…智明君からお噂はかねがね…」

 丁寧な人だな…この人が彩か…。

 確か、環から首謀者の名前を聞いた時…池崎彩って名前があったような気がするな。

「こんにちは」

 で、この見覚えのある顔が池崎明人…あのマンガ本のモデルになった人…だっけ。

 そのマンガ本の製作に晶が関わってるのかもって疑ってた時があって…。

 待て…そういえば…。

 そのマンガ本についても、首謀者についても、まだ何一つ分かってないんだな…。


 そう思いながら、池崎明人の隣に居る人へ目をやった。


「…あ、そうだったそうだった。こいつは…佐江拓也。本名はイ・パラっていってな…晶の知り合いなんだ」

 智明はそう言いながら佐江拓也と呼ばれた男の背を軽く叩いた。

 …佐江拓也…5月に暴行事件を起こした人か。


「…」

 ワキノブと顔を見合わせると、ワキノブは一度頷いてから、まずは池崎明人へ視線をやった。


「あなたが、池崎明人さんですね…こんにちは、姉様からお噂はかねがね…」

 そう言いながらワキノブが頭を下げると、池崎明人はワキノブの方を見て、優しげに微笑んだ。

「君が詩寂の弟の忍か。はじめまして」

 …なんというか…空気読めないことを思ってしまうけど…この人、睫毛も長いし、肌も綺麗だし、鼻も高いし…。

 こういう表現は正しくないかもしんないけど…池崎明人ってえらい美人な人なんだな…。


「明人が微笑みかけた!!??」

 そんな事を考えていると、池崎明人の隣に居た池崎彩が目を見開きながらそう言った。

 明人は呆れたように首を横に振り、彩の方を見た。

「うるさいな、僕だって笑うくらいはする。それに忍は詩寂の弟だし何かあってあのブラコンに殺されたらたまったもんじゃない」

「……しじゃく?」

 しじゃく…確か…環とワキノブが私の家に来て、抗争だとか企業だとかの話をした時に…ワキノブのお姉さんがそう呼ばれてたっけ。


「…」

「明人君、優しいね」

「僕のこういうところどう思いますか龍馬さん」

「いいね!」

「まだこのノリやってんの…?」

「明人は龍馬君の事大好きだからね…」


 な、なんというか…仲良いんだな、この人らって…。

 まあ去年六人で旅行に行ったとか、家に来たりとかしてたし、分かってたことではあるけど…。


 …。

 なんというか、色々気になることはあるけど、今は一旦…。


「…佐江拓也さん、は、5月になんで暴行事件を?」

 思い切って、明人の横顔を見て穏やかに微笑んでいる佐江拓也へ声をかけると、彼は私の方を見てから、雅朱里と智明の顔を見て、一度大きく頷いてから、ゆっくり話し始めた。

「その前に一つ聞かせて欲しいんだけど…。君は、額塚菜那の何だ」

 …!

「あいつの正体を知っているのか」

 佐江拓也の、優しくも鋭い口調。

 ワキノブの方を見ると、佐江拓也は遮るように私とワキノブの間に立った。


「僕は今、君に聞いてる。君は一体どこまで知ってるんだ」


 …。


「…本名は、那月。昔、晶の母親と関わっていて…晶へ恨みを抱いている…ってところまでは知ってる」

 素直に答えると、佐江拓也は智明の顔を見てから、もう一度頷き、私へ背を向け、松田龍馬へ体を向けた。

 …龍馬?

「松田龍馬が、それに関係してるのか?」

 私の問いかけに、佐江拓也はこう答える。

「あぁ。5月の暴行事件は、そこにいる松田龍馬を那月達から隠すために晶さんが考えた作戦だ」

「…龍馬を?那月達から隠すって…?」


 こいつを何で菜那さんから隠す必要が…。

 龍馬の顔をじっと見ると、智明が私に一歩近付き、こう続けた。

「正確には、那月達からじゃなくて、企業からだな」

 …企業…XYZか。

 確か人体実験をしてるって噂があるんだっけか。

 なら…龍馬が、何か企業に狙われるようなことをしたせいで、それを…誤魔化す必要があった。

 だから、晶はこの佐江拓也を使って、暴行事件を起こしたってことなのか。


 …企業に狙われるようなこと…能力に関することか。

 なら龍馬も能力者ってことになるのか…?


「…ここにいる人のうち、何人が能力者なんですか?」

 龍馬の顔を見て、聞こうか聞くまいか悩んでいた時、ワキノブが朱里や明人を見て、こう尋ねた。

 すると、雅朱里が智明を指差してこう答えた。


「智明以外はみんな能力者だよ。晶も、詩寂も、宮部ちゃんも」

 …!?

「…晶も力を持ってるのか…」

「うん。それもかなり強めの能力でね…企業は晶のことを喉から手が出るほど欲しがってるんだ。それに…伝説の女の娘だから」


 …。

 そういう、ことだったのか…。

 暴行事件を起こしたのは、龍馬が能力を使ってしたことから、生徒や企業の目を背けさせる為…。

 その作戦を考えたのは晶。

 自分が企業に狙われる身だからこそ、龍馬を助ける為の手段を選んでいられなかった…って感じか。

 そういう経験があるからこそ…私達が前に暴行事件の真似事をしても大して噂にならなかったし…言うなれば、三年はそういう事件が起きることに慣れてしまってんのかな。

 …なんというか、妙にしっくり来るな。

 ということは、言うなれば…晶が首謀者っていう私の最初の憶測は合ってたってことで良いんだよな…?

 …まあ、なんというか、それ以上にエグい事を色々知ってしまったけど…。


 黙り込んで、色々思い出したり考えたりしていると、池崎彩が私に近付き、私の肩を撫でながらこう言ってくれた。

「詳しいことが気になるなら、晶ちゃんから直接聞いてみよっか?多分もうすぐこっち来ると思うし…本人からの方が分かることもあるだろうし…ね?」

 …優しい人だな。

「うん、そうする…」

 そう言いながら頷くと、池崎彩は優しく微笑みながら二度頷いた。

「わかった、そうしよっか」


 その時、外から宮部さんの低い声が聞こえた。

「お前、よくも私の晶の事を侮辱したな」

 …?


 廊下の方へ目をやると、宮部さんは、左手で菜那さんの顔を掴んでから、反対の手の親指をゆっくりと彼女の目に近付けていた。

 …!?

「…なんのつもり?」

 冷静に、宮部さんへそう問いかける菜那さん。

 宮部さんは菜那さんを鋭く睨み付けてから、指を更に近付けた。

「あんた、私の事も当然調べたんでしょ。なら私の能力くらいは知ってる筈」

 …宮部さんの、能力か。

 あの歌声からするに…多分、歌声に関する力なんだろうか。歌で伝える、とかそういう…。


「私の能力は身体の一部が刃物に変わる能力だ。一昨年芽生えて、毎日死にたいと思いながら生きてんだ」

 …身体の一部が刃物に変わる能力?何だ、それ…。

「これから、お前にも同じ力を与えてやる」

 宮部さんはそう言いながら、菜那さんのスカートを指で引っ掻いてから、菜那さんの目に、更に指を近付けた。


「おい神足やめろ。華菜ちゃんが見てる」

 そんな宮部さんの肩を掴んで止める存在が現れた。

 晶だった。

「…!」

 晶のその言葉を聞いた宮部さんは目を見開き、私の方を見た。

 …宮部さん…。

「華菜ちゃん!そこに居たんだ。探したんだよ」

 菜那さんも私の方を見た。

「…」


 菜那さんの声の調子はいつも通り。

 でも、顔色から、菜那さんの感情が読めない。

 …菜那さん…なんだよな。この人は、本当に…。


「華菜ちゃん?どうしたの?あ、さっきのはふざけてただけだから…何でもないんだよ、華菜ちゃんは何も心配しなくていいからね!」

 …菜那、さん…。

 菜那さんは、そう言いながら立ち上がり、私の方へ近付いた。

 …どう、言えば…良いんだ…。

 …何が何だか…。


 混乱して、頭が上手く働かなくて、でも、菜那さんから視線を逸らせずに居ると、雅朱里がそんな私の肩を抱き、自分の背後へ隠してくれた。


「妹に近付かないでくれる?」

 …!

「…妹?」

「この子は智明の妹だ。そんなら私の妹ってことにもなんだろが、バカ女が」

「…」

「次妹に近付いたらその空っぽの脳味噌に風穴ぶち開けてやるから」

 …朱里…。


「…捨て子風情が何偉そうに言ってんだ?雅」

「……何?」

「澁澤もロクな男じゃないよな。あんただとか丸岡だとかの捨て子を東と西の抗争で親を亡くしたガキだって嘘話を吹き込んで、跡継ぎの弾除けにするために育てるなんざ」

「…そんなわけないでしょ。四代目がそんなことするわけ…」

「違うって証拠でもあんのか?確証でもあんのか?」

「な…菜那さん…?」

「黙ってな糞餓鬼。あんたのせいでこっちの計画は丸ごとおじゃんだよ。本当ロクなことしないね、あんたは」

「…菜那…さん…」

「おい佐鳥晶。私はよ、2007年の抗争から、ずっとあんたを苦しませて、どん底に突き落としてから惨く殺してやる事だけを目的に生きてきたんだ」

「そうやろうな。よう分かってんで」

「お前だけは何があっても許さない。あんたのせいで私の人生は最悪だ!!あんたが居なきゃ、あの人は死ななかった。私を置いて死んだりなんてしなかったんだ!!」

「…」

「…あの人は私のものだ。あんたのもんなんかじゃない。あんた庇って死んだからって図に乗るなよ!!」

「…」

「観月さんの感心は、全てこの私のものだ!!!」



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