第25話「メモリーオブロボPart4」
中は電気がついておらず、真っ暗だった。
ライトなど用意しているハズもなく、俺達は目が闇に目が慣れるまで待合室でジッとしていた。
「そろそろ見えてきたな」
俺が呟くと、横で田原が「そうだね」と呟く。
「何か聞こえるよ」
羅門が小声で言う。
耳を澄ませば確かに何か聞こえる。
コッ!コッ!
何か固いものが床に一定のペースで当たっている。
何の音だ……?
「兄さんッ!!」
「ッ!?」
俺の目の前で女性看護師が、鉄パイプを振り上げていた。
ココはどこでしょうか?
陽一さんはどこに?
首を動かそうとしても首は動かない。
というより、身体がない。
AIと記憶領域は頭にあるので、恐らく今の私は頭だけなのだろう。
「久し振りだね」
しわがれた老人の声。
その声は私の記憶の中にはないハズなのに、何故か聞き覚えがある。
「誰ですか?」
「私だ。葉貝だ…。やはりデータが上書きされているようだな」
データ?
上書き?
そうか…
この人は……
「お前の父親だよ」
通りで声に聞き覚えがあるハズだ。
記憶領域のどこかに残骸が残っているのかもしれない。
「心配ない。今から過去のデータをバックアップするからね。その際に今のデータは消えてしまうが……。構わんだろう?」
「うわッ!!」
俺は咄嗟に横に転がり、振り下ろされる鉄パイプを避けた。
「何なんだコイツ……」
「通りすがりのナースだ。覚えておけ」
羅門、お前には聞いてない。
「神宮君、この人、ロボットだ!」
目を凝らして見ると確かにコイツの肌は人間の色ではなかった。
まるで鉄のような銀色。
ロボットだろう。
「ココの警備ってワケか……」
「一体じゃないみたいだしね……」
いつの間にか俺達はナースロボット達に囲まれていた。
そして何故か全員が鉄パイプを握り、プルプルと妙な震え方をしている。
どこのサイレントヒルだよココは。
「全員を相手してる暇はないな」
そう言いつつも俺は身構えた。
「適当に相手しながらロボ子を探すべきだね」
「あ!あそこ!」
田原の指差す方向を見ると、一番奥の椅子の横に四角い穴があり、そこから梯子が降りていた。
なんとわかりやすい位置だろう。
だがナースロボは穴の周囲に密集しており、とても突破出来るような状況ではなかった。
「おおおッ!!」
どうしたものかと思索していると、不意に羅門が雄叫びを上げる。
そして走り出すと、ナースロボの内一体の身体にしがみつく。
「羅門ッ!」
羅門に向かって近くのナースロボが鉄パイプを振り上げる……
が、ピタリと止まる。
「仲間同士で殴り合うことは出来ないのか……?」
複数のナースロボが羅門に向かって鉄パイプを振り上げて止まり始める。
システムの盲点をついたのか…。
「この距離なら鉄パイプは振れないな!」
「羅門…お前……!」
「早く行って兄さん!!コイツらが一時停止している間に!!」
「わ、わかった!!」
俺と田原は急いでナースロボ達の間をすり抜け、穴へと急いだ。
「やめてください」
私は、何かの機械に接続された。
恐らく私のデータをバックアップするための装置だろう。
「なぁに。すぐに思い出すさ。お前の存在理由を……」
葉貝はニヤリと笑った。
私はその表情が嫌で嫌で仕方がなかったことを思い出した。
既にデータのバックアップは始まっているのだろうか…?
私は無性に怖くなった。
なんだか私が私でなくなってしまうようだ。
「やめてください!」
少し声を荒げて懇願する。
「ダメだ。大体お前が脱走さえしなければこんなことにはならなかったのだ」
そうか。
そういえば私はこの研究室から脱走したのだ。
それで途中で充電切れで倒れ、そこを陽一さんに拾われたのだ。
そこまで考えて、私は安堵した。
良かった。
陽一さんのことは辛うじて覚えている。
けれど、その他の記憶は薄れつつある。
そして思い出したくないような記憶がドンドン蘇る。
「陽一さん……」
私は忘れぬよう、確認するように呟いた。
結構地下らしい。
俺と田原が梯子を降り始めて結構時間が経った気がするんだが……。
「神宮君…」
「ん?」
俺の下から不安そうな田原の声が聞こえる。
「ロボ子は、大丈夫だよね?」
田原自身も俺に聞いても仕方がないことはわかっているだろうに。
それでも、それでも少しだけ不安を紛らわせたい。
嘘でも良いから大丈夫だって言ってもらいたい。
そんな感じなのだろうか?
と、勝手に想像してしまう。
「大丈夫だ」
俺は田原を元気づけるため、なるべく明るく言った。
「あ!」
田原の声につられて俺が下を見ると、地面があった。
どうやらやっと到着したようだ。
下は明るかった。
真っ白で殺風景な壁と床。
数々の実験器具や機械、本が置かれている。
そしてこの部屋の中心。
「アンタが犯人か…」
老人が立っていた。
そしてその横には妙な機械に繋がれたロボ子の頭。
「ロボ子!!」
「彼女は今眠っている。データのバックアップの途中なのでな…。だがすぐに起きる…」
老人は振り向く。
「今までのことなんぞキレイに忘れてな」
老人が、俺達に向かって邪悪に微笑んだ。
続