A story of tragic love
今日はユウと約束した日。時間通りに彼は来てくれた。
「じゃ、じゃぁはじめるね……」
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※タイトルは擦れていてもう読めない
・作者不詳
ある村に元気な少年が住んでいました。その村では少年と同い年の美しい金髪の少女が一人居て、他は幼い子供ばかりでした。
彼らの親はいつも仕事で忙しく、少年と少女はいつも小さい子供達のお世話をしたり、親たちの仕事の手伝いをしていました。ただ、その少年には隠し事があります。それは、入ってはいけない森の中に毎日足を踏み入れて居たのです。
少年が毎日踏み入れる森は、大人達もあまり寄り付かないくらい薄暗く、人肌に纏わり付く様な冷たい空気が広がっています。それでも少年は毎日欠かさず奥へ進むのです。
森には全身が真っ白な少女、モナクスが木に寄り添いなが本を読んでいました。その少女の目は赤。少年はその赤に魅入られていました。
ただ、少年は魅入られただけではありません。少年もモナクスに一目で好意を抱いていました。夜な夜なモナクスのいる森の方向の窓を向くと、意識が落ちるまで見つめています。
モナクスも同じく、自分の家に戻れば少年がいるだろうと思われる方向を夜に向いて、意識が落ちるまで見つめていました。
そんな関係である二人の毎日はほぼ同じです。しかし、初めは心を閉ざしていたモナクスは、日に日に少年の前で笑顔を見せる事が増えていました。
「ねぇ! 今日はさ! 久し振りに僕の村に来ない?」
ある日、少年はモナクスに久し振りに村まで降りて来ないかと提案しました。モナクスが一度村に来た時は、たまたま少女が村に用事があった時で、その時に少年に村を案内してもらった事があります。
だからお互いが十五歳になって、久し振りに少年の村に向かうのがモナクスは楽しみでした。
森から出るまで、他愛も無い世間話をしながら二人は降りて来ましたが、モナクスは少年の異変には気付くことはありませんでした。
「……あれ?」
村に来てしばらく歩いていると、モナクスは一緒にいた少年の姿が見えなくなり、モナクスは辺りを見回しました。
それに、村は異様に静かで、まるでモナクスに牙を向くような雰囲気です。
「た、助けてー!!!!!」
広場の方から、少年の助けを呼ぶ声が聞こえました。モナクスは急いで広場の方へ走って向かいました。
「え? ……どういう………こと?」
広場に出た時、モナクスの走る足が緩やかになり、立ち止まりました。
赤々と燃える松明を掲げる複数の村人。拘束されず、モナクスに向かって剣を構える少年。その少年に抱きつく一人の金髪の少女。
「ねぇ……どういう事なの………?」
モナクスの問いには少年は無言のままで何も答えません。ただ、金髪の少女を守るように少女に刃を向けるだけです。
「ふふっ……ふふふふふっ」
金髪の少女は笑います。そしてモナクスに言いました。
「彼はねぇ……貴女じゃなくて私を選んだの………貴女みたいな真っ白で気味悪い容姿より綺麗な私の方を選んだの」
そのセリフに少女の思考が消えました。赤い瞳がただ、少年と金髪の少女の二人を見つめます。
「ヒッ⁉︎ あ、貴方達! さっさとあの化け物を―――」
金髪の少女が村人に命令を下す時、何かを感じたモナクスは咄嗟に魔法で金髪の少女の口を塞ぎました。そして、モナクスは村人たちの命の源を断ち、まだこれからも生きる事ができたかもしれなかった村人たちの寿命を喰べます。
「そう……そんな紛い物の力で私と彼の仲を裂けるとでも思ったの?」
感情が含まれないそのセリフに金髪の少女の身体は、大量の冷や汗を放出させます。そして、何者かに縛られている感覚に陥りました。
「ねぇ、あなたはどうなの? 私はね。あなたと出会ってから一つの感情を知ったわ。あなたの全てを知りたいし、独り占めしたいの。初めは私自身この感情を否定したかったわ……でもね、やっぱり諦めきれないの。こんな綺麗な金色の髪の娘には負けたくないの。こんな魔法の紛い物の力に頼る穢らわしい娘……あなたが選ぶわけないわよねぇ? ユウステス」
モナクスに向かって剣を構えるユウステスの心が揺れました。金髪の少女に洗脳されているとはいえ、本心に根付いた最愛の人物に対して、自分が牙を向けているのを信じたくはないと、洗脳に対抗し始めたのです。
しかし、その抵抗は虚しくも直ぐに終わりました。
「うるさい……うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!!」
突然、金髪の少女は叫びました。確かに口を塞いだはずなのに、金髪の少女の叫びが響いたことにモナクスは驚き、隙を作ってしまいました。
「ユウステス、お願い! 私のためにあの化け物を殺して!」
その命令にユウステスは、
「分かったよ。僕の……愛しのリリア」
その言葉はモナクスの何かを壊しました。
軋み、歪んだ歯車はもう元には戻りません。歪んだ所から徐々に自壊が進みます。モナクスも、リリアも、ユウステスも三人の未来はすでに破滅に変わってしまいました。
黒い森。廃村の近くには、生者を拒む森があります。そこは、死にかけている人が入っても安全な森ですが、これから先も生きていられる人には牙を剥く森です。
「もう少し……もう少しだから…………」
長く伸びた白い髪を引きずりながらモナクスは進みます。最愛の人に斬られた脇腹にはまだ少し血は流れています。
「ふふっ……あなたの寝顔ってこんなにも可愛らしいのね…………」
モナクスが今、抱き抱えている最愛の人、ユウステスは瞼を閉じ、静かに眠っています。
その様子は森の魔物達に優しく見守られ、二人はとうとう森の最奥地まで辿り着きました。
「此処は……私が読んでいた本と同じ風景…………」
辺り一面に黒百合が咲き誇り、その中心部には大きな黒百合の花弁を悠々しく咲かせる大樹が聳え立っていました。そこにはたくさんの蝶……幽幻蝶が飛んでいました。
返り血と自分の血かも判別できないほど汚れた身体で、さらに重症の状態で長距離を歩いた所為か、モナクスの視界はチラチラと霞んでいました。
夢見た場所で愛しの人と一緒に居られる一瞬だけの幸福。その感情が、魔女・モナクスの最期の感情でした。
END
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※実際はもっと長いが、あえてメイレーはユウが理解しやすいように話している。
「ざ、ざっとこんな感じのお話……」
私のお気に入りの物語を読み終えた時、すでに陽は傾き始めていた。
「悲しい……お話だったね…………」
やっぱりユウは優しい。この人ならば見せても大丈夫……かな?
「でも、」
「でも…?」
ユウは何か良い言葉がないか探っているようだ。少し考えている。
「でも、僕もこのお話好きだなぁ……」
お父さんにもお母さんにも教えていないから他の人の感想は知らないけど、ユウと同じ感想を抱いた私は嬉しかった。
「あ、もうこんなに陽が傾いてる! じゃあね! またあした!」
ユウはそう言って森を抜けて行った。
「うん、また……あした」
私はユウが見えなくなってからそう呟いた。少し弱く、優しく吹く風に、白い髪をなびかせながら。
『幽幻蝶』
生態系が不明な稀有な魔物。人は襲わず、物語で死者のそばによく現れる。ただし、墓場では現れない。