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I belong only to you.

 そわそわする。リーアちゃんとおしゃべりしたりした時間から、ユウが来るまで待っている。


「うぅぅ〜……緊張して時間が長く感じる……」


 私達はもう、十五歳になった。約束の歳になった。白い髪が変になっていないかいちいち弄って整える。


 ―へ、変じゃ……無いよね?


 黒いゴシックドレス。父と母が十五になった私に贈った衣装。幼い頃は愛されていないと思っていたけれど、彼らは忌み子で魔持ちの私を愛していてくれた。けれど、それは白い髪の方の姿では無い、紛い物の私への愛なのだろう。

 でも、ユウのお母さんは正しかった。だから、愛されて育った偽物の姿の私の本当の姿をユウに見せたい。あわよくば彼と結ばれたい……!


「あ、この足音は……!」


 急いでこちらに近づいてくる足音に反応し、私は素早く白い髪を漆黒色に染め、瞳を紫色に染める。ちょうどそれが終わった頃に、彼女の姿が見えた。


「り、リーアちゃんどうしたの?」


 さっき村に戻って行ったはずの彼女が戻ってくる。


「ゆ、ユウが! ……ユウが勇者に選ばれたの!」


「えっ⁉︎ 凄いね!」


 まさか、想い人が勇者になるとは思わなかった。けれど、嬉しい。


「私も早く会ってみたいなぁ……」


 リーアが見た彼は、勇者に選ばれると国王から贈られる衣装だそうだ。詳しい容姿をリーアちゃんに訊いてみたが、それは「見てのお楽しみ」だそうだ。


「それじゃあ私は戻るね! 二人の時間を充分満喫するのよー!」


 そう言ってリーアは行ってしまった。ただユウが勇者に選ばれた事を教えに戻りに来ただけで、少し安心した。


「それにしても……どうやって王様はユウの存在を?」


 浮かぶ疑問がいくつかある。けれど、それは今後の私には関係のない事と思って忘れる事にした。






 王様から贈られた衣装は、見れば誰もが勇者だと認識できるものだった。白い軍服に似た衣装には、所々に高価な金属や小さな宝石で飾られている。そして彼の右肩に掛かっているマントの色はスカーレット。高位の階級を表す。

 王族にも等しい地位を得た彼が今、私の目の前にいる。


「綺麗だ……」


 それがユウの第一声。それは私の顔を熱くさせた。恥ずかしくて顔を隠したいけれど、我慢する。

 真っ白な肌と同じくらいの白い髪に、狂った魔物のような赤い瞳の気味の悪い私を彼は「綺麗だ」と言ってくれた。


「それにしても……その格好はどうしたんだい? 似合っているけど……」


 覚悟していても、隠していこうと思っていた時期があったため、ドキッと強張ってしまう。


「あ、あのね……実は私、」


「メイレーが聞かせてくれた物語に登場してきた魔女に似てるね……」


 ユウはあの物語を覚えてくれていたんだ……


「うん、やっぱり綺麗だ」

「ふぇっ⁉︎」


 結論が思いもよらぬもので驚いてしまった。しかも私の顔が余計に熱を放出しているのを感じる。いや、顔だけではない。身体中が暑い。でも、その暑さは心地いいもので、快楽のように身体の内側をくすぐる。


「でも、出会った時から見せて欲しかったなぁ……」


 ポリポリと恥ずかしそうに自分の頬掻きながら、笑顔で彼はそう言う。


 ―貴方の……ユウのそう言う所が………そう言うところが…………


 我慢が出来ず、私は彼を押し倒してしまった。もう、歯止めが効かない。理性を押し退けて醜い私の本能が肉体の主導権を得る。

 長い髪は私が押し倒したユウの方へ降りて、私とユウだけの世界を作る。彼は私の行動に驚いたものの、抵抗はしなかった。


「もう……ダメ。抑えられないの……私、本当はね…誰にも恋をしないで生きようと思ったの。貴方にも聞かせたあの物語みたいに、忌み子が恋をしたらロクでもない結末が待っているの……あの本はその忌み子達の悲しい恋物語を束ねたもの……だから誰もこないこの森で最期まで過ごして終わろうと思った。でも、貴方と出会ってしまって狂っちゃったの! 貴方が欲しい。貴方のことを考えていると何かが私の中を掻き回して会いたくなるの。貴方に対する欲望が抑えられなくなるの………ねぇ、醜いことだと分かっているけどお願い! 私だけを見て。私だけを求めて。私のものになって。ううん、私を……貴方の…ユウものにして……!!!!!」


 言葉にしても足りない。私の醜いものがさらに湧き出ているような感覚もある。


 ―嗚呼……何で醜い私を見ても貴方の今の表情は穏やかなの?


 ユウはただ、優しく私に微笑んでいる。息切れいている私が落ち着くのを待っているのだろう。私は息を整えて、謝ろうとした。

 けれど、丁度私が息を整え終えた時にユウは口を開いた。


「嘘偽りなく君は綺麗だよ……メイレー。この体勢でも良いけど、僕はこっちの方が好きかなっと」

「えっ、きゃっ⁉︎」


 あっと言う間に、私とユウの位置が入れ替わった。股の間に彼の片膝、両腕はそれぞれ押さえ付けられて完全に捕まってしまった。


「この日は僕の誕生日なんだ。それと同時に勇者に選ばれた日でもある。けれど、僕はこの日にすると決めていた行動があるんだ」


 彼が私の耳元に顔を近づける。彼の息が私の耳を擽りながら音を作る。


「メイレー……僕と………いや、こっちの方がいいかな?」


 そして彼は言い直した。


「僕のものになってよ」


 と。

 その言葉に私はドキッと、ただ一人の少女のように胸をときめかせた。一気に顔の熱が全身に広がる。ただでさえ、ユウの顔が近くて緊張しているのに、そのセリフは卑怯だ。


「あ、ああ、う…………ご、ごめん…なさい。ちょっと、お、おお落ち着く、かかから」


「いいよ。いつまでも待ってあげるから。あ、でもこの体勢のままだよ?」


 悪戯をする子供の様に明るい彼の笑顔が可愛らしい。そう思うと、徐々に速くなっていた鼓動がもとの規則正しいペースに戻った。


「こんな醜い私で良ければ……ううん、貴方が綺麗と思う私で良ければ」


 私は目を閉じる。彼に身を委ね、彼を求めるのだ。

 そして私の唇に何かが重なる。それは、私が愛おしく思う人のもの。初めての接吻は軽く触れるだけ。それ以上は彼も私もまだする勇気はなかった。


「……綺麗だ」


「も〜、さっきからそればっかり」

「ご、ごめん。でも本当のことだから仕方ないでしょ?」


 さっきから「綺麗だ」としかユウは言わない。けれど、決して不満であるから言い返したのではない。ただ少し、困らせたかった。


「そうだなぁ……綺麗以外だと…“可愛い”とか、“好きだ”とか、“結婚しよう!”とかかな?」

「け、けけけ、結婚!?」


「あ、顔が赤くなった」


 困らせようと思ったら恥ずかしい思いをさせられた。でも、嫌ではない。むしろ……


「好き」


 思っていたことが口から出てきてしまった。けれど、彼がやっと顔を赤くして恥じらうところが見られた。


「ぼ、僕もメイレーの事が好きだ!」

「っ⁉︎」


 顔が近い。それに……


 ―舌ぁ⁉︎


 彼は舌を入れてきた。仕返しに彼は舌を入れてきたのだ。

 体勢的に私は逃げられない。捕食者のように鋭くなった彼の眼光。


 ―いいよ。私は貴方のものだから……


 私は彼のものだから。彼のものだから私は彼を求める。抵抗はしない。これしきのことで抵抗したら嫌われはしないけど、彼が私を積極的に求めてはくれなくなるから。







 長く、甘く、淡く、永遠に続いて欲しい短い時間だった。

 あの幸せなひと時。身体の中から熱が全身に広がり、感覚を鈍らせ、擽ぐるような快楽が私を襲った。私の目から入る情報は彼しか映さず、それ以外はあやふやな景色で思い出そうとしてもボヤける。


「ねぇ、勇者になったってことは、ここから離れるの?」


「そうだね……でも、僕は寂しくないからね」


 私は寂しいと思う。でも、彼が何故寂しくないのか気になる。


「それに、もし僕の役目が終わって国王の娘さん、姫様と結婚――」

「えっ? 姫様と結ばれちゃうの? だから今日、私に――」


 木に背中を預けて私とユウは世間話をしていた。そこで彼がこの国の姫様と結婚すると聞いて、私は悲しくなった。胸にポッカリと穴が空く、そんな感覚がした。

 けれど、彼は笑顔で人差し指で私の唇を軽く押さえると、


「大丈夫だよ。僕はメイレー、君と結ばれること以外は選ばない。だから一緒に……」


 だから一緒に、


「一緒に行こう」


 パリーーンッと私の中で甲高い音が響いた。私を閉じ込めていた鳥籠と鎖が壊れた音。この容姿で生まれた私の呪いが祝福へと変わる音だと思った。


「わ、私で良ければ!」



















































 私は、今の幸せがあるのにさらに幸せを求め過ぎた。


  疎ましく扱われるべき私が、

   幸せになりたいと願うのは愚かなことだ。


 忌み子の私が恋する事は、許される事では無かった。

 結局、忌み子の恋物語は最後の最後に同じ悲しい終わり方で固定されていた。


『救いなんて……ないのね』


 彼との旅の途中、ある物語の女主人公の台詞が聞こえた気がした。

【色:スカーレット】

高位の階級を表すが、同時に罪も表す。

本編に関係あるかどうかは、皆さんのご想像にお任せします(*´꒳`*)

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