わたしへ
その後
どれほどの時間、その場に佇んでいたか
正直なところ、あまり憶えていない。
もう陽も暮れ始めた頃だったように
思える。
帰り際に
ハルニレの木を再度見上げ、
わたしは言葉なく小さな礼をした。
すると、それが合図だったかのように
木の陰から1人の女性が現れた。
( あ、あ、あっ・・・・ )
わたしは、驚き焦り、
数歩後ずさりしながら、その女性を見据えた。
その女性の顔は、東京のファストフードの店員で、なおかつ
帯広駅で豚丼定食の売り子さんをしていた・・・
その人だった。
スタイルが良くスーツ姿で現れたその人物に、
恐怖の色を隠せず
数メートルの距離を置いて
わたしは
麦藁帽子を手で押さえながら、立ち止った。
『 はるにれの木、ねぇ・・・。
ほんと良いところね、ここは。 』
『 あ、あなたはだれ? 東京でも会ったコトがあるでしょ? 』
『 やっぱ気付かれてたか・・・。 』
『 帯広駅で、豚丼売りも・・・・ 』
『 あなたには、あそこで勘付かれたと思っていたわ。
失敗したわね・・・ちょっと近すぎたかしら? 』
『 ねぇ、質問に答えて。 あなたは何者なの? 』
その私の問いかけに
その女性は、スッと私の正面に向い直り
はっきりと、こう言った。
『 まつりのこと、知ってるでしょ? あの子からの依頼よ。 』
『 ま、まつりちゃん!? 安藤祀鯉ちゃん? 』
『 そうよ。 あの子から、あなたを守るように頼まれたの。 』
『 ま、守る? どうして? どういうこと? 』
わたしは、少し前のめりになりながら
矢継ぎ早に質問を放つ。
彼女は、それには動じず、
私に近づきながら 淡々と説明を始めた。
『 あのファストフードの停電から、全てが始まっていたの。
それはあなたと私たちの関係なのだけど・・・
そのときは、そう・・・
あなたともう一人のあなたの関係までは把握できなかった。 』
『 もう一人の、私? 』
『 そう・・・。 どうして、そんなことができるのか
私たちには解からなかったけど・・・まぁ、
私たちも似たようなモンだしね。 』
『 あなたも、あの少年たち・・・まつりちゃんたちの仲間なの? 』
『 そうよ。 まぁ、私たちのことはいいんだけど・・・ 』
『 あ、あの・・・。 さっき、守るって言っていたけど・・・ 』
『 まつりが銃撃戦の際、巻き込んでしまった人がいると聞いてね・・・。
色々と迷惑を掛けたみたいで、その・・申し訳ない。 私からも詫びる。
まぁ・・・その件で、私たちの敵があなたのことを狙いやしないか、
ちょっと様子を見させてもらった。 』
『 それって・・・。 』
『 まぁ、巴菜がいい仕事したんで、もう無いかな・・・安心していいよ。 』
『 えっ!? おハナさん・・・彼女のこと!? 』
『 まぁ、彼女にはギリギリで間に合ったけど・・・。 』
『 ・・・・・。( あの待合室で見かけた女性・・・って ) 』
『 解かっていると思うけど、
あなたの疑問に全て答えられる訳では無いの。 』
私は、何とかすべてを理解しようと
押し黙り、考えあえいでいると
その女性は、私に近づき
『 これを、受け取って 』
と、大きな見開きの封筒のようなモノを私に手渡した。
わたしは力無く手を伸ばし、それを受け取り
中身を確認すると、
そこには
帯広-羽田間の航空チケットが一枚、
そして、その後ろに1万円札が一枚入っていた。
『 あまり時間がないわ。
それに、空港までの移動も手配済みよ。
いま、ちょうど着いたところね。 』
その言葉に促され
堤防の方を確認すると、
休憩所の前に、
一台のタクシーが停車しているのが見えた。
『 さぁ、行って。 』
『 ・・・・・でも。 』
『 私たちは、存在しない。
でも、あなたは違う。 もう、終わりよ。
あなたの場所に帰りなさい。 』
わたしは、彼女に身体を押し出され
何度も何度も振り返り
その女性の姿を確認しながら、前へと進み出る。
黒く、濃くなった緑の草原を
ゆっくりと
掻き分けていく。
そして、小高い堤防の丘を登りきると
そこには見覚えのある顔があった。
あの時の、タクシー運転手・・・。
たしか・・・北・・・はち・・・
『 北八馬、きたやま です。 空港まで御案内いたします。 』
わたしは、タクシーに乗車を促され
去り際に、もう一度
ハルニレの木を凝視してみる。
しかし・・・・。
もう、彼女の姿を再び確認することはできなかった。
・・・・・・・・・。
その後のことは、
正直・・・あまり憶えていない。
わたしは羽田空港のロビーに
何時間も気が抜けたように腰を下ろしていた。
いや、動けずにいた。
そんな私を不憫に思ったのか、
見かねた清掃のおじいちゃんから、
優しい声を掛けられた。
『 別れは辛いもんだ。 ワタシだって、そうだ。
でも・・・。 』
わたしは、力無く
声の続きに耳を傾ける。
『 きっと、また会えると思って・・・生きていこうや。
なぁ、お嬢ちゃん。 』
後日、
わたしは 母から一通の手紙を渡された。
それは、幼き自分が大人の自分へ書いた手紙・・・。
学校の、なにかの課題で書かされたものであったが、
その手紙の文面を見て
わたしは 涙が止めどもなく流れ・・・
声を出して泣いてしまった。
「
~ 大人になった自分へ ~
大人のわたしは、いま何をしていますか?
こまったりとか、していませんか?
わたしは、今こまっています。
この作文をかくまで、テレビがみられないからです。
母はこわいです。
なので、かいてみようと思います。
わたしの今のおこづかいは500円です。
大人のわたしは、どれくらいあればうれしいですか?
わたしは、あと500円ほしいです。
どーしてかというと、
その500円をちょきんして
おとなのわたしがこまったら、つかってほしいからです。
大人はたいへんだと、母がいっています。
父もいっています。
だから、もう500円ほしいです。
でも、おこづかいはふえそうにありません。
だから、らい年のおとし玉は
つかわないつもりです。
大人のわたしは、こまっていませんか?
わたしは、今こまっています。
ぜんいんしゅうごうが、おわりそうです。」
~ 次回、エピローグです ~




