第6話 新たなる日常へ
これからどうすればいいのか。
そんなことを考えているうちに日が傾き始め、夕陽が眩しくなるころ、着替えを取りにいった結衣が戻って来た。
「みんな心配していたよ」
てきぱきと持ってきた着替えを病室の引き出しにしまい、換わりにハンガーにかけられていた春人が着ていた制服と思われる服を袋にしまう結衣。
「みんな?」
「わたしたちの弟や妹。それも忘れちゃった?」
「…いや、覚えているよ」
結衣の問いに春人は曖昧に答える。
いや、正確には思い出したと言うべきか。
確かに自分には結衣の下に歳の離れた弟妹がいて、今は小学校に通っているはずである。
「お兄ちゃん、なにか欲しいものある?買ってくるよ」
何とか下の弟妹の顔を思い出そうとしていた春人に尋ねてくる結衣。
「……いや、大丈夫。売店があるんだろう?自分で買うよ」
暫し考えた後、そう答える春人。
実を言うと病室から出て、辺りを見て回る口実が欲しかった。
「そっか。そうだね」
その答えに結衣は何ら疑問を抱くことなくうなずき、春人は内心で安堵する。
「じゃあまた明日ね」
そう言って荷物をまとめた結衣が帰ってしまうと病室が静かになる。
手持ちぶさたになった春人は意を決してベッドに備わっている呼出器で看護士の許しを得てベッドから降り、売店に行ってみることにした。
これだけ技術が進んでいるのだから電子決済が当たり前かと思いきや、しっかりと現金の入った財布が結衣が持ってきてくれたであろう荷物の中にあった。
単位は…円。
春人が知る日本と同じ。しかし、みたことがないデザインの貨幣とお札。
一方、スマホにも現金決済と思われる機能が入っており、春人はスマホと財布の両方を持ち、スリッパを履いて病室を出る。
院内は静かだった。うっすらと薬品の匂いが鼻を突く通路を春人は歩く。
時おり日本語の院内放送が入るが、看護師や医者の往来は少なく、巡回や清掃のロボットらしき機械が時おり通路で動いている。
それだけを見ると、ここが日本、いや地球ですらないことが信じられない。
だが、あちこちで日本語と併記されている今まで見たこともない文字列に春人は現実を突きつけられる。
古めかしい機械式の操作ボタンを押してエレベーターに乗り、一階に下りると近くにあった売店で携帯の電子決済機能を使い、飲み物やお菓子を買う。
なぜか品揃えには偏りがあり、飲み物の器の形も見知ったものではないが、それ以外は自分が知る前世の日本と変わらない。
売店のおばちゃんも手慣れた感じで決済を処理してくれて、春人は売店を後にする。




