第30話 帰宅
「鷲巣さんはどうするの?」
春人の問いに陽葵は首を振る。
「うん。わたしは…まだ決められない。
戦争とか怖い、私の知っていることは話すけど。でも、協力とかはできない…かな。
でも、この世界で生きていくしかないのなら逃げてはいけない気がする」
陽葵の言葉に春人はしばし考え、ためらいながら切り出す。
「それは、俺たちと一緒に考えないか?一人で考え込むよりはいいと思う」
「…うん」
顔を上げた陽葵はためらいがちにうなずく。
その時、春人は陽葵に手を握った時の事を思い出していた。
「暗くなるし…近くまで送っていくよ」
「…そ、そんな!大丈夫です!そこまでしていただかなくても!」
春人の言葉に慌てた様子でそう言って手を振る陽葵は再びうつむいてしまう。しかし、しばらくすると遠慮がちに陽葵は口を開く。
「ごめんなさい。やっぱり、お願いしていいですか?」
おずおずと聞いてくる陽葵。
「ああ」
うなずく春人。
と、そこで春人は懐に違和感を覚え、懐に納めていた携帯を取り出す。
着信があった。
画面を見ると発信者は結衣であった。
通常通話でかけてみる。
「お兄ちゃん?帰ってきたんだよね?」
端末の向こうから心配そうな結衣の声で春人は安心を覚える。
さすがに携帯の電波は惑星間までしか通じないのだから仕方がない。
少なくともこの国では。
「ああ」
「良かった。もうすぐ帰ってくるんでしょ?」
春人は陽葵の方をちらりと見る。
「それがさ、鷲津さん送っていくから、少し遅くなるよ」
それを聞いた瞬間、わずかな沈黙があった。
「へー」
「何だよ」
「好感度上昇!だね~」
携帯の向こうでなぜかにやにやと楽しそうな声で応じる結衣。
「何言ってるんだよ」
「あははっ!お兄ちゃん!ちゃんと陽葵ちゃんを送り届けてあげてあげてね!」
「…ああ」
「まったく」
通話を切ると春人はため息をつく。
それを陽葵はどことなく嬉しそうに見ていた。
やがて二人は陽葵の家がある住宅地の近くにきたので、そこでバスを降り、二人は歩道を歩き始める。
暗くなり始めた街中。
車道上を行き交う車。
やがて二人は陽葵の家がある住宅地に入る。
住宅地のあちこちには明かりがつき始めている。
二人はしばらく歩き続け、
「先輩、ありがとうございました。ここまでで大丈夫です」
やがて、ためらいがちに陽葵が言う。
「ああ」
二人の間には微妙な空気が漂う。
娘が見知らぬ男と帰って来る様を見たら彼女の家族は驚くだろう。
春人の脳裏に結衣の顔がちらつく。
それを考え、春人はそこで別れることにした。
「色々ありがとうございました、先輩。それで、その、これからもよろしくお願いします」
そう言うと陽葵は頭を下げ、荷物を手に家へと歩いていった。
明かりのついた玄関が開き、家族が彼女を迎え入れている。
それを遠くから見届けた春人は踵を返し、家路へと向かう。
その間、春人は結衣のことを考えていた。
突然の事に戸惑っているだろうに、受け入れて未来を見据えている結衣が羨ましい。
「どうするかな」
春人は空を見上げる。
日没を迎え、この世界の太陽である恒星アマテラスはすでに地平線の下。
世界は夜を迎えつつあった。
空に輝く無数の星々、そしてこの第三惑星を回る月が浮かんでいる。
星々の中に混じってひときわ輝く星。
数日前に春人らが訪れた第四惑星である。
あそこに行った事が未だに信じられない。
しかし、この世界では当たり前のこと。
荷物を手に夜道を歩く春人は昔を思い出しながら空を見上げる。
「あれがヤマトタケル座、あれがスサノオ」
ここに来た日本人たちはじぶんたちの起源を忘れないよう、自国の神話の人物らを星座にしたのだという。
「そして、あれが富岳座」
春人は星空を見上げ、おおきく見渡す。
星座のいくつかを跨いで結ばれる巨大星座。それは、その名の通り春人の前世の記憶にある富士山を模した形に見える。
この惑星の夜空には他にも、日本神話に出てくるやまたのおろちや三種の神器を模した星座もある。
さて、これからどうするか。
春人は通りから住宅地に入る。
まだ見慣れてないが体が家路を覚えている。
春人は暗くなった住宅地内で歩を進め、
やがて、
「あっ!お兄ちゃん!」
聞き覚えのある声が遠くから聞こえ、春人は彼方からの明かりに照らされる。
携帯の明かりだろう。
その明かりが足音と共に近寄ってくる。
「お帰りー!」
明かりの向こうからにこやかな笑顔で春人を迎える結衣。
「…ああ、ただいま」
そう言うことにまだためらいがある。
「みんな待ってるよ」
そう言うと結衣は春人の荷物を一つ持つと隣にならんで歩き始める。
「ちゃんと陽葵ちゃんの事送ってきた?」
「ああ」
「よしよし、さすがー」
「なにがさすがだよ、全く」
「あははっ」
なぜか嬉しそうな結衣の様子に春人は首をかしげる。
「結衣」
「なに?」
「もっとこの世界の事教えてくれ」
そう言うと春人は陽葵と話したことを伝える。
春人の話を聞いた結衣はしばらくうなずいていたが、話を終えると、
「しょうがないなあー」
不満げな声をあげる結衣。しかし、どことなく嬉しそうである。
「いーよ、陽葵ちゃん共々教えてあげるね」
そう言い合って二人は家へと向かう。
星空の彼方に瞬く星の彼方、そこに彼らにとっての故郷があり、また、将来の敵と味方がいる。だが、どれが彼らにとって真の敵と味方なのかは、まだわからない。
続く?




