第18話 宇宙への窓口
港の施設入り口の降車場で着替えなどが入った荷物を車から下ろし、降車の手続きを済ませると送迎車は走り去っていく。
宇宙港の玄関口は前世の空港とさほど変わらない雰囲気であった。
ただ奇降都の人口を考えると賑やかさが足りないのも致し方ないのだろう。
奇振都の規模はどう考えても日本の地方都市レベルで、100億を越える人口を持つゼフィル共和国全体からすれば自治が認められているのが不思議なくらいである。
見渡していた春人の視界にベンチに腰かけている見慣れた人影が映った。
「あっ、時任先輩」
「鷲巣さん」
こちらに気づいた鷲巣陽葵の元に春人は荷物を手に歩み寄る。
陽葵の傍らには春人の倍くらいの荷物があった。
その光景を見た春人は結衣の言葉を思い出すを
「男の人はいいなあ、わたしなら着替えとかで倍の荷物になるよ」
荷造りを手伝ってくれた彼女の言葉が思い出され、春人は思わず笑みを浮かべてしまう。
「怖いけど、この世界のこと知らないといけないから、この子もそう考えていると思う」
そう言うと陽葵は自身の胸に手を当てる。
おそらく元々の陽葵の事をいっているのだろう。
表情を引き締めてうなずく春人。
「でも誰も知らない人ばかりで、どうしようかと。もし時任先輩が来なかったらって思ったら不安で」
そう言われた春人は辺りを見渡す。
そこにはいくつかの若い人達の集まりがあった。
遠目から見る限り、年齢は自分達に近い。十代後半から二十代辺りだろうか?
彼らも顔見知り同士で集まっているようである。
そこに、
「仲がいいな、おふたりさん。出会い系のあつまりかな?ここは」
突然かけられた声に振り返る春人。
そこには春人達より一回りほど年齢が上に見える男性が立っていた。
「な、なんです?」
とっさに陽葵を背後に回してかばう春人。
「ど、どちらさまですか?」
春人の後ろから顔を覗かせて尋ねてくる陽葵。
「そう警戒しなさんな、俺は土方雄二。俺も転生者さ」
そう言って彼はにやにやと笑みを見せながら懐から見覚えのある封書を取り出して見せる。
「あなたも?」
そう言われ、とりあえずは警戒を解く春人。
三人は土方に促されて宇宙港の入り口近くに置かれたベンチに腰を下ろし、互いについて話し合う。
「おれはこっちの世界にくる前は結構なじいさんでな。お前達とはもしかしたら孫くらい年が離れているかもしれないな」
その説明に春人らは驚く。
「どうしてです?」
春人も陽葵も名前や家族構成など異なる点があるとは言え、こちらの世界での自分自身と思われる存在に転生している。
それなのに、
「どうやらこの世界での俺はだいぶ前に死んじまっているみたいでな。こいつはこっちの世界の俺の息子らしい。
おかしなものだったぜ。死んだ自分の写真を見るのはな」
土方の説明を聞いた春人はゼフィルからの説明を思い出していた。
転生者は平行世界の本人か近親者が多いと。
続けて土方は自分の前世について語り始める。
「俺が若い頃はまだ日本は豊かでな、金も使い放題だった。だがお前たちも知っているようにいつしか日本の景気は悪化し、経済も悪くなった。なのに俺は昔からの癖が抜けなくて放蕩三昧、いつの間にか金も余裕もなくなっていた。
あげくのはてになんとかって言う流行りの新型ウイルスとやらにやられちまって、金もないから病院にも行けず、苦しみ悶えながら六畳一間の安アパートで横になっていたら眠くなって、気がついたらこっちに来ていたのさ」
土方のその言葉に春人と陽葵は顔を見合わせる。
「新型ウイルスか」
春人と陽葵は顔を見合わせる。
確か、二人がいたそれぞれの世界でもそんな事があった覚えがあり、それについても話し合ったことがある。だが、それはこっちにくる何年も前だったはず。
流行が沈静化しなかった世界なのか?それとも?
「あんな目に遭うのはもうこりごりだからな。こっちの世界の俺の息子もなかなかに放蕩三昧だったみたいだが、俺はそれをやめて真面目に金を貯めることにした。
この世界、俺のいた日本から比べると人工知能に大分仕事が奪われちまっているが、それでも体を動かす仕事がない訳じゃなさそうでな。
幸い元々の俺が人工知能管理と地上と宇宙用それぞれの人型の作業機械の操縦資格を取っていたらしくて、今のところ食いっぱぐれることなくやっている」
「人工知能管理?」
聞きなれない単語に春人は首をかしげる
「大抵のところは人工知能が制御する無人機にやらせて、機械任せにできないところは俺がやる、それで一人ではできない範囲の作業をするのさ」
土方はそう言うとにやりと笑みを見せる。
「そしたらどこから嗅ぎ付けたのか知らないがゼフィル共和国のやつらが来て、俺の素性について聞いてきやがった。
仕方がないから白状したがそのせいで目をつけられちまってな。
誰にも知られずこっそり二週目の人生を満喫しようとしていたのに、全く」
青い空を見上げて悪態をつく土方、
「まあ、せっかくのご招待だからな。この世界の事を知るにはちょうどいいと思って来たのさ」
一通り自分の事を話した土方は春人らのいた日本についても聞いてきた。
「戦争?そんなものになっていたのか、そっちの日本は。ヤバイな。
まあ、仮にそうなっていたとしても俺はじいさんだっただろうから、戦争に駆り出されはしなかっただろうが」
そう言って土方は乾いた笑いを見せる。
「こんな話をしたのも何かの縁だ。今日は仲良くやろうじゃないか」
そう言うと土方は飲み物を買ってきてやるよと言って場を離れる。
「先輩」
春人は陽葵に声をかけられて振り向く。
彼女の顔は不安げであった。
「まあ、悪い人じゃなさそうだし、この世界についても俺たちよりも詳しいみたいだし。
でも、なにか変な事されそうになったら言ってよ」
「はい!」
春人の言葉になにやら嬉しそうにうなずく陽葵。
だが、春人はしばらくして気づく。
別に恋人じゃないんだから、なにいってるんだか。
そう思い、内心赤面する。
とはいえ、他に顔見知りもいない中、頼られているのも確かだろう。
考えなしに口からでた言葉ではあるが、言った以上は責任を持たなければならない。
結衣の同級生、なら妹みたいなもの。
邪な考えを振り払い、春人はそう考えることにした。




