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偽りの悪旗外伝 もう一つの地球『イザナミ』への転生編   作者: 新景正虎


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第17話 旅立ちの朝

 視察の日の当日、用意を整えた春人は結衣と共に自宅の前で迎えが来るのを待っていた。


 他の家族はすでに学校や仕事に出掛けていて、見送りは結衣だけであった。


 結衣もまた制服姿で、春人を見送ると学校に向かう。


 指定の時間が近づくと一台の車が住宅地の道の上を飛んでやってくる。


「来たね。いってらっしゃい」


「ああ」


 その車は春人らの家の前までくると昇降扇機(リフトファン)を響かせて下りてくる。


 車内は完全自動運転となっており、運転手は不在、何かあれば車内の端末を介して管理会社の担当者とやり取りができる。


 扉が開くと、春人は申し込み時に送られてきた身分証(カード)を運転席側の読取機(スキャナー)にかざす。

 

 承認され、春人は結衣と共に荷物を載せ

ると車に乗り込み、座席につく。


 扉がしまり、車が宙に浮く。


 窓の外で結衣が手を振っている。


 春人もそれに応じると浮き上がった車は奇振都(くしふるのみやこ)の北東、丑寅地区の先にある宇宙港に向かって走り出す。


 春人らの家がある住宅地を出て、しばらく走っていると奇振都を回る環状の単線路鉄道(モノレール)が見える。


 車が空を飛ぶため窪地に作られた路線を走るモノレールを眼下に見る春人。


 電柱も電線もない街中を一定の高度を保って走る車中で春人はまだ見慣れぬ、当たり前の光景を眺めていた。


 やがて車は街を抜け、奇降都に接している海岸線にそって整備された、北東にある鬼門湾の島に築かれた宇宙港に向かって延びる道をひたすらに進む。


 この大湾に浮かぶ島のひとつに宇宙港はある。


 舗装された道路上を走るよう入力(プログラム)された自動運転装置に従って車は宇宙港を目指す。


 車の行き来はまばらであった。一度、奇振都と宇宙港を往復する定期バスが通りすぎる位である。


 陸地側は開発用に切り開かれ、機械による整地がされている光景が続く。


 春人は右手に目を移す。


 そちらには朝日を照り返して輝く水面が広がる。


 奇振都は日本の東京湾を思わせる大湾の一角に築かれ、発展している。


 これは今後、他の土地への入植が開始されたさい、その地点への輸送の拠点となることを想定しているらしい。


 その大湾の彼方になにかが光る。


 目を凝らすとキラキラ光る湾の水面の彼方に天に向かって伸びる細い線が見える。


「あれが宇宙港、磁気加速射出施設(マスドライバー)ってやつか」


 春人の呟きには実感がない。


 前世では未来に実現するとされていた宇宙へと物資や宇宙船を打ち出す巨大な加速機構を持つ施設。


 あれに連絡船を載せて宇宙に向かって打ち出す。


 この世界ではあそこから海外旅行の感覚で宇宙に行けると言うのがまだ信じられない。


 宇宙に向かって伸びるレールから朝日に照らされて輝くなにかが打ち出されている。


 物資輸送用の無人輸送庫(コンテナ)である。


 人や動物以外の衝撃に強い物資はああやって地上から打ち出され、月から来て衛星軌道で待機している輸送船が回収して月に運ぶのだという。


 そう、考えを巡らせていた春人の耳に聞きなれない音が聞こえてくる。


 音は背後の上、上空から聞こえている。


 やがて音源は上空を通過したのか真上から聞こえ、ほどなくして遠ざかっていく。


 おそらくなにかが頭上を飛び去っていったのだろう。


 好奇心から春人は窓から外、空を見上げる。


 青い空には伸びる白い軌跡が2つ。


 それは彼方に見えるゼフィルの軍事施設に向かって延びていて、なにかが朝日を照り返して輝く。


「あれがこの世界の戦闘機か」


 そう呟いた春人は続いて、


「現代の戦闘機の動画を見せて」


 と、車を制御するアバターに頼むと目の前のモニターには動画サイトからゼフィルの現代戦闘機の歴史についての動画がいくつか表示されるので春人は画面に触れて再生する。


「このように推力を全方位に自在に向けることができる全方位型推進機構《ラウンドスラスター》の開発と構造可変素材《ヴァリアブルマテリアル》の実用化が現代の空中、宙間戦闘機の形状の基礎となっています」


 動画のなかでは前世でも見た事がある、先端が鉛筆のようにとがった筒に翼がついた戦闘機と円盤型の戦闘機が並べて紹介されている。

そのなかで円盤型戦闘機は動画のなかで円盤型から従来のものに近い鋭い錐に翼をつけたような形状へと形を変える


「実用化当初、機動力においては円盤型が優れていましたが、高速飛行時には大気抵抗を大きく受けるため最高速度には難がありました。しかし、立体質量投影機の粒子制御機能を発展させる事で常時質量を保ったまま構造や形状の変化をある程度可能とする素材と技術が開発されたことにより、速度と機動性の両立が可能となり……」


 動画のなかでは円盤型の戦闘機が滑らかに円錐型へと形状変化する様がCGで再現されている。


「……これによって高速飛行において巨大な主翼はもはや不要となり、現在では主に武装の格納庫として機能しています」


動画内では形状変化機能のない誘導噴進弾(ミサイル)や追加の燃料タンク、収束光線(レーザー)砲の出力装置等が翼のなかに収容される様がCGで再現される。


前世でも現世でも春人は軍事や戦闘機に詳しいわけではないが、動画のなかで大きな曲線を描いて飛ぶ従来の戦闘機を速度に優れた円錐型と機動性に優れた円盤型に変形して追い回す円盤形戦闘機の様をみると機動性の違いを理解するしかない。


「空飛ぶ円盤か」


 ふと、春人は前世での話を思い出していた。


 宇宙人の乗り物と言う都市伝説として語られていた空飛ぶ円盤、それがこの世界では当たり前に存在する。


 しかし、この世界にも都市伝説はある。


「巨大な人型兵器の噂か」


 春人はこの世界のネットでみた書き込みを思い出していた。


 それは巨大な人型兵器の目撃談。


 このゼフィル共和国では人間サイズの装甲強化服(パワードスーツ)と群れなす小型無人機械(ドローン)で巨大な原生生物を相手にするといわれており、前世の日本のテレビアニメなどにあった人が乗って操る巨大な人型兵器は存在しない、と世間では思われている。


 しかし、噂は存在する。


 この世界のネットの声曰く、それは銀河系の外にある未知の文明からの襲来に対抗するためのものである。


 とか、並行世界、多次元など人知を越えた存在に対抗するための秘匿戦力である。


 など。


「どこの世界でもこういう話はあるんだな」


 春人は思わず笑みを浮かべる。


 しかし、平行世界からの転生者を当たり前のように認識し、公ではないにしても政策をとっているこの国なら別次元からの存在からの襲来に備えていると言われても納得できる。


 春人は視線を前に移す。


 前方にはゼフィル共和国の特別区となっている軍事施設と居住区画が見え始めていた。


 ここは元々知的生命体の存在が確認された地球(テラ)の調査、監視、防衛のための拠点であり、目の前の軍事施設はテラからアマテラスへの移民がされる前からこの星に存在している。 


 つまりこの星は彼らの方が先住者。


 そのためこの星で彼らに開拓が許された土地は多くはない。


 だが、それでも日本列島の数倍もの面積が彼らに解放されている。


 この奇振都のある大陸は地球(テラ)で言うなら北アメリカ大陸ほどの広さで、奇振都はその東海岸、ニューヨーク辺りにある。


東には広大な大洋、西には未開拓の広大な大地が広がり、外敵はほぼ存在しない。


 だが、それもいつか終わる。


 相手は地球(テラ)か、ゼフィルか、自分達の住む場所と権利を守るための戦いがいつかやってくる。


 見るものがなくなったので途中、車に備え付けられた端末を使い、画面に表示された人工知能が制御する仮想案内員(アバター)を相手に話もする。


「なぜ、宇宙港は鬼門湾のある島に作ったんだ?」


「宇宙港のある島は万一に備えて、ゼフィル共和国政府の管理地となっております。また、島には調査局や軍の施設なども併設されております」


「そうか、ありがとう」


 その言葉に送迎車の運営会社の公式マスコットの女性型アバターは画面のなかで微笑む。


 だが、春人は思い出す。


 その質問の答えはこの世界では常識であった事を。


 奇振都の北にはゼフィルの軍事施設があり、それは鬼門湾にも及んでいる。


 元々はこの星の調査研究のための施設であったが、太陽系(テラ)に知的生命体、つまり地球人類が存在することが判明してからは調査、監視のために施設が増設された。


 今はこのアマテラス星系に駐留する防衛艦隊乗組員の休養、艦船の修理等のために存在している。


 宇宙港(マスドライバー)も元は軍用であり、移民の入植にともない民間に解放されたのだという。


 この事は経済にも影響があり、この施設で働く元テラ(アマテラス)人も当然存在する。


 やがて車はゼフィル側の居住区画にはいると様子が変わる。


 竜人、狼人、鳥人、鬼人、森人。


 春人にとっては異形のマアナ・ロハスの人々が当たり前のように歩き、生活している。


 違和感を覚える春人だが、同時に内心赤面し、自分がまだこの世界に馴染めていないことを実感する。


 やがて、島と繋がる海底トンネルの入り口が見えてくる。


 車は海底トンネルを進み、やがて抜ける。


 そこは長大な打ち上げ用のレールと着陸用の滑走路が広がる広大な打ち上げ基地の、光景が広がっていた。


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