第16話 後輩の眼差し
そのさまに春人は安堵する。
そこで結衣はなにかを思い付いたかのように顔をあげると手を叩いて春人の方を見る。
「ねえ、お兄ちゃん。
陽葵ちゃんのこと、ゼフィルの異星文明調査局に連絡した方がいいよ」
そう言われた春人は思い出す。渡された封書にはもし、同じような境遇の人を知っていたら連絡してほしいとの旨も書かれていたことを。
「ああ、そうだな」
「じゃあお願いね」
意外な結衣の言葉に春人は面食らう。
「俺がか?」
春人の言葉に結衣は当然のようにうなずく、
「だって転生者の事は秘密にしておいてくれって言われたじゃない。
わたし、転生者じゃないし」
その指摘に春人はうなずくしかない。
緊張のなか春人は携帯を取り出して封書に記されていたゼフィル共和国、異星文明調査局に電話をする。
電話に出た相手は、音声だけであったがおそらくゼフィルのマアナ・ロハスであろう、しかし流暢な日本語で春人や陽葵と話をし、
「わかりました、調査員を派遣いたします。ご協力感謝いたします」
「よろしくお願いいたします」
やり取りを終えて春人は息をつく。
どこがどうとは言わないが一仕事終えた感がある。
だが、
「ありがとうございます、同じ境遇の人がいて嬉しいです」
微笑む陽葵の顔を見た春人は和む。
「ああ」
「時任先輩、また来てもいいでしょうか?」
控えめにそう訪ねられた春人が躊躇いがちにうなずくと陽葵は微笑む。
しばらく話をしたあと、外が暗くなってきたので陽葵は帰ることになった。
見送りに春人も付き合う事となり、三人で受付まで下りていく。
「んふふー」
陽葵の先を歩く病院着姿の春人、その傍らを歩く結衣が春人に向けて意地の悪そうな笑みを見せる。
「なんだよ」
結衣は春人だけに聞こえるような小さな声でささやく。
「あの子ね、前は結構人気あったんだよ。うまくすればあの子とお付き合いできるかもねー」
その指摘に春人はどきりとなる。
「おまえなあ」
「だって同じ秘密を知ったもの同士でしょ?今日の事でお兄ちゃんはあの子にとって特別な存在になったかもね」
「いいかげんにしろ」
そう言って結衣を睨むと彼女はあははっと笑うと陽葵の方へと駆けていく。
そして数日後、
退院した春人は視察に向けての用意を始めていた。
一人で考えていてもらちが明かないし、結衣や陽葵など少なからず関係のある人物が身近にいる。
結衣を交えて陽葵とも話し合い、二人で参加することにした。
参加を決めたので二人が今通っている学校にもその事を告げて確認したが、この視察はアマテラスとゼフィル共和国について知るための特別な課外活動とされているらしく、参加も出席数に数えられるのだと言う。
春人の部屋で陽葵と結衣を交えて話をしていた中で、その事を伝えられた春人はアマテラスにおけるゼフィルの影響力と自分達の存在の重要性に驚く。
「まるでアメリカと日本みたいだ」
その事を知った春人は思わず呟く。
「う、うん」
それにうなずく陽葵。しかし、
「それってそんなに悪いことかな?」
結衣は首をかしげる。
それを見た春人と陽葵は顔を見合わせる。
「悪いって言うか…説明が難しいな」
「う、うん」
前世世界の日本を知らない結衣に地球での日本とアメリカの関係をどう説明したものか。春人と陽葵は頭を抱える。
そもそも、テレビやネットで言われているくらいで実際に自分の生活での影響等なかった事を春人は思い出す。
「日本は戦争に負けて、占領されて、それからずっとアメリカの軍隊が居座っていたからかな」
「ふーん。でも、ここはもともとゼフィルが見つけて管理していた星で、わたしたちはそこに住まわせてもらっている側だから、そこが違うのかな?」
「なるほど」
確かに。昔から住んでいた訳じゃないなら、あちらの決めた決まりに従うのは当然かもしれない。
「あ、そーだ」
結衣は中が白紙の真新しい帳面を春人らの前に出す。
「前世の事、これに書いておいた方がいいかも」
表紙には、結衣の文字で夢日記と書かれていた。
「うん、これなら変なこと書いてあってもおかしくないでしょ?」
怪訝な顔をする春人に胸を張ってうなずく結衣。
「ありがとう」
「ううん。情報提供したら報酬もらえるんでしょ?もらえるものはもらわないと」
「ああ。そういうことか。しっかりしてるな」
「そうですね」
結衣の言葉に春人と陽葵は顔を見合わせ苦笑する
こうして結衣の助けと、しだいに思い出すこの世界の記憶によって春人と陽葵は視察についての用意を進めていき、やがて…




