第10話 思い出
――ピピッ
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あれから何年、いや何百年経ったのだろうか。眠る必要も、休む必要もない私たちには、日付感覚も、曜日感覚も、何もなかった。季節のイベントに参加することはあったが、その思い出が何年前なのか、どういう順番なのかなんて、覚えていない。が、そんなことを考えてしまえば、脳内の全知全脳システムが反応し、答えが差し出される。この感覚には、とうに慣れた。
私とミストは最初、「古文書解読係」に所属していた。ローマ帝国の存続について、他国の古代文明の調査から得られるものがあると思ったためだ。翻訳は、私の全知全脳システムでなんとかなった。
調査から得られたのは、分割統治をしつつも、皇帝がその統治者たちを支配するという形態が最も適しているということ。当時のローマ帝国は、複数の皇帝による分割統治が行われようとしていたが、ミストの研究成果を、地上世界の人間たちの脳ともつながっている全知全脳システムを通して「ひらめき」という形で送り出した。その結果、ローマ帝国は分割統治の話については0に戻された。
そして、全知全脳システムの演算結果によれば、ローマ帝国は千年単位に渡っての繁栄と拡大がほぼほぼ確実であるということが確約されることとなった。つまり、ミストはローマ帝国を存続させるという目的を達成したということになる。
そんな時に舞い込んできたのが、新しく創設される係の係長になること。その名も異世界転生観測係。なんでも、死者の死後における未練を果たす方法について改革が成されたらしい。そして、その第一人者となった人物と共にこの係で職務を行うようにと、部署移動を求められた。
神援者としての目的を見失っていたミストにとってそれは朗報だったのか、私に相談することなく所属を決断してしまった。まぁ、相談されたところで止めるつもりは全くなかったのだけれど。
案外異世界転生観測係の生活は悪くなかった。ミストともにこの係の初期メンバーとなったリエンという男は、嫌われたがる独特な感性を持っていたが、ミストとの相性は悪くなくて、むしろ喧嘩するほど仲がいいというか、そういう関係性だった。
リエンは、本当のところ神援者ではない。未練を果たす方法の一つとして異世界転生という概念を神に示したが、実際のところどんな異世界であれば彼自身の未練を果たすことができるのかまでは何も考えていなかったのである。そんなこんなでずるずると所属し続け、やがて彼の願いは「異世界転生観測係に所属し続けること」に落ち着くこととなった。
そして、初めて追加メンバーとして迎えたのは記憶喪失の男性、アムネシア。ミストによれば、アムネシアはミストの歴史学者としての美意識から、神々に無理を言って神隠しをしてもらった存在らしい。無論、アムネシアの記憶喪失は神隠しが原因ではなく、その逆で、記憶喪失こそが神隠しの原因なんだとか。詳しいことはあまり分からないけれど。
その次にやって来たのが、地上世界で錬金術を手にすることに成功した唯一人物、マールスである。そして、彼の加入こそが私とフェーレスの再会を招くこととなった。
――ピピッ
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