第6話 レポート
――ピピッ
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あれから数日経った。「人間」に契約されるまで延々と学ばされる私達の生活は、特に代わり映えのないまま、あの日何もなかったかのように進んでいた……はずだった。この瞬間までは。
「ねぇ、ミミズクちゃん。オレとペアを組もうよ」
よくあるペア活動。フェーレスが勝手に私の隣に座ってきた。
「嫌よ。私、いつもこの授業では同じ子と組んでて……」
あたりを見回すと、内気なあの子が別の子とペアを組んで仲良く話している姿が目に入った。よかった、あの子の良さを分かってくれる子がいて。
「仕方ないわね。もうみんな組み終わっているのだから」
フェーレスは人気者だから、他の子に恨まれなければいいのだけど。というか、何故私に構うのだろうか。私が対話をしたのは、「猫」を被った彼ではなく、「猫」を脱いだ本来の彼だったはずだが。
「ミミズクちゃん、先生の話聞いてた?資料を参考に、今の時代で『神援者』になりそうな人を探してだってさ」
先生から渡された資料を見る。その資料には、多くの人物がリストアップされていた。多くは皇帝や政治家、そして学者である。「神援者」の役割から考えれば、学者であれば大方あてはまるだろう。「神援者」は、神々にその優秀さを気に入られ、死後も輪廻することが出来ずに神々を手伝い続ける死者の魂であるからだ。
「学者の中から適当に選んだら?この授業、特に正解があるわけでもないし」
「でも、学者を選ぶのはリスキーだと思うな。地上世界で生きる人間のうち、『天才』と呼ばれる人物は、生まれ持っての天才と、天上世界から『ひらめき』を与えられて成り上がった器としての天才の2種類いる訳だし」
「そうかもしれないけど、どう見分けるって言うの。それに、その『ひらめき』を理解できる程の能力が必要なわけだし、その『ひらめき』からその人自身の力でひらめいて、神援者になった人だっているわけでしょ」
正反対の私達は意見がなかなか合わず、気づけば他のペアは既にレポートを作成し提出をして教室から去っていた。教室に残されたのは、私とフェーレスと教師だけ。先生は私達の議論に興味がないのか、教卓近くに置かれた椅子に座りながら書物を読んでいた。彼が普通の「人間」であれば、ウトウトと舟をこいでかもしれない。
「やっとレポートが出来た……」
結局私達が選んだのは、ローマ帝国の存続を切望し、皇帝暗殺の黒幕として自ら歴史を動かそうとする歴史家に決まった。その名もミスト。奇妙な男だ。天上世界としても、ローマ帝国の存続を望んでいるからきっと神援者としてやって来る気がする。
「せんせ、出来たんでどーぞ」
フェーレスがレポートを渡せば、他のペアのレポートなんて見もせず積ませていたのに、私達のレポートだけじっくり見ている。
「おぉ、いい着眼点だね。揉めていたみたいだから心配していたけど、無事にレポートが完成したようで良かったよ」
先生は、うんうんと満足そうに頷いて私達のレポートをレポートの山に加えた。
私はまだこの時、知らなかった。この数日後、そのミストという人物の「相棒」に私がなるなんて。
――ピピッ
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