第22話 気配の正体
魔物の巣と化した洞窟の奥へ進む信介達。襲ってくるモンスターを先頭に立つ信介が倒し、取りこぼした個体ナナが倒すというやり方で、着実に最深部へ向かっていった。
洞窟の奥深く。王の間とでも言うべき広い場所には…
「何もいない…?」
「見てください!天井に何かいます!」
レイラが指摘した先には、天井からぶら下がる巨大なコウモリの姿が。どうやらアレがこれまで倒してきたモンスターのボスのようだ。
レイラは手頃な石を拾い集めて傘に装填すると、石突きをコウモリに向けた。
「どうしますか?」
「そうだな…コウモリって確か光を嫌ってたよな」
「そうなの?だったら凄い近くで私の魔法を撃てば、隙が作れるんじゃないのかな」
「そこを俺が叩けばいいって感じか。よし、頼むぞレイラ」
「撃ちます!」
レイラはトリガーを引いてコウモリに石を命中させた。するとコウモリは天井から離れたかと思うと、そのまま地面に落下した。
「え…?もう1発!」
もう1発石をぶつけるが、反応がなかった。信介は音を立てない様に警戒して近付き、コウモリを確認した。
「こいつ…死んでるんじゃないか?」
「本当かい?」
ナナ達も近付いて突いてみたが、口から血を流したコウモリは一切反応しなかった。
「仮死状態かもしれない。一応頭を潰しておこう」
「あ、頭を潰す!?」
そう言ったナナは容赦なく頭を踏み潰した。見た目の割にえげつない事をすると、信介は心の底から震え上がった。
「怒らせない様にしよ…」
「病死でしょうか…?」
「人間を追い出して住処にしたまでは良かったけど、身体に合った環境じゃなかったんだろうね。まあ、戦わなくていいのは何よりだ。それじゃあ残ったモンスターがいないか確認しつつ、外に戻ろうか」
「なんか呆気ねえの…」
ここに来るまでに感じた気配は気のせいだったのだろうか。ナナの言う事が最もだが、それでも戦えなかった事を残念に思いつつ、信介は来た道を戻った。
地上に出ると、炭鉱夫達が彼らの帰りを歓迎してくれた。ノアもそれに混ざって、信介を担ぎ上げた。
「どうだ見たか!俺の見込んだ新入り達は!」
「驚いたぜ!とっくにモンスターの餌食になっちまったかと!」
「早速仕事に──」
「ちょっと待って!」
男達が喜んで仕事に戻ろうとしたところ、ナナが大きな声で止めた。
「ノア、私達は最深部でモンスターの親玉と思われるコウモリを見た。そいつと戦う事になるかと思ってたけど、私達が来る前に病気で死んでいたみたいなんだ。ここの洞窟、何か危ないんじゃないのかな」
「そんなはずはない!私達はもう1ヶ月もここで作業しているが、ここに関係してそうな病気に罹ったやつは誰一人もいないぞ!」
「待て待て待てィ!実際に洞窟を覗いたナナがこう言うんだ。一旦つるはしを置いて、洞窟に行くのは待て!」
ナナの言葉をノアが強調すると、流石の男達も足を止めた。
「ナナ、コウモリはどんな状態だった?」
「口から血を流してたよ。暗くてちゃんと見えなかったけど外傷もなかった」
「そうか…う~ん…」
ノアは洞窟の近くに倒れていたモンスターの死骸を見た。虫や獣など種類が様々で規則性が感じられない。そもそもこれは群れだったのだろうか。
「…コウモリのサイズはどうだった?」
「大きかった…あっ!?変だよあのコウモリ!私達よりも大きかったのに、あんな狭い洞窟の奥に行けるはずがない!」
「そうなると…お前ら!ちょっと離れてろ!」
ノアは洞窟から自分達以外の人間を遠ざけた。
「たまにあるんだよぁ…」
「たまにって何が?」
「まあ見てろ」
詳しい事はその眼で確かめろ。そう言わんばかりに洞窟の前に立つと、ノアは勢いよく地面を殴った。
「地震だ!」
「あ、あなたが起こしたんですか!?」
ノアが打ち込んだ鉄拳で大地が揺らいだ…わけではなかった。確かに今の一撃は強力だった。それでもせいぜい岩を砕く程度で、地震を起こす程の力はない。
「地面が何か出てくるぞ!」
信介がそれに気付いた。大地にヒビが走らせて地中から現れたのは、岩石の巨人だった。
「なんだあれ!?」
「あいつはゴーレムだ。正確には核となるゴーレムコアが洞窟そのものを乗っ取って造った器だがな。こうなるとやる事は一つ。あの巨体のどこかにあるゴーレムコアを砕いて止めるしかねえ」
ゴーレムコアとは自然発生する謎の多い物質であり、周囲の物質を自身の肉体として利用し、こうして巨大なゴーレムとなるのだ。
「ゴーレムコアってどこにあるんだよ!」
「勘で見つけるんだ。今回はお手本って事で俺があいつをやっつけてやる…そこだな」
ノアはゴーレムを一目見て、怪しい場所を発見。その場から走り出して目覚めたばかりのゴーレムを駆け上り、コアがあると思われる左肩へ。
「ここだ…おりゃあ!」
左肩を力強く殴ると桃色に輝く大きな宝石が飛び出した。それと同時にゴーレムはバラバラになって崩れていった。
炭鉱夫達はゴーレムコアの器となって地上へ出てきた鉱石をリヤカーに積んでカミュー村へ戻っていく。信介達もその作業を手伝っていた。
「こういうのなんて言うんだっけ…骨折り損のくたびれ儲け?」
「何も得なかったわけじゃないだろ。あのゴーレムが立ち上がってくれたおかげで石材を掘る手間が省けたんだ」
現在の天候は消臭雨。肉体労働で汗を流す男達にとってはありがたい雨である。
「ノアさん、ゴーレムコアを見つけました!」
叩き出したゴーレムコアを拾いにいったレイラとナナが戻って来た。コアはちゃんと砕かなければ地面の中へ逃げていき、やがて今のように大きな姿を取り戻してしまうのだ。
「お疲れさん…おりゃあ!」
ノアに砕かれたゴーレムコアは光を失い、黒曜石のように黒ずんだ。
リヤカーの荷台に石材が山積みになると、信介を先頭にして左右に女子二人が付く。そして後ろからノアが押す形で、彼らも村へと帰還した。