聖域魔法特化型人間
本日、コミカライズが更新されます。
リーン対ライトラ。
二人がジョンマンの弟子としての権利を賭けて試合をするという事になったのだが、ジョンマンとその弟子たちは全力で止めてきた。
リーンを殴って気絶させようという判断をジョンマンが仕掛けたほどである。
そもそもジョンマン側からして、その条件でライトラが勝っても楽しく教えられるわけがないし。
マーガリッティは学園側へ全力で『止めてください』と訴えた。
ジョンマンのもとを去るかという時よりも必死であった。
学園側としても『コレで王女が怪我したら大問題じゃ?』という根本的な問題にぶつかり『そもそもプログラム外で、生徒じゃない選手が戦うのはNG』という根本的な問題提起にたどり着いていた。
これを言えばライトラも止まるだろう。少なくともこの場での試合は止められるはずだった。
なのだが、国王がGOサインを出してしまった。
この場を借りるだけというだけで、責任は自分がとるとも言ってしまった。
『相手から許可も出ているし、娘のワガママなので聞いてほしい。費用は私の自費で出す』
こういわれると、ジョンマンも弟子たちも何も言えなかった。
お通夜のような空気になって、黙りこくってしまう。
国王がこう言ったことを、周囲の誰も止めなかった。
国王の目論見を周囲も感じ取ったからだろう。
なし崩し的にジョンマンをこの国にとどめたい。
そうすればマーガリッティの成長を待つまでもなく、迅速に魔法使いの質を上げられる。
マーガリッティを育てたこともそうだが、解説をしたり、実際に浄玻璃眼を使って説明したこともそうだ。
ジョンマンなる人物は、魔法が使えないうえで指導者として優れている。
だからこそマーガリッティを任せられている。
彼がこの国にとどまってくれれば、どれほどの国益を生むことか。
取り返しがつく範囲での事故、そこからの『なにか』をきっかけとしていい結果に至る……。
という期待からくる許可であった。
彼からすれば、合意の上で、審判がいる状態で、衆人の前で、娘が試合をするだけだ。
国際問題になるとしてもコントロールできる範囲だと思ったのである。
※
本日三度目の試合。
予定外の事態であるし、選手としては無名同士の試合。
メインイベントの二試合が名勝負、と言わないまでも見どころがあったので、観客は他の見世物に向かうかと思われた。
だが実際には、全員が……それどころか、先ほどよりも人が集まっていた。
一国の王女と他国の魔法使いが戦う。
その一文で、他の生徒たちも集まってきたのだ。
立ち見の客もいれば、魔法で飛んで見下ろしている学生もいる。
その状況に、選手として着替えて立つライトラは、内心で複雑であった。
同時に、それがモチベーションになっていた。
自分が王女だから客が集まっている。
決して、自分のデュエル流魔法の腕を期待してのことではない。
自分が魔法を使うところが見たいのではなく、王女が戦うところを見たいだけだ。
客寄せパンダにはなれるが、本当の意味でのプロ選手にはなれない。
それが現在の現実だ。とてもではないが、彼女の自尊心を満たすことはできない。
だが未来の希望はある。
自分が竜宮の秘法と浄玻璃眼を習得できれば、先ほどの試合のように周囲を魅了できるようになる。
いずれは他の選手もそれを習得できるかもしれない。
だができるとも限らない。
努力で強くなる余地が広がっても、それはあくまでも余地だ。
先ほどノォミィたちの魔力が増えるトレーニングを聞いていたが……。
勤勉であるはずのAクラスの生徒は、アレができるだろうか?
少なくとも全員ができるとは限らない。
些か都合のいい考えだ。
それを言い出せば自分だってできないかもしれない。
だがそれならそれで、あきらめもつく。
道がないのではない、自分が至らないから諦める。
それなら、自分が悪いと、認められる。
だからこそ、今は、踏み込む。
お気楽にニコニコ笑っている、正面に立つリーンをにらんでいた。
周囲の反応からして、彼女が弱いということは無いだろう。
手の内は全くわからない。
だがこれで負けても、それはそれで納得できる。
マーガリッティの母親と同じである。
努力でどうにかなることを達成できなければ、それは自分の力不足。
言い訳の余地はなく、諦めるしかない。納得して諦められる。
それは敗北についても同じことだ。
(全力を尽くす……勝ちたい。負けたくない。夢を掴みたい。チャンスが欲しい……!)
彼女は集中し、静かに試合開始を待っていた。
『さあ、突如始まった第三試合! この私、当学園の放送委員長にして実況を務めるマウー・ベントが、続けて実況させていただきます!』
『解説も引き続き、ジョンマンさんにお願いします!』
『……はい』
『試合をするのは、我が国の王女、デュエル流魔法使いのライトラ殿下!』
『対戦相手は謎多き美少女魔法使い、リーン選手!』
『マーガリッティ選手と同じくジョンマンさんのお弟子だとか!』
『どのような試合になるのか、今から楽しみです!』
『何事もなく、早く終わってほしいです……』
「がんばりま~~す!」
リーンは楽しそうだったが、ジョンマンとその弟子たちはお通夜であった。
光が強いほど闇が濃くなるのかもしれない。
周囲の人々は同情していた。
王女と仲間が戦うとなれば、心中穏やかでいられまい。
「……リーンさん。貴方はドザー王国から来たのですか?」
「いいえ! 私はルタオ冬国の生まれよ!」
「そうですか……貴方も国を越えてジョンマンさんの弟子になったのですね。私もそうなりたい」
「マンマミーヤ! それなら私に勝つことね! 絶対に負けないわ!」
「ええ、その貴方を倒すつもりです!」
『熱く火花を散らす二人……さあ、試合の事前詠唱が始まります!』
『早く終わってくれ……!』
事前詠唱。
互いに攻撃を行う前の、限られた時間内の呪文の詠唱である。
「グリムグリム・イーソープ・ルルルセン! コキン・ココン・コンジャク・コライ!」
リーンはスキル発動の呪文を唱える。
彼女の持つ膨大な魔力がさらに上昇し、周囲に存在感を放つ。
さらに目が沸く光り、感知系スキルの発動を現していた。
『おお! リーン選手、いきなり浄玻璃眼と竜宮の秘法を発動させました!』
『やはりジョンマンさんの弟子! すごいですねえ!』
『ですがこの二つは、どんな魔法使いが習得しても強いもの! これだけでは手の内がわかりません!』
『ワクワクしますね!』
『対してライトラ殿下は……』
ライトラは剣を抜き、ふるいながらもステップを刻む。
彼女の周囲には様々な攻撃呪文が出現し、滞空、停止していた。
彼女自身もまたわずかに前傾姿勢となり、いつでも前へ出られるようにしている。
デュエル流戦闘魔法の、ガチ戦闘の構えであった。
『……デュエル流の魔法使いが戦う場合、主戦力となるのは待機させる魔法です』
『任意のタイミングでの発射、あるいは時間制限での発射……』
『どれも高度ですが、待機させているだけでも牽制になりますし、発動させればその瞬間には発射されます』
『自分が剣で切り付けることも含めて、波状攻撃で勝負をかけるつもりでしょうね』
デュエル流は殺陣として編纂された魔法である。
その都合上、魔法を待機させることに鍛錬を割くことが多い。
呪文を唱えた直後に発動させ普通に発射するよりも、高難易度の応用法であるわけだが、だからこそ実戦レベルに鍛えれば強い。
(今の私のベストを叩き込む……絶対に勝つ!)
事前詠唱の終了時間に合わせて発動するようにセットしていた。
最初の猛攻で一気に畳み込む算段であった。
相手の手の内を探るとか、出方を見るなどしない。
これが相手に対応した技かはわからないが、そんなことはどうでもいい。
自分のベストを叩き込むつもりだった。
「それじゃあ私も!」
『さあ、リーン選手もスキルの発動を終えて、ここから魔法の詠唱に入ります!』
「ラーラーラララライラム……ラーラーラララライラム……ラーラーラララライラム」
『効いたことのない呪文です! 一体どんな魔法が出てくるのでしょうか!?』
マウーは聞いたことがない呪文だったので、何も言えなかった。
他の教職員たちも聞いたことがない呪文だったので、ピンときていない。
「え、え……あ、え……ウソ……は? そういうこと!?」
サザンカは知っていたようで、すっかり青ざめていた。
今更になってだが、なぜマーガリッティたちが止めたがっていたのか理解してしまったのだ。
「聖域魔法……アップアンドダウン!」
マーガリッティが詠唱を終えると、試合場の彼女のエリアが、四角い結界で占領された。
バリアのように膜が張られたのではない。力場が内側を満たしていたのだ。
その呪文を見て、絶対に勝つという覚悟を固めていたライトラは口を大きく開けてしまう。
「……ルタオ冬国から、来た、リーン? 先日即位した、女王!?」
観客たちはざわつきもしなかった。
少し離れた場所にあるルタオ冬国の新女王リーン。
彼女は若くして、伝説とされる聖域魔法の使い手であるという。
その魔法を以て国難を救ったとか……。
『リーン君ちゃんは、ルタオ冬国の女王です……』
ジョンマンが解説した。
聖域魔法を使うまでは誰も信じなかっただろうが、発動してしまったら名刺を見せるようなものだ。
この伝説の魔法をこの若さで使える者が、彼女以外にいるわけがない。
ようやく、今さら、国王は理解した。
自国の王女が他国の女王に剣と魔法を向けている。
いくら試合とはいえ、国際問題に発展しかねなかった。
もうコントロールできるレベルを超過しすぎている。
万が一のことがあれば、自分が辞職したとてどうにもならない。
ライトラも同様だった。
なぜこの人は、ジョンマンの弟子になっていて、他国にいて、今自分との試合を受けたのだ!?
自分のことを棚に上げて、内心で絶叫していた。
だがリーンは何も考えず、更に魔法を発動させる。
「聖域魔法、アタックアンドヒール! クリアアンドマッド! スムーズアンドラフ! ライトアンドヘビー! サイレントアンドノイズ! クイックアンドスロー!」
伝説とされる超高等魔法の重ね掛け。
天才という言葉では説明がつかない、インチキだとしてもトリックがわからない異常事態。
仮にミット魔法国の全魔法使いを総動員しても、際限不可能な神業。
それを彼女は一人で実演している。
「いったい……いくつの聖域魔法を使っているの!?」
驚愕の余り、ライトラは感嘆した。
質問をしたというよりは驚いて疑問を口にしただけだったのだが、リーンはそれに答える。
「1,2,3……数えきれないぐらい発動させたわ!」
片手の指より多く数えられていないリーン。
数えきれないのハードルが地面に埋まっていた。
バカすぎる発言に反応する余裕もない一同だが、ジョンマンが補足する。
『彼女は幼少期から聖域魔法の才能を見抜かれて、その特訓だけを虐待並みに受けてきました』
『他のことは全くできませんが、生来の才能と努力によって、聖域魔法だけは他の追随を許しません』
『ですが本当に、他のことは何にもできません……』
『そんな彼女が浄玻璃眼と竜宮の秘法を習得した結果、あらゆる聖域魔法を同時発動できるようになったのです』
「えへん! 私は物心つく前からおばあちゃん先生に聖域魔法を習っていたの! 私が覚えている最初の言葉は……『貴方にはもう教えることがありません』だったわ!」
物心つく前から聖域魔法を習い、物心がついた瞬間には習得を終えていたという。
バカな言葉にごまかされてはいけない。
彼女は天才で、相応の努力を積んで、現在の境地に立っているのだ。
「そうですか……!」
女王と戦うという現実から、超凄腕の魔法使いと戦っているという方向へ意識が向いたライトラ。
彼女の顔は一気に険しくなる。
戦う気であった。
(聖域魔法は本来広範囲に発動させる魔法だけど、ルール上自分の陣地内しか発動できない。そして聖域魔法は高等だけど、効果自体は弱いはず。それならここから攻撃魔法を撃ちつつ斬りつければ勝てる……!)
実況が実況を忘れるほどの異常事態であったが、試合開始を告げるブザーが鳴る。
誰もが止めるに止められない状態で、試合が開始されてしまった。
「行きま……」
「範囲拡大!」
試合が開始された瞬間であった。
リーンが展開していた聖域魔法の範囲が爆発するように拡大したのである。
飛び出そうとしていたライトラの陣地をも制圧占領。
完全に空間を埋め尽くしていた。
「あ、あああああああ!?」
いったん発動させた魔法の範囲を途中で変更する。
超高等魔法、それも複数種類を、一瞬で。
なまじ特進クラスが時間をかけてゆっくりと条件を変えるところを見ただけに、次元が違う条件変更速度に脳の処理が追い付かない。
(複数の聖域魔法の範囲を、一瞬で変えた!? 私が呑まれた!?)
こうなると試合であることは、ライトラに不利となった。
場外に出なければ、聖域魔法の有効範囲から出ることはできない。
(効果は弱いけど、攻撃魔法もある……私の魔法が妨害されて消えてしまった! こ、これが聖域魔法! だけど、耐えられる! 私は自分の身を守る魔法を使っていないけど、それでも辛くて苦しいだけ! これならまだ、剣で……!?)
複合の聖域魔法の効果に耐えながら、何とか反撃を試みようとするライトラ。
しかし彼女の顔に、殴られたかのような衝撃が走る。
(顔だけにダメージ!? これは明らかに聖域魔法の効果じゃない! 聖域魔法を発動させながら、別の魔法を使ったの!?)
ろくに前が見えないまま、後ずさるライトラ。
しかし周囲の観客たちは、何が起きているのか外から目撃していた。
リーンは別の魔法を使っていない。
現在の特進クラスは基礎魔法セットを一通り使えるのだが、彼女はそれすら習得していないので、そもそも使用できないのだ。
彼女がやったことは簡単である。
自分が展開した聖域魔法の中を全力疾走して、そのまま殴ったのである。
「このこのこのこのこのこの! このこのこのこのこのこの!」
本人は大まじめに、一国を取った拳を振るっている。
もちろん聖域魔法は維持されたままだ。
自分を中心に展開する魔法なのに、自分が移動しても魔法が場外に及ばないように調整もしている。
その上で普通に殴っている。一国の王女をタコ殴りにしていた。
『あの子は浄玻璃眼や竜宮の秘法を習得する前から、歩きながらでも聖域魔法を維持できました。今では聖域魔法を維持していることを忘れながら寝たり、維持したまま格闘もできます……』
『特化型の完成形ですよ、ええ……』
ものすごく繊細な魔法の奥義を使用しつつ、稚拙な肉体攻撃を敢行する。
『剣を持っている相手だから、殴ってもいいと思ったんでしょうね……』
『まあ、反則にするほどでもないんですけどね……』
ノォミィたちが見せた魔法の応用の究極系が実物でお出しされていた。
あまりの情報量の多さに、審判ですら判定を忘れて呆然と見つめている。
その間もリーンは殴り続けて、ライトラが倒れると同時に両手を掲げた。
「マンマミーヤ! 勝ったわ~~~!」
殴られたライトラは、地面に倒れて動かない。一国の女王が一国の王女をノックアウトである。
国際問題に発展しそうな決着であったが、そんなことを彼女が気にしているのかは怪しかった。
「だから止めたのに……!」
ジョンマンの弟子たち……特にルタオ冬国を知っている者たちは、顔を覆って現実逃避していた。
申し訳ありません。
本作ですが、ネタ切れです。
当分の間、更新を休ませていただきます。




