魔法使いと魔法使い
本日コミカライズが更新されます。
よろしくお願いします。
特進クラスの成長は、まさに正当進化であった。
尖っていた才能を『限界近く』まで伸ばしたところで、扇子を広げるように少しずつできることの幅を広げていった。
これで『高等魔法が使えるようになった』とか『苦手な分野が異常に伸びた』とかなら不正を疑ってしまうところである。
ある種、まあこうなるよね、という納得感もあった。
フレーム流やタワー流の様なコンセプト統一の特化型とはまた違う、己の才気を伸ばし広げる特化型。
強力な軸があるからこそ成立するセルフオーダーメイド。
それに至った特進クラスの生徒たちは誇らしげだ。
国家的に観ても、腐っていた使い道のない典型的ゴミが、自己顕示欲が高くて素行に少し問題のある生徒になったのでプラスである。
今までは矯正や指導をする価値もなかったが、今後はしごいてまっとうな社会人になるようリソースを割く意味も出てきた。
とまあ……特進クラスの成長は認めていた。
一方で、この後に続く理想の魔法使い同士の戦いが、どう進むのかがわからない。
サザンカは『理想の魔法使い』であった。
実力もさることながら、象徴としての価値すらある。
欠点や短所を通り越して、何の瑕疵もない完璧な魔法使いの成長は一体なにか?
そんな彼女の元を離れて、マーガリッティは何を学んできたのか?
誰もが想いを抱えつつ、拍手で二人の入場を迎えていた。
「皆さん……これより私とマーガリッティさんで、公開試合を行います」
葛藤や後悔を振り切って立つサザンカは、マーガリッティと共に周囲へ一礼した。
謝罪なのかもしれない。
「私と彼女の成長の成果、とくとご覧ください」
二人は先ほどまで醜態の場となっていた試合会場で向き合う。
なんのひねりもない普通の学習発表会であったが、緊張感は高かった。
いや、期待感、といっていいのかもしれない。
そして二人の初手は、当然のように防御魔法であった。
「ベースバリア」
「ベースバリア」
双方共に、最も簡単な半球型のバリアが展開された。
拍子抜けする暇もないほど、双方が同時に魔法を展開する。
「ベースショット!」
「ベースショット!」
二人の攻撃魔法が、二人の周囲に展開。そのまま維持される。
一人につき一つではなく、一人で複数の攻撃魔法が発射準備態勢に入っていた。
「属性付与!」
サザンカは詠唱を追加し、周囲に浮かぶベースショットへ属性を付与する。
複数のベースショットが、それぞれ別の属性を帯びたのだ。
火、風、水、土、雷、光。
カラフルな輝きが彼女自身を照らしている。
『おお! 基礎魔法であるベースショットに属性を付与しました! それだけなら普通ですが、一度に複数のベースショットを維持しつつ、全部別の属性を付与するとはすごいですね!』
『基礎魔法は元々、後付けを乗せる生地として生み出されたべースとなる魔法。それゆえに通常の魔法よりも展開した後での付与ははるかに容易ですが、同時に複数の属性を付与できるのはさすがですね』
『この流れでは~~期待してもよいのでしょうか!』
「属性付与!」
マーガリッティは鏡映しのように、サザンカと同じことを実行する。
展開されているベースショットが彩られ、音を発していた。
「解放!」
「解放!」
二人は同時に発射し、同属性同士で衝突させあい、相殺する。
色とりどりの火花がはじけて、二人の防御魔法に当たって散っていく。
この時点で、おかしいところに気付く者もあらわれる。
何かがおかしいと察したのだ。
「ベースショット、特殊軌道付与!」
「ベースショット……特殊軌道付与!」
再びベースショットが展開された。
今度の付与は、特殊な弾道であった。
ボールのように跳ねるもの。
自動追尾するもの。
事前に決められたように動くもの。
一気に加速するもの。
様々な軌道を描く魔法が、やはり中間地点で相殺し合う。
『すごいですね、まるでデュエル流の演武です!』
『それは少し違いますね。双方が息を合わせていることは事実ですが、相殺しやすい魔法だけを使っているわけではありません。お互いが普通に攻撃魔法を撃ちあっているのです』
『それって、難しいというか……純粋な魔法使いらしからぬことなのでは?』
『そうですね、普通の魔法使いでは難しい。ですがマーガリッティさんならば可能です』
デュエル流の演武の場合、二人で行うお手玉のようなものだ。
お互いがキャッチしやすいように球を投げ合うジャグリングである。
それはそれで難しいだろうが、現在二人が行っているのは次元が違う。
野球で言えば、全力のストレートを投げ合って、空中でぶつけているようなもの。
それだけでも恐ろしいが、カーブやスライダーなどの球種を変えている。
オーバースロー、サイドスロー、アンダースローと投げ方まで変えている。
もちろん、さすがに『わざと外してやろう』とはしていない。
素直に攻撃魔法を撃ちあっているだけだ。
それでも超絶の離れ業であることは明白だろう。
『マーガリッティさんが私のところで学んだスキルは二つ』
『一つは魔力量を増やすもの。これはノォミィさんたちと同じものですが、練度は彼女の方が上です』
『マラソンを完走するつもりで鍛えている者と、マラソンで競争するつもりで鍛えている者ぐらいの差があると思ってください』
『スキルとして発動させていますから、更に更に凄いですよ』
『もう一つは感知系スキルです。これによって彼女は魔力の波長を視認できるようになっており、魔法への理解度が増しています』
『一度見ただけで魔法を理解し模倣できるほどにね』
ジョンマンが解説している間にも、二人は魔法を相殺し続けている。
これが続いていることで、違和感に気付く者が続出した。
(完全に鏡映しだ……!)
たとえば落語、たとえば漫画、たとえばピアノ。
同じ噺をしても、同じキャラを描いても、同じ曲を演奏しても。
人それぞれにタッチというべき個性が生じる。
同門や師匠筋などである程度似ることはあるが、まったく同じになることはない。
そのはずなのだが、サザンカの魔法とマーガリッティの魔法は『個人差』がまったくない。
サザンカの魔法をマーガリッティは完全にコピーしているのだ。
それもおそらくは、今この場で、目の前で使われている魔法を、そのまま真似している。
『魔法を見ただけでマネするスキル!? そんなものがあるんですか!?』
『ないですね』
『ないんですか!?』
『彼女の習得している感知スキル、浄玻璃眼というのですが……コレを習得したとしても魔法を見ただけで覚えることはできません』
『マーガリッティさんが真似をできているのは、魔力量を増やす訓練をしたことと、彼女が魔法の練習をしてきたからです』
『魔力量が増えれば魔法を使う際の負荷が大幅に減りますし、自分の体内でどのように魔力を生み出しているのかわかるようになります』
『また、感知スキルも全く知らないものは理解が遅れます。すでに魔法使いとして仕上がっていた彼女だからこそ、真似が容易なわけですね』
仮に……。
ピアノを演奏してる人間の手元を録画し、スロー再生できる状態にしたとして。
今までピアノを演奏したことのない人間が、さらっとマネできるだろうか。
曲の難度にもよるだろうが、何度やってもそうそううまくいくことはない。
今までピアノの練習をしてきたものでなければ、見ただけでマネするなど不可能であろう。
『な、なるほど……! で、でも、その! マーガリッティさんだけじゃなくて、サザンカ先生も魔法を連発していませんか!?』
『彼女もノォミィ選手と同様に、魔力量を増やす練習を積んでいます。スキルの域に達していませんが、それでも相当な量が増えているでしょうね』
二人はすでに基礎魔法ではなく、多彩な魔法の連打へとペースアップしていた。
Aクラスの生徒が全神経を集中して使うような難しい魔法が、ぽんぽんと同時に別種類、発射され続けている。
技量、魔力量が常識を外れている証拠である。
絵本の中から出てきた魔法使いたちが、目の前で幻想的な試合を行っているかのようだった。
二人は魔力切れという現実から脱却しているかのように、疲れ知らずに魔法で戯れている。
「すごい……すごい……」
誰もが童心を取り戻していた。
ただ感嘆することしかできない。
魔法が実在する世界で、自分が実際に魔法を使えるからこそ、絵本に描かれていることがどれだけの超絶技巧なのか知ってしまう。
自分では達成できないと諦めてしまうのだ。
だからこそ、目の前の現実に憧れる。
天才中の天才が不断の努力によって到達した『理想像』に、呆けるほど見ほれてしまうのだ。
先ほどの特進クラスの生徒もすごかったが、これはもっと凄い。
届かないとわかっていても憧れてしまう。
実況も教師陣も言葉を忘れてしまうほどであった。
『ここで重要なのは、サザンカ先生すらもまだまだ成長の途中ということです』
『感知系スキルの練度、健康系スキルの練度、魔法の戦術。伸ばせるところはまだまだあります』
『学生を卒業した後も終わりじゃないんです。もっともっと強くなれるんですよ』
ジョンマンから、Aクラスの生徒たちへのエールだった。
彼らは自分たちの努力の限界を感じていた。
努力に成長が見合わないと苦しんでいた。
もうこれ以上強くなれないのかと悩んでいた。
目の前に『正解の見本』がある。
自分たちにはまだ伸びしろがあり、それは今までの努力が無駄になるわけではない。
むしろ今までの努力があったからこそ、これからの修行につながるのだ。
「もっと、強くなりたい……あんな風にすごい魔法使いになりたい」
そう言ったのは、一人の生徒ではなかった。
この試合を見ている未就学の子供も、就職してしまっている大人たちも、魔法使いの理論値に目を奪われている。
ーーーもちろん、ライトラも。
「ふぅ……私も随分頑張ったのですが、スキルに至っている貴方には及びませんね。そろそろ決着と行きましょうか」
「はい、どうぞ……!」
魔力が尽きたサザンカは、汗まみれになりながら『大魔法』を発動させる。
「戦闘中に多くの種類の属性魔法を放つことでチャージされる『万色混然一塊』、同じく多くの種類の攻撃魔法を使用することでチャージされる『乱鬼竜星群』、一定以上の魔力の持ち主がそのすべての魔力を使い切ることで発動する『全身全霊乾坤一擲砲』、戦闘開始から魔法を一定時間使用し続けることで発動できる『時限崩壊怪球』! この一斉掃射は、今のあなたでもマネできないでしょう?」
「そのようですね。では……ダンガイウォール!」
魔力を消費して撃つのではなく、条件を満たすことで発動可能となる大魔法。
それが四つも同時展開されていた。
先ほどまでの魔法が小技に見えるほどの豪華な大魔法に、人々は圧倒されて呼吸もままならない。
迎え撃つのは先ほど見たばかりのダンガイウォール。
純粋に強度が高い防御壁で、大魔法を受け止めようとしていた。
「その程度では防げませんよ!」
サザンカの大魔法は、一発一発がダンガイウォールを貫通していった。
マーガリッティに当てない軌道で放っていたが、もしも彼女がその気ならばマーガリッティはなすすべもなく死んでいただろう。
「お見事です、先生」
「まだまだ負けるわけにはいきませんから」
審判が不在だった試合は、号令の合図なく終了した。
しりもちをついていたマーガリッティにサザンカは手を差し伸べ、握手を交わす。
ジョンマンは誇らしげに拍手をすると、続くように会場全体が拍手で満たされていくのだった。




