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第二十話 王都キリエ

 アルティナ国王都キリエ。

 そこはファンタジーな城塞都市をそのまま絵に描いたような町だった。


 王都の奥深く、山間の断崖を利用して聳え立つ城は、某グラスランナーが活躍する白い城そのままに美しく、幾棟もの円柱の建物が融合して、荘厳さを醸し出している。

 遠目に見ても、その城の美しさが何よりも目立つ。


 城から半円状に広がる都市は、3重の城壁で守られ、その仕切り毎に家々が立ち並ぶ。

 ただ、外壁までは美しく整然とした町並みなのに、外壁から外。

 まあ、言ってしまえば野原なのだが、其処にはスラム街が出来上がっていた。


 町と比べ余りにも汚らしい集落。

 その殆どが布で出来たテントが犇き、浮浪者の如く活気の無い人々がうろついている。

 流石に正門付近にはそういったものは居無いが、町とのギャップにアルティナ国の政治に何か言い知れない不安を持ってしまった。


「ラルス、スラムは始めてみるのか?」


 俺が町に到着してから、どうも良い顔をしていなかったのだろう。

 アドルフが気を使って聞いてきた。


「ああ、奴隷で汚いのは慣れているけど、町との差に驚いただけだよ」


「まあなー俺達も何とかしてやりたいけどな、それは只の偽善になっちまう。別にスラムの奴らが嫌って訳じゃないぜ、寧ろ可哀想に思ってる。ただよ、前にも言った商業ギルドで自分を買えるって噂が広まってからこの有様でよ。皆頑張ってんのに此処でしか暮らせない程厳しい生活を強いられてる奴が多いんだわ。商業ギルドの在り様が、俺は駄目な気がすんだけどな~」


「身分を買う事がいけないのか?」


「いや、そうじゃねーよ!なんつうかそうするならそうするで、もっとやり様が無いかって話でよ。悪いな気分害したか?」


「いや、問題ないよ」


 そっか、そうだよな。

 金も無く此処に来ても、住む場所も無い。

 仕事を斡旋してもらっても、給金は上納金を納めて、更に食べ物を買うと残る事がないのだろう。


 行き着く先が、城壁の外での野宿。

 それが段々多くなり固まっていけばスラムの出来上がりなのだろう。


「なんだ、お前らが望むなら俺の伝手で仕事先くらい見つけてやるからな。安心しろ」


 アドルフは何が気に入ったのか、本当に良くしてくれる。

 他の子供達にもこうなんだろうか?

 アドルフの俺達への過保護さに不思議でならなかった。


「アドルフはね、子供が本当に大好きなの。でもね、あの姿でしょ?懐いて親しくしてくれたのは貴方達が始めてなの。初めて懐かれた子供に御執心になるのは仕方ない事よね」


 そう小声で耳打ちしてきたのはドリスだ。

 言い終わってウィンクして離れていく。


 そんな理由でか??!!っと俺は逆に心配になった。

 もし狡猾な子供に捕まったら、アドルフが破産しそうだ。

 俺よりもアドルフの今後が心配になって、沁み沁みとアドルフのお人好しさに溜息をつく。


 スラムを横目に、正門から入り直ぐにギルドへと向う。

 ギルドは外壁正門付近に直ぐにあり、その建物の重厚さが周りと溶け込めずに一目で解った。


「冒険者ギルドはよ、有事の際には傭兵にもなるしな。城壁の近くにあるのが常識なんだぜ」


 アドルフの言葉で俺は納得した。

 そういう理由なら、外壁近くで堅牢な建物も理解できる。


 アドルフたちに連れられて、冒険者ギルドの中へと入っていった。

 中に入ると、職員であろう人々の挨拶がいの一番に聞こえてきた。


「ようこそーキリエ冒険者ギルドへ。本日の御用向きは何でしょうか」


 一斉に唱和される前世で聞きたかった異世界の文句。

 俺は、10年の歳月を経てようやく聞けた事に嬉しさがこみ上げる。

 少し興奮していたのだろうか、アドルフ達にちょっと微笑ましく見られた。

 あう、自重しよう。


 アドルフは、目指す受付の方にズンズン進んでいく。

 皆もそれに付いて、受付の方へと歩いていった。


「よ、レーネ帰ったぜ」


「あら、アドルフお久しぶり。そういえば緊急依頼で出ていたのよね。成果があったのかしら」


「おうよ、ちゃんと見てきたぜ。報告は口頭かい?それとも書面かい?」


 なんと書面報告があるとは!

 それよりも、アドルフが書面報告できるほどの教養があった事に驚いた。


「そうね、まずは口頭でお願いしようかしら。もし詳細のいる内容になるなら改めて書面を作成してくれるかしら。もちろんギルドマスター用のね♪」


「げ・・・マスター用かよ。まあ、しゃなーわな」


 そう言って頭をガシガシ掻いて嫌そうにしているアドルフ。


「フフ、仕方ないじゃない、此ればかりは規則なんだから。では報告を伺いましょう」


「おう、簡単に言うとだな・・・」


 そこからは、アドルフとレーネのやり取りが続いた。

 時折、俺達の事を織り交ぜながら事の経緯を報告して行く。


 簡単にと言いながら、結構詳しく話している。

 レーネは話を聞きながら、考え込むように次第に難しい顔になっていった。


「此れは、報告書が必要かもね」


「っげ!そうなるのか」


「ええ、一度マスター用に書面を作成してくれないかしら。その間に私はこの子達を検査させて貰うわね。ドリス達は暫く自由にしていても良いわよ」


「しゃねーなー。ラルスいいか?」


「ええ、良いですよ」


「うんじゃドリス、オイゲン、フランク、ちょっくらー書面作るから皆好きにしててくれや」


「はいよ、私はイリスとセフィリアが心配だから向こうの待合室に居るわ」


「ワシもそうしようかの、余りウロウロするのも疲れるからの」


「私はアドルフのお手伝いに行きましょう。1人でよりも2人の方が早いでしょう」


「お、フランク助かるぜ。じゃあ、また後でな」


 皆の予定も決まり、それぞれ移動していく。

 俺とイリス、セフィリアはレーネに連れられて、ギルドの1室に向った。


「心配しなくても大丈夫よ。ちょっと検査するだけだからね、安心してね」


「「「はい」」」


 部屋に入ると、其処には大きな水晶があり、周りにも似たような物がゴロゴロあった。


「説明するわね。此れは真実の結晶と言ってね、手を触れた人のステータスが見る事が出来る物なの。ギルドに登録すると貰える登録証も同じ効果があるわ。ただ、これはもう少しよく見れるもので、最近倒した魔物も見る事が出来るから、貴方達に来てもらったのよ」


 なんと便利なグッツなのだろうか。

 幾ら異世界とは言え、青いネズミさんがポケットから出してくる位ぶっ飛んでるな。

 神に聞いていた内容とも一致するし、水晶には問題ないが、どこまで見られるのかが不安だ。

 そんな俺の不安を察してか、レーネは更に説明をしてくれる。


「そうよね、信じられないわよねこんな便利なものがあるなんてね。私でも難しい原理が働いてるから、貴方達のような子供にはは難しいから端折るけど、この水晶は人の体に刻み込まれた情報を読み取る事が出来るの。でも安心して、さっき言った事以外は読み取らないからね。もしそんな事が出来たら、大問題になっちゃうし」


 レーネは努めて安心だと説明するが、実際に情報を探る事が出来る時点で脅威だよ。

 益々不安を募らす俺に、レーネはしどろもどろになって俺に説明を追加する。


「あ、あのね、私も詳しくないんだけど、体に刻まれる情報は今言った内容だけなのよ。これは神の所為と言われていてね、これ以上調べる魔道具を作ると、神様から罰を与えられるのよ。だから、ほ、本当に大丈夫なの、ね。安心してくれるかしら」


 神と聞いて、あのリーマン神を思い出した。

 まあ、レーネの言う事は本当かもしれない。

 あのリーマン神は、バランス!!っと五月蝿かったしな。


「検査してもいいかな?」


 お願いするように泣き顔で言われると、レーネが可愛そうになり仕方なく頷く。


「あああ、よかった。同意無しで勝手に調べるのはご法度なのよ。本人の許可が取れないと犯罪になっちゃうからどうしようかと。ありがとうね。じゃあ1人づつ手を触れてくれるかしら」


 レーネの催促に従い、まずは俺から水晶に手を翳す。

 翳した手を水晶に当てると、ほんのりと光った後、水晶の表面に文字が現れた。

 問題なく字が読める。

 言語取得は文字にも効果を発揮しているようだ。


 映る内容を読もうと、水晶の字に目を走らせようとしたらレーネの絶叫が響いてきた。


「えーと、どれど・・・・でぇえええええええ!!!何此れ何此れ!!マジ!!マジなの此れ!!!なんでなんで!!!えええええ!!!」


 五月蝿い!

 なんだこの絶叫ギャルな言葉の嵐は。

 レーネの姿に、イリスもセフィリアも引いている。


 俺がバカを見るような目を向け、イリスとセフィリアが脅えたように離れていることに気が付き、レーネは唖然として我に返る。


「あ、っとえー御免なさい。吃驚しすぎて取り乱しました・・・」


 項垂れて謝罪するレーネ。

 そこからは申し訳無さそうに、俺達を気にしながら見えた文字の説明をしてくる。


「えっと、文字の読めない人も居るので説明は基本必ず行います。まずはラルスですが・・・名前に偽り無し。犯罪歴もありません。ステータスも特に変な所はないでしょう。LVは18ですか、意外に高いですね」


「LV18って高いんですか?」


「ええ、ギルドの依頼を受ける平均としては、ランクD位にはあります。っと、それよりもラルスの倒した魔物の中に天孤があります。ラルス、貴方は天孤を倒したんですか?」


 聞いてくるレーネに俺は仕方なく答える。

 だって、水晶の示す内容にちゃんと映っているんだよ天孤って。

 それを敢えて確認するって、どんだけレーネはさっきの話でテンパッてるんだよと。


「ええ、倒しましたね」


「はぁ~~~そうだよね~水晶に出ることは全部本当の事なのよね~」


「天孤ってそんなに凄いんですか?」


 実際に苦労はしたが、俺達はまだ天孤の強さのレベルを知らない。

 必死に戦っただけで、事の凄さに俺達は気付いていなかったのだ。


「凄いって、そりゃもうAランクが数人いる化け物ですよ!『流れ』でLVも低かったそうですが、それでも脅威です!!ラルス、あなた何者なの?」


「えっと、只の奴隷の子ですが」


「はぁああ~~、ですよねーそれ以外言いようがないですよねー」


 大きく溜息を吐き、自らの質問の無意味さを痛感しているようだ。

 レーネはそれでも可笑しな所が無いか水晶をずっと見詰めていた。


「えっともう良いですか?」


「あ、御免なさい。ええ、良いわ。・・・次はイリスね」


「はい」


 イリスは俺と同じ様に水晶に触れる。

 水晶からは俺のステースが消え、新しくイリスのステータスが現れた。


「えっと、イリスも名前に偽り無し、犯罪歴も無し。倒した種類はラルスと同じね。LVは15と、これもそこそこあるわね。でも天孤はないか。本当にラルスの単独撃破のようね」


「ええ、ラルスは強かったですよ♪それに、私達の命を助けてくれた最高の弟です♡」


 何故かイリスは、レーネに向って妙に俺をプッシュしている。

 何か知らないがイリスから、鬼気迫る気迫が立ち上っている。

 なんだろう?

 イリスのレーネに向ける視線が怖いんですけど・・・


 そんなイリスの言葉に、レーネはレーネで表情を引き攣らせている。

 イリスの気迫に怒ったのかな?

 イリスの態度をどう取ったのか、レーネはおでこに怒りマークを作って叫んだ。


「あははっはは、リア充め!死ねば良いのに!」


 どこで知ったのその言葉。

 レーネは俺を褒めるイリスを見て、更にブツブツ言っている。


「私なんて、まだ良い男も見付からないのに・・・此れだから最近の子供は・・・」


 1人言を言いながら、レーネは自分の世界に引き篭もり戻ってこない。

 レーネの思考にうんざりしたイリスが見兼ねて問う。


「あのーセフィリアも宜しいですか?」


「ったく婚期が迫ってる私に誰も目もくれないなんて・・・」


「あの~」


「そうよ!世の男が悪いのよ!私は悪くない!」


「レーネさん!次!!セフィリアを見てください!!」


「ふぉあ!!??」


「セフィリアが次に水晶に触れますよ?」


「あ、あははっは、ええお願いします」

 

 直ぐに取り繕って、笑顔を振りまくレーネ。

 所見の印象は何処へやら、レーネはなにやら気難しいお年頃のようだ。

 あまり、その辺を意識させないよう注意し無いと。


 レーネが戻ってきたので、検査を続ける。

 最後に、セフィリアが水晶に手を触れ、ステータスを映し出す。


「えっと、セフィリアも名前に偽り無し、犯罪歴も無し。LVは14っと、貴方達凄いわね~倒した種類はラルス、イリスと同じね。セフィリアも天孤は無しね」


 ステータスの確認が取れると、今度は質疑応答形式の書類作成になった。


「まず、簡単な質問をしていくので、各自正直に答えてね」


「「「はい」」」


「では・・・」


 こうして今回の緊急依頼に関する内容に付いて、俺達の証言を取っていく。

 ある程度、誤魔化した部分もあるが、経緯に関しては正直に言った。

 アドルフとの整合性もとられると思うので、冷や冷やしながらの会話だった。


 全てが終わり、また受付まで戻ってくる。

 待っていたドリスとオイゲンと合流し、アドルフを待つ事になる。

 レーネは出来上がった検査報告を持って、受付から消えている。


「アドルフ達はまだ時間掛かるだろうし、少し何か食べようか」


「それは良いな、キリエの食事は美味しいぞよ」


 ドリスがそう言ってオイゲンも薦めて来る。

 断る理由も無いので、ここはご馳走になる事になった。


 それから、食事を終えアドルフと合流し、商業ギルドへと赴く。

 俺は、自分達の買取値段を考えながら金策方法に頭を巡らせていた。

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