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第二十一話 ギルドマスターザームエル

 アルティナ国キリエ本部、ギルドマスターのザームエルは報告書を手にしている。

 内容が内容だけに、持ってきた本人達を待機させ椅子に座って吟味しているのだ。


 ザームエルの部屋には、質素ながらも洗練された家具が置かれている。

 長年使い込んでいるにも拘らず、非常に味のある光沢を湛える家具は良い感じで高価に見える。


 そんな中で、窓際には部屋に似合わない威厳に満ちた特製のディスクが一つだけ置かれている。

 其処にザームエルは、ちょこんと座っていた。

 

 ちょこんという表現に表される程に小さな背丈。 

 ディスクに座ると、頭だけが辛うじて見える程度だ。

 しかも見える顔から、年老いた老人に見える。


 一見すれば、ご隠居が日向ぼっこするような姿なのだが、彼から迸る気迫は一緒に居るものを萎縮させるほどに圧迫感がある。

 そう、彼こそこのキリエ冒険者ギルドの代表であるグラスランナーのザームエルだった。


 彼は、報告書と共に現れたアドルフとフランクを目の前に正座させお説教を垂れている。


「っで、アドルフよ、ぬしゃー此れを真面目に書いたんかえ?」


 手にある数枚の羊皮紙をブンブン振り回して、問いただす。

 ザームエルへしたためられた報告書の内容が、余りにも酷かったのだ。


「あ、あったりめーだろ!爺!耄碌しちまったのかよ!」


「あんだ!爺とは!!ぬしゃーまだ餓鬼の頃の癖がぬけんのか!!!」


 声と気迫だけなら、この言葉で失禁ものだろう。

 しかし、ザームエルの怒りにアドルフは慣れていた。

 実はアドルフ、ザームエルに子供の頃から面識があり良く怒られれていたのだ。

 

「んだと爺!ちゃんと書いてあんだろが!呆けて目が霞んだんじゃねーか!?」


「ばかもーーーーーん!!!」


 更に大きな怒声が響く。

 そんな声にも揺るがないアドルフに比べ、フランクは白目を向いて失神しかかっている。

 新人冒険者のフランクにとって、恐れ多いギルドマスターからの叱責は何よりも恐ろしいものだった。


「ええか!良く聞け!報告書の内容は途中までは良い。じゃがな!関わった人物に付いてが問題じゃ!」


「何処がだよ!」


「まず、ラルスっちゅう子供じゃ!どんな人物か知りたいのに、なんじゃこれは!!『とても優しく強い可哀想な良い子でしたマ~ル』って近所の子供が書いたような文章を上げるでないわえ!!」


「本当だから仕方ねーじゃねーかよ!」


「ああ、そうかもな。じゃあイリスっちゅうエルフの子についてじゃ!!『弟と妹思いの綺麗な美しい少女ですマ~ル』なんじゃわりゃあ!ワシを舐めとるんか!!」


「あ~ん!見たら爺もそう思うわ!!」


「アホか!!極めつけは此れじゃ!!!『セフィリアは良い子です。俺に懐いてアーおっちゃんいってくれよんねん。この子は絶対に守る!!』開いた口が塞がらんわ!!!」


「なんだとこの爺!!セシリーを悪く言うなや!!」


「言うてないわ!!」


 まるで親子喧嘩のような喧騒が、ギルドを纏める偉大なる人物が使う私室に響き渡る。

 ギルドの威厳を損ないそうな喧嘩内容に、誰か聞いていたら倒れてしまうだろう。


 一頻り文句を良い終えると、両者は言葉を発しなくなった。

 大声を出し、肩で息をするザームエル。

 そんなザームエルを睨みつけて、反省の色が無いアドルフ。

 両者は、無言で睨み合っている。


 フランクは・・・すでに魂が抜けたのか正座して白目を向いたまま動かない。

 部屋の空気が一層険悪になりかけると、その雰囲気を止めるようにドアをノックする音が聞こえる。


 トン!トン!


 睨み合った視線を外す事無く、ザームエルは入室の許可を与える。


「はいれ!」


「し・・・失礼しま~~~っす・・・」


 おどおどと入ってきたのは、先ほどラルス達の検査を終えたレーネだった。

 彼女は、部屋の空気に気圧されながらも、纏めた書類をザームエルに渡す。


「あの~~、これ、あの子達の報告書で~~~っす・・・」


「うむ」


 ザームエルは書類を手に取り、内容に目を通す。

 読み終わり、今だ睨み続けるアドルフに向って、書類を投げて寄こす。


「これをみー。此れが報告書ちゅうーもんじゃわ」


 投げ寄こされた書類を受け取り、アドルフも報告書に目を通す。


「俺のと何処が違うちゅうーんじゃ・・・」


 自分の報告が間違って無いと思っているアドルフは全く違いを見つけられない。

 その姿に、ザームエルは溜息をつき今度は諭すように言う。


「アドよ、もう少し具体的に書くもんじゃよ報告書っちゅーもんわな。ほれ、ラルスのLVや彼が如何にして此処まで来たかの答えが書いてあるじゃろ?」


「・・・ま・・・まあな」


「ふぅーー、ぬしゃー小さい頃から変わらん。それに自分の気持ちに正直すぎじゃ、客観的に見ておらん」


「でもよー爺、俺はよ・・・」


「マスターじゃ!」


「っぐ、マ・・・マスターよ、此れだけじゃあの子等の良い所がわかんねーじゃねーか」


「解らんで良いのじゃよ、事実だけが知れれば良いのじゃ」


「けどよー」


「ぬしゃー相変わらず人がええの~それだから実力があるのにランクDのままなんじゃよ」


「っけ!そんなこたー重々承知してらー。俺は別に気にしてないぜ」


 ザームエルは、アドルフのお人好しにホトホト呆れた。

 呆れながらも、アドルフのお人好しを責める気にはなれなかった。


 小さい頃からアドルフは、その姿ゆえ苛められていた。

 それでも腐る事無く真っ直ぐに育ち、立派な冒険者になったのだ。

 たまたま近所の子供で、良く見知っていただけにアドルフとは知らぬ仲ではない。


 弱者の心を知り、それを汲み取る心。

 弱いものを守ろうとする勇気と力。

 アドルフのお人好しは、その想いからきている。


 今回も、弱い子供達を必死に守ろうとした結果なのだ。

 この男の優しさを誰が責められようか・・・


「わかった。もうよいわ、してレーネよ」


「はい」


 アドルフとの喧嘩が嘘のように、威厳と風格を携えるザームエルにレーネは緊張して返事をする。


「お主が見て、あの子等をどう思う?」


「はい!イリスとセフィリアは多少優秀な位の子供ですが、ラルスは・・・その」


「なんじゃ」


「ふぁい!ラルスは見て取れるステータスよりも数段、いえ驚異的なほど掛け離れた強さがあると見受けます」


「ほほー、ステータスでは読み取れないと?」


 一瞬にして部屋を覆う重厚な気迫がザームエルから溢れ出す。

 その、殺気にも満ちた威圧感に、レーネは小さく悲鳴を上げる。


「ヒィ、ふぁい!、ラ・・・ラルスは、ヒャ!天孤を倒しています・・・フヒィ!!!」


 言葉途中で、口をパクパクさせて声を発する事も出来なくなるレーネ。

 彼女は、ザームエルの自分を見る目に、耐えられなくなっていた。


「爺!レーネが漏らしちまうよ。あんま苛めんなよ」


 アドルフの注意がザームエルに飛ぶ。

 注意を聞いて、ザームエルは気が付いたのか気迫を抑えてレーネを労った。


「おおお、ほっほほ。すまぬの、レーネ」


「ひゃぃ・・・ぃ」


「たく爺は、考え込むと周りの反応に気付きゃしねーんだから」


 そう言って、アドルフは頭を掻く。

 その仕草に、ザームエルも溜息をついて詫びを入れる。


「アドよ、すまなんだな。いや、その通りじゃったの~。だがお主の所為でもあるんじゃぞえ?おぬしと話すと血圧が上がって怒りっぽーなるんじゃ!」


「っけ、言ってろ」


 場の空気が少し和らぎ、会話もスムーズに流れ出す。

 レーネもやっと息つけるのか、ほっとして肩を落とし深く息をしている。

 フランクは・・・言わないでおこう。


「さて、天孤を倒す子供か、俄かには信じれんが事実を無視するわけにもいかぬか」


「まあ、天孤を倒したのが俺達じゃないことは確かだ。後、他の冒険者でもねーだろう。戦闘の後は1個だけだったしな」


「ふむ、此処に来るまでに目立った行動はないのじゃなアド」


「ああ、俺達の知る限りちょっと強い冒険者程度でしかなかったぜ」


「ふむ、レーネよ。他に何か思う事は無かったか?」


 その言葉に、レーネは顔を顰め右手の拳を握り締め胸元に持っていく。

 そして、憎い敵に吐き出すかのように言ってのける。


「ック!私よりもリア充です。死ねば良いんです、あんな嬉し恥かし男女わ!!」


 余りにも斜め上過ぎる言葉に、アドルフもザームエルも目を点にして固まる。


「そーなんですよ!既にあいつら出来てやがりますよ!、10歳と12歳ですよ!?色ボケ餓鬼が!!!」


 そして、思い出したかのようにアドルフに向って叫ぶ。


「私はお漏らしなんてしませんからああああああ!!」


 ヒートアップするレーネの感情。

 レーネのテンションにまたかと哀れみ、ザームエルは退室を命じる。


「わかった、わかったわい。ほれレーネ、もうよいぞ。下がって仕事に戻るが良い」


 それでも中々言う事を聞かないレーネを宥めて退出させた後、またアドルフと向き合う。


「アドよ、レーネの件は置いておいてじゃな。お主どうせ、あの子達にお節介を焼くのじゃろう?」


「ちげーよ、た・・・助けてやるんだよ」


「よいよい、そこでじゃ、暫くワシもあの子達の事をもっと知りたいんじゃ。どうじゃ?便宜を図るゆえ10日に一度報告をくれんか、あの子達の」


「スパイしろってのか?」


「いやいやそうは言わん。あの子達の近況を聞くだけでええ。言いたくない事も言わんでええ。その代り、1回の報告に1金貨、それ以外もあの子達の為になる事には手を貸そう。どうじゃ?」


「言いたくない事はいわねーぞ」


「それで良い、では此れはギルドの直接依頼としてアドに頼む。良いか?あの子らの成長を助ける任務じゃ。良いな」


「っけ、しゃーねーな」


 アドルフはラルス達の為になるならと、ザームエルの依頼を受ける形を取る。

 もちろん、不利な内容は報告する気はない。

 それよりも、ラルス達が暮らしやすい環境を整えやすくなる方が嬉しかった。


 ザームエルはアドルフが依頼を受け、退出した後も1人思考を巡らせる。


 天孤を倒す子供。

 その子は勇者になるのか魔王になるのか、はたまた・・・

 成長の先に待つ結果に対処できるべく、情報だけは逐一把握しておかねばと。

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