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第十九話 王都キリエへの道中

 アドルフたちに伴われて森を抜け、開けた草原に出る。

 逃亡して数ヶ月、久々に見た広がる大地に俺は感動を覚えた。

 だって、今までに見た風景といえば、奴隷部屋とその屋敷の敷地、残りは森の中だけなのだから。


「いやー久々の木が無い景色だぜ~安心するぜー」


 アドルフが両手を挙げて伸びをする。

 本当に森は彼にとって窮屈な場所なのかもしれない。

 大きな体格と熊そのものの風貌に加え、豪快な気性のアドルフの姿は、俺にも森は狭く思える。


「ほんっと、久々ね~木を見ないで済むなんて。あーここまで来ると、早くまともな食事がしたいと思うわ」


「ホホホ、ドリスは食べ物に五月蝿いからの」


「な!違うわよ。五月蝿いんじゃなくって拘ってんの」


「まあまあ、そんな事より早く町へ急ぎましょう」


「そんな事って!食べ物は大事なのよ!」


 森を抜けて緊張感がなくなったのか、楽しそうに話し出すアドルフ一行達。

 そんな彼らを見ながら、俺達は俺達で今後の予定を話し合っている。


「ねえ、ラルス。冒険者ギルドに言った後は、パステルさんの言っていた商業ギルドに行くのよね?」

 

「お兄~お姉の言う、ショウギョウギルドってなにー?」


 森を抜ける頃には、日常会話をこなせるまでに気持ちを切り替えたイリスとパステルに質問されている。


「その通りだよイリス姉、俺達は商業ギルドに行くんだ。セフィリア、商業ギルドってのはね、俺達を奴隷の身分から解放してもらえるかもしれない所なんだよ」


「やっぱりそうよね、そこしか行く当てがないものね」


「ああ、母さん達の願いでもあるしな」


「おおお!私達奴隷じゃなくなるの?」


「ん~今でも俺達は奴隷って訳じゃ無いけどそんなもんだし・・・上手く説明できないかな」


「ふ~ん、でもセシリー頑張る!母さんと約束したから!」


「はいはい、セシリー頑張ろうね」


「うん♪」


「ところでラルス、私の事もう一度名前で呼んでくれる?」


 天孤との戦闘の後、イリスは幾度と無くこの質問を繰り返してきている。

 なんで今更呼び方を聞くのか皆目見当が付かない。


「え?イリス姉っていつも言ってるじゃん。可笑しいよイリス姉、何度も聞いてきて変だよ?」


「・・・フン!いいわよ!何度でも聞くから!」


「え~なんだよいったい」


 イリスの思惑が皆目見当が付かない。

 しかもこのやり取りが、まだ続くといわれて溜息をつく。


「も~う、やっと呼び捨てしてくれたと思ったのに・・・」


「ん?なに?」


「何でもないわよ!早くアルティナ国の商業ギルドに行きたいわ!」


 この質問の後は必ず不機嫌になる。

 女心はわかんねー


「でもその前に冒険者ギルドだしね」


「解ってるわよ!それよりも商業ギルドに行くとして私達どうやって暮らしていくのかしら?」


「あ・・・宿・・・とかないよねー」


「そうよ、お金も無いんだからね・・・どうしましょう」


「お姉、お兄、セシリー食べる事できないの?」


「あ・・・食事も考えないと。アルティナ国でどう暮らすかも考えないとな~」


「そうね、問題山積みね」


 そんな俺達の会話を聞いてかドリスが割り込んでくる。


「あんた達、商業ギルドに行くつもりなんだ」


「ええ、そうですよ」


「んんーーーー、聞いた感じじゃそれしか無いと思うけど・・・ね」


 何だか商業ギルドに関して歯切れが悪いというか、良い感じがしないというか。

 ドリスが言葉少なく、俺達を見て悲しそうな顔をする。

 何だか嫌な予感がする。


「おお、お前ら商業ギルド目指してたのか」


 途切れた会話にアドルフまで参加してきた。


「そうなんですが・・・何か問題があるんでしょうか」


 俺が怪訝そうにアドルフに聞くと、彼は若干引き攣った顔をして答えてくれた。


「あ、あれだ。まあそれしかないとは言えお奨め出来ないと言うか、いや悪くはないんだがその・・・な」


「アドルフさん、私達は生きる術を知る権利があります。どうか教えてくださいませんか?」


 イリスがキリっとした顔でアドルフにお願いをする。

 何時の間にか、イリスもセフィリアもアドルフの人柄に触れ、今ではかなり懐いている。

 懐かれて大喜びのアドルフが、イリスやセフィリアに大甘なので、聞かれて動揺するのは無理もない。


「っぐ!・・・なんつうか~そのな。言い難いんだよ!お前らの希望を壊しそうでよ!」


 あ、答え言ってるよ言い難いと言いながら。

 本当にお人好しで良い人だわ。


「と言う事は、何か商業ギルドに言っても、問題が解決しない可能性があるんですね?」


 俺は、たじろぐアドルフに追い討ちの質問をする。

 俺にまで迫られて、当方にくれるアドルフは、助けを求めてドリスやオイゲン、フランクを見るも『お前が言え』と目で諭され、仕方なく質問に答えてくれた。


「あのよ、落胆しないで聞いてくれや」


「ええ」


「実はな、商業ギルドに子供が登録してだな、確かにお金は稼げるのさ。お前達の境遇なら尚の事うれしいとわ思うぜ。でもよ、そうして頑張って稼いでもな、精々手元に少し残る程度にしかお金が貯まんねーんだわ」


「それはパステルさんに聞いてある程度は覚悟しています」


「そ・・・そうか、なら良いんだが、でもよ。お前達は自分を買うんだろ?だったら万に一、いや臆に一くらいにか可能性がないんだわ。それくらい仕事で得る金から出て行く金が多いんだわ。商業ギルドへの上納金が以外にバカにならなくってな。おれぁー今までそれで泣いて来た子供達を見てきたからなー、お前らもそうならないか心配すんだよー」


 思っていた以上に金を貯めるのが難しい状況なのか。

 アドルフの言葉に、俺は商業ギルドへの過度の期待を持たない事にした。


「こんな事言っちまうとよ、お前ら悲しむかもしれないだろ?だから皆言えなかったんだよ。解ってくれや。おれぁーお前らの悲しむ顔なんぞ見たら・・・なんだ、そのこう汗が零れそうなんだよ」


 そう言うアドルフの顔を見ると。

 邪悪で怖いのに、目じりに既に涙が溜まってる。

 どんだけ良い人何だか!

 そして子煩悩すぎだろ!!


「あーじゃあ、商業ギルドで登録する意味は、自分自身を買う以外にメリットはないのかな?」


「まあ、そうだな。奴隷の売買に関する権利移行は商業ギルドに一任されてるしな。初回の奴隷売買は奴隷商人が行うからな。どうしても、あっこを通さなけりゃーなんねーかんな」


 ふむ、商業ギルドに登録はするが、斡旋される仕事やギルドを通した売買は出来るだけ避けたほうが良いかもしれないな。


「商業ギルドを通さないで、お金を貯めても良いんですか?」


「ああ、それは良いはずだぜ!ただよ、よっぽど伝手やコネ、才能で稼ぐ方法がある奴以外は、働く事もできねーからな~、最終的には皆、商業ギルドのお世話になるって寸法さ」


 なら、俺には【アルキメイト】がある。

 これで作り出した何かを売る事で、資金稼ぎを行えばかなり貯める事が出来るかもしれない。


「大体解りました、此れで対策も出来ます。ありがとう御座いますアドルフ」


「お・・。おう!そっか、なら良いんだぜ。でもよ、何かあったら直ぐに俺に言えよな?何時でも助けてやるからな」


 真顔で俺達を見渡し、アドルフは念を押すように頷く。


「はい、何かあったらそうします」


「何時も気にかけてくれてありがとう、アドルフさん♪」


「アーおっちゃんありがとー♪」


 俺達全員からお礼を言われて、アドルフはタジタジになって照れ臭そうに顔を振る。

 毛深く、顔も熊のようなアドルフからは、顔が赤いのが見えないが多分相当きているのだろう。

 照れ臭そうにデレデレして、挙動不審者になっている。


「そうよね♪・・・ブ、ブフーーー、アドルフが助けるもんね」


「な!なんだよドリス、いいだろ?」


「はいはい、優しいアドルフはこの子達に御執心ですわよね・・・ププップ」


「笑うなやー!」


「そ・・・そうですよ、ブフーーーー。あ・・アドルフが良い事を、ププ、してるんですから」


 フランクまで笑い転げそうになって腹を抱えている。


「そうまで言わんでも良いじゃろうに。まあ、アドルフのこんな姿が拝めるとは長生きするもんじゃの」


 オイゲンは比較的冷静に言いながらも、顔はそうでは言っていない。

 笑いを必死に堪えて我慢しているの解る位に。


 とうとうドリスが堰を切ったように笑い転げ出し、釣られたフランクが、そしてオイゲンが笑う。

 そんな姿にセフィリアが同調して、イリスが微笑む。

 森での陰惨な空気から、こうやって少しづつ明るさが戻ってきた。


 道なき道をワイワイと歩き、平原を抜けやっと人為的な街道に出る。

 ようやく、まともな人の住む場所へと近づいてきたみたいだ。

 今日はこの道の少し外れたところで野営となる。


 まずは食料の確保。

 まあ、これは俺のアイテムBOXから肉を出す事と、ドリスが狩ってきた猪の魔物ワイルドボアーで数を賄う。

 主食が出来たので、オイゲンがアイテムBOXから乾燥パンを振舞ってくれた。

 さすが魔法使い、アイテムBOXが使えるようだ。


 フランクとイリスは、辺りにある食べれる野草や茸を集めスープを作っている。

 塩は俺が提供した岩塩を用い、香草を入れた簡単なものだが、乾燥パンを食べるには無いと不便らしい。


 食事も出来、久々の団欒を楽しみ食事に舌鼓を打つ。

 意外にスープが美味く、乾燥パンを浸してふやけさし食すると何とも言えない美味しさだった。

 単純に塩と香草だけなのに、此処までとは素晴らしい。

 フランクの料理の腕が良いのかもしれないな。

 スープを美味そうに食べる俺にイリスが気付き、必用にフランクにレシピを教えて貰っていた事は見なかった事にしよう。


 食事が終わると各自まったりと時間を過ごす、筈が・・・

 何時の頃からかこの時間は、イリスとセフィリアの為の講義や訓練時間に変っていた。


 まず、イリスだがオイゲンとフランクに師事している。

 魔法をオイゲンに習い、LV4までの呪文を扱えるようになっていた。

 もちろん、風と水だけだが。

 今はLV5と6を必死に学んでいる。


 オイゲンは火と風と土を操るが、長年の経験から呪文だけはLV7まで知っているそうだ。

 自身はLV6までしか使えないそうだが、凄い事だ。


 フランクの教えるのは神聖魔法のみ。

 だが回復魔法は貴重だし、しかも補助魔法もある。

 その為、PTに1人いるだけで生存率が違うとまで言われる魔法だ。


 イリスはエルフだ、『森の守護者』とも『光の守り手』とも言われる種族。

 フランクの教えを受け、イリスは神聖魔法をも適正を見せた。

 まだ、初めての魔法なのでLV2と低いが、努力を惜しまず2人と座学を行っている。


 セフィリアはドリスと、途中と言うかタマにと言うかアドルフに師事している。

 基本はドリスに剣術を教わってる。

 獣人同士でしかも武器は同じロングソード。

 扱いから歩方、スキルのタイミングなどは、セフィリアに一番良い教師となっている。


 ドリスと終始訓練しているのだが、其処にたま~~~にアドルフが加わる。

 2人の側で、じっと訓練を見ながら、俺ならとか、こう俺も~とか言って仲間に入りたそうにウズウズしているのだ。

 そんな姿にドリスとセフィリアが可哀想になると、ドリスがアドルフと教師役を交代しする事がある。

 このタマに起きる交代で、アドルフもセフィリアの師匠になるのだ。


 セフィリアを教える時のアドルフは、物凄くデレている。

 どれくらいかと言うと・・・セフィリアにワザと打ち込まれて敵を討つ感触を確かめさす訓練をするのだが、めっちゃ喜んでいる。

 俺はロリ疑惑を直ぐに懸念したが、そうではない感じだ。

 何と言うか、孫に叩かれて喜ぶ爺の姿に似ているので危険はないのだろう。

 だが、訓練になっているのか微妙だ。


 皆がそれぞれ訓練している場所から離れ、俺は1人黙々と【アルキメイト】でアイテム作りだ。

 一応、背を向けて見えないようにしながらゴブリンなどから剥ぎ取った武器の手入れに見せかけている。

 砥石は【鑑定】で見つけてあるので、そこに武器を宛がいシュッシュと研ぐ振りをする。

 

 振りをしながら、武器を1個1個作り変えていった。

 余り良い物を作ると面倒事が起りそうなので、あえて普通かそれ以上の仕上がりで調整する。

 もう慣れた作業なので、簡単に出来ていく。


 武具名:無名のロングソード

 強化値:+5

 攻撃力:+250

 属性値:無

 【一般的な騎士が使う刀剣の一種。製作者はラルス】


 こんな感じで、強化値を+3~+8に抑えて作っている。

 鎧類は剥ぎ取りの都合上、皮鎧しか無い。

 鉄製も可能だけど魔物から頂けてい無いので怪しまれないように作ってい無い。

 鎧類を、綺麗に補修し直した感じで作るとこうなる。


 武具名:レザーアーマー

 強化値:+5

 防御力:+125

 属性値:無

 【一般的な戦士が使う鎧の一種。製作者はラルス】


 これに皮の胸当て等、革製品もそこそこの強化値にして作り直している。

 後は、集めた材料で作れるものを片っ端から作っている。


 布や服、丸薬に岩塩。

 砥石にドライフルーツ、もう何でも御座れだ。

 中でも布に付いてはシルクになるので、結構数を作った。


 イリスやセフィリアの服にドリスが気付いて感嘆の声をあげたのが切欠で、シルクの価値が解ったからだ。

 どうも見た目と境遇から想像できない服の良さに、ドリスがチェックを入れたらしい。

 イリスもセフィリアも服の素材など知らないから、聞いいて唖然となっていたくらいだ。


 仕方ないのでドリスにはこっそり絹の布をあげておいた。

 口止め料って奴だな。


 さて、何時だったか見た光景に俺は懐かしさと悲しさを感じる。

 イリスとセフィリアが訓練をする光景。

 その間に、アイテムを黙々と作る俺。

 パステルと訓練していた、岩棚の風景が蘇る。


 全てが幻のように、あの頃に重なり俺は、締め付けられる胸の痛みに自然と手を握る。

 今度は失わない!!


 後ろで聞こえる活気に満ちた声を背に、新たな決意と共に。

 強くなろうと自分に言い聞かせて、また作業に戻った。

 

 それから4日後、俺達は王都キリエに到着した。

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