第十七話 緊急依頼
ギルドから緊急依頼を受けた俺は、アルティナ国の南にあるドルドナ森林に出向いている。
冒険者になって10年の中堅、Dランクの俺には暇潰しに丁度いい依頼だった。
それに、何時も依頼でドルドナ森林は良く出入りしている所だ。
何があっても問題ないと思っている。
来慣れている森なので、あんまり警戒心も抱いてい無い。
何かあれば直ぐに解るとタカをくくっているからだ。
それ位、この森の中を熟知していると自負している。
「アドルフ、だらけすぎ」
PTメンバーの獣人、ドリスが俺を嗜める。
俺達4人のPTでは紅一点のドリス。
初期の頃から気の合った、付き合いの長いメンバーだ。
「そうだぞ?アドルフ。よく知った場所でも警戒は怠ってはならぬぞい」
これまたPTメンバーの人族、魔法使いの風貌そのままの爺、オイゲンまで文句を言ってきやがる。
この爺も5年は組んでいる。
俺のことをよく解っているのか、良く小言を言ってくる。
まあ、其の通りなんで言い返せないんだがな。
「まあまあ、此処だとそれ程危険でもないでしょう。多少のリラックスは神もお許し給うかと」
おお、流石僧侶のフランクだ、庇ってくるとはありがてー
こいつは最近組み出した若手の人族の青年だ。
優男だがその回復力は折り紙つきで、PTを支えてくれる。
そして見た目通りに優しい奴で、俺は気にいってるんだな~
唯一付き合いが浅い為か、2人の小言を言われる俺に助け舟を出してくれる事も多い。
今回もそうかと、俺の劣勢を助けてくれるフランクを見ると、期待に反して彼は更に言葉を続ける。
「しかし、余りにも怠惰な行動は神の慈悲も届かぬかもしれませんが」
おいおい、助けてくれるんじゃねーのかよ。
一瞬でも有り難いと思ったフランクを睨みつけてやった。
睨まれたフランクは何処吹く風と、すまし顔を決めて笑ってやがる。
面倒くせー
俺は、溜息をついてまた先頭を歩き出す。
後ろでは、まだなんやかんやとドリスとオイゲンが言っているが無視だ無視。
見慣れた風景を頼りに、俺はどんどん先に進んでやった。
ちょっと困らせてやろうと考えてだ。
さて、今回のギルドの依頼はドルドナ森林の調査だ。
最近、この森のそれ程深くない所で、LV10前後の魔物が現れるようになっているらしい。
普段だとLV5のコボルトが出るくらいの場所でだ。
しかも、今までに見た事も無い狐の目撃が報告されている。
ギルドはこの報告を元に、『流れ』の可能性を懸念して緊急依頼を出したようだ。
それを俺が受けて、この森に来ていると言う訳だ。
緊急依頼は儲かる。
何せ緊急なだけに早く結果が欲しい事と、戦闘などでは無く調査なので見るだけでも良い。
危険な魔物を見つけたら、ケツを撒くって速攻逃げて報告するだけで金になる。
だから俺は、この依頼を受けたわけだ。
それに『流れ』の場合、俺達Dランクなら逃げ遂せる可能性は大きい。
CやBランクなら複数で、ましてやAランクなら単独でもなら倒せるだろう。
Sランクなら言わずもがなだな。
「それにしても『流れ』って具体的にどんな魔物なんでしょうね」
冒険者になって間も無いフランクは、俺に問いかける。
仕方ねーな、教えてやるか。
「あのよ、魔物がランクアップするのは知ってるよな?」
「ええ、それは存じてますよ」
笑顔が眩しい。
イケメンはいいの~
「でだ、ランクアップした魔物は、なんていうか俺達で言う職が変わったようなものになるらしい」
「魔物に職業があるのですか?」
「ねーよ!!」
思わず突っ込んだ。
なんてボンボンなんだよ。
「プ・・・ハハッハハ、流石フランク~♪面白いわ~」
ドリスが笑い出し、釣られてオイゲンも苦笑している。
当のフランクは、笑われてちょっと恥かしそうにしている。
そのんな仕草も様になってるからイケメンは嫌いなんだよ。
「まあ、職業じゃねーけどよ。単純にいやーランクアップした魔物はLV1になるらしい。俺も確認したわけじゃないからな。ただそう報告されてるんだ」
「そ・・・そうですか」
「でだ、『流れ』ってのはな、LV1になっちまうから、またLVを上げなくちゃならねー。それでだ、『流れ』になった魔物はLVの低い魔物を狩って自分のLVをあげる必要がある。その為に、自分のLVに合った魔物を求めて、彼方此方彷徨う訳だ。それが『流れ』の謂われな」
「おおお、なるほど!で、具体的に今回の魔物は何でしょう?」
フランクは良い奴だが考えようとしやがらねーな。
狐って報告があったろう。
ちったー想像しろってんだ。
だが、仲間になった訳だし、俺は親切に教えてやる。
「報告には狐ってあったからなー。多分、妖狐か二股かな?まあ最悪でも稲荷位だろう」
「あー資料で見ました。それなら知っています」
「ああ、だからそれに似た魔物を見たら、攻撃せずやり過ごすぞ。狐系の魔物はランクアップすればCランク級の強さだかんな」
「はい。解りました」
フランクとの会話で、再度全員が今回の依頼内容を再確認する。
俺達は、周りを見渡しながら森を進んでいった。
暫く進むと、森の雰囲気が一気に変った。
切り倒された木々、燃えて燻る地面。
明らかに戦闘があった痕跡だ。
一同に緊張が走る。
「アドルフ、これは・・・」
「ああ、間違いねーな」
今回の緊急依頼中でも、この森に入る輩は減ってい無い。
何処かの誰かが、『流れ』に出会ったのかもしれない。
それ程までに凄惨な傷跡が森に残っている。
「注意しろ、まだいるかもしれねー」
幾度となく死線を潜ってはいるが、フランクにはまだ此処までの惨状は経験がない。
残り2人には言うべき事もないが、敢えてフランクの為に指示を出す。
「いいか、どこで待ち伏せてるか解らねーし、油断は禁物だ。ここからは固まって注意深く進むんだ」
俺の言葉に、皆頷く。
慎重に辺りを警戒し、一歩一歩魔物の気配を探りながら進んでいく。
戦闘の後を追うように行くと、白い塊が嫌な臭いを発して横たわっていた。
小さいながらも、その凶悪さが解る風体。
その体からは、その名を示す九尾が見える。
「なんてこった・・・天狐かよ」
呻くように発した俺の言葉に、ドリスが驚いている。
「何ということじゃ、天狐が死んでいるとは・・・まさか此れ以上の『流れ』が舞込んでおるのかの」
オイゲンは更なる危険を警告してくる。
其の通りだ、天狐っていやー相当上にまでランクアップした狐の事だ。
倒すにはAランク冒険者が数人かSランクが2名はいる化け物だ。
例えLVが低くとも、そのスキルは強力で俺達がどんなに頑張っても時間稼ぎくらいしか出来ない存在だ。
「拙いな・・・退却するか」
俺はPTの命を預かるリーダーだ。
危険に飛び込むのはご免被る。
「そうだね、アドルフ。戻った方がいいね」
「うむ、此処は戻るべきじゃな」
ドリスもオイゲンも賛同してくれる。
さすが、長い付き合いだ良くわかってやがる。
後は新米のフランクを連れて戻るだけと思った其の時、フランクは何か見つけたのか小走りでそっちに走っていきやがった!
「おい!フランク!勝手な事をするな!!」
つい大声を上げたが仕方がねー
奴を放っておく訳にもいかねー
「アドルフ!こ・・・子供サイズの篭手が落ちている」
「あ?子供」
フランクは辺りを見回し、更に何かを見つけたのか勝手に進んでいきやがった。
此れだから若い冒険者は面倒なんだよ。
勇者気取りが抜け切れてねー
確かに俺もそんな時期があったさ。
でも、それは命取りになる事をフランクはまだ経験してねーんだよな。
ったく、イケメンは何処までも優しい奴だ。
「アドルフ、仕方ないから追いかけよう」
「フランクを1人にしては駄目じゃな・・・ったく若い者は・・・ブツブツ」
ドリスもオイゲンも嫌な顔をしながらもフランクを見捨てなかった。
やっぱ良い奴等だよな。
俺の選んだPTメンバーなだけはあるわ。
2人の言葉に満足した俺は、勇者気取りのフランクの後を追う。
駄目な行動だが、俺もこういった行動は嫌いじゃなーしな。
周りを警戒し、何時でも戦闘できる準備をする。
準備をしながら思う。
フランクの行動に、ちょっと羨ましと思っちまった。
25歳にもなると10代の輝きが眩しいのかもしれないな。
追いかけて暫くすると、フランクは立ち止まって困惑している。
手には血に汚れたタオルが握られていた。
「まだ生きているかもしれない。アドルフ助けましょう!」
フランクは大人の責任とばかりに俺に詰め寄ってきた。
まあ、フランクも16歳だ、成人しているしな。
俺も子供が森で遭難しているのは気がかりっちゃー気がかりだ。
「解ったよフランク。だが勝手に動くな、やばい奴がいたら拙いだろう?お前だけのPTじゃねーんだ」
「・・・あ、すまない」
反省も早いか。
ったくこれだからイケメンは・・・
「よし、この先に行けば確か川があったはず。そこを探してみよう」
俺の指示に皆が頷き、川を目指して進んでいく。
川を流れる水音が聞こえてきた。
間違いなく川に向っている。
警戒し、川の見える位置まで進むと、そこには女の子が2人膝を抱えて蹲っている。
其の後ろには、子供が1人と大人が1人寝転ばされている。
俺達は、ゆっくりと姿を現し、声をかける。
「大丈夫かい?お譲ちゃん達?おじさん達は怪しい者じゃないよ~」
声をかけた瞬間、ドリスの盛大な溜息が聞こえた。
オイゲンからは『バカかこいつは・・・』と駄目出しを食らう。
え?そんなに悪い言葉だったか?
俺は自分の掛けた言葉が適切でない事を気付かなかった。
だって、餓鬼の扱いなんてなれてねーんだよ!
俺は出来る限り笑顔を作り、女の子達に無害アピールをしたのだが。
どうやら警戒されたようだ・・・
俺の言葉に蹲っていた獣人の女の子は威嚇をしてくる。
エルフの女の子は、怪訝な顔で警戒しながら後ろの2人を庇うように立ち上がる。
そして、笑顔を見せた途端、獣人ちゃんは剣を構え俺に狙いをつける。
エルフちゃんは弓をつがえて、後ろのオイゲンを狙ってきた。
おいおい!戦い慣れてんじゃなーかよ!
一瞬にして女の子達の攻撃対象になった俺達はたじろぎながらも必死に弁解をする。
もちろん、弁解に一番功を奏したのはフランクだ。
僧侶でもあるフランクは、女の子達の警戒など気にもせずイケメン力を発揮して機嫌を直していった。
イケメンフランクの笑顔と言葉が効いたのか、女の子は倒れている2人の治療をお願いするまでにイケメンフランクに涙ながらに語り出してやがる。
俺の立場は・・・?
ドリスは今の光景を見て、俺の肩を叩き哀れみの表情を向けている。
オイゲンはサッサと女の子達の方に向かい、泣きじゃくる獣人の子を宥め出している。
全く、餓鬼はこれだから・・・
俺も女の子の方に行こうとしたら、ドリスに止められた。
「もう少し落ち着くまで離れていなさい・・・あなたは怖すぎるから」
そういってエルフの女の子に向って走って行きやがった。
どうも、オイゲン同様エルフの子を宥めようとしているらしい。
俺は仕方なく、少し離れて周りの警戒に当たる。
する事が無くなった訳じゃねーからな。
俺は自分に言い聞かせて、皆の方を見る。
何だか温まる人の助け合い風景が振り広げられているような・・・
さ!寂しくなんかねー!!
俺は1人でボッチになった気分を紛らわすように警戒を続ける。
それしか出来なかったなんて、そんなことはねーからな。
これが、俺達と不思議な子供達との出会いだった。




