第十四話 森の中心を抜けると其処には
昼間、パステルとの意外な話し合いで1日が潰れた。
あの話の後、ハイそうですかと奥に進むことはできなかった。
セフィリアも母の死が迫っている事に取り乱していたし・・・
話が終わってからは、皆無言で過ごした。
ただ、パステルとセフィリアは親子の会話を訥々と言葉短く話していたようだが。
俺とイリスは、親子の時間を大切にしてあげたかったので、夜番を前の通りに戻してもらった。
出来るだけ、パステルとセフィリアが一緒に話せる時間を作ってあげたかったのだ。
夜になり、提案どおりパステルとセフィリアは早めの就寝に入った。
戻してもらった夜番通り、俺とイリスは焚き火を囲んで2人で起きている。
「ねえ、ラルス」
「ん?」
「あの日有耶無耶になった話し聞かせてくれる?それと貴方の事全て。知っておきたいの、ラルスの事全部。いいわよね?」
「ああ」
話すなら今だろう。
イリスには全て話しておこう。
パステルにもしていない全てを。
「まず、何から話して欲しい?」
「そうね、あの日パステルさんと何があったのかからかな?」
俺は、イリスがお姉さん風を吹かせたあの日。
パステルに自分の秘密を話した事と、母達が俺達をアルティナ国に連れて行こうと計画していた事。
そして、俺の【ラーニング】を増やそうとパステルと相談した事を話した。
「そっか・・・母さん達は私達を本当に考えてくれてたんだね」
「ああ、そうみたいだな」
「それに、ラルスもパステルさんの事知らなかったみたいだしね」
「俺も今日初めて聞いた・・・」
「悔しいわね」
「ああ、悔しい・・・」
俺は盗賊の襲撃にあい、母達と共に逃げた屋敷を思い出す。
イリスも、何処か遠くを見るような目で夜空を見ている。
暫くどちらも言葉を交わさなかった。
イリスの顔から、俺は勝手に、記憶の中で母と会話しているのかもしれないと考えていた。
「ん、いいわ。じゃあ次はあなたの秘密?かな力?なのかな。教えてくれる?」
「じゃあ力から言うよ」
そういって俺は、本当に秘密にしている事を最後に話す事にした。
イリスに驚かれて、ちゃんと説明できるか不安だったからだ。
「まず、俺は【アルキメイト】と【ラーニング】って言うスキルを持っている。【アルキメイト】は言わなくてもいい位、イリス姉とセフィリアは知っているよね?」
「ん~っと、あの物を作るスキルかしら?」
「そ、小さい時は石の花や木の人形なんて作ってたろ。最近じゃ靴を初めとした装備やアイテムで見せているよな。材料さえあれば武具とアイテムは作れる便利スキルなんだよ」
「そっか~それってそんなに凄い力なんだ~」
何だか余り凄くないように聞こえる。
ちょっと釈然としないが、イリスには凄く感じないのだろうか?
「まあ、普通に考えたら凄いよ?」
「そうよね~そうなのかも。私とセフィリアにとっては、ラルスの【アルキメイト】だっけ?小さい頃から当たり前に見てきたし、装備とか色々作っててもラルスの事だから当然かなって疑問にすら思わなかったのよね~。そっか凄い力なのね、うん、わかった」
何だか拍子抜けする理屈を聞いた気がするが、気にしないでおこう。
「解ったならいいか。じゃあ【ラーニング】だけど、此れもイリス姉もセフィリアも見てるんだけど、見ているものと其の本質は全然違うんだ」
「見てるって【ラーニング】を?んんん?」
「ハハハ、【ラーニング】はね魔物のスキルを見ただけで自分の物に出来るスキルなんだよ。だから火魔法を俺は【ラーニング】で覚えて使ってるのさ」
「えええ?!あれ魔法覚えたんじゃないの?」
「ちょ!イリス姉気付いてよ。俺魔法適性がなかったでしょ?なのに火魔法使うし詠唱なんて言ってないんだよ?」
「ううう、そう言えばしてないような・・・?」
「してないよ、ったく肝心な部分で抜けてるような気がするよイリス姉は」
「っな!なによ~あなたの面倒を見たのは私よ?抜けてなんていません!」
「ああ、ご免ご免。そうですよ、イリス姉はしっかり者だよね♪」
「っむ~何か馬鹿にされてる気がするけど~」
「してないよ~」
「ホントに~?」
「誓って!」
「っう、も・・・もう!いいわ続けて」
「ハイハイ」
「ハイは一回」
「ハイ・・・」
ちょっと話がそれたので戻しておこう。
何時ものイリス姉との会話に戻ったので、俺も気兼ねなく話を続ける。
「【ラーニング】はね、覚えるとスキルが頭に浮かぶようになるんだ。それで覚えたって理解する。使いたい時はスキルをイメージするとスキル名が頭に浮かぶんだ。っで、浮かんだ名前を使うぞって意識すると使えるんだよ。だから使いたい名前を素早く意識すれば、直ぐに発動する。これが【ラーニング】ってスキルさ」
「じゃあ【ファイア】はそうやって出してるの?」
「そう、【ファイア】って思うとこうやって直ぐ出るんだよ」
俺は言うや否や、手の指先に小さな火を灯す。
イリスはマジマジと俺の指先を見詰めて、溜息を漏らした。
「そんな簡単にしかも詠唱無しで魔法使われると、私の苦労が馬鹿みたいに思えるわ」
「だよね、それくらい此のスキルは非常識でもあり、強力でもある」
「そっか、魔物のスキルで凄いのを覚えたら、滅茶苦茶強そうだもんね」
「そ、だから強い魔物のスキルを覚えるのに、奥で戦うってっ聞いてたんだけどね。まさか森を抜けるとは思ってもみなかったよ」
「そうよね・・・まさかって思うわよね」
「ああ」
本当に昼の話は寝耳に水だった。
「じゃあ、最後かな。俺の隠している秘密・・・イリス姉、驚かずに聞いて欲しい」
「え?え?何?また驚くの私・・・」
今でもそれなりに驚いているからだろうか。
これ以上の驚きにイリスはもう降参とばかりの目を向けてくる。
それでも、俺はイリスに知っていて欲しかった。
「イリス姉、前世ってわかる?」
「ん?ゼンセイって何??」
「あ~そうだね~。今の自分の前の自分。生まれる前の違う自分の記憶があるっていったら解る?」
「・・・生まれる前?の記憶・・・」
「そ、俺はそれを持っている。それもこの世界じゃない所の別の人生を歩んでいた俺のね」
イリスは眉間に皺余寄せて考え込む。
いくら賢いとはいえ、こんな突飛な話を理解できるだろうか。
理解してしまったら、イリスはどう俺に接するのだろう。
イリスの反応を、俺はじっと待ち続ける。
俺の話を聞き、イリスが今までと違う態度をされたらどうしようかと不安が過ぎる。
でも、何時かは話さなければならない。
ぶちゃけ怖い、イリスに嫌われると思うと・・・
数分、いや数時間にも感じる緊張した時間を待ち、イリスの言葉を待った。
「それって、ラルスはラルスじゃないって事?」
「っへ?」
待った挙句に、意外な言葉が帰ってきて俺は唖然とする。
「だ~か~ら~ラルスはラルスなの?そうじゃないの?」
「えっと・・・生まれた時から俺は俺だけど・・・記憶が・・・」
「ん♪じゃあラルスはラルスなのね?」
「っと思うけど・・・」
「そう、ラルスがラルスなら何も問題ないわ。私にとってラルスがラルスとして何を言おうが何をしようがラルスなら問題なし♪」
意味不明だが謂わんとする事はわかった。
イリスの優しさに俺は救われる。
嫌われると思っていた不安は消える。
やはり『お姉ちゃん』なんだと沁み沁みと思った。
何時もより上機嫌になったイリスは俺の肩に頭を乗せ甘えてくる。
2人っきりになると何時もしてくる、イリスの愛情表現だ。
「ラルス、私達はもう3人で生きていかないといけなくなる。だから絶対に何があっても貴方を信じてるわ」
「ありがとう」
「どう致しまして。可愛い弟君♪」
そういって、俺に笑顔を向けている。
イリスにはかなわないな~
俺達はそのまま交代の時間まで一緒に焚き火を見詰めていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
パステルの話を聞いた日から、俺達は森の奥へと急いで進む。
幾度も死線をくぐり、戦闘も激しさを増しながら。
鬱蒼とした暗黒の世界をただ我武者羅に突き進んだ。
大岩を出て2日後、俺達は森の奥を抜けることが出来た。
森の奥で出会った魔物は強く、戦闘も困難を極めたが、皆無事だったのが幸いだ。
特にアンデット系の魔物との交戦は厳しく、苦労させられた。
アンデットは切りつけようが叩き壊そうが、ある程度時間がたつと再生してくるのだ。
神聖魔法が使えない場合は、アンデットの核になる部分を破壊しないと倒せない。
出会ったアンデット系はスケルトンとスケルトンナイト。
後、ゴーストとゴーストメイジ。
スケルトンは頭蓋骨の右目の中に核がある。
スケルトン自体は弱い、だが核を守る動きもするし再生もするので厄介だった。
ゴーストは胸の真ん中に核があった。
ただ、【アイス】や【ファイアーランス】などのLVの高い魔法を放ち、近接メインの俺達は近付く為に一苦労だ。
遠距離の弓を持つイリスと、俺の投擲がなければ奴らを倒し、進む事は難しかっただろう。
LVも11~16と、森の奥らしく強敵で何度か攻撃を食らい、俺が必死に治療する場面も何度か起こった。
イリスが魔法を直撃した時は真剣に焦った。
戦闘が終わった後、俺が持てる魔力を全て使って治したので良かったが、あの時は本当に泣きそうだった。
イリスの傷は跡を残さず完治している。
女の子の肌に、傷が残らなかった事を俺は心底安堵した。
パステルは何とか、戦闘に参加している。
以前見せてもらった毒の痣は、もう乳房にまで届いていたはずだ。
それなのに、パステルは常に元気に振舞っている。
毒の苦痛は相当なはずなのに・・・
俺の【ラーニング】も更に増えた。
火魔法LV5
水魔法LV4
突進
噛付き
体当り
スラッシュ
三段突
軽歩
身体強化
毒針
ただ、覚えているだけなのでスキルが間違っているかもしれない。
ステータスが見れない事は、自分の状況を把握するのに苦労する。
この世界の人々は、良く自分のスキルを覚えているもんだと感心した。
身体強化はゴブリンウォーリアーから【ラーニング】できた。
戦闘で大いに役立つ【身体強化】だったが、使いこなすには暫く慣れが必要だった。
なにせ、今までと違って急に自分の動きが早くなり、力が強くなってしまうので、感覚が追いつかずに距離感が狂う事がしばしばあった。
今は慣れてきたが、完全にモノにするまではもう暫くかかるだろう。
少しずつ出会う魔物が、前にも見た事のある者に変わって行き、木々の隙間も増えてきた。
ようやくこの森の中心を抜け反対側に辿り着いた事を物語っている。
それでもまだ、アルティナ国に行くまでは日数が掛かるはず。
森の奥を抜けた事を喜ばず、気を緩めないで先に進んだ。
暫く無難な戦闘を繰り返し、先を進んでいると1匹の狐に出会う。
本当に普通の狐だ。
前世で見たものと同じ姿に形、ただ色だけは白かった。
狐は自然体でそこにいる。
まるで、この森の一部かのように。
危険と思わず、俺とイリスにセフィリアは狐を気にする事無く進もうとしたとき、パステルの叫びが森に轟く。
「逃げなさい!!!」
声が聞こえた時には、もう遅かった。
俺達は、今までに受けた事もない強烈な爆風を浴び吹き飛ばされる。
其の瞬間俺の頭には、スキルが浮かぶ。
【九尾・鬼火】
更に、呻くようなパステルの呟きも聞こえた。
「な、なんで妖弧が此処に・・・」
妖弧、聞きなれた前世の記憶にある化け物。
俺達はトンでもない大物と遭遇してしまったようだ。




