第十三話 母の決意
大岩を拠点に、力を付け続ける俺達。
あれからゴブリンリーダーを初めとする中位種も、倒すのに苦労しなくなってきた。
俺も、中位種の登場で幾つか【ラーニング】する事が出来た。
大岩を拠点に、此処で覚えた魔物のスキルはこんな感じだ。
火魔法LV4
水魔法LV2
突進
噛付き
体当り
スラッシュ
三段突
毒針
となっている。
LVが無いのは特技なのかもしれない。
俺の感覚では、特技にはLVが無いが、込める魔力量で威力が違っている気がする。
使うと魔力が減る事を考えると、スキルにも魔力がいると考えられる。
スキルを発動する際に、必要な魔力も非常に曖昧だ。
スキル発動に必要MP量は何となくだが、決まっているようだ。
それなのに、それ以上任意に込める事が出来る感じだなのだ。
実際【スラッシュ】も魔力を多めに使って放つと何時もより攻撃力が上がっている。
ただ、感じだと言っているにも理由があって、【鑑定】を自分に使えないので細かく検証できない為だ。
何度か水を使って、自分の顔を見て【鑑定】をしたが効果が無かった。
ステータスが明確に見れないと解らないのだ。
もし、鏡があれば試す価値はあるだろうが、今の所鏡などこの世界でお目に掛かった事はない。
その為、自分の【ラーニング】で魔法を使った際の疲労具合で判断している。
今の俺の推測も、神の言っていた登録証が手に入ったら確認できるだろう。
それまでは、自分の考えと感覚を頼りに使っていくしかない。
「さあ、そろそろこの先の大きなミアスの木を拠点に移しましょう。今度はそこでまた力をつけるわよ」
「「「・・・」」」
中位種が出た辺りで、俺達は慎重になっている。
奥に近付くほどに、今までとは違う種類の魔物が現れ、しかもLVもそこそこ高くなってきたからだ。
パステルに言わせれば、まだマシな方でLV10~15がこの森の平均だと言っている。
俺の【ラーニング】を増やす為に、森の奥に来ているのだから良いのだが・・・
あまり性急に奥に進まなくとも良い気がする。
そんなパステルがまだ奥に行くと言い出した。
余りの強引さに、俺とイリスはこの探索に得体の知れない不安を感じた。
前にイリスの言った『おかしい』と思うようになったのだ。
俺達の不安もそうだが、セフィリアもそろそろ限界だ。
まだ小さい上にずっと探索を続け、戦闘ばかりしている日常に疲れが色濃く出ている。
それなのにパステルは、更に森の奥へと進むと動き出すのだ。
「パステルさん、そろそろ岩棚に帰りませんか?」
そう、岩棚を出てから全く帰る気配を見せない。
というか、帰る気が無い様に見える。
「大丈夫よイリス。心配性ね♪そうね~まだまだ進んでも良いと思うのよ」
「でも・・・もう随分来まし、何よりパステルさんの体調が・・・」
「んん?私は元気よ。そな事よりも、もし奥を過ぎて反対に出たらまた魔物も弱くなるし楽になるじゃない。もしかしたら岩棚よりも、もっと良い場所が見付かるかもしれないでしょ?」
パステルはイリスの言葉に、やんわりと先に進むことを告げる。
言っても聞き入れそうに無いパステルに、イリスは俺を見て、困った顔をする。
そして、執拗に目で訴えてくるのだ。
『ラルスも何か言いなさいよ!!』っと。
仕方なく、俺も言葉を掛ける事にした。
「そうですが、奥に行く危険より、岩棚に戻る方がパステルさんに負担がない気がするんですが」
「何言ってるのよ~もう~心配性ね二人とも。私は平気よ、それに大人だから体調管理も出来てるから安心してね」
ワザと大きなリアクションをして笑顔になるパステル。
その姿は確かに元気に見えるかもしれない。
でも、俺とイリスは知っている、パステルの動きが徐々に鈍っている事とあまり寝れていない事に。
だから先に進むパステルの行動に不安が募るのだ。
「母さん・・・帰ろう」
とうとうセフィリアも帰ろうと言い出した。
進むパステルを残し立ち止まってしまっている。
「セフィリア、母さんの言う事を聞いて付いてきなさい!」
「嫌!、帰ろう母さん・・・母さんが心配なの!」
「セフィリア・・・」
セフィリアが珍しく我侭を言い、癇癪を起こしかけている。
俺もイリスもこのままではいけないと思い、パステルに戻るようお願いする。
「パステルさん、もう戻りましょう!」
「そうです、セフィリアも限界です。私も帰るべきだと思います!」
俺達はパステルに帰るよう必死に言葉を掛ける。
パステルは険しい顔をして何か言おうとしたが、口には出さずに俯いた。
暫くして、俯いていたパステルが顔を挙げ、厳しい表情で俺達を見回した。
「そうね・・・戻ることは出来ないわ。だから今日は、大岩の所で少しお話しをましょう」
「どうしても戻らないんですか?」
「ええ、それも含めてお話しましょう、ね」
パステルの強い意志を感じ、俺達はパステルと大岩で話をする事にした。
大岩に戻り、パステルは徐に話し出す。
「ねえ、これから私の話す事を真剣に聞いて欲しいの。そして絶対に取り乱さない事。約束してくれる?」
話を聞く前に取り乱すなと言われても自信がない。
そんなに俺達にとって不吉な話なのだろうか?
「何処から話しましょうかね~、そうね、まずは奴隷の事からかしらね」
今更奴隷に付いて何を話すのだろう?
俺とイリス、そしてセフィリアは怪訝な顔をする。
「まあ、貴方達の知らない事を幾つか話すわ。まず、奴隷契約に付いて。どうして奴隷って見分けるのか知ってる?」
「それは・・・左鎖骨にある奴隷紋が有るかどうかでしょ」
「そうよ、私の左鎖骨にも奴隷紋があるの、それが奴隷の証。じゃあ、どうやって奴隷が主の言う事を聞くのかしら?」
「奴隷紋に刻まれた呪いにより、行動を制限されるから」
「そう、その通り。じゃあ奴隷が言う事を聞かなかったり逃亡したらどうなるのかしら?」
「・・・それは」
「そう、知らない事よね。主の命に逆らったら奴隷紋の呪いで体に激痛が走るの。そして命令に従わない限り苦痛は治まらないわ。しかも主を捨て、逃亡した場合は・・・こうなるのよ、見なさい」
パステルはそう言って着ていた装備を外し、上着を脱ぐ。
上着を脱いだパステルは上半身裸になり、奴隷紋の有る左鎖骨を俺達に見せる。
そこには、奴隷紋だけでなく左鎖骨から豊かな左乳房にかけて青黒く変色した肌があった。
「・・・母さん!!!」
「・・・そんな!!」
セフィリアはパステルの胸に飛び込み変色した肌を気遣う様に触る。
イリスは驚いて口に手を当てたまま呆然と固まっていた。
「そう、私は逃亡奴隷になっている。でもね、逃亡したら直ぐに何かある訳じゃないの。6ヶ月を超え、それでも逃亡し続けるとね、こうやって奴隷紋から徐々に心臓に毒が廻っていくの。こうなったらもうどうする事も出来ないのよ」
話を聞き、セフィリアは嗚咽を漏らし始めた。
イリスも目尻に涙が浮かんでいる。
「まあ、6ヶ月以内に主の元に戻れば毒は出ないわ。主が死んでいたら次の権利者の下に行く事で同じく毒は出ない。6ヶ月というのはね、もし不慮の事態で奴隷が逃亡状態になった場合と改心して戻る気を起こさせる為の猶予期間なの。戻れば厳しい罰があるけどね。」
そう言って笑うパステル。
「じゃあ、どうして母さんは戻らなかったの!!」
「そうね、約束だから・・・」
「まさか、俺達をアルティナ国へ連れて行くことが!」
「そうよラルス。貴方達を必ずアルティナ国に連れて行き、奴隷から介抱する事。それが約束」
俺は、色々な事を思い出す。
焦っていたパステルの行動。
おかしいといっていたイリスの言葉。
パステルと夜番の時に『時間がない』と言っていた言葉。
「どうして言ってくれなかったんだ!」
俺は叫ばずにはいられなかった。
「そうよね、怒ると思ったから言わなかったのよ」
「そんな!何か方法があったかも!」
「あったと思うラルス?貴方なら気付いていたでしょ?」
パステルの言葉に声を詰まらせる。
あの襲撃が無かったら今のように逃げ出すことは出来なかった。
俺達が強くなっても、ライド国ではお金を稼ぐ事ができない。
戻ったところで、また奴隷に戻るだけ。
15歳になっても、開放される事無く何も変わる事が無い。
俺が主を殺したとしても、同じ結果だった事も今の話で解ってしまった。
「皆良く聞いて、私はもう直ぐ死ぬの。だから死ぬ前に貴方達を出来るだけアルティナ国近くまで送り届ける義務がある。それには森の奥を通り反対側に出なければならないの。」
「死ぬの母さん?死んじゃうの?」
泣きながらパステルに問いかけるセフィリア。
「そう、死ぬわ。でも心は何時もセフィリアの側に居るわ。ミリアがイリスにクリスがラルスの側に居るようにね」
そういってセフィリアを抱きしめ優しく抱きしめる。
自分が死んでもセフィリアが悲しまないように言い聞かせて。
俺はパステルとセフィリアの姿を見て、どうして今性急に動いたが気になった。
いや、むしろもっと早くにアルティナ国に行き、俺達だけを向こうに置いて、パステルが戻れば良かったんじゃないかと。
「パステルさん、何故今なんですか。どうしてもっと早くにアルティナ国に向わなかったんですか?」
「そうね、本当はクリスとミリアがいればもう少し早くアルティナ国にいけたと思うわ。でもクリスもミリアもいないの。貴方達を守って私1人でこの森は抜けれない。だから貴方達を鍛えるのに時間を掛けたの。貴方達が強くなれば、この森を抜ける可能性が出るから」
ああ、そうか子供の俺達じゃここは危険すぎる。
あの頃の俺達では到底此処まで来れなかっただろう。
「後はラルス、貴方の存在が私に今動く事を決めさせたのよ」
「俺が?」
「そう、貴方のもつ力を聞いて、私は確信したの。貴方は強くなる。いえ強い。この森を抜ける力を付ければ、アルティナ国に言っても皆を守れるはず。だから貴方に託すの、お願いイリスとセフィリアを守って絶対に自由を手に入れて欲しいの」
俺を真っ直ぐに見詰めるパステル。
イリスもセフィリアも俺を見ている。
「解りました・・・絶対に守ります!」
「そう、さすが男の子ねラルス♪頼むわよ」
「はい!」
パステルを安心させる為、イリスとセフィリアを守る為。
何より、ずっと3人で奴隷から解放されることを考えていたのだ、約束を違える気はない。
力強く返事をすると、パステルは安心したのかセフィリアを宥めに掛かる。
イリスは覚悟をしたのか、涙を拭い気丈に顔を上げている。
本当はパステルを失いたくない。
出来る限り希望を持っていたい。
でも、時間がそれを許さないだろう。
俺は強くならなければればなら無い。
弱いから母さんは死んだ。
弱いからミリアリアを助け連れ出すことが出来なかった。
弱いから、今死に向うパステルを助けられないのだ。
こうして、俺の【ラーニング】を増やす探索は、森の奥を抜ける決死の行動へと変わった。




