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第十二話 森の奥は危険

 パステルとの夜番の翌日、俺達は森の奥深くまで探索に来ている。

 昨日、パステルが言った通り、俺の【ラーニング】スキルを増やす為だ。


「さ、もっと奥に行くわよ~」


「パステルさん、どうして急に森の奥に?」

 

 イリスが急なパステルの行動に疑問を投げかける。

 そりゃそうだろう、行き成り朝、森の奥へ行くと宣言して皆を連れ出すのだから。


「朝言った通り、そろそろLVの高い魔物と交戦して経験を積んで欲しいのよ。それと魔物の放つスキルを出来るだけ見て、対処法を学んで欲しいの」


「それは聞きましたけど・・・余りにも急なので・・・」


「ご免、ご免。それは私が思い立っただけよ。気まぐれ♪気にしないで」


「・・・そうですか、なら良いんですけど」


「母さん♪張り切ってる~セフィリーも頑張る」


「ん♪頑張ろ~~~~おおお!」


 テンションを高くして、パステルの我侭と思わせる様に振舞ってくれる。

 昨日、俺から聞いた内容は微塵も感じさせない様にしてくれているパステル。

 俺は、自分の秘密の為にパステルに嘘を付かせているのが申し訳なく思った。


「ラルス、どうも可笑しいわ。やっぱり何かあるんじゃないかしら。どう思う?」


 鼻歌交じりに先頭を歩くパステルの後ろで、イリスは小声で俺に話しかけてきた。


「ええっと、本当に気分的なものじゃないか・・・な?」


 パステルとの会話を全て話す訳にも行かず。

 かといって今此処で俺の秘密を話し出すには、時期と場所が違うような気がする。


「本当に~~~?ラルス、何か知ってるんじゃない?」


「ふぉあおう?な・・・何も・・・ないお」


 ジーーーーーっと半眼で俺を見るイリス。

 生まれ変わっても、中身はイリスより年上のつもりだ。

 でも、どうも育った環境からか、イリスのお姉さんオーラにはどうしても抗えない。

 静かだが、気迫の篭った視線に尻込みしてしまう。


「お姉ちゃんの目を見なさい!」


「ふぉ!」


 言われて俺は、あの有名なバッキンガム宮殿のイギリス近衛兵団の如く固い歩行になる。

 手足がビシっと伸び、黒い帽子と赤い軍服を着ていたらさぞ似合ってるかのように。


 そんな俺の挙動に、イリスは弟が隠し事をしていると確信したようだ。

 どうやら是が非でも口を割らそうと、イリスのお姉ちゃんモードに火が付いた。

 こうなると、絶対に梃子でも聞き出すまで引き下がりそうに無い。


 すると、俺達の雰囲気に気付いたのか、パステルが振り向いた。


「こら~そこ。一応危険な場所なのよ此処?もっと気を引き締める」


「「はい」」


 パステルに注意され、イリスは渋々引き下がる。

 俺はパステルの助け舟に胸を撫で下ろし、心でGJと言っておく。

 さあ、この話題をどうやって有耶無耶にしようか?と思っていたら。


「ラルス、今晩覚悟してね」


 っとイリスから先に釘を刺された。

 俺は夜までに、イリスに誤魔化すか覚悟を決めて話すかを決めなければならなきようだ。


 そんな俺達の事をそっと横目に見ていたパステルは、微笑んだ後また前を向いた。


 森の奥に行く程、魔物との遭遇率は上がっていく。

 軽口を叩けていたのが嘘のような連戦が続く。


 今、目の前にはショートソードと盾を持ったワーウルフが3体いる。

 【鑑定】を使い、LVとスキルを見る。


 【名前】ワーウルフ

 【LV】7

 【HP】100/100

 【MP】10/10

 【状態値】S7/V6/I1/P1/A9/L5

 【スキル


 3体とも同じ様なステータスで、やはりスキル持ちではない。

 【鑑定】が済み、俺を見ていたパステルに顔を向ける。

 パステルが『どうだ?』と目で聞くので頭を振る。


 俺の答えを確認すると、パステルは全員の目を一様に見て頷く。

 直ぐにイリスが弓をつがえた。

 静かに、だが力強く弓を引き【ウィンドウ】を纏わせる。


 パステルはその間にワーウルフの正面に位置取り、俺とセフィリアを左右に従える。

 じっと、ワーウルフの動きを観察し、イリスの攻撃を待つ。


 パシュ!!!


 勢い良く飛んだ矢は、1体のワーウルフに見事命中する。

 イリスの矢は、ワーウルフの眉間を貫き先制攻撃を成功させる。


 パステルはワーウルフに矢が当たるのを見計らい飛び出す。

 先にパステルに反応したワーウルフに狙いを定め、剣を振るう。

 俺とセフィリアは、残ったワーウルフに向かい左右から同時に攻撃する。


 パステルはワーウルフの剣を巧みに避け、隙を見ては力強い剣戟を打ち込んでいる。

 ワーウルフも盾で攻撃を受けながら、ショートソードで突きを入れている。

 何度目かの打ち込みで、パステルは盾ごとワーウルフの腕を折った。

 折れた腕では盾を持ち上げる事ができない。

 ワーウルフは防ぐ事が出来なくなり、続け様に打ち込まれパステルの剣で叩き切られた。


 俺達の方もそろそろ決着が付く。

 左右からの同時攻撃に加え、セフィリアの剣圧はワーウルフを防戦一方にする。

 俺は、防戦して隙だらけになったワーウルフの肩口や背後を切り付ける。

 最後は、背中から小太刀を心臓に突き刺し、ワーウルフを屠った。


「ふ~強くなったし連携も瞬時に取れているわ。言う事無しね」


「母さん、私強い?偉い?」


「うん♪強くなったわよ~相手に攻撃をさせる暇を与えていなのは凄いわよ」


「えっへっへ~♪」


「イリスも凄いわ。確実に先制の矢を当てて、しかも倒してしまうんだから」


「え、いえ、まだまだですよ」


「謙遜しなくって良いわよ。イリスも弓の腕を誇っていいわ」


「はい♪」


「ラルスは・・・まああれで良いわよ」


「えええ?俺だけぞんざいに扱われている気が・・・」


「フフフ、冗談よ十分強いわよ。刀って言ったかしら。その武器の扱いはラルスの方が上だしね♪私が言えることが無いだけよ」


「そ・・・そうですか」

 

 パステルは楽しそうに笑って、俺の頭を撫でる。

 イリスとセフィリアも俺とパステルのやり取りに、笑みを零す。

 一時の安らぎがそこにはあった。


 一頻り緊張を解した後は、各自戦闘の後始末だ。

 俺は倒したワーウルフの装備を引っぺがし、アイテムBOXに突っ込む。

 イリスは矢の回収、セフィリアは剣の点検。

 パステルはロングソードの血糊を拭き取り、剣の歪みを確認する。

 皆の後始末が終わり、その場を離れ更に奥へと進む。


 1時間ほど奥へ進むと、また魔物の集団に気が付く。

 LVの低い魔物が多いとはいえ、こう連戦では体力が厳しくなる。


「この戦闘が終わったら、さっき通った大岩に戻るわよ。そこで明日まで待機。今日これ以上の移動は止めて、明日に備えましょう」


「「「はい」」」


 パステルが俺達の体力面を考えていて指示を出す。

 幾ら強くなっても子供だ、慎重に体力管理をしたほうがいいだろう。


 安全マージンを考えて、休憩を入れるため俺たちは大岩に方に向かって歩き出す。

 暫く歩いていると、パステルが何かを感じ取って歩みを止める。

 どうやらまた魔物がいるようだ。


「この先にいるのは、臭いで言えばゴブリンなんだけど・・・ちょっと違うようね。私も知らない魔物のようね。十分注意して」


 パステルの知らない魔物か。

 俺は【鑑定】をパステルの見据える前方の黒い影に使う。


 【名前】ゴブリンリーダー

 【LV】9

 【HP】130/130

 【MP】30/30

 【状態値】S9/V8/I3/P1/A9/L4

 【スキル】剣術LV4・スラッシュ


 【名前】ゴブリンメイジ

 【LV】8

 【HP】115/115

 【MP】80/80

 【状態値】S3/V7/I8/P1/A3/L1

 【スキル】火魔法LV4


 【鑑定】によりゴブリンとは解ったが、今までのゴブリンとは違う。


「パステルさん、ゴブリンリーダー1体ととゴブリンメイジ1体います」


「え!?中位種じゃない!LVは解る?」


「えっとLV9とLV8がそれぞれの最高です。あと6匹の普通のゴブリンがいます。そっちはLV4位ですね」


「そっか、ゴブリンの中位種だからかしら、LVが低いのね」


「中位種?とはなんですか」


「普通に魔物が経験を積んで強くなると、クラスチェンジするのよ。魔物の生態は解ってい無いから冒険者達は便宜上名前で、その魔物の位を決めてるの。私も聞いたり覚えたりしているだけで実際に交戦経験はないわ」


「強いのですか?」


「強いかどうかは個体差もあるけど、普通の固体よりは確実に強いの。十分注意して」


「「「はい」」」


「ここからは、持てる力を全力で向けるのよ。余裕はないわ、良い?特にラルス。悪いけど全力で戦ってね」


「はい」


 この戦闘で、俺達は持てる力を全力で出す事になった。

 俺への最後の言葉は、【ラーニング】が出来ないかもしれない事への謝罪のようだ。

 魔物がスキルを見せればそれに越した事はない。

 だが、スキルの為に戦闘で怪我をしては元も子もない。


「じゃあラルス、イリス。まずは2人で先制の奇襲攻撃を。私とセフィリアは牽制をかけつつ雑魚から始末するわよ」


「「「はい」」」


「じゃあ、お願い」


 パステルに言われ、イリスは弓をつがえる。

 俺は魔物の方へ移動し、投擲が届く距離まで近付く。

 パステルとセフィリアは俺よりも前に行き、剣を抜き奇襲に合わせて待機した。


 全員の配置が完了すると、パステルは引き絞った弦から弓を放つ。

 パステルの矢は、ゴブリンの眉間に刺さり、奇襲を成功させた。


 イリスがゴブリンを倒すと、俺は慎重に残ったゴブリンにナイフを投げる。

 両手で2本同時に狙いを定め、ゴブリン達に片っ端からナイフを投げつける。


 投擲の為、ナイフベルトを作っていたので、20本に装備してある。

 出来るだけ確実に、でも素早くナイフを投げ続けた。


 俺がナイフを投げている間も、イリスが矢を放っている。

 遠距離で魔法を使用しているので、早打ちには至っていない。

 でも、十分な殺傷能力があり、確実に仕留めていく。


 俺とイリスの攻撃が始まり、うろたえていたゴブリン集団が持ち直そうとした時、パステルとセフィリアが機を見て飛び出す。

 セフィリアは集団を撹乱する様にセミロングソードを振り廻す。

 パステルは中位種、まずはメイジを危険と見てそっちに向う。


 だが、ゴブリンメイジは余裕で、パステル目掛けて魔法を放つ。

 ゴブリンウィザードよりも詠唱が早い。

 中位種にもなると下級の魔法詠唱は早く出来るのだろうか?

 連続で繰り出される【ファーアーボール】にパステルの動きが抑制される。


 パステルは避ける事に手一杯で、攻撃の糸口を見出せなくなっていた。

 そこにゴブリンリーダーも参戦して、パステルを追い詰める。

 まだゴブリンは倒しきっていないが、ナイフで致命傷は負わせている。

 俺はパステルを援護する為、ゴブリンメイジに向って【ファイアーボール】を放つ。


 発動地点はゴブリンメイジそのものにした。

 当てるように捜査するよりも確実だと思ったのだ。

 詠唱を終え、【ファイアーボール】を放つ。

 見事ゴブリンメイジの腹部に発現して燃え盛る。


 ゴブリンメイジは、突然の魔法攻撃に驚き、咆哮を上げる。

 動きが止まった事を確認して、俺は一気にゴブリンメイジに向った。


 途中、パステルを見ると、ゴブリメイジの攻撃が止んだ事で持ち直していた。

 ゴブリンリーダーと互角に渡り合っている。


 俺は、小太刀を抜き燃えるゴブリンメイジに切り掛かった。

 俺の攻撃を、ゴブリンが壁を作って俺を止めようとしたが、イリスの矢に倒される。

 イリスもまた俺達の方に来て、速射に打ち方を替え攻撃している。


 ゴブリンメイジに切り掛かると、杖で防戦してくる。

 何度か切り込むも、杖で防がれた。

 俺は、杖ごと叩ききる事にして、防御の為突き出された杖ごと袈裟懸けに切り付ける。


 杖を切り裂き、ゴブリンメイジに刃が届く。

 だが、杖に当たった分俺の攻撃は軽くなっていた。

 刀の切っ先が、ゴブリンの胸を切っただけに留まった。


 ゴブリンメイジは攻撃を受けると、バックステップで距離を開ける。

 届かなかった攻撃を嘲笑うかのように、燃えながら呪文を詠唱してくる。

 

「させるか!」


 詠唱が早いので、直ぐに魔法が来るだろう。

 俺は、魔法攻撃を受ける覚悟で全力で地を蹴り、ゴブリンメイジに飛び込む。

 上段に構え一気に肉薄して切り付け、返す刀で心臓目掛けて小太刀を突きいれる。


 驚愕の表情で顔を引き攣ったまま、俺の刺した小太刀を見るゴブリンメイジ。

 詠唱よりも早く俺が動いた事に悔しさを滲ませながら、地面に倒れた。


 何時の間にか、セフィリアは俺の側に居て、残りのゴブリンを相手取り守ってくれていたようだ。

 セフィリアの足元には2匹のゴブリンが倒れている。

 弓を放っていたイリスも、俺の側に駆け寄ってきて、無事を確かめる。


 随分心配した目をしているが・・・

 俺の攻撃は随分と無鉄砲に見えたのかもしれない。


 俺達は最後に残ったパステルとゴブリンリーダーの方を見る。

 パステルはゴブリンリーダーを今だ倒せてはいなかった。

 加勢に入ろうとして、突如パステルが吹き飛ばされる。


 どうやら【スラッシュ】を叩き込まれたようだ。

 そして俺は、ゴブリンリーダーから【スラッシュ】を【ラーニング】できた。

 

 倒れたパステルに向って、ゴブリンリーダーが止めとばかりに飛び掛る。

 イリスが弓で射掛けて、その背中に矢を刺す。

 セフィリアがセミロングソードを盾に、両者の間に滑り込む。

 俺は、小太刀を構え【スラッシュ】を放っていた。


 ゴブリンリーダーの腹が大きく切り裂かれ、腸が飛び出る。

 それでもパステルに切り掛かろうとして、ゴブリンリーダーは剣を大きく振り上げる。

 俺は、今度は喉元を狙ってジャンプしながら【スラッシュ】を放つ。


 ゴブリンリーダーは俺に対応する事が出来ないまま、剣を持ち上げた姿勢で固まる。

 【スラッシュ】を放ち終わり、ゴブリンリーダーを振り返ると、崩れるように倒れた。

 その首から上には頭は無かった。


 パステルはセフィリアに助けられ立ち上がる。

 俺達もパステルの側に行き、無事を確かめた。


「大丈夫?パステルさん」


「やっぱ駄目ね。この辺りが限界かもしれないわ。暫くあの大岩を拠点に力をつけましょう」


「あれ?岩棚に戻らないんですか?」


「フフ、そうね戻るかもしれないし戻らないかもしれないわね」


 パステルの言葉の真意がつかめず、唖然とする。


「さあ、後始末をしたら戻るわよ。これ以上は危険だしね、ささ」


 俺達は怪訝に思いながらも、指示に従い後始末をする。

 そして、大岩に戻り疲れを癒すのだった。

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