彼との別れ
私は彼を男してみていると知られたくなかった
いままでお互いなぐさめあうようにしてきたキスが
この間のことで、自分には違う意味を持ってしまうということに気づかれてしまった
私は彼から逃げ出した
私は大学で学部が離れたことを理由に彼を避けた
極力、彼とそして友達である仲間とも離れようとした
中学からずっと一緒の女友達には
私は振られたから今は気まずくて、しばらく会いたくないと言っていたから同情して協力してくれた
友達は彼もまた私の傍にくることに躊躇している姿をみたのだろう
傷ついた私にいろいろ問うことはしなかった
だからわりと楽に離れることができた
同じ授業のときは、ギリギリになってから教室に入る
昼食のときはみんなの集まるカフェテリアには行かず階段教室でひっそりご飯を食べた
彼は最初、私の姿が見えないことを不審に思っていたらしかった
授業が始まってから周りを見回していた彼と目が合う
すると彼は私をつきさすようにして見てから前をむく
そんな状態のままが続いていたある日
彼に廊下で声をかけられた
久しぶりに私を名を呼ぶ声、懐かしくてすぐに振り返りたくなる
でも、その声はいつもと同じではなくて少しトゲのある感じだった
私も、心の中をのぞかれたくなくて、昔のように顔が向けられない
「次、クラス、同じだよな」
少しこわばった彼の声が頭の上のほうで聞こえる
「うん、みんなもう教室かな」
しばらくお互い何も言わない
ため息が聞こえて、なあ、と彼が言った
「もう一度、おれの目を見て」
彼に言われたことは否定できない、そんな不文律がいつからか私と彼の間にはあった
前からずっと、彼が私を庇護していたから私は彼に逆らえない
いつからかそんな空気があったのだ
実際、彼は私の進学から何から何まで決めてきたし
困っているときは大抵助けに来てくれていたのだから
ゆっくりと顔を上げる
相変わらず中性的で綺麗な、でも今は少し張り詰めたような様子をした目
緊張で少し歪んだ唇
昔の華奢な彼はもういない、すっかり背が高くなって私には動かせないほどしっかりした体
バカだな、なんでほれてしまったんだろう
こんな男らしくなるなよ、バカ
いつまでも小さいままで私の弟分で私の傍にいてくれたらこんなに気まずくなんてならかったのに
じっとは見ていられない、でもその目をずっと見らずにはいられない
そんな感情がぐるぐると私の中をめぐって胸をしめつける
そんな状態がほんの少し続いたとき、彼が手を上げて私の頬をすっとなでた
「辛いんだよな・・・ごめんな」
そういう彼自身が辛そうな顔をしているな、と思っていたら
もう何も言わず彼は立ち去った
彼の後姿がぼやけて見えていく
つぎつぎと涙が頬を伝って地面に落ちていった
ああ、彼は涙を拭いてくれたのか
最後までやさしいんだな
そう思うとまた余計に涙が出てきた・・・




