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講演会

門の前で「じゃあ」っていわないといけないけれど

自分から別れを言うのは辛かった

私も彼も、明日も仕事がある

もう夜も遅い・・・


「明後日さ、夕方から講演会があるんだけど・・・」

手をつなぎながら彼は話す


「来ない?」


世界的に有名な建築家の講演だった

彼の働いてる会社の創業50周年の特別記念講演らしい


私はこの建築家が好きで

著作はもちろん

彼のデザインした場所にも学生時代なんども足を運んだ

みんなで旅行に行った時も

彼の建築物が近くにあるとわかったら

立ち寄ってもらったりしたっけ


実は今の関係の仕事につきたいと思ったのも

少し分野が違うとはいえ

この人の影響だった

だから、生の彼の声が聞けると思うと、是非行きたいと思う


でも、この涙でふくれた顔、明日の夕方には治ってるだろうか・・・それより・・・


「私は部外者なんだけど大丈夫なのかな?」


「実はおれもそう思って、誘いにくかったんだけど、今、忙しいから講演に行けそうにないって同僚がチケットくれたんだよ、だから大丈夫だと思う」


まあ、おれの会社の人間ばっかりだから、居心地悪いかも知んないけどさ・・・とつぶやかれる

そうだよね、きっとそういう公の場についていったら

彼の恋人だと会社の人に勘違いされるだろう


だから昨日までだったら遠慮していたと思う・・・けど


もう来年NYに行ってしまうのかと思うと今は少しでも長く一緒にいたかった

それに今勘違いされてもきっと帰国したときにはそういう噂は消えているはず


「・・・甘えていいかな?」


そういうと彼は嬉しそうな顔で、うんと頷いた


「もちろん」

そういうと、彼は繋いでいた私の両手をひっぱって

引き寄せると両手を私の背中に回した


「嬉しいな」


甘い声で私の耳元でささやくと

そのまま唇を私の首筋に軽くあてる


うわっ


びっくりして肩をすくめると

くくって小さく笑って

そのまましばらく抱きしめる


「また、明後日な」


ようやくゆっくり背中に回していた手を私の両肩において

体を離す

そして私の体を回して

目の前にあった私の家の門扉をあけると

私の背中をゆっくりと押して中に入れた


「中に入るまで見てるから」


「うん、送ってくれてありがとう」


またね、そう言って私は家の中に入った



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