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聖女を辞めたので、今日から魔王城で働きます  作者: ななほし


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第51話 三人目の少年

「僕が」


「最初の世界の」


「三人目だよ」


 その少年は。


 レオンと。


 まったく同じ顔をしていた。


「……」


 レオンは。


 口を半開きにしたまま。


 固まっている。


「……俺?」


 少年が。


「うん」


「俺?」


「うん」


「……」


「何回言うの?」


「いや!」


 レオンが叫ぶ。


「だって俺じゃん!」


「そうだね」


「俺が二人いるぞ!」


「そうだね」


「なんで!?」


「僕に聞かれても」


 少年は。


 困ったように笑った。


「僕は」


「君より先にいたから」


「……」


 レオンが。


 頭を抱える。


「もう訳分かんねぇ!」


◇


 魔王は。


 少年をじっと見ていた。


「……お前は」


「僕?」


「レオンと同じ姿だ」


「うん」


「なぜだ」


「僕が」


 少年は。


 レオンを見る。


「勇者の原型だから」


「――!」


 全員が。


 息を呑む。


「原型?」


 ミラが尋ねる。


「そう」


「僕が最初に作られた」


「世界を守るための」


「力」


 少年は。


 胸元に手を当てる。


「勇者という役割は」


「僕から始まった」


「……」


 レオンが。


 恐る恐る聞く。


「じゃあ」


「俺は」


「僕の後に生まれた」


「……」


「でも」


「君は僕じゃない」


「……どういうこと?」


 少年は。


 笑った。


「君は」


「君だよ」


「僕の力を」


「受け継いだだけ」


◇


 リリアーナが。


「じゃあ」


「あなたが」


「最初の勇者?」


「うん」


「名前は?」


 少年は。


 少し考えた。


「……ない」


「また?」


 レオンが。


 思わず突っ込む。


「この世界、名前ない奴多すぎないか?」


「レオン」


「はい」


「今は静かに」


「はい……」


 リリアーナが。


 少年を見る。


「名前がないなら」


「つけてもいいですか?」


「……」


 少年が。


 少し驚く。


「君は」


「昔から」


「そうなんだね」


「何がですか?」


「名前をつける」


「……」


 リリアーナは。


 少し考える。


「じゃあ」


「……」


「アーク」


「アーク?」


「最初の勇者なら」


「道を作る人みたいな名前がいいかなって」


「……」


 少年――アークは。


 嬉しそうに笑った。


「ありがとう」


◇


 その瞬間。


 レオンが。


「待って!」


「はい?」


「なんで俺より先に名前もらってるんだよ!」


「?」


「俺も昔」


「リリアーナに名前つけてもらったのか?」


「レオンさんは」


「最初からレオンさんだったんじゃないですか?」


「……」


「たしかに」


「納得するな!」


 アークが。


 楽しそうに笑う。


「君」


「昔から面白いね」


「お前に言われたくない!」


「仲良くできそう」


「俺は複雑だよ!」


◇


 しかし。


 リオが。


 静かに口を開いた。


「アーク」


「うん」


「君が作ったもの」


「覚えてる?」


「……」


 アークの表情が。


 少し曇る。


「覚えてる」


「何を?」


「境界」


「境界?」


「世界の中と」


「世界の外を」


「分けるもの」


 アレンが。


 目を見開く。


「……それ」


「僕の役割じゃない?」


「違う」


 アークが。


 首を横に振る。


「君は」


「後から引き継いだ」


「僕が作った」


「最初の境界を」


「……!」


◇


 アークは。


 空中に。


 指で線を引く。


 すると。


 白い線が現れた。


「最初の世界には」


「外がなかった」


「……?」


「世界の外側も」


「内側も」


「全部一つだった」


 ソラが。


 息を呑む。


「……じゃあ」


「僕が」


「生まれる必要もなかった?」


「そう」


「君は」


「後から生まれた」


 アークが。


 線を引く。


「僕が」


「世界に境界を作ったから」


「外側が生まれた」


「……」


 ソラは。


 しばらく黙った。


「じゃあ」


「僕は」


「君が作った?」


「うん」


「……」


 ソラの目が。


 少し潤む。


「初めまして」


「ソラ」


「……」


「僕は」


「君の」


「最初の作り手」


 ソラが。


 小さく笑った。


「……そっか」


◇


 大神官が。


 震える声で聞く。


「では」


「世界の外側を作ったのは」


「アーク」


「そう」


「では」


「世界の循環を作ったのは?」


「……」


 アークは。


 リリアーナを見る。


「彼女」


「え?」


「リリアーナが」


「世界を作った」


「でも」


「世界を終わらせたくなかった」


「だから」


「循環を作った」


「……!」


 リリアーナは。


 呆然とする。


「私が?」


「うん」


「でも」


「私は」


「誰も犠牲にしたくなくて」


「だから」


「世界を繰り返した」


「……」


「誰かが死んでも」


「次の世界でまた会えるように」


「誰かが忘れても」


「また出会えるように」


 リリアーナの目に。


 涙が浮かぶ。


「……私」


「みんなを」


「失いたくなかったんですね」


「そう」


 アークが。


 頷く。


◇


 魔王が。


「ならば」


「なぜ」


「犠牲が必要になった?」


 アークは。


 しばらく黙る。


「世界が」


「大きくなりすぎたから」


「……?」


「最初は」


「リリアーナと」


「リオと」


「僕だけだった」


「三人で」


「全部を作っていた」


「でも」


「世界が増えて」


「人が増えて」


「命が増えて」


「循環を維持する力が」


「足りなくなった」


「だから」


「役割を分けた」


 白。


 黒。


 赤。


 金。


 灰。


 青。


 銀。


 そして。


 記録。


「……」


 大神官が。


 小さく呟く。


「それが」


「私たち」


「そう」


「でも」


 アークが。


 巨大な目を見る。


「一つだけ」


「想定外があった」


「……」


「世界の外側に」


「『終わらせるもの』が」


「生まれた」


◇


 巨大な目が。


 ゆっくり。


 開いた。


『――私か』


「そう」


 アークが答える。


『私は』


『お前たちが作ったのか』


「違う」


「君は」


「世界が」


「自分を守るために生み出した」


『……』


「世界が」


「終われなくなったから」


「終わらせるために」


「君を作った」


「……」


 リリアーナが。


 巨大な目を見る。


「じゃあ」


「あなたも」


「私たちの世界の一部なんですね」


『……』


「敵じゃなくて」


「役割だった」


『……そうだ』


 巨大な目の声が。


 少しだけ。


 静かになった。


◇


 リリアーナは。


 一歩前に出る。


「だったら」


「もう」


「戦わなくてもいいんじゃないですか?」


『……』


「終わらせる役割も」


「必要だった」


「でも」


「これからは」


「終わり方を変えればいい」


『変える?』


「はい」


 リリアーナは。


 九つの光を見る。


「誰か一人を犠牲にして」


「世界を終わらせるんじゃなくて」


「みんなで」


「次へ進む」


 ソラが。


「……」


 アークが。


 笑う。


「それなら」


「僕も手伝える」


「アーク?」


「世界の境界を」


「開ける」


「……!」


「世界を」


「一つにするんじゃない」


「世界と世界を」


「繋げる」


「そうすれば」


「循環じゃなく」


「続きにできる」


◇


 ミラが。


「続き?」


「うん」


「今までは」


「世界が終わったら」


「最初からやり直してた」


「でも」


「終わった世界を」


「次の世界へ繋げればいい」


 ユリウスが。


 静かに頷く。


「……僕の力」


「役に立つね」


「もちろん」


 セラも。


「私も」


「循環を止める」


「そして」


「終わった世界を」


「次に渡す」


「うん」


 アレンが。


「僕は」


「世界の外側を」


「管理する」


「もう」


「世界を作り直さなくていいように」


 大神官が。


「私は」


「記録する」


「すべての世界を」


「忘れないように」


 ソラが。


「僕は」


「境界を繋ぐ」


「……」


 レオンが。


「じゃあ俺は?」


 アークが。


「君は」


「守る」


「……」


「勇者だから」


 レオンが。


 にっと笑った。


「任せろ!」


◇


 そして。


 全員が。


 リリアーナを見る。


「……」


 リリアーナが。


 困ったように笑う。


「私は?」


 魔王が。


 静かに答える。


「君は」


「始める」


「……」


「新しい世界を」


「いや」


 アークが。


 首を振る。


「違う」


「え?」


「もう」


「新しい世界を作らなくていい」


「じゃあ」


「君は」


 リオが。


 笑う。


「この世界で」


「生きる」


「……」


「それだけでいい」


◇


 リリアーナは。


 しばらく。


 黙っていた。


 そして。


 ゆっくり笑った。


「……それが」


「一番いいですね」


 魔王が。


「そうだ」


 レオンも。


「うん」


 ミラたちも。


 頷く。


 リリアーナは。


 胸元に手を当てる。


「世界を作るより」


「みんなと」


「普通に暮らしたいです」


「……」


 魔王が。


 少しだけ笑う。


「それなら」


「魔王城に帰ろう」


「はい」


 レオンが。


「俺も!」


「君は勝手に来るだろう」


「もちろん!」


「……」


 リリアーナが。


 笑う。


◇


 しかし。


 その瞬間。


 巨大な目が。


 静かに。


 言った。


『――待て』


「?」


『お前たちは』


『まだ』


『一つだけ』


『忘れている』


「何を?」


『最初の世界を』


『誰が終わらせたのか』


「……」


 リリアーナの顔が。


 固まる。


 アークも。


 リオも。


 ソラも。


 黙った。


『最初の世界は』


『お前たちが作った』


『だが』


『お前たちが終わらせたのではない』


「……じゃあ」


 魔王が。


 低い声で聞く。


「誰が?」


 巨大な目が。


 ゆっくり。


 閉じる。


『――リリアーナ自身だ』


「……!」


 世界が。


 凍りついた。


『最初の世界を』


『最初に終わらせたのは』


『お前だ』


 リリアーナの手から。


 力が抜ける。


「……私が?」


『そう』


 そして。


 巨大な目が。


 最後に告げた。


『だから』


『お前だけが』


『最初の世界の終わりを』


『完全に思い出せる』


 リリアーナの視界が。


 再び。


 白く染まる。


 そこに映ったのは。


 泣いている。


 幼いリリアーナ。


 その手には。


 ――血のように赤い光が。


 握られていた。

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