第一話 偶然の風に吹かれて
時は1980年4月。
建築士を目指すガリ勉乙女・三枝薫子が、待望の大学生活をスタートさせます。
スマホもPCもなく、連絡手段は電話か手紙だけ。
そんな不便極まりない時代に、彼女が描く恋の設計図とは——。
同じ学科の同級生100人。
その中の、たった二人。
薫子と彼が描く『100分2の青写真』を、どうぞ最後まで見守ってください。
※作中、建築の専門用語が登場することもありますが、作者も手探りで図面を引いている最中です。本質は不器用な二人の「恋愛物語」ですので、専門知識がなくても安心してお楽しみください!
一九八〇年・春、私、三枝薫子は念願の建築士国家試験合格率の高い東京のとある私立大学の工学部建築学科に入学した。
幼い頃から女の子なのにと言われながらも建物好きで気になる建物があれば何時間でも同じ場所にいられる様な子供だった。
なのに……今一番気になっているのは、自分の前の席が五月の連休前になろうかと言う時にも関わらず、入学式以来、空いたままという事だ。
猛勉強の結果、手に入れた席なだけに、この前の席の男子学生がどんな人なのか気になって仕方がない。
この学科の新入生のクラスメイトは私を含めてピッタリ百人。
切磋琢磨で卒業までに人を欠けることもある上に半分以上は建築士にすらなれない。
それでも他の私立大学よりも卒業生が一級建築士になっている率は高い。
新入生の前期はオリエンテーションを経て、教養・語学などは同じ講義室で受ける為、今私がいるのは縦一列十席、横にも十席、計百席ほどの大講義室。
すり鉢状になっていて座席は前から五列目の後ろ側に横通路、同じく縦列も五番目と六番目の間に縦通路が抜けており、前中後の大きめな扉から出入りができる様になっている。
今は暫定的に五十音順での席順で黒板に向かって右の廊下側からア行の一番から始まり一番左側窓際の私は前から五列の一番後ろの席。
一番前の席から香山さん・木元さん・草壁さん、このお三人は、この大学附属中高一貫組でとても仲良し。
私の前の四席目の「琥原」さんも仲良しらしく「身体の調子も悪いみたいで」とか「今ちょっと後ろ向きな感じになってるんだけ」とか「そろそろ出て来るんじゃないかな」と聞かされてはいたけれど……。
私はこの大学にしか入学したくない理由があり、ただし両親からはお金がないから進学塾にも行かせてあげられないけど頑張れるのか?とずっーと言われ続けた結果?お陰様で?ひたすら勉強三昧の中高時代を送った。
そして世間慣れしていない百分の一の女子大生の私は、前方の男子学生のお三人が紳士な上に校内のいろいろな事柄や情報や心得を教えて下さるお陰で困っている事は全くない。
けれど、やはりこの前席が空いているのが気になる。いつか本当に会えるのかな?
その日は突然やって来た。
今日は四月二十八日月曜日、明日二十九日は天皇誕生日でいよいよGWの始まりかの様に思えるが実際は暦通りだと今年の連休は五月三日から五日の三日間だけ。
ただ大学って違う!と薫子が思ったのは四月三十日〜五月二日まで講師・教授連が全てを休講にしたこと。結果四月二十九日から五月五日までの大型連休になったのだ。
今日は連休前日のたった一日だけの為に登校しての残り後一コマの社会学の授業。
月曜日は数学とその概論、哲学と社会学と座学ばかりだったので、薫子は自席でぼんやり次の授業の始まりを待っていた。
瞬間!!
季節柄、大講義室の窓は全開だったが、その開け放たれた後方の窓からの薫子の背中を押すほどの強風が吹き込んだ!
机の上のものを慌てて押さえた後、ふと視線を講義室の扉の方に向けた時だった。
蜂蜜色の少し長めのサラサラ髪、目にかかるくらいの前髪の男子が立っていた。
その髪の間から見えた瞳の色は琥珀色、その美しい色にも釘付けになった。
相手の男子も薫子を見つめたまま、こちらの列に向かって歩いて来る。
『ダメダメ、他人様をジロジロ見ちゃダメだってば!』と思っても、お互い目を逸らせないまま、彼は一列目の香山さんと挨拶を交わしながらも私を見つめたままでハイタッチした。
その音で目が覚めた様に薫子は目を逸らして俯いた。
そしてその彼は薫子の前の席に座った。
この度は『100分の2の青写真』お読みいただき、ありがとうございます。
100人いる同級生の中で、薫子と彼がどのように惹かれ合い、どんな未来を設計していくのか。
これから毎日、皆様の通勤・通学やリラックスタイムに寄り添えるよう、定期的な配信を予定しております。
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